表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第49章 海底王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

890/3921

第870話 集い始める英雄達

 さて、当たり前の話ではあるが、敢えて言っておく。カイトが幾らローレライ王国への遠征を決めたからといって、即座にローレライ王国へ行けるわけがない。法治国家であるということは即ち、入出国管理はきちんと行われるのだ。

 流石に常日頃旅をする冒険者という存在が居る以上エネフィアには旅券の様な物は無いが、それでも出国に際してはきちんと違法な薬物を持ち出していないか、貴重な歴史的な遺物を違法に持ち出していないか、と色々と調査があるし、入国する側の国にも色々な検査や書類の審査がある。審査には一週間は必要なのだ。というわけで、カイトはその検査の時間を利用して再び皇都へとやってきていた。


「陛下。お久しぶりです」

「ああ、公よ。これより娘二人が正式に世話になる。二人共じゃじゃ馬であるが、よろしく頼む」

「はい」


 やはりカイトとて立場上はマクダウェル公なのだ。というわけで皇都に来て皇帝レオンハルトへの挨拶も無しでは体面上非常に拙い。なのでまず初めに彼は皇帝レオンハルトへと挨拶にやってきていた。が、そんな挨拶の場に、二人の軍人が一緒だった。


「それで、公よ。近衛兵団第1師団師団長ルフレーナ卿、同師団副団長イリーナ卿の両名他、近衛兵団第一師団第一部隊について長らく借りていた。公へと返却しよう」

「・・・はい」

「嫌そうですね、カイト殿」

「いーえ、別に・・・なわけねーだろ! はっきりと嫌だわ!」


 カイトが猛烈に拒絶する。第1師団師団長のルフレーナ、同士団副団長のイリーナというのは、二人共今は滅びたとある別の国で騎士をやっていたのだが、腐敗に耐えかねたそうだ。

 そうして二人で旅をしていたそうなのだが、路銀が尽きた頃に偶然に出会ったカイト達が『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』隊員として引き入れたのであった。

 そういう事情なので戦後も帰る宛がないので公爵家の騎士団の一人として活動していたのだがカイトの帰還があり、その後にウィルの申し出を受けて皇国近衛兵団に出向していたのである。

 出向したもののそちらで色々とあり、なんだかんだと近衛兵団の第1師団の団長――正確には代行らしい――にまでなっていたのであった。が、この度ついに本来の部隊であるカイトの傘下として復帰する事になったのであった。


「お前お小言うるさいんだよ!」

「ならば少しはびしっとしてください! と言うか、だらけきった生活をされているようでしたら、また叩き直します!」


 どこか怯えるカイトの言葉に、ルフレーナが応ずる。カイトが拒絶した理由は簡単だ。ルフレーナという方の女性は超絶に厳しいのだ。部隊の中でも風紀委員の様な役割を担っていた所謂引き締め役と言える。常日頃やる気にムラっけがありいい加減なカイトが怯えていて当然だろう。

 とは言え、そこらの性格が見込まれて、近衛兵団の再編に際して近衛兵団にヘッドハントされたらしい。皇国の被害は甚大だったのだ。皇帝直属の近衛兵団といえども質が良いとは言い切れず、問題を起こす者は少なくなかった。それを引き締めるために、ウィルは気心の知れた彼女らに引き締めを頼んだのである。


「はぁ・・・お二人共、陛下の御前です。おやめください」

「「あ・・・」」


 少し言い合った二人だが、イリーナの言葉に皇帝レオンハルトが楽しげに笑っていた事に気付いた。そうして、二人は少し恥ずかしげに小さく謝罪して、本題に戻る事にした。


「も、申し訳ありません・・・」

「いや、所詮ルフレーナ卿も一人の人か、と珍しいものが見れた」

「う・・・申し訳ありません・・・」


 ルフレーナが真っ赤になりながら小声で謝罪する。相当恥ずかしかったらしい。実は皇帝レオンハルトからすれば彼の尊敬する祖母の指南役が、彼女だった。

 そして実は彼自身、ルフレーナから剣技の指導を受けている。いや、念のために言うがこれは彼に限った話ではなく、ウィルの3代後からは代々彼女に剣技を習うのが皇族の基本だった。

 それ故、今まで彼女達は復帰できていなかったのである。そういうわけなのでこの間の同窓会もどきの戦いでも彼女らは近衛兵団の指揮の為に参加していなかったりする。が、流石にこの状況になり、カイトの所に戻ってきたわけであった。


「はぁ・・・レーナ。あんたにはまたバカどもの取りまとめをお願いしたいんだが・・・良いか?」

「元より、そのつもりですよ。シスターズの名を振るいましょう」

「懐かしいな、その呼び方も・・・」


 笑ったルフレーナに対して、カイトも笑う。シスターズというのは彼女ら風紀を整える者達を言う言い方だ。言うのは技術班の面々だ。彼らは放置すると辺り一面を散らかし放題でその上にご飯は食べない寝ないと見るに堪えない状況になる。

 で、その状況を見るに見かねておかんの如く叩き直すので、というわけである。なお、この場合技術班はカイトをおかんと言うのでその下で一気に掃除を始める彼女らは小煩いシスターズとなっているのであった。


「また好き放題やってる。適度にぶちのめして風呂入れてやってくれ」

「本当に、大きな子供ですね」

「大きな子供が多くて・・・」

「・・・カイト殿も大きな子供かと思うのですが・・・」


 やれやれ、と呆れ返ったカイトに対して、ぼそり、とイリーナが毒を吐く。真面目なルフレーナと真面目ではあるが少し毒舌なイリーナ。この二人が、カイトお抱えの治安維持部隊もとい技術班の後始末を行うお掃除部隊の隊長と副隊長であった。と、そうしてそんなイリーナの言葉は風に乗って消えた後、カイトが改めて皇帝レオンハルトの方を向いた。


「では、陛下。確かに彼女らについては以後、こちらの指揮系統に」

「うむ。近衛兵団の指南役に長らく借りすぎていたな」


 カイトの受諾を受けて、皇帝レオンハルトが笑う。今までなんだかんだとのびのびになっていたが、そう言う意味で言えばこれは良い機会だったのだろう。本来彼女らは公爵家の騎士なのだ。皇国の近衛兵団に属しているのが、可怪しいのである。そうしてそこを終えると、カイトがルフレーナに告げる。


「あ、レーナ。新入り共は色々とわかってないだろうから、クオンに頼んでウチの流儀叩き込ませてる。クオンと少しの間協力してくれ。粗野や乱雑は許すが、屑は要らんからな」

「はい」


 カイトは基本的にルフレーナは部隊の規範意識を高める為の活動をしてもらう事にしている。当たり前だが『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』とて組織だ。誰かが引き締めてやらねばならないのだ。ある意味汚れ役だ。

 だが、腐敗から逃れてきたルフレーナ達にとっては、性格的にそれがベストだったらしい。誰かが厳しく律する事で外道に堕ちなくて済むのだ。

 彼女らとしても、それが必要と理解出来ているらしい。おまけに女だからと油断していれば確実に物理的に首が飛ぶ程の実力は彼女らには備わっていた。そして女だからこそ、同じ女への非道は許さない。引き締めるには良い人材だった。と、そんなカイトの言葉に皇帝レオンハルトが首を傾げた。


「協力?」

「ええ、やはり軍ですからね。殺気立って女犯す様な馬鹿は出てくる・・・頭を痛めているだろう陛下にわざわざ言う必要も無いでしょうがね」

「まぁ、な」


 カイトの言葉に皇帝レオンハルトも少し歯切れが悪かった。やはり、軍と性犯罪についてはどうしても切っては切れないお話だ。どれだけ足掻いてもこれをゼロにする事は出来ない。戦場とは地獄だ。それ故、簡単に人の道を踏み外せてしまうのだ。

 もしこれをゼロに出来るとすれば、それは性欲も感情も持たない兵士達だけだろう。地球ではこれで良いかもしれないが、エネフィアでは兵士として使えない。勿論それ以前の問題としてこれは地球では人論にもとる行為でしか生み出せない。そもそもで無理な前提ではあるだろう。

 そこだけは、折り合いをつけていかねばならない事だった。ある意味、必要悪と言うべきなのだろう。守る為には力が必要で、そして戦場という地獄がある限りこの被害だけは防ぎようがない。カイト達が無いのは、それを徹底的に嫌う奴らしか居ないからだ。ある意味、善人の集団なのである。


「で、ウチはその点徹底的に調教しますんで」

「調教と言うより、あれは・・・」


 カイトの言葉にルフレーナは非常に歯切れが悪そうだ。が、それもそうだ。そもそもカイトのやり方は調教ではない。至極当然の話だが、彼女らが言った所でゼロには出来ない。

 が、それでも『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』ではそういう犯罪はあり得ない。それには当然、事情があるのだった。そうして、ルフレーナが断言した。


「全員、カイト殿を恐れているだけかと」

「・・・ま、まぁ、それも調教の一環ということで」


 カイトが何処か照れくさそうに告げる。が、そんな照れる様な真っ当な事ではない。もっとやばい、とは『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』全員の言葉なのであるが、ルフレーナはそれを指摘しない事にした。

 言っても無駄だし、そもそも止めるつもりもない。その意思に全員が同意するからこそ、止めないのだ。が、敢えて言えば、恐怖で人を縛り付けるというのはある意味では正解だ、ということだろう。


「・・・とりあえず、陛下。彼女らは確かに、返却を確認致しました。これよりメルクリア皇女殿下、レイシア皇女殿下と共に、私は本拠へと帰還します」

「うむ。重ねて、娘を頼む・・・出来れば、次に来る時には孫の顔でも見せてくれ」

「ティナより先になると面倒なのでやめてください・・・」


 何処か茶化す様な皇帝レオンハルトの言葉に、カイトがため息混じりに肩を落とす。一応、対外的にはティナが婚約者だ。彼女の立場もある以上、せめて彼女と結婚してからでないと子供は産んでもらうと困る。

 そうして、そんな皇帝レオンハルトの揶揄を背に、カイトはメルとシアを連れてルフレーナら近衛兵団に出向していた『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の隊員達と共にマクスウェルへと帰還する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第871話『人魚達の国へ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ