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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第48章 次への布石編

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第866話 龍の血

 魅衣とカイトがカナンの事を話し合いながらも巫山戯あった翌日。その日には大半の依頼が終わっていた為、ソラと桜はカイトと共に里長の所へとやって来ていた。


「あぁ、それで・・・お二人には龍の気配が」

「ああ。こっちの女の子はオレの本家筋の子でな」

「本家筋・・・変な言い方ですな」


 里長がクスクスと笑う。彼はカイトが誰かはわからないまでも、龍のコアを移植されている事は知っている。カイトが龍族を説得する時にエリアスの事と含めて、一部の詳細を明かしたからだ。

 勿論、幾つかの所はぼかしているし、排他的な龍族であればこそ語った事だ。現に里長もエイリークも誰にも漏らす事はないだろう。龍族の誇りに誓って、この事は語るつもりはなかった。


「言ってくれるな・・・が、血統としてはこの二人の方が濃い事はわかるだろう?」

「そうですな・・・ええ、たしかに、お二人の方が血としては濃さそうだ」


 里長は残るカイトの右部分の気配から、たしかに桜達の方が色濃く龍族の血が流れている事を理解する。元来カイトは末端も末端だ。本家筋や分家筋の中でも圧倒的に上の桜やソラには血筋の意味では遠く及ばない。


「それで、こっちのは良いんだが、実は一度桜の方を見てもらいたくてな。何龍かとわかれば、それで修行の方向性を決める事が出来る。逆説的に言えばそれがわからないと方向性も決められないからな」

「ふむ・・・」


 カイトの申し出を受けて、里長が目を閉じて魔術的に桜を観察する。流石龍族の長で、伊達に千年以上も生きているわけではないらしい。年齢故に体力的な衰えこそあるものの、逆に魔力的な感覚は鋭敏になっているらしい。同族に限定されるが、同族限定であれば多少はその者の特質を見分けられるのであった。


「・・・ふむ・・・これは・・・」


 里長は桜を見ながら、少しだけ驚いた様な表情を浮かべる。そうして少し何度か眉を動かした。どうやら、少し訝しんでいる様子だ。そうして暫くして、彼は目を開いた。


「ふむ・・・おそらく、という所までは見切れたのですが・・・これ以上となると、より正確な調査をすべきかと存じます」

「頼めるか?」

「はい・・・では、少々お待ち下さい」


 カイトの依頼を受けて、里長は従者を引き連れてどこかへと移動する。と、そうして移動した所で、桜が問いかけた。


「何かあったんですか?」

「んー、いや、そんな不安になる事じゃない。特殊な龍の血が混じってるんだ。で、桜はその可能性がある、と言うところだろ」


 少し不安を覗かせた桜に対して、カイトは笑う。別に何か問題があった、というわけではない。彼女の父は祖先帰りであるが、それ故かどこか遠くの特殊な龍の血が発露していたのだろう。


「特殊な龍?」

「ああ。ソラの水龍、風龍、火龍なんかはまぁ、変な言い方だがある種一般的な龍だ。が、例えばオレの無龍なんかは逆に稀だな。何も持たない、というのは逆に珍しいらしい。大抵何かを持ち合わせているからな」

「へー・・・血液型で言うO型みたいなもんか・・・」

「まぁ、少し語弊はあるが・・・そうだな。本来O型というのは何も抗A抗体・抗B抗体を持たない血液型・・・つまり0型というのが由来だとも言う。更に前はC型だったらしいが・・・いや、これはどうでも良いか。とは言え、それと同じで無龍というのは属性という因子を持たない龍、というわけだ。血液型として言えば、ゼロ龍というわけだな。流石に8種も属性があり、そのどれも持たないのだから珍しくて当然だろう」


 そう言えばするりと流していたが、とソラが納得した様に頷く。この世には8種類も属性が存在しているのだ。であれば、この世の多数派はこのどれかを持ち合わせるか、そのどれも持ち合わせないか、の二種類に限定されるだろう。

 勿論、これは龍という種族が個体として色々な共通点を持ち合わせる種族、という前提に則った物だ。そうでないのなら、一概には言えなくなる。が、この場合は種族としての共通点が多いので、この前提に則った話をして良いだろう。

 そしてこの世は先の例で言えば前者であった、というわけだ。なら、逆にカイトの様に何も持ち合わせない龍が珍しくなるのは普通だった。


「とは言え、桜の場合は違うだろう」

「違うんですか?」

「ああ。無龍というのはある意味、特例的にゼロなだけだ。何も無い事が特徴という特徴だ。であれば、他にも特殊な例・・・そうだな、例えば風水龍の様に二種類の属性を持ち合わせている龍が居たりもする」

「風水龍?」

「風と水の二属性に長けた龍、というわけだ」


 ソラの問いかけにカイトが風と水を生み出して告げる。別に一種類しか属性を持ち合わせてはいけない、とは誰も言っていない。ならば、二属性、更には三属性を持ち合わせた龍が居ても不思議はないだろう。


「他にも火属性と風属性で緋翠龍と言ったり、更に珍しい所では三種類の光・火・雷で雷天龍、基本四属性全複合の桜花龍、上位と複合四属性複合で黄龍なんかがいる」

「三種類に四種類・・・なぁ、全部、って居ないのか?」

「全龍だな。全てを持つ無龍の逆。それを、全龍と言う」


 ソラの問いかけを受けて、カイトはそれも一応は居る、と明言する。が、それにカイトが笑いながら首を振った。


「まぁ、滅多に生まれん。三属性でも十分に珍しい領域だ。四属性ともなると、ただでさえ母数の少ない龍族の中でも本当に数十万人に一人の領域だな。で、そんな中で全ての属性を持ち合わせているのは本当に珍しいんだ」

「まぁ、そりゃそうだわな・・・」


 カイトの言うことはソラにもするりと入ってきた。そもそも属性を混ぜ合わせるのは魔術でも困難とされる領域だ。幾ら龍族だから、と言ってもそれが簡単なわけがない。そして、下手に属性が過多になれば魔術的な身体のバランスも崩れてしまう。

 そう言う意味で言えば全てを持つというのはバランスが取れている様に思えるが、逆に多いが故にバランスが取れていない。過ぎたるは及ばざるが如し、と言う。多すぎると逆に身体に悪影響を与えてしまうのだ。そうしてそれを思って、ソラが試しに問いかけてみた。


「どんなぐらい珍しいんだ?」

「そうだな・・・大体文明史において一人か二人、というレベルかな・・・」

「それ、何年に一度とかいうレベルじゃねーのな・・・」


 ソラが頬を引き攣らせる。百年に一度とか千年に一度とか言うレベルではないらしい。下手をすると文明の開祖とかそういうクラスになりそうだった。そして現にそうだった。


「前回歴史上出たとされてるのは確か・・・あぁ、マルス帝国の建国の祖、開闢帝の最側近だったとされる伝説的な剣士・無空(むくう)だな。このエネシス大陸では歴史上最強の一人では、と言われる剣士だ。開祖ルーファウス、聖騎士ルクス、剣姫クオンと常に比較される一人だな」

「そのレベルかよ・・・」

「他にも3000年前に実在したとされる双子大陸の伝説的な魔術師であるゼヘク、1500年前のアニエス大陸神聖王国ラエリアが開祖・神聖王シャマナ・シャマナもそうだった、と言われている。が、ぶっちゃけどこまで本当なのやら、という所だ。前者は色々と伝わる逸話から可能性は低くはないが、後者の神聖王は一般には別種ではないか、というのが通説だ」

「全員伝説ね・・・」


 そりゃそうか、とソラは納得しつつもため息を吐いた。ちなみに、なぜ神聖王が別とされるのか、というとシャーナ女王やシャリクを見ればわかるだろう。

 あそこの王家を王家たらしめる特殊な力が全龍の力とはまた別、精神系に属する力だからだ。が、別にあの力は全龍の力とは相反しない。全龍の力が強すぎて、その結果普段は至れないはずの更に上の大精霊の力にまで届いてしまった、という可能性はあった。なので間違いではない可能性も十分にある。

 勿論、そこらが分かるのは更に上の視点を持ち合わせるカイトだけだ。なので真相はカイトしかわからない、という所だろう。そしてカイトも神聖王とは会った事がない。わからなかった。と、そんな解説を終えた所で、再び里長が帰って来た。


「おまたせ致しました」

「来たか・・・あぁ、それか」

「えぇ・・・古いですが、これが一番我々には確かなので・・・」


 里長が持ってきた――正確には従者に持ってこさせた――のは、少し大きめの水晶だった。それも真新しい物ではなく台座はかなり古そうな木で出来ていて、水晶そのものにもかなり細かな傷が入っていた。


「それは?」

「<<龍の水晶>>というまぁ、ある種の判別する為の道具、とお考えください。龍の属性を判別する為の道具、という所でしょうか」


 桜の問いかけを受けて、里長は水晶の上に手を乗せる。すると、水晶は水色に光り輝いた。


「『青龍の里』の長だから、というわけではないですが・・・私は水龍ですので」

「って、ことは俺も水色か・・・試してみて良いですか?」

「ええ、どうぞ」


 里長はソラの申し出を受けて、乗せていた手をどけてソラに場を譲る。そうしてそれを受けてソラが手を乗せると、水晶玉はやはり水色に光り輝いた。


「ええ、やはり水龍の様子ですね」

「へー・・・」


 触ってみた所、水晶玉は普通の様子だった。なので下の台座の方に仕掛けがあるのだろう。聞けば水晶玉は所謂導線に近い物で、魔力を下の台座に伝える為の物らしい。

 色さえ露わにしてくれればそれで良いので、割れない限り変える必要もないので使いまわしているそうだ。聞けばこれは500年近く使い続けている安物、との事だった。そうしてソラが納得した所で、カイトが桜にやるように示した。


「ん」

「はぁ・・・」


 カイトの申し出を受けて、桜が水晶に手を乗せる。すると、今度は光るではなくまるで舞い散る花びらの様にひらひらと光が水晶の中で舞い散った。光の色は桜色。下から吹き出て、まるで桜の花びらが舞い上げられている様だった。


「ほぅ・・・」

「桜花龍か」


 里長とカイトが感心する。どうやら、里長もカイトも想定はしていたらしい。それ故、珍しいにも関わらずさほど驚いてはいなかった。


「やはり、来て正解だった。すまん、里長。悪いが彼女の為の練習道具も譲ってもらえないか? 流石に桜花龍と言うか複合属性の龍となると訓練用の道具は一般には出回らん。そもそもそちらしか作らない。桜花龍ともなれば、ワンオフになるしな」

「かしこまりました。お帰りまでには、ご用意致しましょう」

「わかっていたんですか?」


 大して驚いた様子も無いカイトへと、桜が問いかける。珍しいと先ほど自分で言いながら、驚いていないのだ。そちらの方が珍しいだろう。


「実は桜達の開祖となる異族は、この桜花龍だ。父親が祖先帰りで、見たところ桜は魔術の適正も満遍なく存在していた。なら、その可能性もあるかな、とはな」

「ご先祖様、ですか・・・?」

「ああ・・・ああ、そう言えば殆ど語らなかったか。<<富士桜の姫(ふじざくらのひめ)>>。そう呼ばれるお方だ。古くは神武天皇より直々に、霊峰富士の鎮守を頼まれている方だな。御殿場泥流(ごてんばでいりゅう)は知っているか?」

「3000年程前に起きたとされる富士山の噴火、ですね」

「ああ。それによって起きた岩雪崩、御殿場岩なだれの跡地に結界を張り、直接富士山を霊的に鎮守されているのが、その姫様というわけだ」


 桜の返答に、カイトが頷いて更に解説を続ける。御殿場泥流が起きたとされるのは今より3000年前だ。そこから更に今の富士山の山頂部が出来たとされるのが、御殿場岩なだれの話だ。それが大体今より2900年~2500年前頃とされている。神武天皇が世に出たのが今より2600年前だとすると、話としては辻褄が合う。


「富士山は元々霊的な意味でも強い意味合いを持つ地球でも有数の土地だ。鎮守を頼むのは無理もない話だ。地脈龍脈の集積地でもあるからな。龍族としても過ごしやすい。それ故か、今も若い方だ」

「ほぅ・・・そんな方がいらっしゃったのですか」

「ああ・・・オレの開祖にもなるな」


 驚いた様子の里長にカイトが頷く。ほぼ不老に近い龍族でも、2000年以上も生きているのはかなり稀だ。大抵戦争で死ぬか、精神的な影響、病的な要因で死ぬ。不老であっても不死ではないのだ。

 が、彼女は富士の霊峰という立地があったが故か今もぴんぴんしている、との事だ。更には外界から途絶された地であった事もあり精神的な意味でも時の流れは緩く、精神的に老いる事も殆どなかった。そこらが影響して、今の見た目はカイト達――と言っても本来の方――とさほど変わらないらしい。


「で、まぁ実のところ。桜には彼女の匂いが僅かにあってな。あ、匂いっつっても気配とかそういう意味でな。そうじゃないかな、とは思ってた」


 カイトは笑いながら、もしかしたら程度には思っていた、と明言する。本当にそれだけだ。とは言え、その程度とは言えやはり想定していた、というのと想定していなかった、というのでは違う。驚かなかったのだろう。


「そうなんですか・・・」

「そういうこと。帰ったら、桜は一度お目通りしないといけないだろう相手だな。富士山の山頂、更に隠れた一角にある神社ってかお屋敷に祀られている御神体兼神様にも近い方だ・・・ま、その程度しかオレも知らん」


 カイトとて知らない事はある。如何に彼とて地球でもエネフィアでも一組織の長程度でしかない。それで全知全能でもない彼が知れる事には限りがあった。


「とは言え、珍しい事は珍しい。彼女だって生まれは5000年近く前だ。ヒメちゃんと一緒の里で暮らした、なんつー話だからな。なんで、流石にオレもこの桜花龍の為の練習用道具は無い。こっちで練習用の道具貰って、だな。流石にこれだけはもらわない事にはどうにもならん」


 どうやら、桜を連れてきたのにはきちんとわけがあったらしい。そもそもこの推測を立てていたのであれば、そうもなるのだろう。そうして、桜とソラの龍族としての力の練習道具をもらう事にして、龍の血に纏わる話は終わるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第867話『龍の血の力』

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