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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第48章 次への布石編

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第864話 若衆との戦い

 ソラ達とミントとの戦いは、<<龍神転化(りゅうじんてんか)>>を使用したミントの圧勝という形で幕を下ろした。というわけで、カイトは気絶した瞬を起こし満足に立てなくなったソラに回復薬をぶっかけて桜をお姫様抱っこで抱えて、更に一同に邪魔にならない様に移動する様に指示した。


「ま、そこそこにやるようにはなっただろ」


 これが、カイトの感想だった。連携にしても中々のもので、瞬の槍がもし炎属性ではなければ更に一歩踏み込めていた可能性もあった。

 まぁ、ここらの相性の問題はどこまで行っても付き纏う。カイトでもティナでも未だに難儀する――無属性を使わなければの話だが――問題だ。今回の様に敵に有利に働く事もあれば、また何時か別の時にはこちらに有利に働く可能性もあった。これは不運だった、と嘆くだけで不満を述べるべきではないだろう。


「ティナー! こっち、おっけー!」

「うむ・・・では、余の出番じゃな」


 カイトの言葉を受けて、左手に魔導書を携えたティナが立ち上がる。どうやら今回は何時もの杖ではなく、正真正銘遠距離のみを考える魔術師として戦うつもりなのだろう。

 超高位の魔導書は謂わば魔術式が無数に記された一種の魔道具だ。知恵を与えてくれるだけではなく、時を経て魔力を蓄え続けることにより、時には意思を持ちその意思が杖と同じようなブースターにもなる。彼女の持っている魔導書もそんな一冊だった。


「ふむ・・・では、並ぶが良い」


 ティナは空中に腰掛けて、足を組む。その姿は妖艶で、魔女にして魔王である、と高らかに謳い上げるかの様だった。そんなティナの前に、里の若衆30名が修練場に降り立った。


「まさか・・・それでやられるおつもりか?」

「はんっ。この程度で構わんよ。どれ、勝利条件を定めるとしよう。お主らは余をこの姿勢から動かせれば良し。全滅すれば負けじゃ。簡単じゃな。馬鹿でも分かるルールじゃ」


 龍族の若者の一人の問いかけに対して、ティナは傲然と告げる。それには強者の貫禄があった。が、これは高をくくった等ではない。

 正真正銘、彼女は強者としてこれで十分なのだ。これからカイト麾下として『死魔将(しましょう)』達と戦おうとする若者に対してさえ、彼女はこれで十分なのである。


「・・・」


 そんなティナに対して、『伝説』を『伝説』としか知らない若者達は少しだけむっとなる。彼らとて相手が格上である事ぐらいはわかっている。が、これはあまりにも傲慢すぎる。ティナ風に言うと、舐めプだ。それも超舐めプだ。誇り高き龍の、それも血気盛んな若者達が腹を立てるのも当然だろう。

 ちなみに、勿論ティナのこれは腹を立たせる為だけの演技だ。驕り高ぶっているのであれば、その鼻っ面を折る為にも少しの手配が必要なのである。


「・・・後悔は、しませんな?」

「はんっ。それどころか、お主らが逃げんかった事を後悔せんか余は不安じゃな」


 ティナは龍の若者の中でも特に中心に立ち力の強そうな若者――里長のひ孫――に対して、傲然と、それでいて艶然と嘲笑う。その姿はさっさとかかって来いと言わんばかりだった。

 とは言え、ティナの言うことはもっともだ。そもそも驕っていなければ、ティナに戦いを挑もうとはしない。彼女に勝てるのは、両手の指で十分だ。そうでもないのに勝てると思っているからこそ、挑むのだ。この時点で驕っていないという指摘は無理だろう。


「っ・・・<<龍人転化ドラゴニック・ドライブ>>!」


 里長のひ孫が龍人へと姿を変える。そしてそれをきっかけとして、他の龍族の青年達も一斉に龍人へと姿を変えた。どうやら、全員高位の龍としての力を兼ね備えているらしい。


「ほう・・・驕るだけの事はあるのう」


 そんな30名の集団を前に、ティナが密かにほくそ笑む。このぐらいであれば、十分に自分達の下で戦っていけるだろう。が、それはあくまでも、ランクAまでの常識的な魔物を相手にするのなら邪魔にならない、という程度だ。その上、ランクSの様々な意味で超常的な魔物は相手に出来ない。なのでティナは現実を突きつける事にする。


「・・・」


 じりっ、と龍族の若者達が無言で間合いを測る。相手は格上。しかしこちらは相手を封殺可能な程に数が居て、そして魔術師を相手にする上で致命的となる距離も近い。

 ティナを相手に遮二無二突撃する愚を犯す程、彼らも驕り高ぶっているわけではないらしい。が、だからなんなのだ。それを、ティナは言わねばならなかった。


「・・・は?」


 間合いを測り、全員がうなずき合いこれからだという瞬間。誰かが頷いたと同時に、両者の距離は限りなく遠くなっていた。そうして困惑する龍族の若者達の横を、巨大なレーザーの様な光条が通り過ぎていった。


「おっと。的が小さいからのう・・・ついうっかり外れてしもうた。やれやれ・・・ここ当分数を相手にしとったから、少し照準がズレたかのう」

「な・・・」


 ティナの言葉に龍族の若者たちは総じて絶句して、二の句が継げなくなる。明らかに、嘘だった。ティナはやろうとすれば、今の一撃で一斉に壊滅させる事が出来た。だが、情けを掛けてそれをしなかったのだ。


「ほれ、どうした。後悔せんな、ではなかったのか?」


 ティナが嘲笑う。先程まで、龍族の若者達は流石に圧勝は無理だろうが勝てる、と踏んでいた。両者の距離は近く、そして数は圧倒的。更には高位の龍族にしか出来ない<<龍人転化ドラゴニック・ドライブ>>も出来るのだ。

 色々と勘案の上の話にはなるが、並であればランクSの魔物であっても一体程度なら余裕で討伐してしまうだろう。それを知っていればこそ、彼らは驕るのだ。先程までティナが見せていた強者故の傲慢であった。


「はぁ・・・何呆けておる。来ぬのなら、こちらから行くかのう。いや、もう行った後じゃがな」


 ティナは唖然となり身動きを取れない龍族の若者達に対して、一方的に告げる。そもそも、ティナは初手で<<異界化>>という秘術を打った。その時点で彼らには全ての想定が狂っていたのである。


「どれ・・・『レメゲトン』よ。出力をあげよ」

『了解だ、我が主』


 ティナの求めを受けて、魔導書が声を返す。魔導書はその性質故に魔力を溜め込みやすい。そしてそれ故、付喪神に成りやすい。ティナの持つこの魔導書もその例に漏れず、というわけだ。

 ちなみに、『レメゲトン』とは『ゲーティア』とも訳される魔導書の一冊だ。地球のソロモン王という魔術に秀でた王様が書き記した魔導書だった。それを、ティナは手に入れていたのである。

 ちなみに、宿っているのはどうやらそのソロモン王とやらが万が一に備えて与えておいた人工的な付喪神、もしくは使い魔の様な存在だ。なので純粋な意味では、付喪神とは違う。人工精霊と言っても良いかもしれない。


「では、行くかのう」


 ティナはそう言うと、空中に無数の魔法陣を展開する。それらは大半が模様が違う魔法陣だった。これら全てが、別の魔術だった。


「ざっと100種程展開したが・・・さて、避けねば痛いでは済まぬぞ」


 ティナの言葉に龍族の若者達が顔を青ざめる。容赦が無い。そしてこの戦いは、彼らがティナに攻撃を当てられるか己らの全滅以外には、道がない。


「い、行くぞ! 兎にも角にも近付かねばなぶり殺しだ!」


 輝き始めたティナの魔法陣を見て、里長のひ孫が号令を下す。幸い、両者の距離は離れたと言っても龍族であれば一息にたどり着ける程度の距離だ。なので若者達は一斉に、ティナの方をめがけて地面を蹴った。が、その動作をそのままにしておくほど、彼女は甘くはない。


「ほれほれ、さっさとせねば消し炭になるぞ」


 ティナはそう言うと、魔法陣から無数の魔術を放出させていく。とは言え、速度は速いものの直線的なだけの攻撃なら、龍族の若者達ならば避ける事は容易かった。そしてそれどころか、少しすれば数歩先に降り注いだ魔術の属性を見抜いて、突っ込む事さえ出来る様になった。


「龍を舐めるな!」

「うぉおおお!」


 雄叫びを上げて、速度を更に上げた龍族の若者達が一斉に突っ込んでくる。どうやら、数手先まで見切れたらしい。さすが龍族と褒めそやされる腕前だろう。が、その動作こそがティナの望んだ行動だ、というのに彼らは気付けなかった。


「ぐっ!」

「ぐぁ!」

「何!?」

「ふんっ、馬鹿者が。同じ魔術を連射している事そのものが誘いじゃと気付かんか」


 頭上から降り注いだ別属性の魔術を受けて、何人もの龍族の若者達が地面に倒れて、そのまま気絶させられる。そうして気絶すれば、問答無用で行動不能な様に氷漬け――そう見えるだけで実際には時が緩やかになっているだけ――だった。


「ま、まさか・・・これら全てを逐一操っているのか・・・?」


 頭上に浮かぶ魔法陣の数は、数えるだけでに嫌になる程だ。それは常人ならばまず全ての操作なぞ不可能な領域だった。だからこそ、若者たちは突っ込んだ。

 全ては単独のルーチンに従って動くだけの一種の障害にすぎない、と思ったからだ。まさかランダムに属性が変わってくるとは思いもよらなかったのだ。たったひとつでも、それだけで桁違いに難度が上がってしまう。

 勿論、それが彼女の全力なわけがない。これ以上、それこそこの停止している魔法陣を全て動かしてみせる事さえ、出来るのだ。まぁ、流石にここではそんな事はしなかったらしい。

 そこまで行けば『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の訓練になってしまうらしい。若造である彼らには無理である事が理解出来ていたので、するだけ無駄、とやらない事にしていたようだ。


「っ! だがまだだ! この程度、何時何処に降り注ぐかわかっていれば通り抜けられる!」


 里長のひ孫が声を張り上げる。それは道理だ。一直線に進めないだけで、先程と同じように回避しながらであれば、進めるのだ。10人程がやられたが、勝利条件が簡単な分まだなんとかなる。と、思うのは早計だろう。再び進み始めた半数程の生き残りの若者達に対して、ティナが笑っていた。


「馬鹿じゃのう・・・そこまで速度が落ちた時点で狙ってくださいと言うておるもんじゃろうに」

『少々厳しすぎんか?』

「はっ。この程度で呆れてものう」


 レメゲトンの言葉に、ティナが楽しげに笑う。この程度、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の入隊試験程度にしかなっていない。これが超えられて初めて、今の部隊に入隊出来るだろう。


「まず第一に、なぁに敵の手に乗せられておるのやら。阿呆か、あやつら。余はあやつらの土俵に乗りたくないが故に異界化して、距離を取った。馬鹿正直に突っ込むなぞ馬鹿ではあるまいに」

『いや、それ以前に・・・』


 レメゲトンが苦笑する様な気配を見せる。それに、ティナも笑った。


「だから、阿呆なんじゃろう。敵の手に乗せられまくりおって・・・直情馬鹿、猪武者。その誹りは免れまいな」

『やれやれ・・・我の主は何時も魔王のお手本の様に悪辣じゃな』


 レメゲトンがティナの方策に笑う。魔術師と言うか魔王らしいと言えば、魔王らしい。今の主と仰ぐには最適、とレメゲトンはティナの事を認めていた。と、そうして少しの雑談をした後、ティナは右手で銃の形を作った。


「さて、この程度で良いかのう・・・ばぁん」


 口で銃声を真似たと同時。その指の指し示す方向に居た若者が地面に倒れる。


「・・・何?」

「何が起きた!?」

「わからん!?」


 唐突に起きた謎の事態に、龍族の若者達が混乱する。が、そんな事でティナが待ってくれるわけがなかった。


「さて、じゃ、次じゃな。ばん!」

「何!?」

「何も起きていないはずだぞ!?」


 ティナの声に合わせて倒れる仲間に、龍の若者達が混乱を更に深めていく。ちなみに、何をしているかというと、身体に密着させた地点を起点として魔術を発生させているだけだ。

 謂わば、ゼロ距離魔術とでも言えば良い。身を守る障壁をスルーした挙句動き回る敵の動きを予測して、という超絶の技巧が必要になる。それ故に両者の間に圧倒的な実力差が無ければ出来ない事だった。

 そしてこれであれば障壁を無視しているため、低威力でも敵を倒す事は容易い。そして低威力故に周囲に気付かれず倒すのも容易い。とは言え、勿論難しいのでこんな事を出来るのはやはりティナか、その薫陶を受けた者達ぐらいだろう。


「ほれほれ! さっさとせねば全滅するだけじゃぞ! ばぁんばぁん!」

『楽しそうじゃのう・・・』


 楽しげにティナは照準代わりに指を指し示していく。楽しげにやっているが普通の魔術師ならおそらく額から汗を流す様な作業だ。明らかに別格だった。そうしてそんな精密射撃により、龍族の若者はついに、里長のひ孫ただ一人になっていた。


「くっ・・・」


 顔には悔しさが滲み、奥歯を今にも砕かん程に噛み締めていた。為す術もなく、一方的に全滅させられてしまったのだ。誇り高き龍である彼らにとって、これほどの屈辱はなかった。


「せめて、一撃でも! おぉおおおお!」


 彼は一つ吼えると、龍人の姿から巨大な龍の姿へと変える。単純な出力であれば、龍の姿の方が高いらしい。相打ちを覚悟で何が何でも一撃を決めるつもりなのだろう。

 大きさはおよそ30メートル程。形は西洋の龍と考えて良い。鱗の色は緑色だ。そうして、彼は降り注ぐ魔術の砲撃に耐えながら、大きく息を吸った。


『がぁああああ!』


 ティナの砲撃に耐えながらも、里長のひ孫は全力の<<龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)>>を放つ。


『・・・な・・・に・・・?』


 里長のひ孫が呆然となる。放たれた<<龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)>>は無数の砲撃を薙ぎ払い、ティナへと肉薄した。が、そうして彼女に触れた瞬間、ティナの姿がまるで煙の様に消えたのだ。と、それを見てようやく、魅衣がカイトへと問いかけた。


「ねぇ・・・なんであいつら全員・・・ティナちゃんと逆の方向に向かってんの?」

「ああ、そりゃ、簡単だ・・・全員、幻を見せられているからな。異界化の時点で、あいつらは幻影も一緒に見せられていたのさ」


 カイトが笑う。実のところ、外から見ていた全員が始めから疑問だった。なぜ、龍族の若者達はティナとは全く逆方向に突き進んでいたのか、と。とどのつまり龍族の若者達は最初から全員幻を見せられていたのである。


「愚か者が! 勝てぬとわかっておる相手にハンデを貰い、この程度ならば勝てると安易に判断を下すではない! ハンデはしてもらう物! それを与えられた時はほぼほぼ勝てぬと理解せよ!」


 里長のひ孫に対して後ろからティナが怒声を飛ばし、同時に返礼とばかりに極太の魔力の光条を放った。


「ふん・・・馬鹿者が。この程度に対処出来んで余に挑もうとするでないわ。これに懲りたら、今後は余に戦おうなぞと思うでない。余に挑む。その時点で驕っとる。余はそもそもカイトが現れるまでは近接なぞ一つも覚えとらん。魔術一つで、近づく魔物やら敵やらの全てと戦ってきたんじゃからな」


 最後の一人を気絶させて、王者の風格を伴ったティナが異界化を終わらせる。魔術を封じる様な状況にさえ、彼女は魔術で応対してきたのだ。この程度が出来ないわけがない。

 そもそも魔術封じとて所詮は魔術的な原理がある魔術による物だ。であれば、解析して上回る事が出来ないはずがない。それが困難故に出来ない様に見えるだけだ。

 道理の通じない相手。それが、本来のティナだ。カイト以外には打ち倒せず、カイト以外に負けるつもりもない。それが、ティナという元世界最強の存在だった。こうして、ティナは龍族の若者達に対して一切寄せ付ける事さえなく圧勝してみせたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第865話『家族を想う』

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