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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第49章 海底王国編

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第874話 人魚姫

 海底王国ローレライ。そこに足を踏み入れたカイト達を待っていたのは、人魚達の大歓待ではなく普通に厳格な入国審査官達だった。


「一気に夢から覚めました・・・」

「あははは。これが現実だし、一応ローレライも国だからな。諦めろ」


 ずーん、と落ち込む暦に対して、カイトは入国審査官への書類を用意しながら慰めの言葉を送る。当たり前だが、ローレライ王国とて国なのだ。物語の様に入国審査もなしにいきなり人魚達の大歓声が待っていてくれるわけもないし、そもそも国賓でもないのに人魚達が大歓迎をしてくれるわけもない。

 いや、一応念のために言えば人魚達は基本陽気で良い奴なので観光客なんかを見れば歓迎はしてくれる。が、まさか物語の様に大々的な歓迎があるわけもない。というわけで、カイト達は普通に入国審査官から検査を受けていた。


「ふむ・・・武器のリストはこれで?」

「ああ」

「ふむ・・・では貴方には封印を施させてもらう事になりますが・・・」


 カイトへ向けて、入国審査官が告げる。カイトは徒手空拳でも戦える。自分の魔力で武器を編み出せるからだ。となると、やはり仕事以外では町中でその力を安易に使われない様に封じておこうと思っても不思議はない。他にも異空間から持ち込まれても困るので、そこへの接続も禁止される結界が展開されている。


「いえ、規定の第三条の五項にある例外規定の申請が通っています。ローレライ王国エンテシア皇国『ポートランド・エメリア』大使館より、同申請についての許可が受けられました」

「ふむ・・・?」


 入国審査官が首をかしげる。カイトの告げた条項は冒険者等武器を持ち込む者達に対する封印に関する条項だ。ここは海底だ。別に人魚達は天を覆う泡が崩れ更に結界が途絶えた所で問題は無いが、そうではない種族の者達もここには一部暮らしている。となると、やはり崩壊させられるのは困るのだ。他国以上に厳重な警戒網が敷かれているのは不思議ではないだろう。

 そしてその中でもカイトの告げた部分には、例外として封印の免除についても規定が書かれていたのである。主にローレライ王国が必要と認めた場合にのみ、この規定は適用されるわけだ。

 で、カイトに対しては例外として認められていたのである。大精霊の意向を受ける彼にはこの地に危害を加える見込みが無い、というわけだ。が、若いので疑ったらしい。仕方がないといえば仕方がないだろう。


「確かに、確認しました・・・用意はしなくていいぞ」

「わかりました」


 書類の中に記されていた特記事項に同項の適用の許可と書かれていたのを受けて、入国審査官は補佐官に用意させていた封印用の魔道具の準備を停止させる。準備に手間が掛かる魔道具なので用意はまだその準備の所で終わった様子だった。


「人数は・・・ひのふのみのよの・・・」

「武器のリストはこちらに。検査及び検疫も終了しました」

「ああ・・・人数は書類通り、と・・・武器も確認済み・・・封印に関する特務規定は?」

「王城に確認済みです。正式な許可が下りています」

「ふむ・・・」


 入国審査官は検査員達の報告を受けながら、書類に偽りが無いかどうかを確認していく。基本的な所としては何も問題は無かったし、そもそも大使館できちんとした書類ももらっている。問題は起きないだろうと予想されて、そして案の定、何の問題も起きる事は無かった。


「はい、終わりました。ご武運を」

「有難うございます」

「この書類は無くさない様に。無くすと再発行は手間ですよ」

「あはは。わかりました、気をつけます」


 カイトは入国審査官から書類――検査終了を証明する書類――を受け取って、笑いながらそれを懐の中に仕舞い込む。勿論そう見せているだけで実際には異空間の中に無くさない様にしておいた。


「さて・・・とりあえずこれで自由に動けるかな」


 カイトは書類を仕舞いこの場を後にできる用意を整えると、受付を後にする。流石に受付でそんな何人も屯しているわけにもいかないので他については見える位置で待機させておいただけだ。


「これで行けます」

「良し・・・それは良いんだが・・・ここからどうするんだ?」

「とりあえず今日はもう宿屋ですね。もう夜の18時になってしまってますし・・・」


 カイトは上の『大水光石(だいすいこうせき)』を見ながら告げる。『大水光石(だいすいこうせき)』は基本的に太陽と連動した動きをするらしく、今ではその光は少しだけ赤みを帯びていた。今頃本当の太陽は日が傾いて夕暮を演出している頃なのだろう。


「星明かりと月明かりのおかげで完全に暗くなる事は無いんですが、流石にあの明かりの中で動きたくはない・・・ですからね。それに移動の疲れもある。今日一日は先に休んで、明日からは本格的に活動を、と」

「そうか、わかった・・・移動しよう」


 神崎はそう言うと、音頭を取って移動を開始する。一応パーティリーダーはカイトになっているが、立場として一応誰か先輩に音頭を取って貰った方が良かった。

 今は全員が冒険部所属とは言え、やはり元々の部活の立場や関係等についてはそのまま継続されている。カイトと元部長達では、やはり心情としてそちらの方が優先されてしまっていたのである。

 とは言え、カイトがリーダーはリーダーだ。なので神埼はカイトへと宿について問いかける。ここらについてはカイトが全て手配していたので、彼もあまり詳しい事はしらないのだ。


「で、何処になる?」

「一応、あの大きな建物に」


 カイトが指差したのはそこそこの大きさの建物だ。規模としては大凡5階建てという所だろう。冒険部のギルドホームよりも少し大きいぐらいだった。


「ここらで一番大きい宿屋があそこでしたんで・・・もしなにかあって迷っても大丈夫かと」

「そうか。助かる」


 どうやらそこそこの値はしたらしいが、迷った場合に備えて目立つ建物を選んだようだ。道中でカイトから聞けば、ローレシアからであれば大抵の所から見れるらしい。夜でも安心だろう、という事だった。

 というわけで、一同はその大きなホテルを目指して移動していく。そうしてたどり着いて、受付で鍵をもらって一度全員部屋に荷物を置く事にした。それから、夕食にする予定だった。そうすれば丁度よい時間だろうというわけだ。


「はい、承っています」

「良かった・・・鍵はもらえますか?」

「ええ、こちらをどうぞ・・・それと、カイト様はいらっしゃいますでしょうか」

「私がそうですが?」


 ホテルのフロントの女性職員に言われて、カイトが耳を寄せる。どうやら、密かな話になるらしい。


「王宮より、使者が来られました。このお手紙を、と」

「わかりました。ありがとう」


 どうやら、誰かが来たらしい。内容については考えるまでもないだろう。ローレライ王国にとってカイトは娘の婿になる存在だ。顔を見せに来い、というわけだろう。その時間を記した紙を持ってきた、という所だ。


「・・・20時に王宮にて、か」


 カイトは密かに紙の中身を確認して、それを燃やして証拠を隠滅させる。どうやら、今日の晩御飯は王宮にてになりそうだった。


「さて・・・そうなると、ティナにも連絡か」


 一応、今回のアリサ姫移送任務に関しては彼女が総トップになっている。更には立場を考えても彼女も顔見せの必要があるだろう。あちらは王宮から直々に招かれている為、軍用の港から入っている。そうして、カイトは密かに彼女へと連絡を送るとそんな素振りも見せずに受付を後にする。


「鍵、もらえましたよ」

「何かあったのか?」

「いえ、注意事項を聞いていただけです。他国ですからね」


 耳を寄せていた事を見ていたらしい藤堂の質問を受けて、カイトが笑いながら何もない、と明言しておく。嘘ではあるが、語れないのだから仕方がない。


「さて、じゃあとりあえず一度荷物を置いて、今日は後は自由行動で。ご飯については各自ホテルのレストランにすることで」

「わかった」


 今日この後自由行動にするのは、始めから決めていた事だ。そもそもすでに夕暮れ時なのだし、移動にはかなり時間を要した。休憩が必要というのは冒険者だからこそ、痛いほど理解出来ていた。というわけで、カイトは部屋に荷物を置くと一人夜の街へと繰り出す事にした。


「ティナ。こちらは出た」

『うむ。こちらも軍の施設を後にした・・・そちらを拾う必要はありそうか?』

「勝手知ったる人の家、だ。必要は無い」


 カイトは街の中心に位置するローレライ王国王宮を見る。この街で一番大きな建物は王宮だ。高さならホテルも大きいが、規模なら王宮が最大だった。そうして、カイトは一人ローレシアの中央通りを歩いて王宮へと向かい、王宮の門の前へとたどり着いた。すると当然だが、門番達がその前を遮った。


「すでに自由に入れる時間は終わった」

「観光客の様子だが、帰られよ」


すでに19時も回った時間だ。幾ら王宮が観光客向けに開放されていたとしても、夜限定のライトアップでもされていない限り入れる事はないだろう。そして保安上の理由を考えれば、王宮を夜間解放する様な所はそうそう存在しているとは思えない。


「いや、ローレライ陛下よりお呼びに預かった」

「それは・・・少しお待ち下さい」


 カイトが提示した入城許可を見て、門番達の対応が一気に変わる。カイトの持っていた入城許可はローレライ王国にとって超重要な者にしか渡されていない。本物であるとするのなら、無許可で立ち入れる相手を止めてしまった事になるのだ。確認もむべなるかな、という所だろう。


「失礼致しました。お通りください」

「サンキュ」


 カイトは片手を挙げると門番が開けてくれた通用口を通って王宮の中へと入っていく。すると、唐突に歌声が響いてきた。どうやら開放時間が過ぎた事で更に強固な結界に覆われた事で音は閉ざされていたのだろう。聞こえてきた歌はアップテンポな曲ではなく、荘厳かつ神聖さが滲んだ歌だった。


「おっと、こりゃラッキー」


 歌の発信源は何処かなぞカイトにはわかった話だった。というわけで、カイトは王宮への道から逸れて、中庭の中にある噴水まで歩いて行く。そうして、カイトが噴水に到着すると同時。歌声が止んだ。


「来ると思った」

「飛んで火に入る夏の虫、というわけではないんだがなー・・・」


 そこに居たのは、アリサだ。どうやらカイトが来る事を知って、歌っていれば確実に来るだろう、という予想を立てていたのだろう。どうやら誘われていたようだ。そうして、笑う彼女を少し遠目から、カイトが観察する。


「絵になるな」


 カイトが両手の指で四角を作って、その中にアリサを浮かべる。見て思うのは、それだけだ。人魚姫が竪琴を持ちながら、噴水の上に腰掛けて歌う。これで朝日が照らす海辺であれば、まさにファンタジーの中に描かれる人魚姫の絵姿だろう。とは言え、カイトには少し物足りなかった。


「だが・・・」


 パチン、とカイトが指を鳴らす。すると、二人は王宮が見渡せる様な丘の上に立っていた。そこは王宮の裏に密かにある少し小高い丘――と言っても草木の生えた丘ではなく、石の床に珊瑚の木が生えた丘――だった。


「せめてこっちにしてほしかったかな」

「そういうのは、演出家に任せてるのよ、っと」


 アリサが笑って下半身を人間のそれに変える。そこは、アリサとカイトが出会った場所でもあった。どうせ呼び寄せられるのであれば、ここで再会したかった、というのがカイトの素直な感想だ。

 が、そもそも呼び寄せるのが重要だったのであって、再会を劇的にするつもりはなかったようだ。そもそもアリサにしてもカイトにしても会議の時に飛空艇の中で会っている。色々とサバサバした彼女なので、そこらはそれで良かったのだろう。


「おかえりなさい、勇者様」

「ただいま、マーメイド・プリンセス」


 優雅にパレオの両端を持ち上げたアリサに、カイトがうやうやしく一礼する。こういう何処か演技がかったやり取りを楽しめると言うかやって来るのはアリサの特有の癖と言うか、やはり演劇家としての職業病の様なもの、なのだろう。


「さて・・・折角演出家が場所を用意したんだ。ファンの我儘を聞いてもらえるかな、歌姫様?」

「ええ、良いわよ? 折角良い夜なんだものね。頑張って帰って来たファンには、ご褒美を上げましょう。お望みは何かしら?」

「では、一曲。オレの為に作られた、オレの為の曲を、オレの為に歌ってくれ」

「ええ、では一曲。ご観覧あれ」


 自らの魔力で編み出した椅子に座り、カイトが足を組む。キザったらしいセリフに、キザったらしい態度。だと言うのに、それが抜群に様になる。そして望むのが、彼女が300年の間で作り上げたカイトの為の歌だ。キザったらしい事この上ない。

 だが、それこそが彼女最大の願いであり、望みであったのだ。それを望まれて否やはあるはずがなかった。そうして、カイトは暫くの間、己の為に歌われる純愛歌にただ、酔いしれるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第875話『父として』

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