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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第47章 過去より蘇りし者編

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第839話 閑話 ――凄惨な過去――

 さて、じゃあ続きを語りましょうか。まぁ、これは比較的今に近い過去の話よ。具体的には、ティナとルイスと出会う数個前の過去世。最後の悲劇で、私が人類を憎む事になった過去世。

 結論から言うと、私はボロボロになりながらも耐えていた。辛かったし、何度も悲鳴を上げた。変化といえば、段々とカイトを殺してから私が死ぬまでの日が短くなっていったぐらい。でも、決して彼以外の男を望んだ事だけはない。決してこの身を一度たりとも他の男に触らせた事はない。

 ああ、そういえば。実は何時も殺し合っていた、というわけじゃない。世界もそのままでは私達・・・ううん。私が耐えられない事は理解していたらしい。

 最後にカイトを殺す結末は変えられなくても、時々恋人一歩手前か恋人になれる事はあった。『私達』はそれをボーナスタイムと言っていた。そして、その時もその一度だった。

 あ、勿論殺したくて殺したわけじゃないわよ。その世界の事情としてどうしても仕方がなく、よ。その後はカイトを殺したのを知って、いつも通り衰弱死か病死。そこは変わらない。


「では、ここに! 勇者カイトと我が娘ヒメアの婚姻を認め祝福せん!」

「「「わぁああああ!」」」


 その時のお父様の声が、王城から響き渡った。目の前には、山ほどの民達。全員、私達の婚約を祝福してくれていた。

 この国の危機を幾度となく救った勇者と、この国どころかこの大陸で一番美しいと言われる王女の婚姻。まさに、ハッピーエンド。そしてその中には、現世に転生した他の幼馴染達も一緒だった。

 まぁ、実は。ボーナスタイムの時は全員揃う。カイトも私の側で幼馴染として居てくれる。だから、ボーナスタイムって呼んでるわけね。一番私が望む展開だから。

 と言っても勿論、結婚なんて出来た事はない。本来私に贖罪は必要無い。だから、恋人となれるのは頑張った私に対するご褒美。カイトはその裏で、様々な事情に耐え続ける。なので結婚はおあずけ。でも、この時。遂に私達は結婚出来た。


「・・・」

「・・・」


 白いウェデングドレスを着た私に、白いタキシードを着たカイト。満面の笑みで囃し立てながら祝福してくれる幼馴染達。ああ、私が望んだ結末。

 ようやく贖罪が終わったのだ、と魂の奥底から安堵した。そうして、ようやく。億では足りない程に待ち焦がれたカイトの唇が、私に触れた。

 ファーストキス。今までどんな過去世でも経験していない経験。唇が触れるだけでこれほど幸せなのだ、と初めて知った。


「・・・あ・・・れ・・・?」


 唇が離れて、私の目からは涙が溢れ出た。嬉しい。魂が全て、歓喜していた。ずっと、ずっと。夫婦になる事を恋い焦がれていた。この時の為だけに、私は辛い思いに耐え続けてきた。それが、報われた。そう、思った。


「えーっと・・・嫌・・・だったか?」

「ううん・・・ううん・・・嬉しいの・・・なんでこんなにうれしいのかわからないぐらいに、嬉しい・・・」


 この時の私の気持ちは、言葉では言い表せない。どんな詩人でも無理。理解出来ないし、出来るはずがない。それほどに嬉しかった。

 この時のお父様は本当に人格者で、孤児だったカイトを引き取って近衛兵として取り立てて、そして遂には婚約者として認めてくれた。勿論、色々な幸運もあった。

 カイトではない『魔王』が何度か攻めて来て、カイトが魔王を討伐したりして『勇者』として褒めそやされたる事になったり、レックス達が兄弟国の次期王様だったりして後押ししてくれた事なんかもある。

 まぁ、ちょっと恥ずかしいけど。実はカイトに去勢の話が持ち上がった時には、結構暴走したりもした。近衛兵とか言うけど、実は私専属の執事みたいなものだった。

 私の寝室は彼の隣。と言うか、彼の部屋を通らないと来れない仕組み。そりゃ、これで同年代の男を王女の側に置く以上、去勢の一つもしようと思うわよね。何をしたか? 聞かないで。

 この時の私の性格は素直じゃなかったけど、カイトが夜這いにくれば思いっきり受け入れるつもりだった。と言うか、ウェルカム状態。毎日お風呂は欠かさない。香水も下着も気合入れてた。

 でも、カイトは孤児だった事や身分の差なんかを気にして、一度も来てはくれなかった。お父様もそれを理解して、カイトの去勢は撤回させた。実はカイトが一番最後まで抵抗したけど、私が睨んだら何故か言わなくなった。皆少し怯えている様子だったけど、結局今もどうしてかは聞けてない。

 あぁ、話がズレたわね。とりあえず、そんなこんなでこの時の私は幸せの絶頂期だった。そう。絶頂期。ここが、一番頂点。つまりは。


「っ!」

「何事か!」


 民達が集まる頭上に、巨大な穴が出来た。空間の穴。そこから、魔物達が山ほど溢れ出た。起きたのは、大パニック。当然よね。いきなりの魔物の大群。でも、お父様のたった一言で静まり返った。


「静まれぇい! 慌てるではない! 忘れたか! 我が今、誰を我が子として迎え入れたかを!」

「「「っ!」」」


 皆の視線が、カイトへと集まる。勇者カイト。二度も魔王を滅ぼしたこの国の生ける伝説。そして今は遂に王女と結ばれた次期国王。これはまさに、彼の王道を決定付ける好機ではないか。民達さえ安堵して、理解した。何も恐れる事はない。我らには『勇者』がついている、と。

 兵士達の士気も高かった。この時の彼も自分の部隊を率いて、戦争で目覚ましい活躍をしていた。そんな英雄達と共に戦うのだ。しかも、勇者が次期国王だ。

 まさに、物語の中。負ける気がするはずがない。そうして皆の注目を集めたカイトが、いつも通り早着替えと言うか魔術で着替えて、牙を見せて笑みを浮かべて武器を掲げた。この時の彼は騎士でもあった。王に忠誠を誓う臣下の姿を見せたのだ。


「陛下・・・いえ、義父上。行ってまいります」

「うむ・・・では、勇者カイトよ! お主がわが息子である事を、そして我が玉座を継ぎし者であることを、この『七竜の同盟』の使者達に見せつけよ!」

「はっ!」


 お父様の言葉に、カイトが剣を掲げて了承した。『七竜の同盟』というのはその時の兄弟国で出来た同盟の事。詳しい事は関係が無いから省く。そして、私の方を向いた。夫婦なのだ。許可を求めている様に見えた。


「いってらっしゃい・・・あの・・・えっと・・・あ、あなた・・・」

「っ!」


 小声になったけど頑張って言えた一言に、カイトが赤面する。あぁ、これが見たかったんだ。幸せに包まれていた。帰ってこないはずがない。だってカイトは何度も窮地から脱してきて、今回は私は何もしていない。殺さないで済む。なら、夫の出発を見送るのは妻の役目。そう、思った。


「お、おう・・・」

「おー・・・照れてる照れてる」

「うっせ! っじゃなかった、うるさいですよ、殿下」

「ばーか。もうレックスで良いんだよ。十年後ぐらいにゃ、お互いに対等の王様なんだから」


 レックス――赤毛の青年――がカイトとじゃれ合う。彼が一番、お父様に口添えしてくれた。実家も動かしてくれた。実質的な仲人で、彼には頭が上がらない。と、そんな彼が、お父様へと頭を下げた。


「・・・陛下。私も共に参ります」

「おぉ、レックス殿下。御身も向かわれてくれるか・・・どうか、我が息子をお頼みする」

「はい」


 レックスはこの世界でも、カイトと比較される大英雄だった。『『蒼の勇者』に『真紅の英雄』。『七竜の同盟』の栄華はここに極まれり』そう言われる程の英雄だった。私達の同盟が掲げる二枚看板。その片割れ。勇者と共に二度に渡る魔王の襲撃から国を護り、ついに二人の魔王を討ち果たした英雄。全てにおいて対等な存在。

 まぁ、実際この二人は幼馴染でもあるけどライバルという関係が一番正解。始めの時もそうだし、ボーナスタイムでは常に競い合っていた。もう魂が理解しあっているのだと思う。そうして、そんな二人が刃を掲げて、自らの部隊へと号令を発した。


「よぅし! 紅軍は全員突撃用意!」

「蒼の騎士団! まさかオレの結婚式だからって武装してきてない奴いないな! って、言ってて悲しくなったけどな!」

「「全軍、出撃!」」


 二人の男達が声を上げて、兵士達が民草達を襲おうと迫り来る魔物の軍勢へと突撃を始める。向かう先は、巨大な穴。民草達はそれを見て、声援を送る。誰も彼らが負けるとは考えていない。そうして程なくして、彼らは穴の中へと消えていった。穴は閉じねばならない。なので往くしかなかった。

 だが、民草達に不安はなかった。幾度となく危機を乗り越えてきた英雄達だ。この世界には魔界という異空間もあったけど、そこに乗り込んで戦った事もある。

 これも同じだ。誰ひとりとして欠けずに帰って来ると信じていた。私も、そうだった。そして誰も欠けずに、帰って来た。ただ一人。カイトだけを残して。

 そして私はカイトを待ち、数年後。今度はいつも通り流行り病でぽっくり死んでしまった。これは情けなかった。一応健康には気を付けていたのだけど、突然変異の病に倒れてしまった。

 とは言え、問題は無かった。カイトが帰って来たのはこれから数百年も後の事で、その時には最早彼は自分が誰で、誰を愛していたのかさえわからないほどにボロボロにされて帰って来たのだから。ええ、この時に起きた出来事が、私が人類を憎む様になった理由。じゃあ、それを語る事にしましょうか。


「・・・あぁ・・・また・・・誰も救えなかった・・・」


 一人異界の穴に取り残されたカイトは、実は別の意思により呼び出されていたらしい。誰の意思か。『世界』達からだった。詳しくは私も知らない。けど、どうにも『世界』達が生み出した全ての世界に同時に何かとてつもない異常が起きたらしい。その所為で、あの穴が生まれたそうだ。

 対処出来るのは、カイトだけ。彼一人しか、この事態には対処出来ない。彼の力が必要だった。だから、『世界』達はカイトに頼み込んだのだ。今から我々が世界を修正する。だから、その間に何かがあった場合、カイトが対処してくれ、って。

 カイトはこれを受け入れた。と言うより、受け入れるしかなかった。だって、私の住む世界も異常を起こした一つ。そして何処か一つでも異常が残ってはいけなかったらしい。

 私を守る為に、全ての世界を奔走する事になった。一つずつ。世界全てを回る気の遠くなる様な旅。それを、彼はやらされる事になった。


「・・・あはは・・・」


 段々と、カイトが摩耗して狂っていく。当たり前よね。カイトがその時経験した時間は、億千万ではとてもではないけど足りない時間。

 彼が何をやらされていたか・・・それは、殺戮よ。無慈悲に、命を刈り取る事。勿論、彼もはじめは救おうとした。何人かは救えたらしい。でも、頑張ってきた所為でそれが出来なくなった、って全てが終わった後、私に泣いて懺悔していた。

 ええ。今更と思うでしょう? でも、違うの。彼が殺したのは、桁が違う。『魔王』であった時代に殺した総数より遥かに桁の違う数を彼は殺させられた。時には星1つを吹き飛ばした、というレベルじゃない。

 後半には大抵は星一つを吹き飛ばして終わりだった、酷い時には星系一つを吹き飛ばしたぐらい、とか言う話。これでも、一番ひどくはない。だって、この時のカイトは自嘲気味だったから。おそらくもっと酷い事をさせられた。そんな桁違いの話。

 それを、彼は世界の為にやらされた。本来ならば世界がやらねばならない事。それを、『人』の身で経験させられた。今でも何があったかは語ってくれない。あまりに酷いトラウマになりすぎていて、語ってくれない。おそらく、この地獄の時代は永遠に語ってくれる事はない。


「・・・」


 その結果が、これ。ボロボロになり、ついには辛くて様々な過去の幻覚さえも見る様になり。でも歩む為に私の幻覚をも斬って捨てて歩いていた。遂には魂が摩耗しきって『私』との全ての記憶が殆ど失われてしまった。

 しょうがない。だって、幻影とは言え『私』を斬り殺してしまっていたのだから。心が耐えられなかったのだ。でもそれでも彼は私の所へと帰ろうとして、残った残り滓の様な魂で歩き続けた。

 でも。彼はあまりに殺しすぎた。『人類』の意思というべきものが、彼が幸せを得る事を憎んでしまった。ふざけた話よね。

 全ては『人類』の為。本来は彼がしなくて良い仕事を、彼は必死で耐え続けてきた。彼は奉仕し続けてきただけ。だと言うのに、殺されたから、と彼へと恨みをぶつけた。私と絶対に結ばれない様に勝手に決めた。


「え? 嘘・・・嘘・・・どうして? どうして・・・?」


 あの日、私は見えている光景が信じられなくなった。私の手が、彼の血で汚れていた。後ろを振り返る。そこには、魂を礎にして発動した強大な封印があった。

 その礎になっているのは、カイトの魂。もはや、輪廻転生さえ叶わない状態だった。彼の胸には、私が突き刺した剣が突き刺さっていた。そこで、その当時の私の意識は途絶えた。


『・・・は?』


 そして、私は知った。その時、『人類』を許せなくなった。ここまで奉仕させられて。ここまで必死で頑張って。たったひとりで『世界』の代役を勤め上げて。その対価が、人類から恨まれる。憎まれる。

 こんな救われない話はない。あってはならない。これだけ頑張ってボロボロになったのに、最後に救われないなんて嘘だ。


『待って・・・彼が幸せになることを許さない・・・?』

『然り。我ら人類はあれを許さず。あれの平穏を望まず。あれの苦しみを悦楽として。あれの嘆きを望む』


 『人類』の総和とも言うべき意思が、私へと決定を告げる。有無を言わさず、一方的に。そして、それは続けた。


『我ら人類の多くはあれによって苦しめられ』

『あれによって傷付けられ』

『あれによって失われ』

『『『あれによって滅びてきた。故に、如何な理由があれどそれを赦す事は出来ず。ただ、嘆きと苦しみの下に滅びる事を望む』』』


 それが斉唱する。それが人類の決定だ、と言わんばかりに。ああ、間違いのないように、というか後で言うけど、勿論これに異を唱える意思もあった。そこは、覚えておいて。

 とは言え、この時点で私の怒りは理解出来るでしょう? だって、これだけ頑張って。カイトに至っては自分が摩耗してしまうぐらいに頑張って。

 だと言うのに、理不尽な怒りで私達の幸せを邪魔しようというの。勿論、理不尽と言うのはこちらの一方的な見方かもしれない。彼らが殺されたのは事実。でも、殺したく殺したわけでもないし、カイトだって望まず世界の代行をやらされただけ。恨むならば世界を恨むべきだ。


『恨むなら世界でしょう!』

『否。世界は理不尽ではない』

『世界は強大で抗える事無く。故に理不尽ではない』

『故に、世界をただ受け入れるのみ。我らはあれが同じ『人』故にその理不尽を受け入れられず』


 あぁ、一応言えば、それの返答もこれも道理ではある。『世界』とは抗えないモノ。それ故、それが自ら達を滅ぼした所で理不尽でもなんてもなく、自然の摂理だと受け入れられる。そう思わないとやってられない。

 でも同じ『人』が滅ぼしたがゆえに、受け入れられない。理不尽に奪われた、と思ってしまう。思うしか無い。そうしないとこれもまた、やってられない。自然の摂理ではないからこそ、だ。

 これが、『人』の身で『神』の代行をやらされた結末。『神』による執政を成り代わった者への必然の罰。が、こんなものは理不尽極まりない。彼がやらねば全てが滅んだのだ。

 理不尽に滅ぼされたのは、仕方がないと思う。カイトとて救おうとして、そして救ってきた。けれど、どうする事も出来なかった事はある。彼は神様ではない。それもまた事実なのだ。それで神ではないから、と彼を恨むのは筋が違う。


『・・・そう。じゃあ、貴方達はどうあっても、彼を滅ぼす、ってわけ?』

『然り。それ故、この結末である』


 私の目の前には、時さえも狂った所で心臓を串刺しにされたカイトの姿があった。刺したのはその時の私。彼こそが世界を滅ぼす悪だ、と騙されて封ぜさせられたのだ。

 ここで彼は永遠に、人類の為の礎として封ぜられる。最早私でも解呪不可能な最高レベルの封印。それに、私は何かが切れたのだろう。


『・・・消えろ』


 たった、それだけ。私が言ったのはそれだけ。ええ。今だから言うわね。私は正真正銘、一度『人類』をほぼ全て滅ぼした。『世界』も丸ごと全て、滅ぼした。


『彼を恨む・・・? 別に良いわ・・・他人に彼がどう思われようと、私はどうでも良い・・・でも・・・私から彼を奪う事だけは許さない! 微塵も残らず消えてなくなれ!』


 これが、真実。私はこの時。人類を見限った。今までは贖罪だ、と言うから付き合ってあげただけ。それが達せられないのなら、私にも考えがある。

 実は私には世界の未来を見通す以外にもう一つ、世界を滅ぼす力があった。後天的に授かった最強の鉾。人類を滅ぼす権利は無いけど、人類を滅ぼす力はあった。

 それを、使った。カイトはその力を使っても生き残る。あ、後それと幼馴染や私達に良くしてくれた人達ぐらいは、生き残らせたけど。流石にレックスや『先生』を殺すのは後味が悪い。だから彼らやその子供達が生きられる程度の世界も残しておいた。

 だってしょうがないじゃない。そもそもこの世の全てが彼を奪おうとした。『世界』は私からカイトの自由を奪い、『人類』は私からカイトという存在そのものを奪うという。世界を滅ぼさないと、私達は結ばれない。

 ああ、これだと疑問が残るわね。なぜ滅んだ後に『人類』と『世界』が存在しているのか、という事。簡単よ。私は時さえもほぼ完璧に滅ぼした。その時点で過去も未来も現在もなくなった。そうして残った世界と『人類』の中から、私に訴えかける者が出て来た。


『・・・やり直させて欲しい』

『嫌よ・・・どうして奪われないといけないの・・・もう嫌なの・・・この温かみが感じられないのも・・・カイトが辛い顔をするのも・・・もう嫌・・・』


 誰かの申し出を、私は最初断った。当たり前でしょ。奪われるのが怖くて、そして嫌で滅ぼしたのに、その奪う者をもう一度蘇らせてくれ、と言ったのだ。受け入れられるはずがなかった。

 この時の私は、ようやく安らかな眠りに就いたカイトを抱いてあげるしか出来なかった。それ以外にするつもりもなかった。子供を産んで、とかの夢は叶えられなくなっちゃったけど、これで十分悪くはない結末だった。


『私は・・・貴方達を滅ぼそうとは思わない』

『貴方は・・・』


 奇妙な事を言う存在だ。そう思って、その顔を見た。性別は女。黒い髪。おしとやかそうな雰囲気。何処かのお姫様かお嬢様、と言う感じだった。後には色々な人々が居た。と、ふと気付いた。なぜ『人類』が残っていたのか、と。


『ああ、そういう・・・』


 疑問は無かった。私は奪う者に消え去れ、と言ったけれど、それ以外を手に掛けるつもりはなかった。同じ事をしては駄目だ、と思った。

 理不尽に奪う者からは奪ったが、それ以外からは奪うつもりはなかった。そしてカイトの絶望を望む意思が人類の総意であっても、小さく反抗している意思があった事を知っていた。

 それだけは、残した。だから、彼女は残った命。私が奪わなかった奪わざる者。私が無意識で残した人類の生き残り。つまりは、数少ないカイトに救われた者達だった。


『私は彼に救われた・・・だから、恨んでいない。彼の嘆きを知っている。彼の痛みを知っている・・・だから、お願いします。私達にも、その手助けをさせてください』


 少し、嬉しかった。彼が頑張っていた事を知ってくれている人達が居たのだ、ということに。決してその嘆きは無駄では無かった、ということに。

 そして、ちょっと嫉妬した。彼女らもカイトに惚れていた。おそらく、私が知らないカイトが勇者として歩いてきた歩みの中で、彼女らと出会ったのだ。

 惚れないはずがない。彼のかっこよさは私が一番良く知っている。惚れるな、と言いたいけど、ちょっと無理。私が無理と断言する。なら、それについてはしょうがない、と諦めるしかない。


『・・・なぁ・・・オレはもう一度、あの世界で歩きたい。お前と一緒に・・・もう少しだけ、今度は『世界』を交えて、話してみよう』


 そんな声達に目を覚ましたカイトにそう言われたけど、素直に怖かった。彼女らだけで人類の総意を覆せるわけがない。人類の総意は桁違いだ。私で数えられる程の意思で覆せるわけがない。だから、飲みたくはなかった。


『・・・行こう、一緒に。オレが大好きな世界に』

『・・・うん。でも、覚えておいて。もし私の邪魔をするのなら・・・』


 何もかもを滅ぼす。そう、小声で告げた。いくら彼女らを信じられたからって、人類は信用出来ない。でも、カイトが手を握ってくれるのなら、そして夢へと歩けるのであれば、歩きたかった。だから、聞き届けた。そうして世界のバックアップを用いて、世界を再び再生させた。幸い時は滅んでいる。巻き戻す事は容易だった。

 それからは、『世界』を仲介役として交渉して、一つの決着がついた。ある試練を乗り越える事。それがなせれば、私達の仲を認めても良い。そう、結論付けられた。

 その後私はもう一度最後の悲劇の起きた現世にやり直してヤンデレ化して、とか色々あった。けど、すんでの所で私は試練を突破して、別の所でカイトもまた試練を突破した。その時に私は居なかった。私はカイトを救う事が条件だけど、カイトはまた別の条件だった。

 これは詳しくは語らない。というよりも、知らない。それは今のカイトの物語だから。私達はまだ、出会っていない。私がまだ語られていない物語を語る事は私には出来ない。

 それに、私達の物語は今カイトが天桜学園の帰還に頑張っている物語とは別の物語。地球やエネフィアとは全く別の世界のお話。こういう事実があった、というだけで十分。じゃあ、またね。今度は本当の私として、会いましょう。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第840話『閑話』

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