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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第49章 海底王国編

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第875話 父として

 アリサの歌を聞いて、彼女を彼女の部屋へと送り届けた後。カイトは本来の用事であるローレライ王の所へと顔を出す事にした。とは言え、カイトの今の身分は表向き普通の冒険者だ。

 なので本来ならあるべき歓迎会等は無く、謁見の間でローレライ王の前に顔を見せる、という程度だった。そして事の性質上の関係で、警護の兵さえ殆ど居ない。


「ローレライ王。お久しゅうございます」

「おぉ、カイト殿。久しぶりだ」


 片膝をついたカイトの前に居たのは、灰色の髭を蓄えた50代中頃の人魚の男性だ。これでも600歳ぐらいなので、人魚としてはかなりの古株だった。

 そんな彼が腰掛ける椅子は泡で出来た透明な椅子だ。流石に人魚に人の椅子は使い難い――無いのではなくある事はある――ので、人魚の足でも無理に曲げないで済む様に泡の椅子を使う様にしていたのである。


「先の魔王殿も久しく、お目にかからなかった。二人共お元気そうで何よりである」

「は・・・日本でもそれ相応に楽しき日々を送らせて頂きましたが、この通り息災変わりなく」

「うむ、喜ばしい事であろう」


 ローレライ王が笑顔で頷いた。カイトの言う楽しき日々というのが地球でも暴れまわっていた、という意味であるぐらいはカイトを知っていれば誰にだってわかろうものだ。そしてそれは何より、カイトが変わらずカイトである事の証である事に他ならない。


「娘との再会・・・楽しんでもらえた様だ」

「良き歌でした。300年の彼女の想いが込められていた・・・あれに比べれば、私を讃え上げる詩人たちの歌なぞどんな美辞麗句を施そうと勝りますまい」

「ふぉふぉ・・・少し過剰な物言よ。流石にそれでは詩人達が泣こう」


 ローレライ王が機嫌よく笑う。娘の歌が見事である事は彼も認めているが、それでも少し過剰に持ち上げている、という印象を受けた。勿論これが世辞である事はわかっている。そしてカイトが見事だ、と讃えている事もわかっている。なので、気分を害する事もなく受け入れていた。


「それでも、私にとっては何よりもの宝物であります」

「ふぉふぉ・・・さて、それで勇者殿。二度目になるが今度こそ、おまかせしてよろしいか?」

「ええ、今度こそ。かつてはアリサ王女殿下にしましても何分当家が若い故にこちらにお迎え出来なかった事、誠に申し訳ありません。さりとて幸いな事にクズハやアウラら優秀な家族に恵まれまして、今は300年以上の歴史と大陸有数の都市を抱える事が出来ました故、きちんとお迎えさせて頂きましょう」

「アリサにしても当時は若かった。今はきちんと花嫁としての修行もさせた。どこに出しても恥ずかしくない娘と今度は断言できよう・・・是非に、頼む」


 ローレライ王は娘の父親として、カイトへと頭を下げる。300年前は色々な軋轢と言うかゴタゴタがあり、アリサやメリア、メルアらについては迎え入れてやる事は出来なかった。

 そもそもカイトのマクダウェル家はバックにウィルと後見人としてハイゼンベルグ家が入っていたからといっても、新興は新興だ。爵位の授与と共に迎え入れる事は不可能だった。

 ただでさえ厄介払いとばかりに世界最大の領地に国を守る上で一番重要な地点を本拠地に、だ。立て直しに貴族達の腐敗の一掃にその都度持ち込まれる揉め事の対処に、としていたら迎え入れる暇なぞ何処にも無い事は子供だってわかるだろう。一応結婚を契機に迎え入れる予定にはなっていたのだが、何分その前にカイトの地球帰還が入ってしまったのだった。


「・・・週に一度は、手紙を寄越す様に言ってくれ。結婚式には国を挙げて参加するつもりだ」


 ローレライ王はどこか寂しげだった。やはり娘と離れ離れになるのは寂しいのだろう。が、心づもりは出来ていたのだ。しっかりと意思は固めている様子だった。そんな彼の物言いに、カイトが笑った。


「あはは。まだ気が早いですよ。少なくとも、この間のあの道化師達を退治するまでは、私の婚儀はおあずけでしょう」

「ふぉふぉ・・・わかっておるよ。それでも、父として楽しみではあるのよ。幸運ではあったな、そなたが正体を隠していたのは」

「ええ、全くでございます」


 ローレライ王の言葉をカイトも認める。アリサ達にしてみれば腹立たしい事この上ないが、カイトからしてみれば有り難い。奴らさえ完全に片付けてしまえば、カイトは何の問題もなく彼女らを迎え入れてやる事が出来る。

 カイトにとって何が一番怖いか、というと動きを察知出来ない『死魔将(しましょう)』達だ。カイトを狙い撃つ上でアリサ達はカイトにとって弱点になり得る。それもカイトにとってみれば天桜学園以上に痛い弱点だ。そしてカイトが正体を隠すということは、国々の思惑と無関係に動ける、という事だ。それだけ彼女らを守りやすくなる。


「ユスティーナ殿。娘の警護、よろしくお頼み申す」

「うむ。しかと請け負おった。これには貴殿の国にて調査をさせるが故に暫くの間離れ離れになってしまうのは、許されよ。アリサ王女にしても部屋の内装を整えたり、とこやつを迎え入れるにも準備が要ろう」

「うむ・・・侍女達については、きちんと言い含めている。安心めされよ」


 ティナの返答にローレライ王が侍従長に視線を送る。当たり前といえば当たり前なのだが、アリサは一国の王女だ。国として、やはり王女の輿入れに幾つかの嫁入り道具も持たせなければ面子が立たない。

 その輿入れ道具の一つに侍女が入っていたとて、王国であれば不思議はないだろう。勿論、ただの侍女ではなくいざとなれば戦う事も視野に入れた侍女だろう。シアの侍女であるフィニスやヘンゼルと同じと考えて良い。そしてカイトの後宮に入る以上、カイトの正体を当分隠す事も狙われる可能性がある事も全て承知済みで、というわけであった。


「わかった。では明後日の朝には、これらの出立を隠れ蓑に余らも出よう。明日は最後の別れの夜になろう。まぁ、会えぬわけではないが、それでも今までの様には行くまい。奥方を含めてしっかりと、話されるが良い」

「かたじけない」


 ティナの気の回しにローレライ王が頭を下げる。一応通信網があるにはあるが、傍受される可能性を考えれば当分は使えない。時折手紙を送るぐらいだろう。なので明日が親子で過ごせる最後の夜、というのもあながち間違いではない。

 そうして、カイト達はそこらの打ち合わせというか確認をしながら、その後はささやかな夕食会を持つ事になるのだった。




 明けて、翌日。当たり前だが正体を隠すカイトがアリサをホテルに連れ込めるわけもなく、カイトは一人でホテルに戻ってきていた。ちなみに朝帰りであるが、バレると面倒なので朝ごはんの前までには帰ってきていた。

 そこでの朝食時の事だ。一応ホテルではあったがビュッフェ形式ではなかったので一同は揃ってご飯を食べる事にしていた。わけなのだが、そこでカイトは生徒の一人から声を掛けられた。


「おい、天音」

「ん? なんだ?」

「仕事って明日からだよな?」

「ああ、そうなってるな」


 カイトは一応手帳を見るフリをしながら、生徒の言葉を認める。すでに昨夜にティナが明言しているが、カイトの調査任務に関しては明日からの開始だ。

 理由は至極当然のもので、今日ブリーフィングを行って準備を整える事になっていたからだ。幾らなんでも19時頃に到着したカイト達にそのまま調査のブリーフィングを、とは無理だ。準備に一日設けているのは何ら不思議ではなかった。


「王宮って今日観光して大丈夫なのか?」

「ん?」

「いや・・・用意任せてるし・・・良いのかなーって」

「ああ・・・っつってもブリーフィングには出席してもらうから、10時ぐらいには戻れよ? 一応道具のサイズ調整とか武器の最終調整とかやらないと危険だぞ」

「わかってるって。それまでには戻るよ」


 カイトの念押しに問いかけた生徒が大丈夫だ、と念を押す。別に珍しい話ではないのだが、王宮の一部や貴族の邸宅の一部が開放されている事はある。時には領主達が顔を見せて市民達と歓談を行うのも立派な為政者達の仕事だ。カイトの公爵家であれば観光地の他に普通に子供用の公園としても利用させている。なんら不思議はなかった。とは言え、今回はそういう理由ではないだろう。


「こっちで万が一探るより、マクスウェルで万が一探った方が良いと思うんだがな、オレは」

「わかってるよ。でも万が一だってあるかもしれないだろ?」


 カイトの言葉に先程の生徒が笑う。なぜ王宮に行きたいのか、というとアリサが居るからだった。アリサは歌姫。一種のアイドルだと思っても良い。近くにいれば見に行きたいと思うのは少年少女達としては不思議はなかったのだろう。

 ちなみに、であるがこれはカイトから言わせれば完全に無駄である。彼女は現在大忙しだ。理由はもちろん、引っ越しの用意に忙しいからである。一応荷物そのものは用意出来ているらしいのだが、それでも土壇場はやはり忙しくなる。庭に顔を出せるはずがなかった。


「ま、好きにしろ」

「・・・じー」


 無駄足、と言えないカイトは笑いながらも好きにさせる事にする。そもそも無駄足は知っているだろう。と、そんなカイトを暦が睨んでいた。


「ん?」

「先輩、少しお話が・・・」

「お、おう・・・」


 何か拙い事したかな、と思いつつもカイトは暦へと耳を寄せる。基本的に一緒にご飯を食べているとは言え、席は馴染みの者が近くなる。ということで横は彼女だったので耳を寄せるだけで十分だったのだ。


「・・・昨日、会いに行きましたね、先輩」

「なんでわかった」

「いえ、部屋を訪ねたら普通に式神でしたから」


 暦はカイトに対してなぜわかったのか、と理由を告げる。一応外出がバレない様に式神を残していったカイトであるが、それ故にバレたのだろう。勿論暦なので問題はない。


「で、なんだ?」

「・・・黙っておきますんで、サインもらってきてもらえませんか?」

「なんだ、そんな事か・・・」


 カイトがため息を吐いて、どこか苦味を滲ませた笑みを浮かべる。耳を寄せたし先程の視線からどんな大事かな、と身構えただけ損だった。


「いえ、ホントなら連れて行って貰いたかったんですけど」

「ああ、それで睨まれたわけね・・・良いぞ、その程度なら。と言うかお前は普通に公爵邸出入り出来るんだから会いに行きゃそれで良いだろ」

「え、良いんですか?」

「出入り自由にしてる奴に今更出入り禁止、って言うかよ・・・」


 暦の驚いた顔にカイトがため息を吐いた。桜達は元より、暦にもカイトは公爵邸への立ち入り自由の許可を与えていた。何故か。そもそもカイトの正体を知っている者は限られるからだ。

 その中でカイトが色々と細々とした事でお使いを頼めるのは限られてくる。勿論、大抵はステラ達に頼む事にしているが、やはり何時も何時でもというわけにはいかないし、時には無理な時もあって暦に頼むしか無い時もある。となると、その流れで彼女も公爵邸の中に馴染みの者が出来てくる。

 そして逐一公爵邸に居る時に彼女を呼び出してその度に出入りの許可を与えて、となると面倒なので自由に立ち入っても良い、と許可したのであった。

 ちなみに、これは彼女が一応表面的にはカイトの弟子だから、という特例的な措置だ。なので同じくカイトの正体を知っている夕陽にはその許可は与えていない。


「やった。生で会える」


 というわけであっさりと降りた許可に、暦が小声で小さくガッツポーズをする。ここら、彼女はやはり一般子女というわけなのだろう。そんな彼女にカイトは笑いながら、朝ごはんに戻る事にする。


「・・・ま、そんな事言ったらオレは昨日ソロライブ聞いてたんですけどね・・・いてっ!」

「・・・じとー」

「悪いって。一応これでも婚約者だよ」

「知ってます!」


 暦が少しだけ、怒った様子を見せる。まぁ、ここらの反応はわかってカイトもやっている。真面目な暦をからかうのが少し楽しいらしい。勿論、暦もからかわれているのはわかっている。そうして、そんな感じで楽しく笑い合いながら、一同は朝ごはんを食べるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第876話『ミッションブリーフィング』


 2017年8月29日 追記

・誤表記修正

 ブリーフィングの時間が『15時』となっていた所を『10時』に修正しました。『15時』からなのは設定上の買い出しでした。

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