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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第49章 海底王国編

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第882話 海の中で

 泡に包まれて海中を進み続ける船の中。それはある種幻想的な光景だった。


「うわー・・・先輩! これ! 物凄いですよ!?」


 上を泳ぐ魚の群れを見て、暦が大歓声を上げる。水族館だってここまでの大パノラマにはならないだろうほどの圧倒的な光景が、船の外には広がっていた。現在の水深は甲板を基準としておよそ50メートルと言うところで、まだまだ太陽光は届いていた。

 更には地球とは違いエネフィアの海は汚染されていない為、透明度は非常に高い。なので50メートルという所でも十分に明るかった。そもそも海への不法投棄は見付かった時点で人魚達やそこら水に関わりの深い種族に喧嘩を売っているし、更にはカイトに喧嘩を売っているとも言える。

 それにプラスチック等の化学物質がほぼほぼ存在していないのだ。本来は地球でもあっただろう綺麗な海が今でも大量に残されていた。


「先輩! これ、観光用とかないんっすか!? と言うか、知ってたんなら教えて下さいよ!」


 興奮しているのは暦だけではなかった。夕陽がすごい楽しげに、それでいて少し不満を滲ませつつ、カイトへと抗議の声を上げていた。勿論、彼ら以外もそれ相応に幻想的な光景に興奮を滲ませている者は少なくない。


「あのな、夕陽・・・お前帰ってから詩織ちゃんに写真で見せる気じゃないか?」

「? うっす、そのつもりっすけど・・・」

「お前、この仕事終わったら3日程休みだろ? チケット売り場にはオレの権限で話通してやった。誘ってデートしてこい。たまにゃサプライズでもかましてやれ」

「・・・マジっすか?」

「おう。飛空艇のチケットはてめぇで金だせよ。こっち遊覧船だけだからな」

「神! マジ神っす!」


 カイトからの提案に、夕陽がカイトを拝まんばかりにひれ伏す。そんな彼にカイトは少し心地よさげにサムズアップ付きのドヤ顔を晒していたが、次の言葉にたたらを踏む事になったのは、ご愛嬌だろう。


「流石部内一たちの悪いスケコマシっつわれてないっすね!」

「あらら・・・」

「「「あははは!」」」


 たたらを踏んだカイトに、全員が笑い声を上げる。夕陽に悪意がないので、カイトとしてはどうにもできなかった。ちなみに、カイトがなぜ夕陽に気を回したか、というと一応下級生ということで面倒を見ている事と、どうにも夕陽はこういうデートプランには疎いらしい、という事情からだ。

 それに折角色々とあれこれ口を出しているのだし、夕陽には色々とこちらの事情を酌んで頑張ってもらっている。たまには臨時ボーナス有りも良いだろう、というわけであった。


「? なんか変なこと言ったっすかね?」

「スケコマシは悪口だ、とおぼえとけ・・・」

「すんません・・・あ、どもっす」


 やれやれ、と肩を竦めるカイトから差し出されたチケットを受け取って、夕陽がそれをしっかりと個人用の小物入れの中に仕舞っておく。そうして、そんな話をしながら楽しくやっているとどうやら深度の浅いエリアを抜けられたようだ。アナウンスが入ってきた。


『これより更に深度が深くなります。一時的に暗くなりますので、ご注意ください』

「深く・・・そう言えば先輩」

「うん?」

「深度ってどれぐらいまで行くんですか?」


 相変わらず外で和気あいあいと団欒を繰り広げていた暦とカイトであるが、どうやらどれぐらい潜るのか気になったらしい。いや、そもそも海底王国とも言われる所へ行こうとするのだから、気にならない方が不思議だろう。


「そうだな・・・大体深度1000メートル、って所か」

「「「え゛」」」


 暦だけではなく、気になったらしく耳をそばだてていた全員が一瞬で固まる。深度1000メートルともなると十分に深海と言われる領域だ。幾ら透明度の高いエネフィアといえども、そんな場所にまで明かりが届くわけがない。薄暗い空間をイメージしたらしい。それに、カイトが笑う。


「おいおい・・・人魚達の王国がそんな薄暗い国であってたまるかよ。流石に幻滅するだろ」

「あ・・・良かったー・・・一瞬本気で幽霊船とか出るおどろおどろしい所かと思っちゃいました・・・」


 ほぅ、と暦が安堵の表情を浮かべる。仕方がないといえば仕方がないだろう。とは言え、そんな話をしている間にも船は潜行を続けて、遂には周囲は真っ暗と言える状況にまでたどり着いた。が、そこで即座に船に取り付けられた淡い光が周囲を幻想的に照らし出した。


「うわ・・・海の中ってこんななんですねー・・・」

「光が届かなくなると一気に怖くなるな・・・」


 何処か怯える様な暦の言葉にカイトも同意する。幾らカイトだからと言っても生き物は生き物だ。そもそも彼とて死ぬ。並大抵の事では死なないだけだ。そうである以上本能として、暗闇を怖いと感じる。


「まぁ、これさえ耐えてしまえば、後は楽園なんだが・・・とは言え、流石にそろそろ冷える頃か。音もうるさくなるしな」

「音?」


 カイトの物言いに暦が首をかしげる。現在、周囲は話し声以外に何か音は聞こえてこない。それは耳を澄ませても一緒だ。


「いろんな音だ。魔物が出す音もあれば、クジラやイルカ達の放つ声、海底火山の噴火の音・・・色々とあるからな」

「へー・・・って、そうだ。そう言えばかなり遠いんですよね、海底王国って」

「一応、『ポートランド・エメリア』と中津国の間ぐらいだから・・・まぁ、数百キロ先、って所か。これでもマクダウェルだから一番近い場所ではあるけど・・・遠いっちゃあ遠いな」

「でもなんで一日で行けるんですか?」


 暦はどうやら、なぜ一日でそんな距離を移動出来るのか気になったらしい。確かに、それはそうだろう。そもそも船が風もなく一日に数百キロを移動出来るわけがないし、海流はどれだけ速くても一日で200キロも移動出来る事はないだろう。地球とて最速で大体一日に移動する距離は190キロと言うところだ。

 そしてこれから行くだろう所にあるのは先の表層海流ではなく深層海流の類だろう。地球の常識と変わらないのであれば、更に遅い。時速数メートルと言うところだ。こんな物は止まっていると同義だ。とは言え、勿論それならそれできちんと理由があるのだ。


「ま、それはこれからのお楽しみ・・・というわけで、ちょっと寒いけど後ろ行くか」

「? はい・・・」


 カイトに手を引かれた暦が甲板後方へと歩いていく。そうしてたどり着いたのは、甲板最後尾の手すりの側だった。ちなみに、この時点ですでに各々飽きてきた事もあって中に帰ったり各地へ観察しに行っていた者は多いので、今は二人だけだ。


「良し・・・ここで待ってればわかる」

「はぁ・・・」


 暦は首を傾げながらも、とりあえずは言われた通りにその場で待機する。一応明かりはあるとはいえ周囲を刺激しない為にさほど明るくはなく薄暗いし、深度が下がって水温が下がった事によって甲板の気温もかなり低下して寒い。というわけで、暦がくしゃみをした。


「くちゅん・・・」

「ほら」


 カイトは異空間の中から暦用にサイズ調整された羽織を取り出して、彼女の肩に掛けてやる。動きやすい服装――戦闘を考えている為――であったからか露出は少なくなく、更には羽織る暇も無しにこちらに来てしまったので少し冷えたようだ。


「あ・・・ありがとうございます・・・って、なんでサイズぴったりなんですか?」

「被服科に伝手あるからな。サイズは把握し・・・すんません、忘れてください」


 暦からジト目で睨まれて、カイトが謝罪する。ちなみに、知りたくて知っているわけではない。職務上仕方がないので把握しているだけだ。


「じー・・・先輩! 質問です!」

「え? あ、あぁ・・・」

「私のスリーサイズ、上から!」

「え? 78・56・80・・・あ」

「なんで知ってるんですか!? しかもしっかり一番最初に測った時より大きくなってる事まで!」


 いきなりの質問に、カイトはうっかり暦のスリーサイズを読み上げる。なぜ知っているのか、は先に言った通りだ。


「い、いざという場合には防具の手直しの手はずとか必要だから・・・これは冒険部の長として必要な事だ。間違っても悪用とかこの娘胸でけぇな、とかやってないぞ」

「じー・・・」

「本当だ! だからその突き刺さる視線やめて!」

「・・・体重は?」

「そっちは知らん! よほど特殊な奴じゃないかぎり、防具の手直しに体重は必要ない!」


 後輩からジト目で睨まれて、カイトが大慌てで念のために言い含めておく。スリーサイズが必要なのは本当に職務上の理由だ。流石に全員のデータではないが、馴染みある少女達――男のスリーサイズは特に必要がない為――のデータは万が一に備えて記憶しておいたのである。


「・・・本当ですね」

「・・・なぁ、何時も思うんだ。なんでお前ら女はそうやって完璧に見抜くんだ・・・?」

「女の勘です!」


 えへん、と暦が最近大きくなったらしい胸を張る。後々の調査のよると、本当にワンカップ上昇していた。ちなみに、女にとってはスリーサイズ以上に体重が一番機密事項だ、とは彼女やその他様々な女性陣の言葉である。

 というわけで、スリーサイズは知られた所でさほど問題なかったらしく、今回はそれで許された。勿論、そのおかげでぴったりの外套がもらえた事もある。と、そんな話をしていると唐突にガコン、という何かが動く音が聞こえた。


「あれ?」

「ああ、始まったか」

「へ?」


 カイトの手招きを受けて、暦が手すりから下を覗く。すると、そこから何かが吹き出している様子が見て取れた。


「飛翔機・・・?」

「ちょっと違う。ざっくばらんに言ってしまえば水式ジェット噴射って所か。飛翔機よりも原理はもっとシンプルで、水を横にある注入口より取り込んで、魔道具で加速して出してやって反動で動いてるんだ」

「へー・・・あ、ごー、って音が・・・」


 暦が耳を澄ませる。すると彼女の耳――勿論魔力の強化は無しだ――にも何かが吹き出る様な音が聞こえてきた。


「だろ? 大体これで時速50キロって所か。勿論、これは最速で海流の影響に魔物が出た場合の緊急避難なんか色々あるからな。大体一日がかり、ってわけだ」

「へー・・・」


 カイトから語られるうんちくに暦が何度も頷く。どうやら、これで本来は数日掛けて移動する距離をたった一日で移動出来るようだ。勿論、このたった一日は平均的な話で何らかの事情で長引けばもう少しかかったり、逆に船の性能が良かったり更に運良く魔物に出くわさなかったりすれば半日程度でも到着出来る。


「・・・あれ?」

「うん?」

「魔物出た場合って・・・どうするんですか?」

「いや、普通に戦うだろ・・・あぁ、船の中からになるから難しいし、それ故、船にはそれ専門の船員も乗っている。基本的にこちらが手を出す事はない・・・勿論、出来るのならやってくれても良い、と言う話だし、バイト代は出るけどな」


 暦の疑問に対してカイトが船の甲板の一部で待機している武装した船員を密かに指差す。彼らは人魚族か海龍の類に变化出来る龍族だ。

 国と国の間を行き来する船は基本的に乗り合いにはならない。戦闘を考えていない者が乗る事も多いのだ。それ故、距離にしては乗り合いの船よりも値は張るがどちらかの国の戦闘員が乗り合わせて、万が一にも備えておくのである。


「っと、言ってる間に来たか」

「蛇・・・? 小さい様な・・・」

「ここらは宇宙と一緒だ。何にもない。そして比較対象が無いから小さく見えるだけで、実際には30メートルは軽いな。とは言え、一匹か。すぐに終わるな」


 少し忙しなく動き始めた船員達を見ながら、二人は少し遠くの蛇型の魔物を観察する。詳細は流石に遠すぎて不明だが、カイトによればさほど苦労はしないレベルだそうだ。安心しても大丈夫だろう。そうしてそんな風に言っている間に、船が停止した。


「あ・・・止まった?」

「ま、一応安全策は取るか。30メートル級だからな」


 この船の大きさよりも小さいと言えども相手は破壊行為を働く魔物で、そしてこちらは少しの損傷で沈没しかねない船だ。勿論救命艇も備えているが、それでも止まって安全の確保をしておくべきだろう。と、そんな話をしたと同時に、泡の外に一人の男性が出て、龍に变化した。


「んー・・・やっぱオレの件が上には入ってるか」

「? どういうことですか?」

「遠距離から一撃。跡形もなく、だ。確実に討伐しただろ?」

「はぁ・・・」


 暦は見たままの事を言われて、訝しげに頷いた。確かに、一瞬で戦闘は終了して再び船は動き始めた。が、そこの何処にカイトの関係があるのかはわからなかった。とは言え、わからないのも当然なので、カイトが解説する。


「いや・・・ほら、30メートル級の魔物を一瞬で消し飛ばせるって普通にすごいだろ? しかも痕跡も完全に消し飛ばせる火力って・・・」

「まぁ・・・そうですね」

「基本的にああいう規模のデカイ奴を完全に討伐する事は稀なんだよ。血が流れて魔物引き寄せられると面倒だからな・・・基本的には遠ざけてから戦う。が、ああいう風に一撃で完全に遠くに吹き飛ばせるのなら、話は別・・・なんだが、これは結構疲れる。デカイ一撃だからな。疲労の蓄積を考えれば、あまりやらないんだ。やって目的地の近場、って所だな。この段階でやる事は珍しい・・・なら、事情がある。その事情は、となると万が一にでも戦闘で魔物が引き寄せられて船が沈没されると困る、と言う所だ。で、船に沈没されて困る事情となると、オレの関係しかない」

「な、なるほど・・・」


 物凄く筋道立てた考察に、暦が頬を引き攣らせる。勿論、半分ほどしか理解出来ていなかった。と、そんな話をしつつ、色々な魚を見つつ、船は深海を目指して進み続けるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第883話『海底の王国』

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