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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第47章 過去より蘇りし者編

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第837話 閑話 ――ある女の過去――

 あるテレビゲームで勇者が仲間達と魔王に相対するとしよう。魔王は強大だ。こちらのHPがレベルをカンストさせたとて数千で止まるのに対して、彼のHPが万を遥かに超える事なぞざらにある。

 中ボス達なぞ前座としか思えない程に高いHPとMPを誇り、高威力の攻撃を連発してくる。こちらが最後に覚えるだろう魔法の更に上を行く攻撃をしてくる事もある。ダメージも今までのボス達とは桁違いだろう。魔王いや、ラスボスにふさわしい強さだ。

 だが、ここで少し思い直して欲しい。それなのに、内部に設定されている魔王のATK・DFF・SPD等の攻撃に関するステータスはともすれば勇者達と同等や、下手をすると勇者達が上回っている事さえあるだろう。ああ、それでも高水準には纏められているだろう。あくまでも桁外れなのはHP・MPだけだ。

 勿論、これはゲームだ。HP・MPに合わせて他のステータスまで桁違いに設定されていれば、プレイヤー側になぞ勝ち目はない。所詮テレビゲームはこちらの数字と相手の数字を組み合わせて計算式にぶち込んでダメージを計算する物だ。もし相手が桁違いであれば、勝ち目なぞあり得るはずがない。

 運が良くても十分の一程度の勇者達のステータスでは、束になった所で魔王に勝てるはずがないのだ。相手が硬すぎてダメージは通らず、相手のCRT・LUK判定が高くて防御無視のクリティカルも出ない。先制攻撃なぞ夢のまた夢だ。更には相手の攻撃力が高すぎて、一撃でこちらは壊滅必須だ。

 そんな力を束ねた所で、全力で一撃撃てれば御の字だ。後は全力を出し切った反動で戦力は低下していき、ジリ貧に追い込まれる。それで彼のHPを削りきる事なぞ不可能。勝てるわけがない。

 だが、ここで設定の面から見れば疑問にはならないだろうか。なぜ、ダメージに関する値だけは勇者達と同等にされているのだろうか、と。魔王の舐めプと言われてもしかたがない。

 なにせHPもMPも桁違いなのだ。ATKやDFFの値も勇者達と桁違いになるのが、普通のはずだ。HPとMPだけが異常に高いというのは、逆に言えばおかしいのだ。そちらも低いか、どちらも高いか。それが自然な形のはずだろう。


「当たり前じゃない。だって、自然にやったら勇者達に勝ち目なんて元からないのだもの。不自然にするしか、勝てる可能性が掴めない」


 それはそうだ。ゲームはあくまでも、魔王が負けて終わる。魔王が勝つ可能性は始めから用意されていない。だから、ATK等の値は勝てる範囲に落とされている。


「勇者様は何時も魔王様に勝って終わる。頑張って努力した勇者様が、世界を取り戻す。繰り返される歴史。決められた物語。ハッピーエンドに定められた物語。約束された勝利・・・じゃあ、こうなるのはどうしてかしらね」


 あぁ、当然だろう。なにせそうなる様に始めから物語を用意されているのだ。魔王が負ける。どれだけ強大だろうと、『善』の勇者に『悪』の魔王は負ける。

 喩え魔王が数十倍の力を持っていようとも、魔王の負けだ。なにせ、それが決まっているのだから。それが、物語だ。魔王様が勝ち世界は絶望に染まりました、なぞという物語は誰も望まない。望んでいる者が居るとすれば、それは破滅主義者か自殺志願者、余程の好き者だろう。


「なぜ、魔王は負けるのか。お遊びと言ってしまえば、それでお終い。勇者もまた化物なのだ、と言ってもそれでお終い・・・では、そうではないのなら」


 では、そうではないのなら。可能性は一つだけだ。


「始めから魔王が負けるという筋書きに沿って、魔王が動いている。これしかないわ。どんな強大な魔王だろうと、負けるつもりでやれば負ける。どんな弱い勇者だろうと、それをなせる者と共に心臓に刃を突き立てるだけの簡単なお仕事よ・・・じゃあ、お話を始めましょうか」




 じゃあ、ちょっとだけ、お話しましょう。私? 私はヒメア。まぁ、今ならばジャンヌ・ダルク、と言った方が良いかしら。まだ私本人は目覚めていないものね。

 とは言え、私もまた、ヒメアでもある。前世と今世、過去世は全て別人だけれども、決して赤の他人というわけではないわ。兄弟姉妹以上に深く繋がった同一人物。別人であり同一人物である、というのは意味がわからないと思うけれど、そういうものよ。

 さて・・・その上で、なぜ私が人類を憎む事になったのか、を語る事にしましょう。だって、カイトは絶対に語らないもの。私が語らない事には、誰も誰にも教えない。桜達も瑞樹達も全員忘れちゃてっるものね。ふふ、実はそれなりにカイトのハーレムは把握してるのよ? 私。

 とは言え、それを語る為にも、こことは全く関係の無い幾つかのお話を挟んでおかないといけない。これはしょうがないというか、我慢して。だって、そうしないと『人類』の『罪』と私達が理解出来ないから。


「魔王XXX・・・貴様をここで討つ!」


 一人の青年が、剣を構えて強大な魔と相対していた。私はその横。白い衣を纏った聖女として、彼の仲間の一人として立っていた。

 ああ、別にカップルというわけではないから、他にも何人もの仲間が一緒よ。そうね。この時なら、お調子者の魔術師や私の従者でもあった女騎士様が一緒。他にも数人居るわね。そこは勘違いしないで。

 あ、魔王の名前についてはなんでも良いわ。どうせこんなの物凄い数を繰り返したもの。ぶっちゃけ、ここで呼ばれる魔王の名前に意味は無いのよ。ここを選んだのも偶然。重要なのは『魔王』と『勇者』という記号。それ以外に意味なんてないわ。


「・・・来るが良い。矮小なる者よ。滅びの定めに在りしものよ」


 私達に相対する魔王は、確かに強大よ。今からしても、まぁ多分『今』のボロボロのカイトレベルの戦闘力があるんじゃないかしら。勝てるわけがない? ええ、そうね。彼に相対している青年は例えるのなら、『今』のソフィア・・・いえ、ティナクラス。私達が加わった所で100回やって99回は負けるでしょうね。まず、勝ち目なんてない。そんな相手に挑んでいた。


「ぐぁあああ!」


 でも青年は何度も膝を屈しそうになりながら、それでも立ち上がって魔王へと剣を構える。あぁ、なんて物語に語られる勇者様なのかしら。決して折れる事のない心を掲げ、決して屈する事のない刃を絶対の悪へと向ける。肉体が滅びてもこの正しき心は決して滅びぬ。そんな勇気と愛、気概を持ち合わせた勇者様。

 あぁ、なんて皆が望む勇者様の在り方。ええ、正しく彼は勇者様。この世界では後に勇者として名を残し、末永く愛される物語になった。


「勇者様!」


 吹き飛ばされ、ボロボロになった勇者様へと、私が駆け寄る。ああ、なんて甲斐甲斐しい。まさに物語に語られるお姫様で、清く正しい聖女様。

 戦いが終わった後は勇者様との婚姻さえも噂される正真正銘の聖女様。あぁ、今見ても腹が立つ程に正しい『私』。ええ、これが私。<<蒼の魔王>>に相対する<<白の聖女>>。

 人類全ての悪を背負う魔王と戦う心優しき聖女。悪徳と腐敗、混沌と背徳。それら全てを正す人類救世の御旗。それが『私』。その世界の人類に悪徳やらが撒き散らされた時に人類がそれらを駆逐する為に呼び出されるのが『私』。

 まぁ、簡単に言えばお掃除屋かしら。人類文明が腐ったら世界が遣わしてその腐った部分を切除する外科医でも良いわ。で、切り取った部分は輪廻転生の輪へと送ってきれいな魂として、文明をやり直させるわけ。

 『勇者』なんてそんな物よ? 皆は憧れの存在というけれども、システム的に発生する場合あれは全て『人類』の尻拭いしてるだけ。なにせその腐敗さえ『人類』が生み出した物なのだから。

 あぁ、言ってなかったわね。『魔王』もまた、『人類』に属する者よ。だから、『人類』が勝つの。これは『人類』の『人類』による『人類』の為の八百長。未来は定められなくても、ある一定のルールに従えば、ある規定の未来を生み出せるのだから。

 『人類』が『善』の勝利を選び取る為に、ある一定の法則で特定の人物を特定の立ち位置に配置する。それだけで、文明から腐敗だけを一掃する事が出来る。なんて合理的なお掃除方法。


「っ!」


 さて。その上で言っておきましょう。どうやれば、人類が絶対に勝てない悪に対して勝てるのか。簡単よ。悪に負けさせる決意をさせれば良いの。悪が死のうとすれば、そこで終わりなのよ。


「おぉおおお!」


 私が吼える。聖女としての魔力を全て振り絞り、勇者様が見せてくれた折れぬ心を私が見せる。手には勇者様の持つ名剣。倒れた勇者様に代わって、私が彼を守る様に手にした剣。あぁ、そう言えばこの時は普通に終わらせたのだっけ。


「何!?」


 魔王が目を見開く。あぁ、名演技。主演男優賞でも取れるわね。だって、誰も気付かない。当たり前でしょ。何万回と繰り返してきた事なのに、今更驚いてたら始まらない。

 そして、倒れた勇者様が構えた私の手に手を添える。あはっ。まるで夫婦みたい。あぁ・・・そしてなんて汚らわしい。()が大切にしてくれた血で汚れていない手が、勇者様(・・・)の血で汚れていく(・・・・・)


「「はぁあああ!」」


 物語に語れる様に。そうあるべき、とでも言わんが如く。私達は力を合わせて、最後の抵抗を見せる魔王へと突っ込んでいく。結果? 当たり前じゃない。物語はハッピーエンドで終わる物。普通に魔王様が放った攻撃を切り裂いて、彼の心の臓を貫いておしまいよ。


「ぐふっ・・・」


 全てが終わる一瞬前。心臓に刃を受けて、あれだけ強大だった魔王が血を吐く。あぁ、なんてあっけない幕切れ。魔王なのだから、もっと強大な魔力で壁を作るとかすれば良いのに。力技でやられればいくら二人合わせた所で私達は勝てないのに、それをしないのだもの。

 奇跡が起きた、と人は言う。二人の愛の力が魔王の力を上回ったのだ、と喜び、讃え上げる。でも、私から見ればこれは何度目の奇跡なのかしら。数えるのも馬鹿らしい。この時ですでに万は軽く越えたわ。

 まだ、一度ならわかる。でも奇跡なんて何度も起きるわけがない。何度も起きたのならそれは必然。『人類』が『魔王』に『勝つ』という皆が聞き飽きた物語。憎たらしい程に決められた出来事。私達の勝ちが始めから決まっているだけの出来レース。

 八百長よ八百長。仕掛け人はこの『世界』。この八百長に乗った者は『魔王』その人。『人類』に勝たせる為に我が身を犠牲にした『魔王』。

 あははは! どっちが勇者でどっちが魔王なのかしら! 勇者様は我が身を犠牲にした魔王様を殺して、勇者と褒めそやされる! 魔王は人類全ての悪徳を引き受けて恨みつらみを一身に受けて永劫に恨まれながら滅ぼされる! これじゃあ、あべこべよね!

 勇者は咎人。魔王が救世主。あぁ、なんて救いのない。誰にも知られる事もなく、心優しい魔王はこの世から全ての悪徳を引き受けて立ち去る。人類全ての悪をその身に引き受けて。恨みつらみの怨嗟の声を背に。己の死を喜ぶ人々の歓声を遠くから褒め称える。

 その直前。彼が私達の力で消し飛ばされるその直前のたった一瞬。その時の『私』が気付かない程の刹那。『私』と『魔王』の視線が交わった。


「・・・」

「・・・」


 あぁ、なんて綺麗な瞳。澄んだ空の様に綺麗な瞳。『私』が好きな瞳。そして、彼の澄んだ瞳に映るなんて醜い私の顔。彼に向ける憎悪の顔。あぁ、なんて愚かしい。

 助けてくれた相手に、私は憎悪の目を向けていた。永遠にも思える一瞬。この瞬間だけが、私の唯一の安楽。なんて馬鹿げている。私はこの一瞬の為だけに、生きている。

 でも、しょうがないじゃない。好きな人と物凄い長い間離れ離れにされて。会えるのはこの一瞬だけしかない。『私』が『彼』を殺すこの一瞬だけが、私と彼の唯一の時間。

 これは、愛の告白。今もまだ愛している、という『彼』からの愛の告白。その、確認作業。ええ、これでわかったでしょう? 『人類』が勝って当たり前。

 だって『魔王』が『聖女』を愛しているのだから、勝てるわけがない。傷付ける事さえ憚られる。彼は苦しみながら、『私』が英雄として讃えられる為に『私』に怪我をさせる。この時の彼には、全ての記憶が戻っていた。

 顔に傷をつけないのは、彼の我儘。彼自身が全部終わった後に明言していた。まったく。そんなの気にしなくて良いのに。どうせ怪我なんて死ねば消える。それに、貴方の負わせてくれた傷なら、どんな傷だって愛せるのに。

 いいえ、それ以前に。顔が傷付けばもう言い寄られる事もないかもしれないのに。うざったい程に、美しいとしか言いようのない私の顔。自慢ではなく、本当に100人居れば100人が振り向く美貌。1000人居ても万人居ても振り向く美貌。

 言い寄られて詰め寄られて、それを振りほどくのがどれだけ面倒だと思っているんだか。私は妻なんだから、少しは気を遣ってよ。


「終わった・・・?」

「終わったんだ・・・」


 私達はようやく得られた――手にさせられた――平和を、実感し始める。これで、戦いは終わった。これからは繁栄を取り戻す為に頑張っていかないといけない。そう、心に決めて、今だけは、失った者を悼む為に嘆く。


「これで・・・終わったのね・・・」

「ああ、終わったんだ・・・」


 私の呟きに、勇者様が微笑んだ。ええ、そうね。終わったの。魔王は消えた。とは言え、当たり前だけどキスなんてするわけがない。

 だって、私が泣いているのだから。抱きしめないのは、優柔不断さ、と言うべきなのかしらね。カイトなら躊躇わない。と言うか涙を舐め取るぐらいはやってくれる。

 それだけで、私は機嫌を取り直す。表向きは、勿論怒った様に見せるけどね。流石カイト。私の事ならなんでもわかってくれる。伊達に幼馴染兼夫婦やってない・・・うん、惚気るのはやめよう。


「・・・あぁ・・・」


 私が涙を流す。失った。この時にいつも、心と魂の奥底が悲鳴を上げる。でもそれを、『私』は理解しない。憎い。『私』はこの『聖女()』が憎い。気付け。そう叫びたい。でも誰もが、そして『私』さえもが平和になった事を喜ぶ歓喜の涙だと思っている。

 あぁ、憎らしい。涙を流す事さえ許されない私の『夫』がこの世を去ったというのに、『私』はそれを喜んでいる。そして、私はひどく不安になる。次は私が殺されるのではないか、と。

 死ぬのが怖い? まさか。怖いのは『彼』に恨まれる事だけ。それだけは、どうしても耐えられない。おそらくその時、私は壊れる。あ、もう壊れてるだろ、ってツッコミは無し。それとこれとは話が別。


「・・・」


 さて、この後の話はまぁ、どうでも良いから飛ばすわ。ありきたりな復興のお話よ。でもそうして平和になった後。私は不安に囚われる。いえ、私自身が私自身を不安で囚える。

 どんな不安か? 簡単よ。彼から憎まれるのではないか、という不安。もう愛想を尽かされるのではないか、という確認のしようのない不安。私にはどうしても耐えられない不安。それだけで、私は殺せる。


「どうですか・・・?」

「・・・ありがとう」


 弱々しい顔で、私が見舞いに来てくれた勇者様へと感謝を述べる。これに他意も演技も無いわ。だって見舞いに来てくれて心配してくれている相手に悪意を抱く程、私も堕ちちゃいない。


「原因は・・・?」

「・・・何も・・・ただただ、衰弱していくだけです。何か魔術が仕掛けられているわけでもない。魔王の呪いを疑いましたが・・・一切、何も」


 勇者様の問いかけに、『私』の主治医が首を振る。当たり前よね。『私』自身が私を弱らせて行くのだから。カイトは、私に愛の告白をしてくれた。自ら死ぬ事によって、今も私を愛してくれている事を示してくれた。なら、妻としては答えは決まっている。

 彼が我が身を犠牲にして私に愛の告白してくれたのなら、私もこの身を滅ぼす事を愛の証とする。夫婦として当然でしょ? 健やかなる時も病める時も一緒。それが、結婚よ。

 なら、死ぬ時も一緒よ。ちょっと時間が掛かるのは、誰にも迷惑を掛けない為だからカイトだってわかってくれる。そう信じている。信じないとやってられない。

 この身が彼以外に抱かれるなぞ耐えられない。それ以前にこんな優しい夫が私の為に苦しんでいるのに、それを見捨てて一人で幸せになるなんてとてもではないが人として出来ない。

 私の我儘さえなければ、今頃彼はソフィアやルイス達と幸せになれていた。それを、私が泣いて頼んだの。私は貴方が好きだ、と。私を妻としてください、と。

 無理だとわかっている。私には未来が見えた。その未来の彼の横には、『私』は居なかった。それでも、諦めたくなかった。

 いいえ、しっかり言うわ。受け入れられるわけがない。ずっと好きだった。けど、素直になれなかった。だけどそれでも、その関係は永遠に続いてくれるのだ、と思っていた。

 乙女の馬鹿でロマンチックな幻想。結婚式を挙げてお似合いの夫婦になって、初夜で初めて彼と結ばれて彼の子供を産んでお父さんとお母さんになる。それが一番始めの私のささやかな夢。そして今も私の夢。

 それがある日突然目の前で崩れ去った。分かる? ずっと好きな人の裸を初めて見たのが、他の女と愛し合っている場面だ、なんて絶望が。幼馴染の私が見たこともない『夫』としての優しい顔で、私の知らない私ではない女を『妻』として胸の上に眠らせて眠る姿を見せられる苦しみが。

 あの時、多分私は本当の意味で狂ったのだと思う。だから、言った。私だけの特権をください、って。それを、彼は受け入れてくれた。あぁ、これが全ての過ち。悲劇の発端。それは彼自身が下手をすれば生き地獄を味わう様な物で、それを私は受け取った。


「・・・はぁ」


 疲れた様に、私がその一生で最後の息を吐いた。満足していた。ええ。今の私も過去の私も。全ての『私』が等しく満足していた。

 『今』の私は『人類』に平和をもたらせた事で。『私達』はこれで煩わしい男共に言い寄られなくて済むから。そして、その時の『私』は過去世となり『私達』へと融合される。そして、全てを理解する。そして、言う。


『『『あぁ・・・私も愛している』』』


 私達が斉唱する。目の前でボロボロになっている『彼』の魂へと届けと。『私』は触れたいと泣き叫んだ。ようやく、彼が目の前にいるのだ。

 え? なぜ私がこんな状況に陥ったのか。そしてなぜ私が人類を憎む様になったのか、というのがわからない? あ、そっか。そう言えばそこをまだ語っていなかったわ。じゃ、もう少しだけ、過去と別の過去について、話を進める事にしましょうか。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第838話『閑話』

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