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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第47章 過去より蘇りし者編

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第829話 禁足地での一泊

 カイト達が『禁足地』へ入ったその少し後。とりあえず各々時差ボケなどに対して魔術で身体の調整を行う事にして、時間を過ごしていた。

 と、その一方でカイトは魔導炉の調整と異常の有無の確認を終えてお風呂に入ると、夕食が近くなってきたので一同が集まっていた食堂へと歩を向ける。そこでは案の定、何らかの用意が進められている様子だった。


「うん?」

「ああ、来た来た。カイト、これ、外に出て大丈夫か?」


 カイトの姿を見付けた翔がカイトへと問いかける。彼は瞬と共に両手に銀色のトレイを持って食堂の奥へと向かう途中だった。

 見れば桜と楓は睦月の補佐をして何らかの下準備をしている様子だし、弥生と皐月はまた別に何かの作業をしている様子だった。良い匂いが漂っていた。が、夕食にするには、少し早い時間だ。


「もう飯にするのか? 用意は分かるが・・・早すぎやしないか?」


 カイトは翔の問いかけに答えるよりも前に、全員が食事の用意をしている事に首を傾げる。当たり前だがエネフィアとて星だ。時差は存在している。なので不思議ではないが、後々を考えれば少し早いかな、と思ったのであった。

 ちなみに、地球で言う所の日付変更線は禁足地を中心として引かれている為、今は丁度日付変更線の真上に居る様な感じだ。


「おーい、翔。先運んでおくぞ」

「あ、はい!・・・いや、そういうわけじゃなくて。今から用意して大体1時間後に食べるか、って所」

「ふーん・・・まぁ、外には出て良いだろ。ここに生き物はウミガメとかの海の生き物以外は鳥ぐらいしか居ないだろうし」


 基本的に、この島には生き物は殆ど居ない。だからこそ神鳥がここを停泊地として選んだのだ。カイト達が多少羽目を外しても周囲に与える影響が少なくて済むからだ。というわけで、外に出ても大丈夫だろう。


「で、外で何するつもりなんだ?」

「バーベキュー。折角ここまで外きれいなんだから、ってな」

「ああ、なるほど・・・」


 確かに、外はきれいだ。そして幸いな事に天候も晴天だ。こんな時に飛空艇の中で閉じ籠もってご飯を食べるのではなく、外で食べたいと思うのも不思議ではない。というわけで、カイトは少し考える。


「んー・・・まあ、良いんじゃね? 誰か来るかもだけど、食材は豊富に買ったし。ちょっと肉とか多めに作っておけば問題無いだろ・・・ここらの奴だとあんま肉食いそうなのいないけど・・・というか、飯食いそうなのもいないんだけどな・・・」

「おっしゃ。許可出た!」


 翔が一同へとカイトからの許可を伝える。カイトが考慮したのは、簡単だ。ここで狩りをする、というのであればカイトも難色を示したかもしれないが、ただ単にご飯を食べるだけだ。なら、問題はなさそうだった。あっても一応お小言を言いに来る奴が居るぐらいだろう。

 ちなみに、狩りをするのが悪いわけではない。不必要に命を奪う事が駄目なだけだ。もし万が一遭難してここに漂流した場合等では、狩りをしても神獣達も許すのであった。

 というわけでカイトの許可が降りた事で、一同は買っておいたキャンプセットの中からバーベキューセットを持って、外の砂浜に設置する。


「ここら辺で良いかな・・・ん?」


 カイトは適当にバーベキューのセットを砂浜に置くと、全員が無言になっている事に気付いた。


「凄い・・・」

「ああ、凄いだろ? ここ、人の手が入らないから、原風景が残ってる・・・まぁ、決して地球じゃお目にかかれない風景の一つだ」


 呆然と見入っていた桜に対して、カイトが笑いながら横に立って告げる。超巨大な巨木に、沈む夕日。そもそも『世界樹』そのものを地球でお目にかかれる事は無いのだ。存在していた事さえ知らなかった風景だった。


「・・・さ、飯だ飯。美味いモンは美味い時があるからな・・・おーい! 全員復帰しろー! 一葉達が来る前に用意全部終わらせるぞー!」


 カイトが手を叩いて一同に復帰を促す。呆ける為に外に出たわけではない。ご飯を食べる為に外に出たのだ。それに、実は。本当に凄いのはこれからなのだ。が、敢えてカイトもユリィも黙っておく事にした。


「あ、はい。えーっと、お肉とか焼いちゃいますので、ちょっと待って下さいね」


 カイトの言葉を受けて、全員がいそいそと作業に戻り始める。というわけで、睦月が炭に火を入れて、肉や野菜を焼き始めるのだった。




 そうして『世界樹』の側で食事を始める事、30分程。太陽は殆ど沈んで周囲に薄闇が垂れ込め始めていた頃。いきなり、カイト達の目の前の海が割れた。


「なんだ!?」


 瞬が振り向いて、つい癖で武器を手にする。そうして現れたのは、全長200メートルはあろうかという巨大な海龍だった。が、どこか海蛇に似ていたからか、瞬は魔物の一種だと思ってしまったらしい。


「海蛇!? 魔物か!」

「っと! ストップ!」


 戦意を漲らせた瞬に対して、カイトが即座にストップを掛ける。敵ではなかった。


「おーう。久しぶりー」

『運の良い奴め。もう少し遅ければいっそ食事にしてやろうかと思うたぞ』


 カイトの言葉に海龍が笑う。それは瞬に対して笑っている様子だった。と、どうやら敵ではなく神獣だと気付いた瞬は、武器を消して頭を下げた。


「・・・すまない事をした。癖で武器を抜いてしまった。申し訳ない」

『良い。が、覚えておけ。ここに魔物は現れん』


 瞬の謝罪を受けて、海龍は横柄に頷いた。彼もまた、神獣の一体だった。が、やはりここらは性質の差と言うべきか、神鳥とは違って少し傲慢と言うか上から目線だった。


「で? どうした? あ、飯食う? 米とかパンとか用意出来るぞ?」

『要らん。腹は空いていない。ついでにいうと魔力の方が腹持ちが良いのでな』


 カイトが掲げた皿を見て、海龍が面倒くさそうに首を振る。その彼の返答に瞬達はやはり神獣とは構造からして人とは違うのだな、とどこか感慨深げだった。魔力だけで生きていけるとはなんとも便利そうだ、と思ったのだ。と、そんな海龍は笑いながらカイトへと問いかけた。


『貴様もそもそも魔力だけで十分だろうに』

「こういうのは気分だ気分・・・つーか、オレは魔力だけじゃ無理だっての」

『む・・・ああ、そうか。貴様はそうだったな』


 どうやら海龍はカイトを人外の何かと勘違いしていたようだ。笑っていた。そんな彼に対して、カイトは問いかけた。


「で、結局何さ?」

『ああ、そろそろ近いのでな。今日は貴様らが来たからか海が少し騒がしい。外に顔を出しただけだ』

「ああ、もうそんな時間か」

「近い?」


 勝手に納得したカイトに対して、桜が首を傾げる。ちなみに、実はユリィだけではなく弥生も知っているのだが、全員黙っていた。相変わらずこの幼馴染一同は良い性格だった。


「ま、それは見てのお楽しみ・・・もう少し、待っとけ」


 カイトが少しいたずらっぽく子供のように笑う。そうして、更に待つ事30分。完全に日は落ちて、星空が見えてきた。


「うわー・・・」


 誰かが、再び呆然と呟いた。もしかしたら、詳細を知るカイト達以外の全員かもしれない。それは、満点の星空だ。人の手が入っていないという事は即ち、周囲には月と星の明かりしか照らしていないのだ。

 とは言え、これだけならまだ普通に旅の最中で野営すれば見れる。が、同時に人里から遠く離れているが故に空気は澄んでいて、普通ならば見えない星々まではっきりと見えたのである。


「おいおい・・・驚くには、まだ早いぞ」


 が、そんな一同に対して、カイトが笑いながら告げる。これはまだ想像可能な領域で、幻想的ではあるが、幻想『的』なレベルだ。ここからが、ここでしか見れない絶景の在り処だった。


「・・・え?」


 どうやら一番に気付いたのは桜らしい。目に見えた光景に呆然となる。それは、彼らの目の前。『世界樹』に起きていた。


「光って・・・る?」


 楓が見えたままを告げる。そう『世界樹』が淡い緑色の光っていたのだ。とは言え、それは星々の明かりを邪魔する程ではなく、あくまでも世界の中に溶け込むかの様な淡い光りだった。


「こっちこっち」


 そんな一同に対して、密かに一番良さそうなポイントを探していたユリィが手招きする。というわけで一同は彼女に従って歩いていき、本当の絶景を目の当たりにする。


「あ・・・」


 人は感動して涙を流せる。それを一同は理解した。淡い緑色の光が虹を帯び、その後には漆黒の空に双子の月と無数の星が浮かんでいる。更にはそこに彼らをここに導いた神鳥が飛んでいて、見ればおそらく神獣達と思しき影がちらほらと見えた。幻想『的』なぞ比喩ではなく、真実幻想。その中に、彼らは居た。

 そして、これではまだ終わらない。というわけで、唯一それをこの場で知るユリィが、カイトへと小声で合図した。


「カイト」

「あいさ」


 カイトは何時ぞや着ていた礼服を少し改良した物を着込む。そして二人は浮かび上がり、世界樹へと向かっていった。


「さて・・・ただいま」


 カイトは世界樹の放つ緑色の光の中に佇み、自らの魔力と呼応させる。すると緑色の光が虹色に煌めいて、それに呼び寄せられるかの様に、小さな球が現れた。


「小精霊・・・?」


 舞い降りたのは勿論、小さな精霊だ。ここはどこよりも安全な場所だ。彼らが集まっても不思議はない。カイトの魔力がここまで満ち溢れれば当然だろう。そして、その一方。いつの間にか全ての加護を擬似的に付与されたユリィが、水面を舞った。


「あ・・・」


 その光景をどんな言葉で表せばよいか、誰にもわからなかった。一人の妖精が水面を精霊達と共に踊っていた。空には満点の星空。横には煌めく世界樹。水面はその光を照り返して虹色に輝いていた。


『見事な物よ』

「はい・・・」


 海龍の言葉に、桜も同意するしかない。それしかない。見事、もしくは綺麗。その一言で十分だし、おそらくそれ以上の華美な言葉はどんな言葉だろうとこれには事足りない。下手に言葉で修辞するよりも、短い言葉がこれほど有力となる事も珍しかった。

 ちなみに。実は彼女らの側に他の神獣達も集まってきていたのであるが、それに気付いた者は誰も居ない。もはや意識は完全にこちらに取られていた。


「あの・・・これは何なんですか?」

『うむ? ああ、あの光か』


 しばらくして我を取り戻した楓の問いかけを受けて、海龍が改めて世界樹を見る。カイトが行く前から、緑色の光があったのだ。何なのか、と気にはなるだろう。


『ふむ・・・のう、小娘。お主、疑問には思わぬか。世界樹はなぜ寿命があるのだろうか、と』


 海龍が問いかける。それは生き物である以上別に可怪しい事ではなくて、しかし世界樹という役割を考えれば可怪しい話ではあった。


『世界樹は世界との対話を行う為の木・・・それ故、滅びては拙いのではないか。誰もが抱く疑問よ。しかしそれは滅びと共に次の世界樹が現れるが故にそういう物なのだろう、と誰もがスルーする。が、疑問は解決されぬままだ』


 海龍は告げる。なぜ世界樹が滅びるのかを解き明かせた者は居ない、と。


『が、誰も世界樹のもう一つの役割を知らぬ。世界樹に魔力が集まる事を知っていて、そこに考察は行わぬ。なぜ、世界樹に魔力が集まるのか、と』


 海龍が笑う。当たり前が当たり前すぎて、誰も把握していない。謂わば『1+1=2』という問題だ。誰もがこの数式を当たり前に処理しているが、それを学術的に証明する事を考えた時に非常に難しい理論になる、という話である。


『世界樹には世界中の魔力が集まる・・・そしてその流れを、人の子は地脈や海脈と呼んだ・・・では、なぜ世界樹に魔力は集まるのであろうな』

「なぜ?」

『うむ。なぜ、集まるのであろうな』


 海龍は重ねて問いかける。それはどこか楽しげでさえあった。だがそれは当然、楓にはわからなかった。これでわかれば彼女で無くても今頃誰もが理解しているだろうからだ。


「簡単さ。世界樹は魔力を濾過しているのさ」


 そこに、カイトが舞い降りる。どうやら演技は終了したらしい。


「魔力を濾過?」

「ああ。さて、ここで問題だ。死んだ魂はどうなると思う?」

「輪廻転生の輪に還る・・・でしょう?」

「その通り」


 カイトが人差し指で丸を描く。それは魔力で出来た輪っかとなって、二人の前に留まった。それはまるで魂が還ってきているかの様に周囲から様々な色の光の珠を吸収して、そして無色透明な珠を外へと放っていた。


『死した魂は人の子が言う脈を通って星を巡り、世界樹へとやって来る・・・が、ここで一つの問題が起きる』

『死した魂の持つ淀んだ願い・・・生きたいという純粋で当たり前の願いだけではなく、まだ遊びたい。まだ欲しい。まだ食いたらぬ。恨めしい・・・そういった感情を魂が肉体を離れても持ち続ける。魔力とは意思の力。魂の持つそれら感情もまた、色付けされた意思としてここに還ってくるのです』


 海龍に続けて神鳥が楓へと告げる。そうして、カイトが引き継いだ。


「それを、どこかで濾過してやらないと次の一生に行けない。そういった欲望と言うべき感情を次生にも持ち越せば、何時かは欲望に黒く歪んだ魂が出来上がるわけだ・・・それを濾過してやってるのが、世界樹なのさ」

『それ故、人の子は誰も世界樹に触れない。本能として、これに触れてはならないと理解しているのです』

『防衛本能と言うべきであろうな。これを折れば自分達が不利益を被る、と』


 楓も三人が言わんとする事は理解出来た。もしこれが折れてしまえば、人は次の一生へと行けない。いや、行く事は出来るのかもしれないが、それが真っ当な魂であるかは不明だ。少なくとも、楓には良い魂とは思えなかった。


「ま、そう言ってもいくらなんでもそんな感情を濾過するのだって限界がある。もしこれがたまり続ければ、『世界樹』が魔物化する可能性だってある。魔物の発生原理の逆パターンだな」

「外には出さないの?」

「出すぞ。だから、こいつらが居る」

『我々は本来外敵から世界樹を守るではなく、もし万が一世界樹の放った負の魔力とも言うべき魔力が魔物化した場合、それを討伐する為に存在しているのです』


 カイトの言葉を引き継いで、神鳥が答えた。が、放出していたとしても、やはりいつかは限度が訪れる。100%全てを外に出せるわけではないのだ。何時かは、その蓄積が限界値を迎えて、その時が世界樹の寿命となるのであった。所詮世界樹とて生き物なのだ。限界はあったし、それは仕方がない事なのであった。


『ああ、ちなみに言うが。小娘達が見ていた光は浄化された魔力が外に放出される時の魔力が可視化した物だ。安全だから安心しろ』

「いくらオレでもんなもんに触りたくはないし、ドロドロにいろんな感情が混ざりあった魔力があんなきれいな色を出すはずが無いからな」


 カイトが笑う。人の魂によって、その人の抱える魔力の色は様々だ。つまりそれは魂にも色があるのだろう。そんな色が無数にあるのだ。その全てを混ぜ合わせれば、黒になるだろう。それもきれいとは言い難い黒だ。あんなきれいな緑色になる事は無いだろう。


「で・・・まぁ、そういうわけだから、ここら一帯は『禁足地』なわけだ」

「へー・・・」


 楓が頷く。どうやら、納得が得られたらしい。ちなみに、この会話は既にカイトの演目が終わった事で他の面子も聞いていた。が、主体となっているのが楓だったので、全て彼女が受け応えていただけだ。


「ま、実際には常日頃放出されてるんだが、どうにも夜には星明かりと共鳴してるのかなんなのか夜だけは見えるらしい」

『さて・・・そこらなぜ可視化するかは、我らにもわからんことよ』


 カイトの言葉に海龍が応ずる。結局、なぜ可視化するのか、というのはわからないらしい。とは言え、さもありなん、だ。実はティナが更に後年になり宇宙空間に観測装置を置いて判明した事なのだが、どうにも『世界樹』同士を通じて星々が共鳴しているらしい。

 発光現象はその共鳴現象によって起きているそうだ。カイトの当てずっぽうの言葉が一面の真実を捉えていたのであった。なぜ夜なのか、というのはその時でも不明だ。もし解き明かそうとするのなら、エネフィアと言う意味ではなく本当の意味で世界中を、星の海を巡って色々を調べなければならないだろう。

 そうして、そんな形で見た光景についてを説明されて、一同は感動を覚えたまま、幻想郷の中でこの日は眠りに就く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第830話『パイロット』


 2017年6月11日 追記

・誤字修正

『驚く』が『お届く』になっていたのを修正しました。

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