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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第48章 次への布石編

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第844話 次への手配

 男子会から、数日。当然だが男子会は三人の物であって、他の何かに影響したわけではなかった。というわけで、ソラが決心して由利に答えを告げ、そこからナナミとも付き合う事になった以外には何か変わった事はない。

 ちなみに、ソラと由利の問題だが、大揉めには発展する事はなかった。既に由利が明言した通り、彼女はソラよりも先にナナミを受け入れようとしていた。なので、翌日の夕刻。仕事が終わってフリーになった所で由利に語った所、帰って来た答えは勿論、了承だった。


「うん。それでいいよー」


 何時もの通り、軽い調子で由利が認める。その笑顔に僅かな嫉妬と、複雑な歓喜が滲んでいたのを、ソラはずっと忘れないだろう。由利とて嫉妬するのだ。それを彼も本当の意味で理解した瞬間だった。


「・・・で、良かったんですか?」

「うん?」


 そこは、カイトはソラから聞いた。とは言え、きちんと全容を把握しなければ後で揉める事になるかもしれない。というわけで、カイトはこの間の男子会の全容を、西町の酒場で聞いていた。

 酒場で話せばそれなりには周囲にも伝わる。そこから少し注意して聞いていてくれたらしくカイトが報告を受けていたのだ。


「いや・・・日本はあんまそこら辺良いとは言わない様に思ってたんですが・・・」

「ま、そこらはあいつらが考える事さ。オレ達が地球に帰った後も技術は発展して、遠からず二つの世界は近くなる。その時にはまた、別の決断をしてくる奴も出てくる・・・それに、な。それも良いんじゃないか、と思う」

「そうですか」


 酒場の店主はカイトが何かを考えているらしいので、それで良いか、と考える事にした。カイトが見ていたのは、一つのカップルの写真だ。それは、雨宮の結婚式の写真だ。カイトも招かれて出席していた。

 ここらは一介のしがない酒場の店主が考える事ではない。領主であり勇者であるカイトが考える事だろう。と、そうして少し大人な会話をしながらカイトがウィスキーを傾けて、氷の味が違う事に気付いた。


「この氷、美味いな。柔らかい味わいだ」

「ありがとうございます。ちょっと伝手で北側から仕入れたんですよ」

「北方・・・霊峰のあたりか? それとも更に北の北極圏か?」

「永久凍土ので」

「なるほど・・・こんな味がするのか・・・」


 どうやらカイトは永久凍土で採集された氷を気に入ったらしい。値段もそれなりにする品だが、カイトに認められたのであれば、目玉としても良いだろう。そう店主は見繕った。

 ちなみに、店は夜と昼で口調と言うか応対のやり方を変えているらしい。どこか大人のバーのマスター的な服装で応対にあたっていた。とは言え、数日置きに変えてるらしく粗野な酒場としての趣も残している。

 今の場合、若い彼でも髭等がマッチしていて渋めの印象を与えており女性客も多かった。どうやら女性客を取り込む為に考えた結果なのだろう。曜日限定でやっている、とは彼の言葉だった。そうして酒を傾けて、カイトは店内を流し見る。


「にしても、盛況だな」

「お陰様で」


 店主がカイトへと感謝を滲ませる。ヴァルタード帝国での事を見ればわかるが、日本の情報は滅多に外に出回らない。出回らないのだが、特例としてこの店には料理の情報等で一部教えてもらえていたのだ。

 そこから日本料理を目当てに訪れる客が何時も以上に増していたのであった。勿論、タダではなく時折こちら側の料理を天桜学園へと教える事にもしていた。交流の一つ、だろう。


「そういうわけなんで、最近また新しい娘を入れる事にしたんですよ」

「そこまで盛況か」


 カイトが少し引きつった笑みを浮かべる。人手を増やさないと回らないぐらいには、相当儲かっているのだろう。と、思ったのだがそういうわけではなさそうだった。


「いえね。実はちょっとした縁で上の宿の部屋で親戚の子を預かる事になりまして。丁度遠くの所から来たんで、新しい料理を開発する手助けになれば、と申し出てくれましてね」

「そりゃ、良いな。遠くの料理がここでも食えるのは嬉しいね・・・が、だんだんと無国籍になってきてないか?」

「あはは。それは言わないでください。元々日本料理も扱ってますけど、そこはそれ、ということで」


 カイトの言葉に応ずる様に、店主が笑う。わかってはいるのだろう。が、どうせならいっそ各地の珍しい料理を食べれる様にするのも、一つの売りだろう。

 幸い彼の料理の腕は信頼出来る。どういう地方の料理であれ、完璧にしてくれるだろう。と、いうわけでお試しの意味も込めてカイトが試食する事になった。彼は世界各地を歩いている。この間もヴァルタード帝国へと行っていたのだ。試食してもらう相手としては、悪くはない。


「へー・・・ヴァルタードの料理か」

「はい・・・昼だったらチャイも作りたい所なんですけどね」

「女性受け狙ってんな」

「まさか」


 どこか茶化す様なカイトの言葉に、店主は笑う。そうしてとりあえずカイトは少し食事を食べて、味を確認する。


「・・・香辛料、少し変えたか?」

「おわかりで?」

「こっちの奴の好みだな。本場はもう少し香辛料が強くない」

「こちらは香辛料が強いのが好みの方が多いので」

「ま、悪くないんじゃね? そこら改良して地元受けする様にするのが、料理ってもんだろ」

「ありがとうございます」


 店主はカイトの感想をしっかりと心に刻みこむ。そこから改良もあるのだ。が、これについては改良の必要も無いだろう。


「ふぅ・・・」

「お気に召した様子で」

「ああ・・・この間も実は帝国の方に行っていたからな。少し懐かしかった」

「あぁ、それでいらっしゃらなかったんで・・・」


 暫く、カイトと店主は雑談を交わし合う。


「あぁ、そうだ。暫く後にはその娘も働くので、その時は贔屓にしてやってください。今はまだ荷解きだ、必要な物の買い出しだ、と忙しいんで・・・来月の頭からシフトに入るんですよ」

「あっはは。どういう意味だよ。オレに死ねと?」

「「あははは」」


 二人は笑い合い、再びカイトは酒を適度に傾けて店を後にするのだった。





 そんなこんなな会談の翌日。カイトはいつも通りに冒険部の仕事をこなしていた。が、そんな中、冒険部の調査班というか研究班からカイトに来てほしい、という要請があった。


「地図のとりあえずの照合が終わった?」

「うむ」


 カイトの言葉を聞いて、ティナが頷いた。彼女らがレガドにて得た情報と共に先んじてマクスウェルへ帰ってから既に数週間。帰った一同はカイトが手にした地図と現代の地図の照合を行っていたのだ。

 その結果がついに出た、という所なのだろう。そういうわけなので、ティナはモニター上に表示された現在のマクスウェルの地図の横にレガドがくれた地図を表示させた。


「右が現在の地図。左が過去の地図じゃ。マクスウェル近郊に限った物じゃがな」


 レガドがくれた地図はいわゆる世界地図に近い物だった。が、それ故に大きく地殻変動が起きたりして地図が書き換わっていた部分もあり、解析に時間が掛かったらしい。

 更には現在のエネフィアに世界地図が出回っていない事も大きな障害だった。大陸の全体図も殆ど出回っていない。カイト達公爵家が密かに持つデータを照合しながら、ここがそうなのではないか、と調べていくと総当りにならざるを得なかったのだ。


「で、よ。おそらくこの山脈・・・これがジーマ山脈だと推測した。すると、更に北部にあるオーア達ドワーフ族の暮らす火山地帯が僅かに移動しておるが合致する。で、始めこの湖が気になったんじゃが・・・これはそもそもルクスの小僧が馬鹿をして出来た湖じゃからのう。これを無視して・・・」


 ティナはあまり似つかない地図をジーマ山脈を起点として一致させる。かつての二つの大戦争の影響で大きく変動している所もあるが、大まかな所はそれで合致していた。


「で、更には余が発見したマクスウェル中心部の遺跡群を照合すると・・・このように一応は合致する」

「ふむ・・・」


 ここらは流石に研究班の前で言える事ではなかったので、ティナは自分達だけの意見として持っておいたらしい。いくらなんでも自分が見付けた遺跡がここにあって、と他の学生達の前で言えるはずがない。ここらが、更に研究班全体としての結論に時間が掛かった理由でもある。

 が、これは流石に仕方がないとして諦めるしかないだろう。というわけで、実のところ結論そのものはティナの中では早々に上がっていたらしい。研究班として報告出来る様になるのが今になっただけ、というわけだそうだ。


「となると、とりあえずこの大陸の全体図としてはこれで判明したわけか」

「うむ・・・と言ってもあくまで、レガドに記されておったデータだけ、じゃがのう」


 カイトの問いかけを受けて、ティナがそれを認める。とりあえず、今分かる情報は全て合致させた。そうして、ティナはとりあえず現代の地図へと研究所の情報を反映させる。


「まぁ、ここからの話は省いて結論から言うぞ。余ら公爵家に与えられておる地図に、この研究所のデータを合致させた所、全部で20程度の研究所がこの皇国内に存在しておる事が判明した」

『いえ。そもそもあなた方がルーミアと呼ぶ文明の中心は今のマクスウェル中心に存在していました。なのでそれを中心として、発達しているのは当然です』

「うん? この声は・・・レガドか?」


 唐突に割り込んできた声に、カイトが首を傾げる。通信機から響いている様子だった。


「おぉ、そう言えば言っておらんかったのう。流石にこのままでは面倒じゃ、とレガドとのリンクを確立してのう。幸い通信システムは同期出来る様なシステムが存在しておる。というわけで、ちょいと帰って機材を整えて一度レインガルドに戻ってのう。司令部を改良してある程度の範囲であれば通信を確立出来る様にしたんじゃ」


 ティナが最近忙しいので忘れていた、と改めてカイトが不在の間の話を行う。彼女もこちらで色々な受け入れ態勢を整える傍ら、冒険部のこの調査を手伝いスランプに陥ったソラの補佐を行い、と忙しかったのだ。彼女が単独で動いた事で報告を少し忘れていても仕方がないだろう。


「うむ・・・あぁ、そうじゃ。それに関して実は一つ頼みたい事があったんじゃ」

「なんだ?」

「衛星、打ち上げたい」


 はじめ、カイトはティナの言っている事が理解出来なかった。衛星とは考えるまでもなく、人工衛星だろう。それを打ち上げたい、と言われた気がしたのだ。


「衛星ってあの人工衛星?」

「うむ。ひまわりだのと一緒じゃな」

「どして?」

「通信網の確保に決まっておろう。今後、余らは世界を股にかける事になろう。となると、通信がすぐに通ずる事は無い。が、それはどう考えても拙いじゃろ。お主も地球でも軍事に関わっとったんじゃから、わかった話じゃろう?」


 確かに、カイトもティナの言うことは分かる。カイトも地球ではどこでも一瞬で繋がるスマホや軍用無線は重宝した。カイト達が手を加えて改良もした。それ故、重要度がわかっていないはずがなかった。


「そうなってくると、中継器をそこらに置けぬエネフィアでは人工衛星を打ち上げて確保せねばなるまい。とは言え、流石に初手でぐるり一周、というのは無茶も良い所。まずは観測衛星程度で試験的に何発か打ち上げてみたい。その試験の為、じゃと思うてくれ」

「はぁ・・・予算と材料、設計図の進捗状況は?」


 ここまで必要な状況を整えられては、カイトも否やはない。とは言え、それだからといっても予算審議は兎も角材料の確保等は必要だ。というわけで、現状を問いかける事にしたようだ。


「衛星の試作機は既に完成済みじゃ。通信のリンクはそれを応用した・・・まぁ、実はレガドに長距離無線を持ち込んだのもそれ故でのう。この試験もあった数百キロで届くか、という試験じゃな」

『そういうわけで、研究所の出力を併用して一万キロ先まではラグが殆ど発生せず届く事が確定しています。が、それも私の内部に搭載されている超巨大な魔導炉の使用が前提。星全体は不可能です。とは言え、状況を鑑みてゴーレムの魔導炉の技術を提供させて頂きました』

「うむ・・・そういうわけでのう。レガドで入手したゴーレムの超小型魔導炉の技術を応用して、人工衛星の動力炉とする事に成功した。勿論、ここまで早かったのは技術班の頑張りじゃ。後で褒めよ」


 ティナとレガドが交互に状況を説明する。どうやら、古都レガドというかニムバス研究所からの技術提供があったらしい。その結果、2週間で試作機が完成する事になったのだろう。

 勿論、そもそもティナが個別に人工衛星を開発していた経緯もある。地球ではそこらの研究施設――軍関連も含めて――とも関わった事もあって、基礎的な事は知っていた。

 後は打ち上げだけになるが、ロケットの技術は流石に軍事機密だから地球では手に入れられなかったらしい。こちらの目処が立っていないわけであった。そしてそういうわけなので、と前置きしてティナが告げる。


「と、いうわけでじゃな。少し急ぎでお主の専用機の初号機をロールアウトさせるか、という運びになってのう。今オーア達が大急ぎで作業やっとる所じゃ」

「なるほど・・・つまりロケットで打ち上げが無理なら人力でやっちまえ、という・・・」

「うむ。中々に細かい作業にもなる。外からの補佐も考えれば、お主に任せるしかあるまい。まぁ、初号機も武装は整っておらんが、大気圏外での活動ぐらいは出来る。少々急場じゃが、事情が事情じゃ。仕方があるまい」


 全てを理解して嫌そうに顔を顰めたカイトに対して、ティナが特段なんの感情も見せず頷いた。高度の気温などの問題、速度の問題。その他様々な問題を人力で対処しなければならないのだ。おまけに長時間の大気圏外での作業に、大気圏を単独で離脱せねばならない、という難業もある。

 こうなってくるともうカイトとアイギスの組み合わせぐらいしか出来る者が居ない。仕方がないといえば仕方がないのであるが、軍事的にも仕方がないのでカイトの試作魔導機を修理するのではなく専用機の第一号機を大急ぎでロールアウトさせてしまおう、となったのだろう。


「まぁ、頼む」

「はぁ・・・あいよ」


 これはカイトも応ずるしかなかった。なので嫌そうにしながらも、単独大気圏離脱を受け入れる。そうしてとりあえずの横道を終えて、本題に入る事にした。


「で、結局どの遺跡から調査するんだ?」

「それはまだ未定じゃ。現状、貴族達も『死魔将(しましょう)』対策に忙しい。動けんし、動いてももらえんじゃろう。なので当分はどれが一番良さそうか、とレガドと打ち合わせをしつつ、じゃろうな」

「りょーかい。じゃあ、それが決まったらまた言ってくれ。部隊の編成を行う」

「うむ」


 カイトの言葉にティナが応ずる。とりあえず地図の照合が終わった、と言う報告だったのだろう。それで良いし、こちらから聞く前に報告を入れてくれるのは有り難い。

 発破を掛ける必要がないし、周囲にきちんと通知を行う事が出来る。そうして、とりあえず後はティナに任せる事にして、カイトはその場を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第845話『和解へ向けて』

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