表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第48章 次への布石編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

877/3950

第857話 山間部にて

 龍族達の暮らす里である『青龍の里』へ向かう事に決めたカイト達だが、そこで全員が気付いた。どうやって行くのか、と。が、これは大した問題ではなく、そもそもカイトが知らないはずがなかった。


「まぁ、ぶっちゃけると馬車で数日の所にある」

「え?」

「今までそんなの知らなかったぞ?」


 瞬が驚いた様に問いかける。龍族達の自治区がそんな近くにあるとは思いもよらないし、それならなぜ今まで知らなかったのか、と疑問に思ったのだ。が、逆にカイトから言わせれば、なぜ気付かないのだ、と思ったらしい。


「いや、なぜ気付かん。ミレイ言ってただろ。龍族なんかの高位種族からの依頼を受ける為に冒険者達は実力を蓄えてマクスウェルに戻ってくる、って」

「ああ・・・それが?」

「なんでマクスウェルなのさ」

「・・・ああ、そういうことか・・・」


 カイトからの指摘を受けて、大半がはっとなった。なぜ、わざわざマクスウェルから出て行った冒険者がマクスウェルに戻ってくるのか。それは勿論一番は依頼が多いから、という話であるが、その依頼が集まる理由は人が多いからだ。

 とは言え、ここで一つ疑問が出る。人が多いからといって龍族の依頼がマクスウェルに来るのか、という疑問だ。そして来るのであれば、答えは必然一つしかない。というわけで、ソラがそれを指摘する。


「自治区から一番近いデカイ街がマクスウェルなのか」

「そういうこと。馬車で数日なら、竜車ならほぼ一日の距離、龍族達からすれば飛べばひとっ飛びの距離だ。それに最悪クズハ達もここで起居している。となると、ここで依頼を出すのが一番手っ取り早いし確実だし、彼らが信頼している者達とのアポイントも取りやすい。となると、腕を証明したりしたくて龍達からの依頼を受けたいのであれば、マクスウェルに戻ってくるのが一番確実だ、というわけだ。龍族は横のつながりも影響力もデカイからな。どこかの里が依頼を受けさせた事がある、というだけでかなり優遇される」


 理解した全員に向けて、敢えてカイトは解説を行っておく。ここらはきちんと解説しておいて悪い話ではない。というより、移動中なので時間は有り余っている。暇つぶしも兼ねていた。


「というわけで、普通に竜を使えば明日の昼には到着する。山越えもなんとかなる竜を捕獲したしな」


 カイトは御者代わりのゴーレムの先を見る。馬車ならば、数日なのだ。竜を使う竜車であれば、更に早く到着するのは当然だろう。

 というわけで、カイトは移動の日数などを考えて、マクスウェルを出て少しした所で竜を捕獲していた。馬車は神王シャムロックから貰ったもので、少し手間だったが一時期的に魔術で動かしていた。緊急時には馬も竜も使えなくなる可能性があるので、本当に万が一の場合には魔力で動く様になっていたのである。

 捕獲した竜は荷を引くだけであれば、ほぼ無調練でもなんとかなる。後々で学園で飼育すれば十分に使えるようにもなるし、その調練の一端も含めていた。


「山・・・そう言えば東に山があったっけ・・・」


 ぼけー、とアルが進行方向を確認しつつ呟く。一応有名な山はジーマ山脈他幾つもあるが、そう言う有名な山以外にも山は幾つも存在している。

 伊達にアラスカと同じぐらいの広さではない。活火山も死火山も文字通り山ほど存在していた。その中でも2000~3000メートル級の山が幾つか連なった一種の山脈に近い場所が、東にはあったのだ。

 更にデカイジーマ山脈に隠れて有名ではないが、2000~3000メートル級ともなるとそれなりに厳しい場所ではあるだろう。と、そんなアルを横目に、カイトの解説は更に続いていた。


「山の山間部にちょっとした平地があってな。そこを中心とした半径50キロ程が、龍族の自治区だ。まぁ、一種の隠れ里の様な物と考えれば良い」

「そんな所で良かったのか?」


 聞いた感じ陸の孤島の様相で色々と不便そうだ、と思った瞬が問いかける。大戦期での龍族の活躍は結構な物で、それがそんな不便な場所で良かったのか、と思ったらしい。


「不便、か?」

「ああ・・・」

「まぁ、そりゃ、物の考え方の差だな。あそこは実はマクダウェル領の中でも有数の地脈と龍脈の集積地でな。龍達なんかの高位の種族にとっては、一番快適な場所なんだ。彼らからしてみればこっちで過ごすよりも遥かに自分たちの肌にあった生活が出来る。傷を負っても治りも早い。それに、龍達だ。多少遠かろうと变化すれば一息にマクスウェル程度なら往復出来る距離だ。不便さは無いさ。基本、自給自足だしな」

「それに、龍族はどちらかと言うと外からの者を嫌う。ウチ以外のエルフ達ほど排他的というわけではないが、あまり見ず知らずの者を好む事はせん。見下してはおらんのじゃがのう」


 カイトの続けて、ティナが何処か眠そうに補足を入れる。不便だからこそ良い、という事だ。不便であるということは裏返せば往来が少ないということで、その分外からの人も来にくいのだ。他所者嫌いであれば、確かに絶好の立地条件だろう。


「お、起きたのか」

「うむ・・・一週間ぶりにぐっすりと寝たわ・・・が、やはりまだ眠いのう・・・」


 こてん、とティナは眠そうにカイトにもたれ掛かる。どうやら正常は判断が出来ていないらしい。


「おっと・・・はぁ・・・」

「あはは・・・」


 すぅすぅと寝息を立て始めたティナにカイトが苦笑して、それに釣られて一同も苦笑を滲ませる。実はティナを連れてきた理由はここにあった。

 ここ当分忙しなくやれ人工衛星だやれ飛空艇開発だやれレインガルドのオーバーホールの計画だ、と動いていて、彼女は殆ど寝ていない。なので一度眠ってまた眠ったと言うところだろう。

 念のために言えば激務故に寝ていないのではなく、マッド・サイエンティストにありがちな集中していたが故に寝食を忘れて、という類の話だ。なので休ませる為にも連れ出した、というわけであった。


「はぁ・・・まぁ、このままにしておいてやるか。っと、そういうわけだ。不便である事が良い、という奴らも居る。一概には語れんさ」

「へー・・・」


 結局は、種族に応じて様々なのだろう。そうして、それらを聞きながら、一同はそのままその次の日には龍族の自治区へと到着するのだった。




 龍族の自治区に入ってから、数時間。カイト達は山岳地帯に入っていた。そうしてそれも少しした所で周囲の確認をするか、と出て来たソラが顔を顰めた。


「っ・・・」

「気候制御出来ないなら、術符使っておけ」

「わり」


 カイトから投げ渡された札を手に、ソラがそれを鎧の首元にある専用のポケットの内側へと仕込む。気圧が低く違和感を感じたらしい。なお、この術符は基本原理は彼がオーア達ドワーフの里で使った物と変わりはない。

 首元に忍ばせたのは、これが呼吸を補佐する為の物だからだ。そうして、そんな彼は御者席に腰掛けるカイトの横に腰掛けた。


「・・・ふぅ。なんか多分、楽になった。今どの辺?」

「大体標高2500メートルという所だな。そろそろ、高山病が心配になる領域だ。大分涼しくなってきただろう?」

「ああ・・・」


 カイトの問いかけに、ソラが少しだけ身震いする。この山は感覚としては富士山だと思えば良い。地上はだいたい37℃ぐらいであったが、山の上は20℃を少し超えた程度しかなかった。


「後どれ位なんだ?」

「後200メートル登る、って所だな・・・あそこ、見えるか?」


 ソラの問いかけを受けたカイトは、進路上の山の一角を指差す。そこはまるで少し削り取られたかの様に、窪んでいた。見ようによっては道にも見える――そもそも『青龍の里』への正規の道は無いらしい――が、こちらが坂の下である事もあって詳しくはソラにはわからなかった。


「なんか窪んでんな。洞窟って感じか?」

「あそこから、入れる。まぁ、一応舗装されて居る道もあるっちゃあるんだが、迂回しないといけないからな。今回は、直通の裏道を通る事にした」

「門番とか居ないのか?」

「居ない。龍の血を引いている者にしか、道は見えないからな・・・ということで、後は桜だけだろうな、見えるのは」


 カイト、ソラ、桜の三人は天道家に連なる者達だ。それ故、彼らは血筋として龍の血を引いている。カイトはその点龍のコアも移植されているので本来的にはかなり純粋な龍に近いが、そうでなくても父が祖先帰りの桜は確実に見えるだろう。

 ソラはどの程度かはカイトにもわからなかったが、どうやら見える程度には、因子が活性化しているようだ。と、そんな話をしている所に、魔物の嘶きが聞こえてきた。

 それに、二人は嘶きの聞こえてきた方向を見る。どうやら少し高度があがった事で飛んでいる魔物に発見されやすかったのだろう。更にはこの山は木々の生い茂った山ではなく、岩肌がむき出しになった山だ。見晴らしも良いが、それは同時に向こうからも見えやすいということだ。こちらに一直線だった。


「・・・はぁ。戦闘開始か。ソラ、中へ行って戦闘準備させろ」

「おう。とりあえず由利に牽制頼んどくわ」

「ああ、そうしておけ。ここでの戦闘だ。おそらく増援が来るぞ」

「わかった」


 カイトの言葉にソラが頷いて、馬車の中に戻っていく。その間にカイトは御者席に備え付けられている馬車を守る為の結界を展開する装置を起動させる。と、その間に由利が飛び出てきて、屋根の上から弓で牽制を始めていた。


「カイト! 5時の方角! 下から上がってくる!」

「あいよ」


 由利の言葉に、カイトが馬車から飛び降りる。停止まで今暫く存在しているが、カイトの脚力ならば問題は無い。そもそも彼は何処へ向かえば良いかも知っている。置いて行かれても問題はない。そうして、カイトは一人魔物の嘶きを聞いて敵に気付いて駆け上がってくる狼の様な魔物の群れに一人、突撃する。


「面倒だな」


 カイトは群れの数を数えて、面倒だ、と結論付ける。ここらは地脈と龍脈の交わるポイントだ。謂わば水場と考えれば良い。水場には動物が集まるように、地脈と龍脈が交わるポイントには魔物が集まるのである。それ故、魔物の強さもそれなりに強く、そして数も多かった。が、不運な事にどうやらそれなりに大きな群れに遭遇してしまったようだ。


「仕方がない。一部は抜かれるというか抜かせておくか・・・こっちで一部食い尽くす! そっちは馬車の側で戦え!」


 カイトは後ろで停車した馬車の中へと連絡を送る。やろうとすれば自分一人でどうにでもなるが、それではソラ達の意味が無い。なので一部を抜かせて、高所での戦い方を学ばせるつもりだった。 


「ソラは自分の重さで足取られんなよ! ここらは足場悪いぞ! 先輩は槍投げるなら、傾斜ある事忘れるな! 魅衣と楓は何時もみたく氷属性で速度落としてやるなら、周囲の気温と気圧が低い事に気をつけろ!」

「おーう!」


 カイトの指示と言うかアドバイスを受けて、ソラが返事を返す。勿論、他の面々にも聞こえていた。そして当然、その場にはティナも一緒だ。彼女が最悪の場合にはバックアップをしてくれている。不安は無い。


「さて、行くか」


 カイトは自らの後ろに、自らの魔力で編んだ無数の剣を突き立てる。即席の壁だ。と言っても長さは群れ全体を食い止められる程ではなく、ソラ達の修練に必要となる程度は通り抜けれる様にしておいた。

 群れは後ろに馬車がある事にも気付いているので、側面の3割程度が逸れて馬車を狙う様に動いていく。カイトはこれを追わないで、目の前で己を標的と定めた魔物と剣の壁を飛び越えるつもりの魔物だけを相手にすることにした。と、それに合わせるかの様に、ユリィがカイトの肩に舞い降りた。


「さて、ユリィ。ダンスのご用意は?」

「あいさ。何時でもどうぞ」

「良し。じゃあ、行くか」

「うん!」


 カイトはシャルの神器である大鎌をくるくると回して、見得を切る。武器は切り替えて戦うつもりだが、初手は範囲が広いので鎌で戦うつもりらしい。


「はぁ!」


 カイトは近付いてくる群れを薙ぎ払う様に、鎌を横薙ぎに一閃させる。斬撃は魔力で放たれる飛ぶ斬撃となり、飛び越えられなかった魔物達を両断した。そうして、それを回避する為にジャンプした魔物達に対して、ユリィが大型化して双銃を構えた。


「ホイホイホイ、っと!」


 ジャンプで浮かび上がった魔物に対して、ユリィが正確に一匹一匹吹き飛ばしていく。今回は手数を重視したいので、威力はさほどではない。押し戻せればそれで良しだし、それで倒せればなお良しだ。が、それだけなので倒す事は考えていない。

 そうして吹き飛ばされた狼型の魔物は一部当たりどころが悪く魔弾で倒されたが、生き残った魔物達は空中で器用に回転して、着地して勢いを殺す。が、それこそがユリィの狙いであり、カイトの狙いだ。


「素早さが売りのワンちゃんが足とめちゃ、駄目でしょうが」


 こちらの狙い通りに勢いを殺した狼型の魔物たちに対して、カイトが笑う。その手には何もないが、上空には、無数の剣やら槍が浮かんでいた。

 逐一一匹ずつ切っていくのは面倒だし、群れの範囲が広いので斬撃で斬り捨てるのも面倒だ。ならば、範囲攻撃で一掃するだけだ。

 だが、そのままでは避けられる。彼らの売りはカイトが言うように素早さだ。その俊敏性に頼れば、絨毯爆撃から逃れられる個体も居るだろう。

 となると、それを殺してやれば良い。であれば敢えて勢いを殺す様な行動を相手に取らせてやれば良いのだ。そうして勢いを殺した所に攻撃を仕掛けるだけで簡単に一掃出来る。俊敏性の高い魔物は動きが素早いが故に、その身体を覆う防備は薄い。どちらにも優れる事は出来ない。足を止めさせて直撃させれれば、弱いのだ。


「はい、終劇」


 と、カイトがそんな動きをほぼほぼ止めた魔物たちに対して、スナップ一つで武器の雨を降らせる。そうして土煙が晴れた後には、串刺しになった魔物の群れが出来上がっていた。そしてその頃には、既にユリィが用意を終えていた。


「じゃ、おまけね」


 続いて、無数の雷が雨の様に降り注ぐ。一応確実に討伐出来てはいるはずだが、万が一もある。カイトの武器を避雷針代わりにして、雷を落としたのだ。


「勝利!」

「はい、終わり」


 カイトとユリィが完全に消し飛んだ群れを背に、ハイタッチを交わし合う。カイトの魔力で編まれていた武器達は彼の力が消えた事で本来の蒼が滲んだ虹色に変わっていて、少し幻想的な雰囲気が出来ていた。そしてその次の瞬間にはカイトが顕現させていた剣の壁も消え去り、馬車の様子も見えた。


「ま、まだ終わらないか」

「だよねー。どうする?」

「観察、だろ? 何処がどう悪いかを指摘してやるのも、先輩の務めだ」

「りょーかい」


 カイトの言葉に同意して、ユリィが小型化して再び肩の上に座る。時折瞬やソラ、瑞樹が悪い足場に取られかけていたが、特段に厳しい所は見えていない。ということで、二人は安心して一同の動きを観察する事にする。


「桜は・・・うん。魔糸で敵の動きを牽制する事を選んだようだな。悪い判断じゃない」

「魅衣と楓は馬車の上からソラと瞬、由利、瑞樹の為に敵の動きを遅くする事にしたみたいだね」

「んー・・・瑞樹はやっぱり踏み込みが少し厳しそうだな」

「しっかり足を踏みしめられないからねー」


 ここらの足場は小さな石や細かい砂利だ。一同揃ってしっかり踏み込めている様子は無い。傾斜も厳しい。そこら、ソラと瑞樹はしっかり足を踏みしめるタイプの戦い方なので少しやりにくそうにしていた。

 他にも翔と瞬は傾斜がある事で、下手に<<縮地(しゅくち)>>を使ったり<<雷炎武(らいえんぶ)>>で加速してしまうと大きく地面から飛び出してしまいかねない。まだ技量が足りていない二人はそこが不安らしく、彼らの最もの利点である素早さをかなり削がれてしまっている様子だった。

 その点を受けて、桜が援護に回ったのだろう。相変わらず彼女はソツがない。しっかり、場を見て動けていた。魅衣と楓は由利の弓を考えて牽制を買って出たのはいつも通りと言えるだろう。こちらはしっかりと機能していた。


「ま、こんな所だな」


 カイトとティナは一つうなずき合い、これ以上意味は無いだろう、と判断する。何時までもこんな隠しルートの真ん前で戦えば龍族にも迷惑が掛かる。ここらで、終わりにすべき時だった。

 注意すべき点が見えれば、それで良い。戦闘中に注意すべき点の修正を掛けるなぞ物語の中の超人や本当に英雄達ずば抜けた奴らがやることで、ソラ達には夢のまた夢の作業だ。


「終わりじゃ」


 次の瞬間。無数の火球が雨のごとく降り注ぐ。勿論、ティナの魔術だ。そうして、全ての狼型の魔物は討伐される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第858話『青龍の里』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ