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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第47章 過去より蘇りし者編

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第830話 パイロット

 カイト達が禁足地で停泊した翌日。この日も朝一から出発する事になっていた為、飛空艇はすでに発進態勢に入っていた。


「えっと・・・始動キー確認」


 発進態勢に入っていたは良いが、飛空艇の操縦席に座っているのはカイトではない。瞬だ。一度彼に触らせておこう、という判断だった。

 ちなみに、その他で艦橋に居るのは翔と何時もの三人娘だけだ。それ以外は全員二度目は興味がないのか各々好きな所で待機していた。そうして瞬はカイトに教わった通り、スイッチを押して更に幾つもの計器を確認していく。


「サブエンジン・・・問題無し・・・メインエンジン励起状態へと移行」


 瞬は少しアタフタとしながらも、なんとか発進に向けて用意を整えていく。と、そんな中でふと、翔が疑問を持った。


「なぁ・・・そういや飛空艇の免許とかって必要無いのか?」


 翔は瞬から視線を外さない様にしながら、小声で問いかける。小声なのは瞬の邪魔にならない様に、という配慮だ。


「ん? ああ、普通にあるぞ・・・えっと・・・」


 カイトは自分の財布を漁って、何かを探し始める。まぁ、この流れだとどう考えても免許証か許可証の類だろう。というわけで、一枚の金属製のプレートをカイトが取り出した。


「顔写真は無いけど、そのかわりに何時もの魔石が取り付けられてる奴だな。これが、飛空艇の操縦免許になる。国際免許証だな。飛空艇の操縦に関する部分の規格は統一されてるからな」

「・・・先輩、持ってるのか?」

「あるぞ」


 翔の問いかけにはカイトではなく、瞬その人が答えた。彼は視線を逸らす事は無かったが、どうやら聞こえていたらしい。


「え? いつの間に取ったんですか?」

「かなり前に『ポートランド・エメリア』で揚陸艇に乗った事があったろう? あの時少し興味が沸いてな。免許の取り方を調べたら結構簡単だ、ということが分かったんでな。幸い冒険者だから、ドカッと入る。出て行くのもドカッとだが・・・武器の調整に殆どお金が掛からないからな。なんとかなった」


 瞬は驚いた様子の翔に対して、何時自分が取ったのか、というのを教える。実は彼は時折暇を見付けては飛空艇の免許に関する講習に出かけていて、ギリギリ大陸間会議の前に取得出来たのであった。

 ちなみに、勿論ペーパーだ。エネフィアでは路上教習というものは存在しないので、飛ばすのはこれがはじめてだ。それで良いのか、と思うがそれが必要無い程に飛空艇の操縦は簡単になっているのであった。

 とは言え、勿論、これにも条件がある。まず第一に、魔術で操作法を脳内にインストールしなければならないし、他にもそれでも操縦出来る飛空艇にも限りがあったりする。


「と言っても持っているのは限定だがな」

「限定?」

「ああ・・・限定操縦許可証、だったか?」

「そうだな」


 どうやら瞬は記憶があやふやだったらしく、カイトがその問いかけを認める。限定、というようにこの免許で全ての飛空艇が操縦出来るわけではない。

 感覚的にはAT免許とMT免許の差よりも、これは所謂原付き免許だと考えれば良い。自動車免許があれば原付きに乗れるが、原付きの免許があっても自動車の運転が出来ないのと一緒だ。


「とりあえず先輩。あんたは操縦に集中する。こっちの説明は引き継ぐ」

「ああ、悪い・・・えっと、エンジン音の異常は無し・・・」


 カイトの言葉を受けて、瞬が再度飛空艇の始動に集中し始める。その一方でカイトが改めて解説を行う事にした。


「先輩の持つ免許で操縦出来るのは民間用の飛空艇限定だ。より正確には、民間用の中でも非武装、ないしは武装が限定的な個人所有が可能なレベルの飛空艇だけだな。サイズは超大型にならない限り限定はされない」

「って事はこの輸送艇はギリギリ許可の範囲内だった、ってわけか?」

「ああ。この飛空艇に取り付けられている武装は前部と背部に10ミリの魔導砲が2門ずつ、上部と下部に5ミリの魔導砲が3門ずつの計10門だけだ。出力も襲撃を受けた場合に牽制する程度だ。軍用の飛空艇なら障壁があって意味の無い程度のな・・・万が一の場合には強制的にコントロールが乗っ取れる様な安全装置も搭載されている。と言うか、これは義務だな。解除も専門の知識が無いと無理だ。で、外せば勿論厳罰だな」

「一応、きちんと考えてるわけか・・・」

「当たり前だって」


 翔が何処か納得した様に頷いたのに対して、カイトが笑って当然と断ずる。国として纏まっているし、世界的に連合も組まれているのだ。きちんと考えていて当然だろう。


「で、その限定って免許は簡単に取れる物なのか?」

「んー・・・限定は所詮限定だからな。今後飛空艇を持ちたい、とかゆくゆくは飛空艇のパイロットになりたい、とかで取っ掛かりとして取る者も少なくないらしい。なら、簡単なんだろうな」

「ふーん・・・結構するのか?」

「そこそこ。所詮限定だからな・・・まぁ、魔導学園の学生がバイトして取れるレベル、って所だろう。軍学科だと取得を推奨している学科もあるからな」


 翔の更なる問いかけにカイトが金銭面もそれ相応だ、と明言する。日本ではパイロット免許を取得しようとするのなら一番安いアメリカでの取得で200万程度は最低限必要――日本で取得すると500万程度――だそうだが、実はエネフィアではそこまでではないのであった。

 ここらは、飛空艇と飛行機の差が大きかった。飛空艇は機体の値段が飛行機とあまり大差が無いのに対して、維持費は桁違いに飛空艇の方が安いのである。

 まず何より燃料費が要らない。飛翔機についてもジェット・エンジンの様に繊細な検査が必要なわけでもない。それでも専門業者による整備は必要だが、それだって戦闘さえ無ければ年に数度業者に頼む程度。その費用とてバカ高いわけではない。ここらが影響して、免許の費用が安くなるのであった。


「で、ずっと疑問だったんだけど、これおいくら?」

「んー・・・所詮、輸送艇の小さい奴だからなー・・・」


 翔の更なる問いかけを受けて、カイトは大体の値段を考え始める。


「大体日本円でざっと7~8億とかそんなのかな。船として見たら、少し割高かもな。が、飛空艇なんだからこんなもんだろ。プロペラ機でも一機10億以上とか言う飛行機に比べりゃ随分安い」


 正確な大きさはカイトも把握していないが、この飛空艇は大体30メートルだ。単純には、豪華クルーザー並と考えて良いだろう。とはいえ、おそらくタンカー船などとトン単位で比べれば随分と高い値段になるはずだ。

 勿論材質の差等から単純な計算はしてはならないが、簡単に考えればトン単位では数倍程度のお値段がする、というわけだ。が、こちらは当然空を飛べるわけだし、武装も取り付けられている。そこらの事を鑑みれば、妥当と言えば妥当なのだろう。

 とはいえ、それでも庶民感覚からすれば随分と高い。というわけで、翔が頬を引き攣らせた。なにげに少し扱いが丁寧になったのは、笑い話で良いだろう。


「え゛」

「あん?」

「い、いや・・・無茶苦茶高くね?」

「まぁ、高いな」


 カイトも認める。一般的な金銭感覚からすれば、5億円超と言うのは物凄い高い。が、さもありなん、と裏事情まで完全に把握しているカイトからすれば、さほど驚くべき事でも無かった。


「まぁ、そりゃそうだろ。今回の一件は口止め料が10人分。地球に関する情報料。特にこれが割高だな。地球の情報ならどんな物でも億単位出してでも欲しがる貴族なんぞザラだ。で、他にもランクA一人にランクBの依頼料が3人分。他にもランクCの冒険者が複数人。戦闘も含む・・・で、拘束日数が最大一ヶ月、と。そりゃ、こんな依頼でも億超えるわな。それにこれは型落ち品だ。地球でもクルーザーの型落ち品は値引きされるように、こいつも多分半額とかに値引かれてた奴だろう。大方、メーカーの倉庫に眠ってたとかそういうのを買い上げてくれたんだろう」


 カイトが今回の一件でのざっとの見積もりを話す。一応これでも些かぼったくった印象は無くはないが、その後のカイト達の活躍を考えれば帝国の上層部も黙るしかなかったようだ。

 帝都周辺で活動していた大盗賊団の討伐に、帝王フィリオの母にして先帝の后の一人を守った功績。帝王フィリオの密命を受けての活動。更には盗賊と内通していた貴族の摘発に助力、奪われた財宝や資料の確保。他にも弥生の助力のお陰で近衛兵団は犠牲者は最低限に抑えられた。この功績も見過ごせない。

 ここまでを普通にユニオンを通して冒険者にやらせれば簡単に億単位に手が届く。特に大盗賊団の討伐はギルドを丸々借り切るつもりで依頼しないといけないだろう。

 その時点で億どころか10億とかそう言う単位のお話になる。大金が動くと断言出来る。実際には近衛兵団との共同作戦だが、作戦の立案はカイトだ。彼らの働きは十分、この型落ちの飛空艇一隻分の価値はあったのであった。


「で、この上に睦月は胡麻の新たな使い道を示したし、胡麻ダレも共同開発という体にはなるが開発した。そこらの特許関連は全部フィリオ陛下に譲ったからな。彼は名声を高める事が出来るし、と一概に大損というわけではないさ」

「あぁ、そっか・・・そう言えば胡麻無かったもんな・・・」


 翔が頷く。胡麻を探して歩いて回ったのだ。そこらを伝来させた情報料等も見過ごせない。自分達からすれば常識であっても、他からすれば常識でない事は山ほどある。

 これも、その一つだった。そしてそこに権利が付きまとうのも当然だ。なので今後は胡麻一つ作るのにも権利が発生するし、これを販売するとなると当然、権利者に利益の一部を譲渡しなければならない。

 薬味としての胡麻も胡麻ダレが普及しないとは思えないので、それが量産されて販売され始めればヴァルタード帝国内ではかなりの利益になってくれるだろう。と考えれば、十分に商売になったのである。


「まぁ、今後はヴァルタード帝国で胡麻の需要の増加から胡麻の農家が増える事が考えられるし、そうなれば当然、販売量が増えて利益が生まれそれは帝国の税収となって還元される・・・ま、ここまで見通せれば今回の取り引きが悪い内容ではなかった、と言えるだろうさ」

「すまん。ぶっちゃけ何言ってるかわかんない」

「あはは。まぁ、新たな仕事を作った、とでも考えとけ。雇用の創出した、ってわけだ」


 カイトが笑いながら、チンプンカンプンだ、と言う翔にそう告げる。実際には既存の物を使って新商品を開発しただけだが、それは加工品であるが故に加工業者が生まれ、そこで手間賃が発生して税が生まれる。雇用の創出で間違いなかった。


「ということは結構悪い話じゃなかった、って事で良いのか? 雇用の創出って国として見れば重要なんだろ?」

「そういうこと。今回の一件はお互いにきちんと利益を得られた、と考えて良いのさ。報酬分ぐらいは働いた、で構わない。雇用者達からの税収は長い目で見れば、億単位なぞ簡単に回収出来るからな」


 カイトの再度の明言に、翔もそう思う事にしたらしい。まぁ、深く考えない様にした、とも言える。とは言え、それで良いだろう。と、そんな話をしている間に、どうやら瞬が出発の用意を整えたらしい。


「カイト。これで良いんだよな?」

「ん・・・エンジン問題無し。火器管制システム問題無し。レーダー異常無し。方位測定システム異常無し・・・うん。大丈夫そうだな」


 カイトは一度瞬の横から操縦席の前に設置されたコンソールを確認して大丈夫だ、と判を押す。ちなみに、昨日の時点では一葉達が確認していた事もやろうとすれば操縦席から確認が出来る。

 が、多重チェックをしたかったので、専門のオペレーター席から確認させていたのであった。そして普通は一人で全部のチェックなぞ出来るはずもない。

 万が一一人で動かさねばならない場合には仕方がないが、普通はオペレーターが乗り合わせる物なのであった。今回は全てをチェックさせる為に一人でやらせただけだ。というわけで、コ・パイロットの席にカイトが改めて腰掛ける。


「オーケイ。飛ばせる」

「ああ・・・出力上昇・・・」

「出力上昇確認・・・」


 瞬の言葉を確認する様に、カイトが自らの席に取り付けられている計器を確認しながら声を発する。そうして、各種の計器の確認が終わると同時に、瞬が告げた。


「・・・上昇開始。速度毎分30メートルで設定」

「速度毎分30メートルで上昇開始を確認・・・高度は100メートルまで上げて、そこで一時停止しろ」

「わかった・・・高度確認・・・50・・・100確認・・・ふぅ」

「はい、上出来」


 高度100メートルで停止した飛空艇の中で、瞬が安堵の表情を浮かべて額に伝っていた汗を拭う。やはり緊張したようだ。


「じゃあ、ここからはオレが改めて操縦する。そこからは見とけ」

「ああ、頼んだ」


 カイトの言葉を受けて、瞬が操縦席から離れて先程までカイトが座っていたコ・パイロットの席に腰掛ける。そうして、これ以降はカイトが操縦する事になり、一同は再び飛空艇での旅を再開する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第831話『半覚醒』

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