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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第48章 次への布石編

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第860話 龍の怒り

 高所での生存率を上げる為の手段を教えられたソラ達はとりあえず、魔導書のある書庫へと足を伸ばしていた。ちなみに、本来は魔導書のある書庫そのものが隠されているらしいのだが、今回は時間も無いので先んじてティナが開けていてくれていた。なお、魔導書のある書庫が隠されているだけで、普通の書庫は普通に存在している。


「ということで、じゃ。ここがその魔術の記されておる書庫じゃな」


 書庫に入ると同時に、ティナが語る。そこはこじんまりとした空間で、本棚が一つあるだけだった。その本棚にしても本はさほど入っておらず、ハードカバーよりも一回り大きく辞書程度の厚さのある本が20冊入っている程度だった。


「ま、今回必要なのはこれじゃな・・・あとは・・・これじゃ」


 ティナは本棚を見繕い、二冊の魔導書を取り出す。それはどちらもこの本棚に並ぶ本の中でも比較的薄めの本だった。


「他は?」

「他はブラフじゃ。魔導書だけがこんなにズラリと並ぶはずもあるまい。幾ら余でもそんな馬鹿はせんよ。魔導書の取り扱いは厳重に。こんな所に置いておくのはそもそも、これが防衛にしか使えぬが故にじゃ。これらを極めた所で人体置換等というて攻撃には使えぬよ」


 楓からの問いかけに、ティナが苦笑する。どうやら楓は魔術師として、少し興味があったようだ。が、それ以前の問題として、ティナはどうやらここには今回の事に関係の無い物は置いていないらしい。なぜ彼女が、というとここの本棚を作ったのは300年前の彼女だからだ。

 そもそもこの訓練を考えついたのも彼女である。と言っても勿論、その当時は身一つで飛ぶ事を考えていただけで、まさか今は飛翔機の為に使われるとは思っていなかった様子だが。


「本来は、どれが魔導書かというのも含めて見極める訓練も含めて一ヶ月程度掛けてやるもんなんじゃがのう・・・ほれ。これを回し見して、内容を習得せよ」


 そう言ってティナは楓とその横に居た桜へと魔導書を投げ渡す。この中だとこの二人が魔術に対する適正が高い。後は二人が習得して魅衣に練習してもらいつつノウハウをマスターして貰えば、後はソラ達でも使える様になるだろう。


「と、いうわけで、じゃ。今日一日はそれで良い。他はそこから学べ」


 ティナがそう告げる。そうして、ソラ達はそこから環境に適応する為の魔術を習得すべく、行動を開始するのだった。ちなみに、アル達はその間に精神鍛錬の一環で山の尾根に行き精神鍛錬を行わされるとの事で、彼らも彼らで活動を開始するのだった。




 さて、そうして行動を開始したわけだが、原理そのものは非常に簡単だった。


「つまり、何処か絶対に安全な場所を指定してやって、そこの空気と置換するわけか」

「設定する間隔はおおよそ身体から10センチ程度。そこの空気を常に置換」

「でも、実際に置換するのは口回りだけ、と・・・」

「更に空気で層を作る事で熱を遮断・・・二酸化炭素は足の方へ移動させて、定期的にこれも置換・・・」


 一同は呟きつつ、どうすべきかをマスターしていく。基本的には空気を遮断して確保するだけで良いらしい。その上で、呼吸さえ出来れば良いので実際に定期的に置換するのは口周りだけになるそうだ。それぐらいならば、定期的に極所の空気と入れ替えた所で影響は小さい。


「それで・・・」

「じゃあ、これはこうすれば良いわけね?」

「うむ、そうじゃな。これは基本的には・・・」


 こちらにはティナとユリィが付いて、訓練状況の確認を行っていた。それに対してカイトは、というとアルとリィルと共に、周囲の山の中でも一番高い山の更に一番高い所にやってきていた。


「集中、解くなよ。集中解いたらその時点でぶっすりと行っちまうぞー」

「「・・・」」


 カイトの目の前では、山の山頂に片足で立つ二人の姿があった。その下には、槍の切っ先の様に尖った岩があるだけだ。里の若衆達が訓練で使う精神鍛錬用――正確には魔力の一点集中用――の為の場所を借りて、魔力の集中を行わせていたのである。


「足の裏に感じる一点を意識しろ。一点だけに防御を集中しろ」


 カイトが告げる。こちらは既に空気の置換程度ならば習得した後だ。その上でこちらに付いてきたのは、更なるレベルアップの為だ。その為に、この精神鍛錬を含めた魔力の更なる一点化を学びに来たのである。


「魔力放出で姿勢を保とうとするな。足に溜める魔力を固めて、しっかりと固定しろ。更に身体を固定しろ。しっかりと魔力を固定する。そうすれば、更に防御力が上がる」


 カイトが告げる。魔力は意思の力。であれば、魔力を固める事も可能だった。そうして、各々の活動を続けること、5時間程。日が随分と傾いた頃に今日の活動は終了となった。


「良し、これまで。お前らは帰っていいぞ」

「あれ? カイトはどうするの?」

「オレは長の所へ行く。今回そもそも修行しに来たのはお前らだけだぞ?」


 アルの問いかけにカイトが笑いながら里の中でも比較的大きな家――里長の家――を指差す。この後会談が開かれる事になっていた。それを、アルも思い出したらしい。照れくさそうに笑って感謝した。


「あ、そっか・・・ごめん。手伝ってくれて」

「いや、構わんさ・・・じゃあな。あ、風呂は温泉あるから好きにしろー」

「うん」

「ありがとうございました」


 アルとリィルの感謝を聞きつつカイトはその場を後にして、里長の家へと向かう。そうして扉を叩くと、即座に家人が出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。長は応接室でお待ちしております」

「ああ、すまない」


 カイトは家人の案内を受けつつ、二階にある応接室へと通される。そこには家人の他に、エイリアの父、他の龍の里からの使者達も一緒だった。そうして、エイリアの父が頭を下げた。


「カイト様。お久しぶりでございます」

「ああ・・・っと、立つ必要はない。各里の使者達もそのままで結構。流石にこちらの立場上、時間はさほど無いからな」


 エイリアの父に続けて挨拶をしようとした使者達に、カイトが手でそのままで良い事を告げる。そうして、カイトが上座に座ると同時に早速本題に入る事にした。


「さて・・・まぁ、あまり良い話ではない事は既に把握している事だろう。エクシーア殿にも、少し辛い話になってしまう。まずは、そこを覚悟して欲しい」


 カイトはエイリアの父――エクシーア――に対して、これから告げる事に対しての念押しを告げる。流石にショックが大きいかもしれないが、それでも告げぬわけにはいかない内容だ。ワンクッション置く事は重要だろう。

 そうして、カイトは各里の使者達と『青龍の里』の里長、エクシーアの顔を窺い、全員が覚悟をしたのを見て懐から写真を一枚取り出した。


「・・・これを、見てもらいたい」

「それは・・・?」


 全員が首をかしげる。実のところ、エリアスの姿については誰も見たことがない。エリアスという龍族の青年は戦乱で逸れてしまい実の妹であるエイリアや実の父であるエクシーア、更には『青龍の里』の里長でさえ、青年期の彼の姿は見たことがなかったのだ。


「・・・エリアスの遺体だ」

「なっ・・・」


 全ての者達が、絶句する。そして、エクシーアも何故自分に辛い話なのか、と理解した。


「これは、一体・・・」

「わからない」

「わからない?」


 カイトその人が持ってきたのにわからない、とはどういうことか、と一同が首を傾げる。


「実はこれは道化師・・・『道化の死魔将(どうけのしましょう)』が持ち込んだ物だ」

「なっ・・・それを信じられたのですか!?」

「ああ・・・が、勿論何の確証も無しとは言わん」


 一瞬色めき立つ使者達だったが、カイトの続く言葉にそれはそうか、と早計だった事に気付いた。そうして、カイトは自分が『冥界の森』で確認してきた事を告げる。


「おそらく、エリアスの方も遺骸を手に入れたんだろう。葬られた場所については、誰も知らないわけではない。今大急ぎで確認をさせているが、おそらくは・・・」

「・・・まさか、そんな事が・・・」

「可能であるのなら、超高位の龍族の仕業という可能性も・・・」

「おいおい。身内の仕業は有りえんだろう。流石に疑心暗鬼を生ず様な事は言うな」


 確かに高位の龍族であれば成層圏とまではいかなくても超高度にまで上昇して、森に入る事は不可能では無いかもしれない。しれないが、それは無いだろう、とカイトが苦笑する。

 危険過ぎるし、龍族達のやることではない。彼らは誇り高い。年を取れば年をとる程、誇り高くなっていく。そして龍族達はエリアスの事を知っている。その誇りに掛けて、ここに単独で突入できる様な龍族達ではその誇りに掛けて出来ないだろう。


「では、何処とお考えを?」

「『組織』・・・おそらく、ここが絡んできていると睨んでいる」

「『組織』・・・」


 ただ、『組織』とだけ語られる組織。それはこのエネフィアにおいては、ただひとつしか存在していない。それ故、誰しもがこれがどれなのかを理解していた。そうして、カイトがその理由を解説した。


「『組織』がなぜ『人材』を創り続けているかというのは推測でしかなかったが、これがもし死者蘇生という禁忌に手を出しているから、とするのなら辻褄が合う。更にはこちらよりも進んだ技術を持ち合わせている可能性も俄に指摘されていてな。不可能では無い可能性がある」


 現時点では推測だが、旭姫らの言葉を鑑みれば『組織』はカイト達に比類するレベルの技術を持ち合わせている可能性がある。それを考えて考察すると、超高空からの直接潜入は不可能ではない。

 『冥界の森』に痕跡が残っていない事が気にはなるが、それとて超大型の飛空艇を持ち合わせていると仮定すれば辻褄は合う。現代での飛空艇でも大気圏脱出と防御だけに絞れば、大気圏外へ離脱して帰る事は可能だ。今の飛空艇はそんな事をする意味が無いので誰も考えないが、それに特化する事を考えて製造をして何度か試験を行っているのなら、不可能ではないだろう。

 それでも勿論かなり博打になるが、博打で良いのだろう。手に入れられれば良し。手に入れられねばそれはそれで仕方がない。もしかしたら、大気圏外への離脱に対する技術試験も兼ねていたのかもしれない。そこらは、『組織』に所属していない彼らにはわからないことだった。


「それで、その上での頼みだ。おそらく、暫くはこのまま放置せざるを得ない。そこを貴殿らに理解してもらいたい」

「「「・・・」」」


 カイトからの申し出に、一同が沈黙しつつも、エクシーアを窺い見る。カイトもなんだかんだ言っていたが、最終的には彼の意見をなるべく尊重するつもりだ。そうして、一同の視線を受けたエクシーアが、口を開いた。


「・・・カイト様。一つ、伺いたい事がございます」

「なんだ? 答えれる事であれば、答えよう」

「・・・我が子の遺骸・・・それは取り戻せますか?」

「勿論だ。そのつもりで動くし、見過ごせ、というのも先の件を合わせての話だ。確実に、返してもらう。その為にまずは今も実験に使われているであろう『彼』の遺骸を取り戻し、手がかりを掴むつもりだ」


 エクシーアの問いかけに、カイトはそこを再度念押ししておく。先程も念押ししたが、そこについては本心からそのつもりだ。己の身体は二の次だ。全ての悲劇の発端となったエリアスを取り戻す事が、あの戦い全てに決着をつける事に繋がる。そこは、彼の本心からの想いだった。


「今度こそ、きちんと葬りたい。彼は犠牲者だ・・・少し早くなるが、青龍の長よ。御山に彼の為の墓を作ってやってほしい。かつては粉微塵になり、回収出来る状況でもなかったと聞く。折角どこぞの馬鹿が彼の遺体を復元してくれているのだ。こんどはしっかり、誇りある青龍の子として葬ってやりたいと思っている」

「おぉ・・・有難うございます。何時持ち帰られて良いように、明日にでも用意させましょう」


 青龍の長がカイトに対して頭を下げる。やはり里の子だったのだ。一族として繋がりの強い里の長の顔には、深い感謝が滲んでいた。そうしてそのやり取りを見て、エクシーアが心を決めたようだ。


「・・・お願いします、カイト様。何卒、我が子の・・・数度しかこの手に抱けなかった我が子の遺骸を取り戻してください」

「元より、そのつもりだ」


 エクシーアに対して、カイトは再度念を押す。そうしてそれを受けて、使者達がカイトに申し出た。


「カイト様。我らからもお願いが」

「言わなくとも、理解している。貴殿らの無念、この手に引き受けよう。その上で、貴殿らにも助力も頼む」

「ありがたきお言葉」


 言わずとも理解してくれているカイトに、使者達が頭を下げる。だからこそ、彼らはカイトに絶対の恭順を示すのだ。なお、何を言いたかったのか、というと彼らも仇討ちに参加させてくれ、という事だった。

 群れとしての意識の強い獣人達に対して、龍族は各々が誇り高いが故に、種族としての横の意識が強かったのである。それ故に堕落したりすると一気に嫌われるが、その分、同じく誇り高い龍達については喩え血の繋がりがなかろうと身内意識が働くらしい。

 特に今回は特に不当に貶められた龍の子の遺骸を何らの実験に使われるという二重の意味での冒涜だ。エクシーアの手前言葉は発しなかったが、流石に彼らも黙ってはいられなかったのだろう。そして、カイトが口を開いた。


「敵は広大なこのエネシア大陸の何処かで動いている。それ故に各里には待機しておいてもらいたい。一応、表向き若衆はこちらへと派遣してくれ。しかし、各里の古い戦士達には待機を依頼したい。どんな異変でも良い。僅かな痕跡も見逃さず、報告してもらいたい。龍族の里は総じて、地脈の集積地にある。今回の一件、全てをオレの手でけじめを取らせるつもりだが・・・どうしても、耳が足りない。そこの協力は頼まれてくれるか」

「「「御意」」」


 カイトからの申し出に、龍の使者達が応ずる。彼らは『龍』という種族そのものに喧嘩を売ったのだ。ならば、彼らは『龍』という種族として喧嘩を買うだけだ。

 こうして、カイトは龍族の者達に情報収集をしてもらう事にして、この翌日には密かに、使者達は『青龍の里』を後にして、各里では密かに、厳戒態勢が取られる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第861話『花薬草』

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