表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第48章 次への布石編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

887/3937

第867話 龍の血の力

 里長との会話の後すぐ。ソラと桜はあくまでも低度の練習用の魔道具を龍族から借り受けて練習に入っていた。そうして知ったのは、基本的な話として、龍の血の力は血に由来する物らしい、という事だ。教えてくれたのは、里の若衆を調練する教官役の男性だった。


「と、言うことは・・・血を活性化させる、って事なんですか?」

「まぁ、それで良い。血の中に眠る因子を活性化させて、龍の力を目覚めさせる。先にお前が見た<<龍人転化ドラゴニック・ドライブ>>。あれはそれを極度に活性化させ、更にはそれを調整した物だ。非常に難しい」

「じゃあ、俺でも出来たりはしない・・・ですか?」


 ソラはふと興味を覚えたようだ。彼の血の中にも龍の血は流れている。そして濃さであれば桜程ではないにせよ、カイト以上には濃いのだ。可能かどうかは気になる所だった。


「さて・・・確かお前の両親はノーマルだったな?」

「多分・・・カイトもなんにも言ってなかったんで・・・」


 ソラは父を思い出し、更に母を思い出す。どちらもカイトの話では桜の父とは違い普通の人間だ、と聞いていた。今に至るまで何も特別な事を言わない所を見ると、その認識で良いのだろう。そうしてその返答に少し考えて、教官役の男性が答えを出した。


「ふむ・・・濃さとしては末端にも近いか。なら、無理だろうな」

「そうですか・・・」


 わかってはいたが、やはりソラの表情は少し残念そうだった。仕方がない話なのだろうが、出来ないとわかると少し物足りないらしい。


「あの・・・父が祖先帰りの私の場合は?」

「ふむ? そうだな・・・君の場合は・・・どうなのだろう。流石に<<龍人転化ドラゴニック・ドライブ>>は無理なのかもしれんが・・・」


 桜の問いかけを受けた教官役の男性だが、どこか歯切れが悪そうだった。何か悩んでいる様子があったのだ。


「?」

「確か君はカイト様と同じ血統だったな?」

「ええ、そうですけど・・・」


 教官役の男性は改めて、桜がカイトの主家筋の少女である事を確認する。どこか困った様な顔だった。


「・・・もしかしたら、という程度の話なのだが・・・<<龍神憑依ドラゴン・インストール>>なら、出来るかもしれない・・・のだが、すまない。流石にこれは私にもわからない」

「<<龍神憑依ドラゴン・インストール>>?」

「ああ・・・カイト様がやられた最終奥義の一つ、という所か・・・魔王ティステニアとの最終決戦は知っているか?」

「詳しくは・・・」


 問いかけられた桜は一度ソラと顔を見合わせて、詳しく聞いていない事を告げる。そこらの戦いの話については、彼女らは大半が聞いていない。知っている事といえばカイトがタイマンで魔王ティステニアを圧勝した、という事ぐらいだ。


「そうか・・・うぅむ・・・私が語って良いかどうかはわからんが・・・」


 詳しく語られていないのなら、と教官役の男性が少し悩む。語っていないのなら隠している可能性もあるし、別に聞かれていないので語らなかった、という可能性もある。判断は難しい所だった。

 とは言え、彼はカイトから龍の力について教えてやってくれ、とは頼まれたが<<龍神憑依ドラゴン・インストール>>については語るな、とは言われていない。なので、少しだけ詳細を語る事にしたらしい。


「あの時、私もあの戦場に居た。龍族の主力部隊の一人としてな。当時の作戦は如何にしてカイト様を敵軍総大将であるティステニアへとぶつけるか、という所だった」


 基本的に、今も昔も『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の運用方法は変わっていない。カイトをどうやって敵のボス級にまで向かわせるか、だ。彼を無傷で敵総大将にぶつけられれば、その戦場での勝ちを確定させられるのだ。運用方法としてはそれが何より正しい。


「そこで、当時の連合軍上層部並びにウィスタリアス様、ユスティーナ様が考えられた作戦は、世界各地で一斉に反旗を翻し、その上で影武者を使い部隊を率いているのがカイト様だと誤解させた上で単騎でカイト様が敵の本陣に突入する、とある意味無謀な作戦だった」

「た、単騎突撃・・・」

「まぁ、今だから言えるが、かなり分の悪い賭け、ではあった。が、それ以外に勝てる可能性も無かった事も事実だ」


 敵総本陣に対しての正真正銘無支援での単騎突撃。普通に無茶苦茶だ。とは言え、そうしなければこちらが各個撃破されるのがオチだった。


「こう言うと情けない話ではあるが、ティステニアには誰も勝てなかった。単独戦闘になればユスティーナ様に次ぐ当時第二位の実力者。あまりに桁違いの実力者故に、彼が出れば戦局を覆す事も可能だった」

「? でも確かその当時ってティナちゃんはもう・・・」

「結果として、後追いとして、目覚めた結果だ。所詮格上相手の封印。時間を狂わされていたが故に即座に脱出とは出来なかっただけだ。それ故に後出るのに50年は必要だった、とはユスティーナ様ご自身の言葉だ」


 ソラの問いかけに、教官役は首を振る。確かに、ティナはその当時復活していた。そして彼女自身格上相手の封印は効かない、と明言している。だが、かつてアウラの一件の折りに同時に時間を狂わせれば一時的な効果はある、とも明言している。

 現にカイトは地球で一度それを使われて、少しの間とは言え無力化されている。この場合は特殊な事例で封印の中の時間が遅いという状況だった為脱出したのはコンマ数秒後という結果になったが、中では地球時間で年単位で経過した、と彼が明言していた。

 これはティナ自身が同格と認める少女の創り上げた空間の中故に起きた稀有な事象であれるが、それでもティナに次ぐ魔術の実力者であれば逆に封印の中の一瞬を外での数年に偽装する事は容易いだろう。

 そして更に悪いのは、彼女が封ぜられたのが就寝中であった事だ。如何にティナと言えども義弟という立場の相手に就寝中に封ぜられては堪ったものではない。

 意識を覚醒させて状況の把握、更に封印の種類の解析、と色々とやればどうやっても外での150年は必要だった、と彼女自身が明言していた。勿論、これでも中にしてみればたった数分の出来事という物凄い技術だ。彼女自身が桁違いは桁違いの実力者と言える。


「が、そもそもあの方とティステニアは義姉弟。悲壮な覚悟こそあったが、それをカイト様が避けられていた。義理とは言え姉弟で戦うべきではない、とな」

「カイトらしいっちゃぁ、カイトらしいですね」

「ああ。だから、我らも彼の事を信頼している・・・いや、これはどうでも良いな」


 一度笑った教官役だが、笑ってここらは関係のある話ではなかった、と首を振る。そうして、彼は続けた。


「そうしてその最終決戦。カイト様はお師匠様である武蔵殿に影武者を頼まれて、全ての人員をそちらに配置。一人戦場を大きく迂回して、敵陣最後方へと潜入。その後、単騎で襲撃した、というわけだ」

「ユリィちゃんはどうだったんですか?」

「勿論、彼女も本陣に連れて行く事はなかった。本当に正真正銘単独だ」


 教官役が明言する。たった一人。だからこそ誰にも気付かれないでティステニアの所へとたどり着けたのだろう。この二人の戦闘だ。誰も支援が出来ないし、勿論それを勝機と見て取ってそれに合わせて連合軍も一斉に攻勢を掛けた。援護も無理だっただろう。


「とは言え、戦闘を長引かせては被害が広がる、と危惧されたらしい。その時にただ一度だけ使われたのが、<<龍神憑依ドラゴン・インストール>>だった・・・時折、君たちもカイト様の後ろに龍を幻視しないか?」

「ええ・・・時々、ですけど・・・」


 桜が同意するし、ソラも頷いていた。カイトが感情が高ぶった時、多くの者が彼の背に龍を幻視する。それは誰しもが抱いている幻影かもしれないが、それにしては妙に多かった。


「蒼の龍。それが、彼の身に舞い降りた。その神々しさは凄まじい。先程の会議での戦闘の神々しさもとてつもない物ではあったが、こちらもすごかった・・・ん、んん。すまない。少し興奮したな。とは言え、それを降ろされたのだ。そうして生まれたのが、我々の<<龍人転化ドラゴニック・ドライブ>>とも全く違う<<龍神憑依ドラゴン・インストール>>という技術だった。我々にも詳しい技術としての話はわからない。もしかしたら、日本の龍にある特殊な力なのでは、と思っただけだ」


 どうやら自分達でも理解出来ない技術だったが故に、これが地球の龍達独特の力なのでは、と思ったようだ。確かに、星に応じて龍の力に差が出ない可能性はゼロではない。なら、その推測も可能なのだろう。


「それを発動させたカイト様は、たった数発でティステニアを撃破された。まぁ、実際には数度の物凄い高威力の一撃必殺とも言える一撃の応酬の果て、ではあるのだがね。で、最後にはカイト様が一撃を決めて、というわけだ」


 教官役が当時の話を語り終える。どうやら、これはカイトにとっての瞬の<<雷炎武(らいえんぶ)>>に近い物なのだろう。

 ちなみに、これを証拠としてティナはカイトの方が圧倒的に上なのだ、と言っている。如何に彼女でもティステニアを瞬殺は難しいらしい。それを打ち合いの上にたった数発で沈めた彼は確かに格上だろう。さらに言えば、それでも遺言が残せるぐらいの原型は留めていたのだ。どれほどの実力者だったのかは、想像に難くはない。


「が、勿論これは永きに渡る修行の果てだろう。カイト様とて、ユスティーナ様の所で永く苦しい修行をされている」

「そりゃ、そうですね」


 教官役の言葉にソラも同意する。そもそも、カイトとて無数の修練を繰り返したのだ。その果ての力であるのが道理であって、ぽん、と出来るわけがない。というわけで、教官役は実は先程からずっと手に持っていた二つの魔道具を二人に渡した。


「というわけで、これを使って修行しろ、としか言えん」

「はぁ・・・」


 二人に手渡されたのは、龍の鱗で作られたらしい篭手だ。右腕用の一つしかない。ソラは水色で、桜の物は桜色だった。そうしてなんの迷いもなく、ソラがそれを手に嵌めてみた。


「あ、馬鹿!」

「ぐっ!?」

「はぁ・・・不用意にはめる奴がいるか」


 唐突にしかめっ面をしたソラを見て、教官役が慌てて手から篭手を引っこ抜く。ちなみに、ソラがこんな事をしたのはこれが修行に使う為の物だから安全だ、と判断したからだ。まさかこんな事になるとは彼も想定していないだろう。スイッチの様な物があると思っていたのである。


「な、なんなんすか今の・・・」

「はぁ・・・これは常に魔力を吸収する物だ。安易に腕に付けると、ああなる。それで龍の力だけを出す訓練をするのが、この篭手だ」

「フィルターの様な物、ですか?」

「ああ、君は見れていたか。そうだな。そう言う考えで良い」


 どうやら桜は魔糸の訓練をしているからか細かい魔力の流れが見える様になっていたらしい。薄っすらとだがソラの嵌めた篭手の指先から何時ものソラの魔力とは違う系統の魔力――彼女曰く、自分に近しい気配、との事――が流れていた事に気付いたのである。


「それで、これを使って龍の因子に起因する魔力だけを出せる様になるわけだ。因子の活性化は感覚的にやっていくかしかない。なので、これを使って感覚的に練習していくわけだが・・・気をつけろ。これは君がやっている魔糸の訓練の魔道具とは違い、お遊びの物ではない」

「は、はい・・・あ、どもです」


 ソラは照れくさそうに小さく頭を下げて、どこか眦を怒らせる教官役から篭手を返してもらう。説明前にやったソラに少しおかんむりのようだ。


「やり方は特に難しいわけではない。その篭手は龍の力に依らない魔力を吸収して、龍の力による魔力を透過させる物だ。まずは意識して手から出る魔力を切り、ゆっくりと龍の魔力だけを出す方法を感覚的に学べ。それだけだ」

「はぁ・・・」


 そう言われたソラは今度は少しおっかなびっくりという具合で右手に篭手を身に着ける。勿論、今度は言われた通りに腕から出る魔力を完全に切って、だ。

 先程はこれを怠った結果、腕から一気に魔力を吸い取られていたのであった。どうやらこれは意図的に引き出させる事情もあるらしく、篭手側が強引に魔力を吸い出してやっているらしい。感覚を掴ませる事が目的なのだ。これはしょうが無い事情だろう。


「・・・っ」

「ははは。まぁ、まずは繊細な操作を学んでから、だな。その点、君は大丈夫だろう」

「はぁ・・・とりあえずやり方は魔糸と一緒、という所でしょうか・・・」


 桜は教官役の促しを受けて、篭手を嵌めてみる。勿論彼女も魔力は切っている。そうして、魔糸と同じ感覚で小さく魔力を篭手に通そうとして、一気に引っ張られる様な感覚を得た。


「っ」

「まぁ、それが初心者か。そのまま、練習を続けると良い。後はカイト様にも頼んで見てもらうのが、一番の近道だろう。もし機会があれば、ウチの若造共にも協力を頼んでみるのも良い」

「ありがとうございます」


 桜が慌てて魔力を切ったのを見て、教官役が笑ってアドバイスを送る。初心者が始めから満足のできる結果を出せるわけがない。結局これも魔糸と同じく何度も何度も繰り返さないといけないのだ。そうして、桜達はこの日から自らの血に眠る力を使いこなす為の訓練を並行して行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第868話『閑話』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ