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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第48章 次への布石編

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第845話 和解へ向けて

 すいません、投稿前で止まっちゃってました。セッションタイムアウトしてたっぽいです。

 ティナから人工衛星の打ち上げの提案がなされて、数日後。カイトは公爵邸の研究所の方に顔を出していた。で、何故カイトがそんな所に居るかというと、一度自分の専用機を見に来い、と言われたからだ。


「これが、オレの専用機、ねぇ・・・」

「うむ。フレームだけはとりあえず緋々色金(ヒヒイロカネ)に変更した」

「フレームだけ?」

「うむ、フレームだけじゃ」


 カイトの目の前には、試作機を通じて得られたデータを流用して完成したカイト専用機の初号機が鎮座させられていた。といってもこれはティナが趣味で作った機体で、完成品ではない。

 と言うかそもそも趣味で作った物が色々あって本格的に軍事転用する事になっただけだ。というわけで、これを完成品としてしまった場合『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』技術班から文句が噴出する。どうせ趣味なら私達の趣味も乗っけて徹底的にやらせろ、というわけであった。アホらしい話である。


「ま、フレームだけなのは急遽組み上げたから、と我慢せい。そもそもここらは余が好き勝手やっとるだけじゃからのう」

「また急造品かよ・・・」

「というても、じゃ。外装は今までとは違い魔鋼鉄(オリハルコニウム)じゃ。で、ついでじゃ思うて物は試しとこの間皇国の上層部へと稟議書を通してみてのう」

「稟議書? なんの」


 また勝手に何か色々やってるよ、と思いつつ、カイトは先を促す。


「魔導機のプラント、というか量産ラインの申し出が来てのう。フレームそのものを組み上げる工場を立ち上げたいそうじゃ。で、もののついでじゃし、ウチの部隊用の魔導機も一緒に組み上げさせてもらう事にしたんじゃ。補給物資については、頻繁に届く様にした。これで整備性は上がるのう」


 ティナはモニターへと魔導機の量産計画についての計画書を展開する。それは皇国の上層部が提出してきた量産計画だ。『死魔将(しましょう)』を相手に大型魔導鎧では勝ち目はない。更に上の魔導機を持っていかねばならなかった。

 しかも相手も魔導機に似た何かを持ち合わせている可能性は非常に高いのだ。ただでさえ強大な相手に更に強大な武器。魔導機を量産でもしないと国として応戦してはいられなかった。

 とは言え、やはりこれは軍事兵器なので、量産も配備も出来て皇国だけだ。一応コクピットについては技術班で作り上げられる事が分かったのでなんとか数は出来るが、それもそれなりの数だ。精鋭部隊に向けて、となるだろう。


「ウチだけで趣味の百年計画だったのが一気に短縮されてしまう、か」

「仕方があるまい。現状は呑気に魔物対策でやってられるわけではない。既に敵の首魁とやらは動いておる。それに追いつく為には、多少強引でもやらねばならん時じゃ。その線で、クズハ達も大急ぎで予算の見直しやっとるじゃろう?」

「まぁ、国民もそれを望んでいるしな」


 カイトもティナの意見に為政者としての側面で同意する。民達は現状をよく理解していた。今の世界には勇者カイトも魔王ユスティーナも、聖騎士ルクスも賢帝ウィスタリアスも武神バランタインもいない。

 これで暴動が起きないのは先の戦いで連合軍が表向き圧勝出来た事と、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の再結成が公表されたからだ。決して高を括っているわけではないが、それでも安心感はあった。

 そしてだからこそ、どの国もどの貴族も残党討伐へ予算を注ぎ込む事にためらいは無かった。些か急ではあっても、あくまで常識の範囲での増税を行っても誰もが命の方が大事、と文句を言わなかった。

 なお増税分はほぼ全て、軍事へ回している。それほどまでに危機的状況というのが国民達にも理解出来ていたのだ。そしてその向きが一番強いのは、エンテシア皇国だった。

 伊達にこの世界で一番彼らと矛を交えた国では無い。国民が恐怖も危機感も一番持ち合わせていたのは、エンテシア皇国の国民だった。工場の立ち上げが即座に出来るのも、その為だった。官僚達の中でも上層部にはかつての恐怖が刻み込まれている者も多く、何が何でも、となりふり構わない姿勢を見せていた。


「飛空艇船団の新設、魔導機部隊の創設・・・で、これか」

「むぅ・・・それな」


 二人はカイトが持ってきた一つの報告書に目を落とした。それは、ルクセリオン教国との同盟に関する報告書だった。


「西部戦線に待機していた全騎士団は完全に撤退済み。これは西部の貴族からも報告があった・・・領土紛争になっていた部分は全部こちらの言い分を飲む、か・・・」

「更におまけに娘を人質に、のう・・・」

「「全面譲歩」」


 二人は同時に、ルクセリオン教国の方針に感想を述べる。そう。まさに、全面譲歩。一切の取り分無し。その代わりに教国が戦争をふっかけた事に対する賠償金請求等はエンテシア皇国も取り下げる事が条件になっているが、ほぼ白紙での和解の提案だった。


「確かに、ここ数年・・・いや、正確に言えば今代の教皇ユナルの治世に代わってからというもの目立った戦いは起こっておらん。筋は通ろうな」

「全て先代達の方針で、こちらも騎士団を抑えるのに手一杯だった。そこを理解してほしい。自分に元々交戦の意図は自分には無かった。だから、自分が即位してからというもの目立った戦闘も起こしてはいない、か・・・」


 教皇直筆のサインと直筆の手紙の内容を、カイトが口にする。彼らにも皇国上層部から意見を求められて、コピーでは無い実物の手紙を確認している。

 皇国の諜報員達が僅かに入手している教皇の直筆の手紙の筆跡と照らし合わせて、限りなく本物に近い、という結論も出ていた。本人が和解の意思を示している、と考えて良いだろう。

 それだけは、自分達だけでは手に負えず助力を頼んだウィルも認めていた。そこまで現状は色々と疑わしかった。なにせ同じく呼んだルクスその人が絶対に何か裏がある、と明言していたぐらいなのだ。


「・・・どういうつもりか、と疑うのは、可怪しいか?」

「可怪しくあるまい。余はおもっきし疑っとるわ」


 カイトの問いかけに、ティナが自分はもっと疑っていると明言する。恨み辛みは簡単に拭い去れるわけではない。呉越同舟というが、危機が去った後にはまたいがみ合う。それは歴史が証明している。

 そして、危機だからこそ追い落とそうとする者が居る事もまた、事実だ。状況と後先を考えなければ危機的状況程相手を潰す格好のチャンスは無い。

 が、それを現教皇に就任したユナルという男は捨て去らせた、と言ったのだ。確かに、教国の騎士達は己の恨み辛みよりも教皇の言葉を重要視する。なので騎士達に限って言えば、和解も同盟も可能といえば可能だろう。が、これはあくまで騎士に限った話だ。一般兵はその限りではない。

 まぁ、それはさておき。現に実家の遺言に従ってマクダウェル家を嫌悪しているルーファウスとて、司教の命令だから、とアルとリィルと共に戦った。可能である事は現実として示されていた。

 それが教皇の言葉であれば、それこそ遺言さえ撤回させたかもしれない。そういうある種純粋な騎士達が、宗教に属する騎士達という存在だ。


「・・・筋を通せる男、と考えるだけで良いのであれば、それで良い」

「現に素直な国民達には教皇ユナルの名はかなり好感度が高い、か・・・」


 ティナの言葉に続いて、カイトが現状にため息を吐いた。やはりどこからか、教国側からの和解の提案があった事は露呈したらしい。おそらくマスコミの内部に入り込んでいる教国のスパイからか、それとも教国に存在するルクセリオ教会の司祭か、だろう。

 宗教の自由は認めているし、きちんと審査さえ通れば別国経由で教国の神官達がエンテシア皇国に入る事は出来る。そこから匂わせた結果、も考えられた。勿論、教国とエンテシア教国を行き来する行商人達の可能性もある。こればかりは、向こうが防がない事には露呈は当然だったのだろう。


「はぁ・・・皇帝陛下も飲まないと駄目になるだろうな」

「軍上層部は煩かろうが・・・全面譲歩はこちらも同じじゃからのう」

「しゃーない。軍には現状が現状とわかっている奴も多い。どちらかと言うと、諦めが蔓延している、というのが報告だ」


 カイトはメルを通して知らされた皇国軍の現状を告げる。当然、軍部には恨み辛みが募っている。が、それでも彼らとて『死魔将(しましょう)』が敵だ、という現状は理解出来ている。一部強固な軍人の反発はあるが、趨勢としては今はそんな事を言っていられるか、というのが大勢だ。

 彼らもふっかけられた喧嘩を強制的に和解させられて悔しいが、それでも上の苦悩は理解している。皇帝レオンハルトが軍からの支持が高い事も大きい。彼の苦悩を慮って、ぐっと堪えてくれている者も少なくはなかった。そしてそんな現状に、ティナが何度目かになるため息を吐いた。


「はぁ・・・確かに、落とし所としては悪くはないのう・・・」

「悪くはない、というだけで最善とも言えない、か」

「軍としては出来れば、何かの譲歩は欲しい。失った血に贖える何かが。が、欲するべき時ではない事は誰もが理解しておる。特にこの状況で譲歩を持ち出して和解がこじれる事になれば、国民は軍にそっぽを向こうな。今はそんな事を言っていられる時か、と」

「はぁ・・・実際に戦う軍と、守られる国民の差、か・・・」


 カイトが頭を抱える。カイトは全ての心情を理解出来た。なにせ彼は日本では守られる国民であった。そしてこちらで始めは、最前線で戦う兵士だった。後には、為政者になった。そして今でも部下達に色々と泣かれながらも常に最前線で戦い続けている。

 彼はそれら全ての立場に立った稀有な存在なのだ。綺麗事や理想を語る国民の純粋な気持ちも、失った血の贖いを求める兵士達の怨嗟の声も、現実を見据えなければならない為政者達の苦悩も、彼には理解出来た。

 だからこそ、どこにも肩入れは出来なかった。あくまで、中立。どの立場も理解出来るからこそ取れる立場だった。そして権力や権威から許される立場でもある。

 ある意味、彼の立場は超法規的なのだ。民達が、兵士達が、為政者達が、彼には中立を望むのだ。謂わば、調整役なのだ。

 彼の言うことだから、と国民達は些か不満があっても納得する。彼が兵士であり自分達の最後の言葉を引き受けてくれるからこそ、兵士達は自分達の怨嗟の声を知る彼の顔を立てる。為政者達は彼の背後に居る大精霊という権威を知ればこそ、良いようには扱えない。それ故の中立だ。


「で、民にそっぽを向かれては軍はやってられない。あくまでも文民統制。志願兵は増えそうだが、同時に退役する奴も増えるな・・・」

「当分は皇帝レオンハルト周辺と西部戦線は要注意、じゃな・・・」


 唐突な和解だ。しかもお互いに納得しあっての物ではない。国民の歓迎ムードに対して、兵士達、それも西部戦線で戦っていた兵士達の間にはかなり鬱憤が溜まっている事だろう。

 となると、これを機に退役する者、感情が納得出来ないとテロ行為に及ぼうとする者も出てくるだろう。前者はまだ良い。が、問題は後者だ。当分はティナの言うとおり、皇都と西部戦線は要注意だろう。


「はぁ・・・なんで面倒事増やすんだよ、あいつら・・・」


 カイトは脳裏に響く道化師の嘲笑が今だけは、この現状をあざ笑っている様に聞こえた。嫌になるぐらいに、面倒事が山積していた。勿論、彼らとてこちらがこういう事に対処に時間を割く事を理解して、姿を露わにしたのだろう。高度な時間稼ぎだった。と、そんな所にステラが別の報告を持ってやって来た。


「主よ。少し良いか? シア殿から報告が入った」

「・・・ヤダ」

「はぁ・・・まぁ、わかるがのう・・・」

「絶対ヤダ! この時点で嫌な予感するもん! 絶対に聞きたくない! あーあーきこえなーい!」


 どうやらカイトは逃避を始めたらしい。もう既に嫌な予感しかしていなかった。が、そんな耳を塞いだカイトに対して、ティナが顎で先を促した。


「アユール枢機卿を暫くマクダウェル家に滞在させて欲しい、と」

「・・・はぁ・・・」

「ほら来た。んな予感してたんだよ・・・」


 カイトが嘆きを見せる。理由は聞くまでもなかった。ルクスの実家ヴァイスリッターは今でも一応はルクセリオ教会に属している。それは皇国でなくても有名な話だ。一応名門である以上、そこに何かの話があっても当然なのだろう。そして、カイトには他の事も見えていた。


「どーせヴァイスリッター本家の方から復縁の申し込みとかあるよ、これ」

「流石主。慧眼だな」

「ほら来たほら来た・・・伊達に賢帝とティナのタッグ仕込みじゃないんですよ、オレ様・・・うぅ・・・わかった自分が悲しい・・・」


 カイトが隅っこで体育座りをする。この状況だ。もう考えられることは限られていた。ここで教国が方針転換を見せれば、マクダウェル家は乗るしかない。元々ヴァイスリッター家の軋轢は気にかけていたのだ。と言うより気にしない方が可怪しい。

 数百年ぶりに破門を解く、となればどちらの民にとっても大々的に報ぜられる吉事になるだろう事は考える必要もない。受け入れるしかない。まぁ、これは受けてどうという事もない事ではあるが、だ。


「はぁ・・・よう向こうのヴァイスリッター家が受けたのう。あっち相当嫌いじゃろ、ウチの事を」

「さぁ・・・流石にそこまでは私もわからん」

「それもそうか」


 ステラが首を振ったのを受けて、確かに単なる連絡員にそれを問う無意味さを理解したティナは自分で考える事にする。と言っても特に考える必要もなく、教皇が大鉈を振るったのだろう、と推測出来たが。


「ま、大方調印式でマスコミの前で握手させろ、という程度じゃろうな」

「あっはは。アルもさせられるな、これ」

「笑い事か」

「笑うしかねーんだよ」


 ステラの言葉にカイトが無理して笑う。アルの名とルーファウスの名は有名だ。ルキウスも然りだが、確実に両家の騎士達はマスコミの前で握手をさせられるだろう。それが和解の象徴にもなる。


「で、聖剣の返却も持ち上がるな、これ。シアが絶対に気を揉んでいるはずだ。」

「・・・ふむ。その場合は?」

「あっはは。公爵家以上はもうわかってるよ。無理。絶対嫌、で通じる」

「だろうな。わかった。シア殿にはそう報告しておく」


 カイトからの指示を聞いて、ステラが再び消える。シアの下へと急ぎ連絡へ向かったのだ。勿論、聖剣が聞いてくれるはずがない。彼女らなら平然と返却された後に自分の足で戻ってくる。

 ここまで厄介な聖剣があって欲しくはないが、それが現実だ。しかも遊ばせておく道理はない。こちらで密かに持っておくのが最善だろう。


「はぁ・・・当分は、この対応に奔走する事になりそう、か」


 カイトがため息を吐いた。そもそも人工衛星の打ち上げだって専用機の急なロールアウトだってこの件に関わっての事だ。冒険部が遺跡の調査に今すぐに出られないのだって、そのせいだ。仕方がない。そうして、カイト達は再び人工衛星の打ち上げに対する打ち合わせに戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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