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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第46章 娯楽の街編

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第818話 閑話 商人と勇者の会合

 時は300年前。カイト達がまだ義勇軍を立ち上げた頃の話だ。やはり何をするにも金が要る。特に軍の運用になれば莫大な金が無ければ回らない。


「はい、せーの」

「「「お金が無い!」」」


 300年前の義勇軍の拠点にて、カイト達が一斉に問題点を告げる。この当時はまだ飛空艇も無く、有名でも無かった。義勇軍の規模としても総勢200名ほどというそこら辺の義勇軍と大差無い状況だった。


「おい、ウィルー。金無いけどどうすんのさ」

「今考えている・・・ちっ。誤算だったな。ここまで予算がカツカツになる予定では無かったのだが・・・」

「原因は?」

「・・・あれだ」


 カイトの問いかけを受けて、ウィルがその原因を指し示す。そこにはルクス、バランタイン、ルシアの三人が立っていた。


「だよな・・・おい、クソババア!」

「何じゃ小僧共」

「いって!」


 飛んできた石礫がカイトの脳天を直撃し、昏倒する。この当時はカイトよりもティナの方が圧倒的に強かった。が、カイトの口の悪さも年相応だった。


「いててて・・・」

「はぁ・・・貴様の口の悪さは治らんな・・・っと、魔帝殿。少々費用の浪費を抑えたい。何か手は無いか?」

「ふぅむ・・・」


 ティナが先程カイト達が見た方角を見て、ため息を吐いた。とは言え、どうにか出来るわけでもない。なにせそこに居たのは、飢えた民草達だ。しかも子供も多い。如何にこちらも困窮しているとしても、見捨てられる状況では無かった。そしてそれは、ティナとてわかりきった話だった。


「見捨てる、ことはしたくはないのであろう?」

「出来るわけもなし」

「痩せた土地を戻せるにしても、種を植え、苗を育て、と短くとも二ヶ月は欲しい。小麦とは言わん。じゃがいも等で十分だ。それに、幸い冬では無いからな」


 頭を擦るカイトに続けて、ウィルが実情を語る。戦乱で荒れ果てて痩せこけた土地については、カイトの力とノームの力を合わせて活性化させている。大精霊の力は伊達ではない。それぐらい魔力さえあれば可能なのだ。ゆくゆくは定常的な食料の入手が可能になるだろう。

 が、それでも時間が必要なのだ。いくらカイトと言えども作物の成長を早める事は出来ない。食料を無尽蔵に供給する事は出来ないのだ。


「ふむ・・・」

「この状況で食料を持ち合わせているとなると・・・商人ギルドの商人達、しかおるまいな・・・小僧その2。なんぞ伝手は無いのか?」

「ふむ・・・」


 ティナの言葉を受けて、ウィルが頭を悩ませる。残念ながらこの時代、魔族は受けが悪い。ティナでは篤志を頼めないのだ。おまけに彼女の持つ大半の伝手はティステニアによって破壊されている。伝手は殆ど残っていなかった。


「それか、浮遊大陸を見つけ出すか、か」

「そうじゃな。あそこなら、食料にまだ幾分の余裕はあろう」

「とは言え、問題はどこにあるかわからない、という所か・・・輸送手段も無いしな・・・魔帝殿の開発中のあれは?」

「まだ、じゃのう・・・どちらにせよ、そこの部分の金も要るのう・・・」


 あれも駄目、これも駄目、とウィルとティナは意見を出しては、それを二人で切り捨てていく。なお、浮遊大陸からの食糧供給はやはり却下になった。この当時に飛空艇はまだ開発されていない。現在はカイトの提案の下、ティナの主導で設計中だ。試作機が開発されるのさえ、これから5ヶ月も先の話だった。輸送手段が無かったのである。


「人間飯無くても尊厳ありゃなんとかなる。尊厳無くても飯ありゃなんとかなる。でも飯も尊厳もなくなると、獣に堕ちるからなー」

「そういや、家康公がぼやいとったのう。信長公が本願寺で大層痛い目を見た、つーっとったか」

「オレはしんない」

「お主、毛利じゃろ。しかも毛利の姫じゃからのう」


 そんな横で、武蔵と旭姫がぼやき合っていた。二人は戦国乱世の生まれだ。戦での補給線――特に食糧――の重要性については嫌というほど理解していた。と、言うわけで軍議に参加させられていたのである。


「武蔵殿。できればご意見をお聞かせ願えないか」

「ふーむ。まぁ、そりゃ、篤志家を募るしか無いじゃろ。金持っとる所にせびりに行くしか手はあるまい」

「それができれば苦労はしない。その篤志家となり得る商人達が敵と繋がっているのだ」

「ふーむ・・・面倒と言うか、上手い奴じゃのう・・・こちらの補給線を潰すか・・・」


 自分達の安全が保証されているのに、わざわざ死にに行く商人達は居ない。それは武蔵からしても理解出来ていた。


「補給線となり得るのは、やはり各国の上層部か・・・うーむ・・・とは言え、カイトの伝手は使いたくはないんじゃろ?」

「そうじゃなぁ・・・大精霊の威厳は滅多に出さぬからこその威厳よ。乱用は禁物じゃな」

「ふぅむ・・・カイト、お主何か意見は無いのか?」

「んー・・・ヴィクトル商会は?」


 武蔵の問いかけを受けて、カイトが答える。ここら一帯で一番お金持ってるのはどこか、と考えた時、この名前しか出てこなかったのだ。


「駄目だ」

「うむ、駄目じゃ」

「どして?」

「教えとらんのか?」

「ああ、そう言えば・・・すまん。まぁ、わかりやすく噛み砕くと、あそこの会長・・・タリア・ヴィクトルは魔王ティステニアと取り引きをしている。いや、正確には密約か。自らの治める地には手を出さない、というな。彼女は確実に手を貸してくれない。金稼ぎしか興味のない守銭奴だ。自らに被害が出ない限り、篤志に応じてくれる事は無いだろう」

「んー・・・そか」


 ウィルの説明を受けて、カイトが僅かに訝しむ。が、そんな顔はウィル達が軍議に戻った事でスルーされた。


「そんな人には思えないんだけどな・・・」

「行ってみる?」

「か。もう一回行ってみて見える事もあるかもな」


 カイトとユリィは二人して、どうしても違和感が拭えなかったらしい。というわけで、会って話してみよう、と思ったようだ。と、そうして立ち上がったカイトとユリィに、ウィルが首を傾げた。


「うん?」

「ちょっとヴィクトル商会に行ってみる。ここから本社、近いだろ?」

「無駄だが・・・まぁ、良いか。お前の腕なら、一人で問題はない。が、大精霊は使うなよ」

「わかってるって・・・じゃ、行ってくる」


 この頃にはカイトは単独で大抵の所に行けるレベルにはなっていた。ということで、ウィルもカイト単独――と言ってもユリィはいるが――で向かう事を許可する。


「どこ行くの?」

「ちょっとヴィクトル商会の本社」

「行く」


 ぴょこ、とアウラがカイトの背中にへばり付く。幸い怪我人の治療は終わっている様子だった。


「んー・・・ま、いっか。クズハは?」

「孤児達と一緒に寝てる」

「じゃ、大丈夫か・・・ネストさーん! ちょっと出かけてくるけど、クズハお願いしまーす!」

「おーう! 行っといで! 気を付けてな!」

「あいよー!」


 とりあえずお昼寝の真っ最中らしいクズハをネストにまかせて、カイトは野営地を後にして、300キロ先にある当時のヴィクトル商会の本社がある街へと向かう。

 そこは、大戦中だと言うのに活気にあふれていた。ヴィクトル商会と魔王ティステニアの密約によって、この街には攻め込まれないのだ。と、そうしてたどり着いたカイト達だが、カイトは街に入らずに別の所を目指す事にした。ここに来たのはここが単なる目印だからだ。


「ここじゃないの?」

「うん・・・えーっと、確かここから南だったよね・・・?」

「確かな・・・まぁ、一応・・・シルフィ」

「はいさ」

「ここから南に村ある?」

「んーとね・・・あ、あった。案内するよ」

「頼んだ」


 カイトは念のためにシルフィを呼び出すと、彼女の案内で南にあるらしい村を目指して走り始める。するとそこにあったのは、長閑な村だ。戦争とは無関係なほどに平穏が保たれていた。

 特徴といえば一軒の大きな家がある事と、村の前にヴィクトル商会の看板が立っているぐらいだろう。看板はここがヴィクトル商会の管轄にある事を示す物だった。


「ここは?」

「ヴィクトル商会の会長タリアの別荘のある村・・・らしいな」

「そうなの?」

「ああ。前ここらを彷徨ってる時にここに着いたんだよ。で、その時聞いた」


 まだカイトが復讐者として彷徨っている時に、カイトはここにたどり着いていた。偶然ではあるのだが、その偶然こそが、ここで大きな意味を持っていた。と、そうして看板の前に立っていると、偶然農作業から帰って来たらしい農夫達や村の警吏の兵士と出会った。


「おや・・・随分昔に行き倒れてた旅人さんじゃぁないか。蒼い髪に変わっていたからわからなかったよ」

「お久しぶりです、村長さん」

「随分と穏やかな顔になられましたね」


 どうやら農夫達に混じって村長も一緒だった様子だ。過日に世話をした少年だった事を見て、警戒を解いてくれた。


「あはは・・・あの頃はすいませんでした。碌な話も出来ず・・・」

「いえ・・・今も冒険の最中ですか?」

「ええ、まぁ・・・すいません。本当はお礼の一つも持ってこれればよかったんですけど・・・偶然近くに立ち寄って、ああ、そう言えば、と思い出して寄らせて頂いただけです」

「そうですか。それで、その後の女の子は?」

「ああ、家族です。実はオレ、養子で・・・そこの家の姉です。今はその拾ってくれた人も・・・」

「そうですか・・・」


 村長とカイトは僅かな時間、会話を行う。とは言え、カイトとて彼らと話し合う為にここに来たわけではない。というわけで、社交辞令もほどほどにして本題に入った。


「以前私を助けてくれた女性はいらっしゃいますか?」

「ああ、サリアですか? ええ、丁度帰ってきていますよ」

「彼女にもお礼を言いたくて」

「なるほど。では、行ってきなさい。彼女も忙しい身だ」

「はい」


 カイトは村長達に見送られて、村で一番大きな家へと向かう。そこはヴィクトル商会の社長の別荘だった。


「サリアさん。お久しぶりです」

「あら・・・?」

「あはは。覚えてませんか? 1年前に貴方に救われた・・・」

「あぁ、あの時の冒険者さんですのね。元気になってよかったですわ」


 カイトの言葉を聞いて、サリアという女性が笑顔で頷く。お上品で、柔らかな笑顔だった。彼女はここの家の使用人らしい。


「偶然近くを寄ったので、お礼を、と」

「まぁ。そんな事考えなくて良いですのに」


 サリアはお上品にカイトの言葉に応ずる。そうして、暫くカイトはサリアと会話を交わしていく。が、夜も近くなった頃に、カイトは会話を切り上げる事にした。


「あ、ではもう行きますね。お茶、ありがとうございました。最近は飲める事も無いので・・・」

「あら・・・昔みたいに泊まっていって頂いて結構ですのに。ここは会長も滅多に帰ってきませんもの。帰ってくるのは年に数回。安心して大丈夫ですわ」

「あはは。実は少し遠くで仲間が待ってまして。近くだな、と気付いて少し駆け足で来ただけなんです。で、今回はこいつも居ますしね」

「あら・・・では、また来てくださいな」

「はい。大戦が終われば、必ず」


 カイトはそう言うと、別邸を後にする。そうして、彼らは一度野営地に戻る事にした。そこでは結局結論が出ないまま、軍議が続いている様子だった。行き先もまだ決まってない様子だった。


「んー・・・」

「おーう、おかえり」

「おーう、ただいま、おっさん」

「何をしていたのですか?」


 軍議にはどうやら食糧の配給を終えていたルクスとバランタインが参加している様子だった。ということで、カイトは彼らに出迎えられて、自分の席に座る。すると、それと同時にウィルが問いかけた。


「無理だっただろう?」

「いや・・・行けるんじゃね?」

「はぁ?」

「明日、とりあえず行ってみるか」

「じゃあ、明日はそっちで?」

「ああ、それで」

「いや、勝手に決めるな」


 ラシード――部隊の副長なので参加していた――の問いかけを受けたカイトが即断すれば、ウィルが待ったを掛ける。何時もの事といえば、何時もの事だった。


「なんでよ」

「だから、その根拠は?」

「んー・・・勘。そんな悪い人じゃないと思うんだよな、商会の会長。実際、オレ助けてもらったし」

「「はぁ・・・」」


 それだけが理由か。ウィルとティナが呆れ返る。誰だって時には人助けをする。ただ自分が助けられただけで人を信じるというのは、この当時のカイトの悪い癖だと二人は思っていた。


「ま、行ってみようぜ」

「はぁ・・・わかった。貴様が隊長だ。明日はそちらに向かう。どちらにせよあそこには依頼も多いだろうしな。小遣い稼ぎは出来るか」

「じゃな。悪い判断ではないか」


 どちらにせよどこに行くか、というのは考えられていなかったのだ。このままここに居た所で問題だ。村を焼かれた者達を何処かに避難させる必要もある。そうして、カイト達は翌日からヴィクトル商会の本社がある街へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第819話『閑話』

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