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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第47章 過去より蘇りし者編

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第827話 さらば異国の地よ

 カイト達が飛空艇を受け取ってから、更に3日。買い出しも各種の手続きも終わり、ようやく出発出来る状態が整っていた。とは言え、朝一に出発する事にしたかったので、この日はヴァルタード帝国で過ごす最後の晩餐、という所になっていた。


「ふぅ・・・」


 どうせなら大騒ぎをしたい所であるのだが、面子が面子だ。桜と楓はあまり馬鹿騒ぎは苦手だし、瞬も翔も気が乗れば参加する様なタイプだ。

 というわけで、談話室でささやかな宴会を、という程度だった。が、それももう終わり桜達も自室へ戻り皐月は寝息を立てていた。そんな中でカイトは何をしていたかというと、少し懐かしそうに帝城から外を眺めていた。


「懐かしいな、ここから見る景色も・・・」

「前に来た時はメイド服で女子寮だったよねー」

「一生の汚点だな・・・」


 ユリィの言葉にカイトが嘆きの色を深める。さて、これでわかっただろうが、かつてカイトが女体化させられて潜入する事になった場所というのはここだった。その際はメイド服を着せられた挙句女子寮に入れられたのである。


「はぁ・・・今日でお別れか」

「砂漠、行かないで良かったねー」

「あの暑っ苦しい地獄に入らなくて良いのなら、それが一番だ」


 カイトがため息を吐いた。まだギリギリ北半球に属している帝都アンシアであるが、ここから南に行けば南半球へと入り、赤道直下から南半球に跨った大きな砂漠があった。

 そこはかなり広い上に魔物も強い危険地帯だ。勿論、砂漠故に根本的な気候として問題も多い。一応ルーミアとはまた別の古代文明の遺跡があるのであるが、流石に今回はそこは行く必要は無かった。


「・・・っと、地図地図」


 ユリィと共にお酒を片手に話していたカイトだが、別にそんな過去を懐かしむつもりで駄弁っていたわけではない。明日の朝には飛空艇を発進させて、昼にはヴァルタード帝国の領土から出る。それ以降は公海上になるので、何処を飛んでも問題がない。そこの打ち合わせをしておこう、と考えていたのであった。


「えーっと・・・大雑把な世界地図だと、世界樹を中心として・・・」


 カイトは地図を見ながら、飛空艇の移動ルートを考える。世界地図は無いが、簡易的な物ならば出来上がって飛空艇専用に備え付けられている。そうでもないとどこを飛んでいるかわからないので、簡易的な物は普及していたのであった。

 ちなみに、そう言っても流石に世界中を見れるわけではなく、ポートランド・エメリアの面する大洋の周辺だけだ。例えばラグナ連邦が面するエネシア大陸西側の大海に関しては描かれていない。

 もし必要な場合はその時に応じて国――この場合はラグナ連邦――に申請を出して、その必要となる海域の地図を貰わなければならないのであった。そういうわけで、今回はヴァルタード帝国からエンテシア皇国行きの海図が貰えたのであった。


「世界樹の周辺はやっぱり何も無いね」

「地図の中だけは、だけどな」


 カイト達の見る世界地図は、中心がぽっかりと空洞になっていた。とは言え、空白になっているのではなく、円形で『禁足地』と書かれている。こここそが、世界樹のある一角だった。

 世界地図、特にエンテシア皇国・ヴァルタード帝国・千年王国ラエリアを往来する為に使われる世界地図は、この『禁足地』を中心として作られている。何より大切なのが、この『禁足地』だからだ。が、カイト達はここを通るつもりだった。


「高度は3000メートルで行くか」

「その高さだと・・・神鳥様の空域に入らない?」

「それが目的だ。道案内頼みたいからな」


 カイトが肩を竦める。神鳥というのは、世界樹を守る神獣の一体だ。世界樹の周辺を飛び回って魔物が接近すれば迎撃し、安易に近づく愚か者が居ればそれに警告を与えて、従わない場合は撃退するのであった。というわけで普通は近づかないのであるが、そこはカイトだ。顔なじみなので顔パスであった。


「道案内と言うより護衛じゃない?」

「そうとも言う」


 カイトが苦笑する。今回、輸送艇で大洋を横断する、と普通ならばやらない事をカイト達はやろうとしていた。とはいえ、輸送艇は輸送艇だ。武装は殆ど無い。

 一応上部ハッチを開ければ外に出れるので自分達で守れば良い話だが、心許ない事は心許ない。守りが欲しい事は欲しいのであった。


「それに、どこかで最低一泊は必要だからな。『禁足地』の中なら、安全だろ?」

「ま、それもそうだね」


 カイトの言葉にユリィも応ずる。『禁足地』に入ってしまえば、魔物は皆無だ。飛空艇を停泊させても安全に休憩出来る。 

 ちなみに、なぜ何処かで最低一泊は必要なのかというと、エンジン等に問題が無いかどうかを確認したいからだ。新しく貰った飛空艇だ。しかもエンテシア皇国製ではない。動かしてみてどこかに異常が無いか、というのを確認しておきたかったのである。

 もちろん、もし寝てる間に魔物に襲われると面倒だから、という話もある。魔物達はこちらが寝ているから、と容赦してくれるわけではない。一応魔物の接近を知らせる警報機が備わっているが、空域によっては不寝番が必要になる事も多い。人数が少ないのでなるべく停泊して休もう、と考えていたのであった。


「良し・・・じゃあ、これで行くか」

「うん・・・じゃ、おやすみ」

「おう、おやすみ」


 とりあえずの帰り道を決めたカイト達は、そのまま今日は明日に備えて眠る事にする。そうして、ユリィが布団に入ったのを横目に、カイトはもう少しヴァルタード帝国最後の夜を楽しむ事にして、月を肴に酒を飲むのであった。




 明けて、翌朝。カイト達はヴァルタード帝国帝城を後にしていた。


「見送りは無し、か・・・」

「そりゃ、一応は秘密裏に来た、という話になっているからな」


 どこかさみしげな翔の言葉に、カイトが道理を説く。今回は口止め料があった様に、そもそもカイト達が来ている事を知っているのは極一部の限られた人員だけだ。大々的に迎え入れられたわけではなく、来る時も密かにであれば帰る時も密かに、であった。とは言え、見送りが無かったわけでは無かった。


「ああ、間に合いましたね」

「ティトス殿?」


 カイト達が歩いている後で馬車の停止した音を聞いて振り返れば、そこにはティトスがいた。立ち位置から考えると、馬車から降りてきたのだろう。そうして更にその後から、日傘をさしたフューリアが姿を現した。


「母上がどうしても最後のご挨拶を、と」

「ええ。ごめんなさいね、碌な見送りも出来ず・・・」

「いえ。こちらこそわざわざお見送り頂きありがとうございます」


 フューリアの言葉にカイトが片膝を付いて頭を下げる。本来なら平服すべきなのだが、カイトなので片膝で許されるのであった。それに幸い、殆ど注目はされていない。他の面子もこれで良いだろう、という判断だ。


「じゃあ、桜ちゃんと楓ちゃんも、元気でね。皐月ちゃん、存分に例のあれ、楽しめたかしら?」

「はい。存分に」

「ふふふ。それは良かったわ」


 皐月の返答にフューリアがコロコロと品よく笑う。どうやらカイトを弄ぶ事まで、彼女の想定内だったのだろう。彼女も彼女で良い性格だった。そうして、どうやら次の仕事が迫っているらしく雑談をそこそこにティトスが彼女へと馬車に乗る様に促した。


「母上。商工会の奥様方との面会の時間が・・・」

「あら・・・じゃあ、皆さん。また来てくださいね。勇者様も、次は是非本来の身分で来れる事を祈っています」

「ありがとうございます」


 フューリアは一つ頭を下げると、カイト達に背を向けて馬車に乗る。そうしてティトスが最後に残ったが、彼も一つ深々と頭を下げると、馬車に乗って扉を閉めた。


「行ったか・・・ま、皇弟殿下と先帝のお妃殿下にお見送り頂けたんだ。悪い出発じゃあ無いな・・・良し。オレ達も行こう」


 カイトが笑って、一同に先を促す。そうして、カイト達は出入国管理を行う場所へと行き、出国手続きを終えて今度こそ、帝都を後にする事になるのだった。




 大体出国手続きから1時間。カイト達は出国審査に通った事を受けて、貰った飛空艇に乗り込んでいた。流石に周囲の迷惑になる可能性のある飛空艇の発着場でド素人の瞬達に運転させる事は無く、パイロットはカイトが務める事になった。


「始動キー、セット」

「メインエンジン起動・・・励起状態へ移行。出力上昇・・・5%・・・10%・・・」


 カイトの操作を受けて、オペレーター席に座る一葉がエンジンの状況をカイトへと伝達する。ちなみに、この輸送艇は規模としては中型艇に分類される。なので一応は艦長席もあった。

 なお、そこには何処から取り出したのかエンテシア皇国軍の艦長の帽子をかぶったユリィが腰掛けていた。ついでに偉そうにパイプを加えた挙句に軍の羽織まで羽織っている。


「管制官。こちら管理ナンバー753。出力飛行可能領域へと到達。指示を」

『こちら管制塔。了解。もうしばらく待て』


 カイトは再度エンジン出力が離陸可能な領域に達したのを確認して、管制官からの応答に従う。ここらはカイトがかつて居た当時に地球の空港を原案に構築したプランが流用されていた為、基本的には地球での飛行機の離着陸と一緒だった。そうして、待つ事5分程。管制官から応答があった。


『・・・管理ナンバー753。離陸を許可する』

「ありがとう」


 管制官の言葉を受けて、カイトが出力を上げていく。ここらは、地球の飛行機とは違う所だ。飛空艇には離着陸に滑走路はほぼ必要がなく、垂直離着陸が可能だ。ということで飛行機の離着陸よりも安全の確保に必要な空間は小さくて済んだ。そうしてそれを受けて、カイトが更にエンジン出力を上昇させていく。


「エンジン出力20%・・・30%を突破。マスター、離陸可能です。計器に異常は無し」

「了解・・・こちら管理ナンバー753。これより離陸する」

『了解・・・離陸を確認。高度10・・・20・・・100メートル突破。誘導に従い、街を出るように』

「了解。計器に異常無し。高度はこちらの表示でも100メートルを指し示している」

『了解。では、安全装置を解除する』


 カイトの言葉を受けて、空港の管制官が管制塔が持っていた飛空艇とのリンクを一部解除して、安全装置を更に解除する。飛空艇は飛行機と一緒だ。やろうとすれば街に墜落させてテロさえ起こせる。なので街の中に入った時点でコントロールの一部は管制塔側が保有する事になっていたのであった。

 とは言え、そのままでは離着陸は満足に出来ないし、信号が届く距離も然り、一度にコントロール出来る数だって有限だ。なのである程度の所でコントロールは返されるのであった。


『速度30キロを維持してくれ』

「了解。速度30キロ毎時・・・到達。維持する」

『確認した。以後10分はそのまま待機してくれ』

「了解・・・ふぅ」


 なんとか無事離陸を終了させて、カイトが深く椅子に腰掛ける。基本的には、これで大丈夫だ。後は10分後に再度管制官から連絡が入り、管制塔とのリンクが完全に解除されて自由になるのであった。


「意外と簡単なんだな」

「意外とな」


 瞬の言葉にカイトが応ずる。瞬は今、カイトの側に居て離着陸の際の応対とそのやり方を見ていたのであった。彼の言うとおり、離着陸の方法は非常に簡単だった。

 スロットルを操って出力を既定値まで上昇させ、コントロール用の魔道具に手を乗せて飛空艇を上昇させて、だ。カイトがやったのはそれだけだ。地球の飛行機の様にオートパイロットの起動等、複雑な操作は皆無だった。


「まぁ、軍用の飛空艇じゃないからな。軍用だと一応軍用の通信機とか銃座の起動スイッチがあるが、これは民間品だからな」


 どれだけ頑張っても、一般に普及する品は軍用品よりも性能は低い。そして搭載されている物についても、それ相応だ。武装については考えるまでもない。なのでそれに応じて必要のないスイッチやコントロールレバーの類はオミットされていたのだ。


『こちら管制塔。ナンバー753どうぞ』

「こちらナンバー753」

『1分後にこちらの管理下から離れるが、問題は?』

「・・・無い」


 一葉が首を振ったのを見て、カイトが管制官へと答える。今の所、全体的にシステムはオールグリーンらしい。既に起動から10分以上。出力は安定しているし、他のシステムについても問題は出ていない様子だった。この様子だと、問題は出ないだろう。そうして、更に1分。再び管制塔から連絡が入った。


『こちら管制塔・・・ナンバー753こちらの管理下より離脱まで10秒・・・5、4、3、2、1・・・リンク切断。管理下から離れた』

「確認した。指示及び誘導に感謝する」


 カイトは自らの席から見れる計器をチェックして、飛空艇がヴァルタード帝国の管理下から離れた事を確認する。そしてそれが確認出来れば、この会話が最後の別れの会話となる。


『了解・・・では、よい旅を。グッドラック』

「ありがとう」


 管制官の激励とカイトの感謝を最後に、通信が完全に途絶する。これで、後は自由に動ける事になった。空港や街の付近に着地しない限りは、何処に着陸しようと何処を飛ぼうと、カイト達の自由だった。とは言え、これで全部が終わったわけではない。


「一葉、出力上昇60%。モニターを」

「モニターを開始します」


 カイトの指示を受けて、一葉が出力のモニターを開始する。ちなみに、一葉にエンジン出力のモニタリング、二葉は万が一魔物が接近した時に備えて火器管制システムの調整と運用、三葉が二葉の補佐をするセンサー類のチェックとモニタリングを行っていた。


「・・・出力60%を突破。安定しています」

「良し。高度上昇開始・・・8000メートルへと上昇させる」

「出力尚も安定・・・」


 カイトは一葉の言葉を聞きながら、飛空艇の高度を上昇させていく。流石に高度100メートルで移動出来るわけがない。地上から狙い撃ちにされる可能性があるからだ。飛空艇は高度を稼いで安全性を確保する物だ。管理下から離れてまずやることは、高度を確保することだった。そうして、更に10分。目標の高度へと到達した。


「高度8000メートル。巡航速度へと移行・・・一葉。巡航速度へ到達と共に自動操縦を開始させる」

「了解。自動操縦準備・・・確認。方位良し。マザーが製作したGPSシステム起動。現在位置測定・・・完了。現在地、帝都アンシアより東に50キロ。巡航速度到達を確認。自動航行を開始」


 規定の高さまで飛空艇が上昇した事を確認した一葉が自動操縦を始動させる。基本的に大陸間の移動は超長距離だ。しかも大半が一直線に移動だ。操縦する必要は無い。というわけで、出力と速度を維持する自動操縦に任せるのが、一般的だった。

 そしてそこまで至れば、もうコクピットから離れても問題はない。地球では飛行機が普及してまだ100年だが、エネフィアでは普及してから約50年。地球の4倍の時間があるので実質的には200年だ。その分、自動操縦に関してはこちらが発展していた。

 そうして、カイト達は自動操縦に任せる事にして、飛空艇はそのまま一直線に移動を続けて、数時間後にはヴァルタード帝国を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第828話『飛空艇』

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