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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第46章 娯楽の街編

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第816話 博打打ち達の夜

 ガッシュの退場により一時期的に静まり返ったカジノ全体であるが、それをそのままにしておくタリアではなかった。実は彼女が出て来たのも客同士の揉め事で白ける場を想定して、客達にヴィクトル商会の運営するカジノの対応力を見せる為だった。


「さぁ、決着が着いた! そこの楽団共! 給料泥棒じゃないんだから、何ぼけっと突っ立ってんだい! 大儲けした客が居る以上、綺羅びやかな音楽で祝福してやりな!」


 当然だが、あんな騒動だったのだ。場は白けていて、今日はこれで帰ろうか、と思っていた客は少なくない。とは言え、それでは利益が減るのだ。というわけで、カイト達の圧勝に気圧されたり魅入っていたオーケストラ達に命じて、今のムードを一変させる様な音楽を鳴らす様に命ずる。


「・・・良し」

「タリア殿。一つ私から、申し出たい事がある」

「なんだい?」


 アップテンポで綺羅びやかな音楽が鳴り響き始めたカジノのホールで、カイトがタリアへと申し出る。今回の責任はカイト達には無いが、それでも場が白けてしまった原因の一つではある。であれば、カイトもヴィクトル商会が儲けるのに一役買うか、と思ったのだ。


「今回の出来事は私の連れ合いも私も原因の一端だ。その責任を取らせて頂きたい」

「ほう・・・なんだい?」


 タリアをはじめ、周囲の者達がカイトの発言に耳を傾ける。今カイトは一時時の人となっている。誰もが興味津津だった。


「と言ってもどういうことではない。彼女らのメダルについては、先に全て取り返させてもらっている。残っているこのメダルは全て、元々ここで喧嘩を売ってきたあの男とその相方の物だ。持っていても縁起が悪い。ということで、この金を全て使い、このカジノの者達に一杯ずつ奢らせて貰いたい。足りない分は後で私に請求してくれ」

「ほう・・・」

「「「おぉー」」」


 タリアがカイトの意図を把握して笑みを浮かべ、周囲の客達が気前の良さに目を見開く。クリープと相方の有り金は全部でかなりの額に上っていた。

 正確な枚数はカイトも数えていないので把握していないが、日本円にして言えば百万円は超えたぐらいだろう。桜達に目を付けるまでにも彼らは勝負していたのだ。そこでの稼ぎを含んでいるのだから、これぐらいはあった。と、そうしてタリアに注目が集まるが、その彼女は一瞬で自分がどうすれば一番儲けられるか、をはじき出していた。


「ははは! さすが勝ったお客様は気前良いねぇ! とは言え、客にだけ出されては私の面子も無い! 足りない分はあたしが持とうじゃあないか! おい、誰か来な!」


 タリアが敢えて周囲に聞こえる様に笑いながら声を張り上げて、従業員を呼び立てる。そうして従業員の中でも上役に位置する者達が来た所で、カジノの客達の見守る中、彼らに敢えて聞こえる様に今日だけの特例を告げた。


「私とこの方からの奢りで、本日24時まで限定で勝負に臨まれる方々へ最初の一杯のドリンク無料にしてやりな。景気付けってやつだ。ああ、全部のドリンクだ。高かろうと安かろうと関係ない。カジノで勝負に臨む勝負師達限定で、これから一杯目は全部無料だ」

「「「おぉおおお!」」」


 タリアの気前の良い言葉に、周囲の勝負師達が声を上げる。ここはヴィクトル商会が運営するカジノだ。となれば、各地の名酒も取り扱っている。

 勿論、その中には高い酒も多い。一杯だけだが、普段は憚られる様な高い酒を飲めるのだ。誰もがこぞって勝負に挑み、近くの従業員達に好きな酒を頼み始めた。

 カジノでの勝負に酒はつきものだ。酒精を纏い、勝負に艷を纏わせ弱気になりそうな自分を強くするのだ。ある意味、酒とバクチは切っては切れない縁だろう。


「重畳重畳」


 一気に騒がしくなり始めたカジノ全体に、タリアが笑みを浮かべる。この話は遠からず、船団全体へと伝わるだろう。今の利益を求めたのではない。これからの利益を見越しての対策だった。カジノはなんと言おうと大人の遊び。夜が本番だ。昼は所詮子供向けや慣らし運転でもしておくか、と考えている程度の者達ぐらいが多い。

 であれば、夜にはこの話を聞いた客達が大挙して押し寄せてくるだろう。カジノは怖いけど良い機会だし一戦だけ、と考えて来る者も現れるだろう。

 そして一度入れば、そこはカジノの恐ろしい所だ。勝っても負けても、次の勝負に臨む者が大半だ。金を落としてくれる。要はこれは撒き餌だ。今ここで酒を餌に客と言う名の魚を集めるつもりだったのである。


「相変わらず金を落としてくれるねぇ・・・」

「あっははは・・・ま、一応は領主様ですからね。オレ達腹減ったし適当に飯食うわ。じゃなー」

「好きにしな。特例でそっちの嬢ちゃんらも奥入れてやる。そこで食ってきな。そっちはあたし持ちの奢りにしておいてやる。おい、こいつら案内してやりな」


 カイトの言葉に、タリアが従業員に命じて奥へと案内させる。おそらく今日だけで莫大な利益を挙げられるだろう。この程度、カイトにくれてやった所で問題はなかった。彼に支払う金額より彼がばら撒いてくれた撒き餌の方が圧倒的に彼女にとっては利益になったのだ。これぐらいどうという事もなかった。

 ちなみに、カジノの奥の『黒のエリア』には高級料亭にも負けない様な料理を提供してくれる場所がある。カリンやガッシュがこちらに入っていたのはそのためだ。そうして、カイト達は特例として、黒のエリアへと通される事になったのだった。




 と、そうして奥のエリアの一角を与えられたカイトだが、そこで桜に拗ねられていた。自分の危機にまで出てこなかったのだ。拗ねられても仕方がない。


「あはは。悪い悪い。奴を完璧に叩き潰すには、完全に調子に乗らせるまでやらないといけなくてな」

「もうっ! 本当に怖かったんですから!」

「いや、だから悪いって・・・」


 ぷくー、と膨れる桜へと、カイトは少し笑いながらご機嫌取りに必死だ。そして勿論、楓にも拗ねられていた。というわけで、カイトは楓と桜のご機嫌取りに奔走していたのであるが、そこに料理よりも前にカリンがやって来た。


「おいーっす」

「あ?」


 まるで遠慮なく自分達のスペースに女の子達を引き連れて勝手に腰掛けた女に、瞬も翔も目を丸くする。瞬はどうやらどこかで見た事があるな、とは思っていたらしいが、思い出せなかったようだ。まぁ、あの場での彼女は数多いる大陸間会議に出席したギルドの長の一人という程度だ。思い出せなくても普通だろう。


「なんだ、居たのか」

「あったりまえだろ」


 カイトの問いかけにカリンが大きく笑う。勿論、カイトは忘れるはずもない。と言うか半バイ・セクシャルと言うかおおよそレズビアンのギルドマスターなぞ忘れられるはずが無かった。

 と、そういうわけなので、当然カイトは側にいた桜と楓、弥生を自らの後にこっそりと移動させる。が、そんなカイトの行動に、カリンがため息を吐いた。


「お前の女は取らないって・・・」

「クオン、アイシャ、旭姫様・・・他に名前出す必要ある?」

「・・・ぴゅー♪」


 カイトの問いかけに、カリンは冷や汗を流しながら口笛を吹いた。忘れていたらしい。と、カイトに対して、翔が問いかける。


「・・・誰?」

「ん? あぁ、ギルド<<粋の花園(すいのはなぞの)>>第12代目ギルドマスターのカリン・アルカナムだ」

「おーっす」


 カイトの紹介を受けて、カリンが片手を挙げて挨拶する。彼女は僅かに赤みがかった黒系統の長めの髪をかんざしの様な物で上げて、着物の様な服を動きやすく改良をした服を着ていた。

 顔立ちは美女ではあるものの、男ではなく女が惚れ込む様な荒々しさとも豪快さとも言える物が滲んだ顔立ちだ。右目の眼帯も相まって野性味のある怖い印象を与える顔立ちではあったが、彼女が常に浮かべる豪快な笑顔がそれを和らげていた。

 が、そこまでの美女なのに、完全に言動はおっさんだ。着物にも似た服を着ているが、それ故にどかりと座ればパンツはモロに見えていたし、足を組んでもろ肌が見えていても気にしない。袷に似た構造はかなり着崩れていて、胸は常にかなりはだけていた。


「特徴はがさつ。と言うか中身おっさんだな。美女の中身がおっさんと思え。一応、楚々とすれば美女に見えるんだがなぁ・・・」

「しゃーないだろ。男手一つで育てられてるんだからよぅ」

「親父さん泣くぞ・・・」

「はっははは! 親父が泣くのが見れるのなら、女らしくしてやるさ!」


 カイトの言葉にカリンは豪快に笑い飛ばす。とてつもなく豪快な女傑。荒くれ者を纏め上げる荒くれ者の長。そんな印象を、一同は受けた。


「あ、ちなみに。こっちの目は別に怪我とかじゃないからな」


 カリンが笑いながら、右目の眼帯を取る。彼女の左目は赤色だったのだが、右目はキレイな青空の様な青色だった。勿論、これにはワケがある。というわけで、彼女があっけらかんとそれを暴露した。分かる奴は一瞬で理解するので隠す程でも無いし、冒険者達の間ではそれなりに有名だからだ。


「どーいうわけか、右目だけ魔眼宿ってるんだよなー」

「使おうとすな、馬鹿!」

「いって! 見るぐらい良いだろ!」

「そう言う問題じゃねーよ!」


 カイトとカリンが言い合いを始める。結局説明は無かったのだが、実はこの魔眼は<<千里眼(せんりがん)>>の一種で<<透視眼(とうしがん)>>と言われる物だった。

 攻撃力は一切無いが、隠された物や隠蔽されているある程度の嘘、魔術で隠れた奴らを見つける事が出来るのであった。カイトの分身も見抜くだろうし、ティナが使う様な姿を隠す魔術だって無効化する。

 搦め手をほぼ無効化出来るのである。別に魔眼は攻撃だけが能ではないのだ。更にはこれをカリンレベルにまで極めれば、遺跡等に仕掛けられた罠も見付けられたりする。冒険者としては便利な代物だった。

 が、これには別名がある。その別名とは<<盗視眼(とうしがん)>>というのである。読んで字の通りだ。その名の通りこれは使い方次第では透視、つまり壁の向こう側を見たり、服をスルーして他人の裸を見たい放題に見れるのである。運命を誰かが定めたのなら、彼女に一番与えてはならないお似合いの魔眼を与えた様子である。


「いーじゃん! おすそ分けしてくれても!」

「うっせばか! お前がセクハラしてくる、って何回ウチの奴らに泣き付かれたと思ってんだよ! 桜達は良家の子女なのです! お前みたいな悪い虫は却下だ却下! しっしっ! あっち行け!」

「可愛い子集めまくってるお前が悪い! ウチにもちょっとくれ!」

「てめぇん所も女だらけだろ! 何人の冒険者共が憧れてるってんだよ!」

「大半味見した! たまには違う味も楽しみたい!」

「知るか!」


 相変わらず、カイト達は怒鳴り合う。ちなみに、カリンのギルドはカリンの方針で女の子が大半である。大半なので男も勿論居る。が、それは余程彼女が気に入った、というのでなければ手元に置いていない。それか、男でも良いと言えるぐらいに可愛らしいか、だそうだ。


「ぜぇ・・・」

「はぁ・・・」


 二人は肩で息をする。お互いに言いまくったらしい。そうして、丁度料理が来た事で、疲れて腰を下ろした。


「で? 何の用事だ?」

「いっや。一応奢って貰ったからお礼言いに来ただけ」

「んだよ・・・縁起悪いだろ。桜達にゃ悪かったが、ヴィクトル商会にも儲けさせた。返っては来る」

「かー・・・領地持ちは良いねぇ。あ、ステーキ追加で」

「かしこまりました」


 カイトの言葉にカリンが顔を顰める。ヴィクトル商会の本社はマクスウェルにある。なので、法人税等各種の税金は他ならぬマクスウェルに納税されることになっている。

 ということは、だ。ここで今日ヴィクトル商会が儲けた儲けの幾らかは、カイトの所に帰って来るのである。実のところカイトは奢った様に見せて、ちゃっかりと回収まで考えていたのであった。

 と、そうして言い合いを止めたカイト達は揃って少し早めの夕食を食べていたが、カリンが一同を観察する。勿論、魔眼は使っていない。あの眼帯は魔眼封じの役割も持っているらしい。


「にしても・・・うーん・・・かわいい子多いなー・・・いいなぁ・・・」

「あん?」

「いや、可愛い子多いなってだけ」


 どこか羨ましそうにカリンが見るのは、カイトの側で食事中の一同だ。と言っても男に興味は無いので、見ているのは女の子だけだ。と、そこでカイトが気付いた。


「・・・お前、もしかしてわかんの?」

「何が?」

「こいつら二人」


 カイトは皐月と睦月を指差す。二人は丁度サラダを食べている所だった。特に睦月は各地の料理も取り扱っている、ということで食べて味を覚える事に集中している様子で、見られている事にも気付いていない様子だった。


「男だろ? かわいいから良いけど。ウチにもショタっ子三人ぐらいいるからな。あ、男の娘ってんだっけ? 日本は未来生きてたよなー。100年ぐらいで理解したわ」

「・・・お前の嗅覚はサキュバス以上かよ・・・」

「伊達に女の子侍らしてない。女の子食った数ならお前超えるし」


 どこか偉そうに、ステーキ片手にカリンが胸を張る。ちなみに、言っておこう。瞬達はカイトとカリンの会話に加わらないのではなく、会話に加われないのだ。

 右手はステーキを突き刺して食べているが、左手には女の子を抱えていた。服装はカリンと似たような物のなので、袷の隙間から彼女が胸を弄っているらしく時折、可愛らしい嬌声を上げていた。さらに言えば、右手側の女の子はカリンにワインを飲ませていたりする。

 まぁ、これを見ればわかるだろう。敢えて言う必要もなく、彼らがこんな堂々とした痴態に慣れているはずもない。おそらく粗野な酒場に行っても滅多に見られないだろう。流石に弥生でさえ少し顔を赤らめていた程だ。瞬も翔も恥ずかしさから眼を背け、意識して食事に集中していた。


「オレ、三桁は届かねーよ」

「婚約者三桁届きそう、って噂されてるけどな」

「うるせ・・・で、お前どうすんの?」

「何?」

「ギルド。お前の所もかなりの有力だろ?」

「ああ、それ・・・」


 カイトの問いかけを受けて、カリンが丁度ステーキを食べ終えた事もあって女の子を弄んでいた手を止めて考える。カイトが問いたいことは、カリンも理解していた。なので少し顔は真剣だった。


「ウチの飛空艇、これに乗っけてるしなー・・・このままこの船団に付き合って移動するかな。これ狙われないとも限らないし」

「<<死魔将(しましょう)>>対策にどっかからお呼びかかってないのか?」

「今の所めぼしい所からは無いかな。幾つか接触あったけど、そこ狙われる可能性あんまないし。どっちかってとこの船団の方が狙い目だし」


 カリンは少し考えながら、当分はヴィクトル商会の船団の護衛を行う事を明言する。別に依頼されての事ではないが、ここで暮らしている以上、それ相応に防衛はしないといけない。

 壊されて困るのだから、当然だろう。実はカリンが上客として遇されているのにはそこらの理由もあった。彼女らのギルドに恩を売っておけば、ほぼほぼ無料で護衛してもらえるのだ。彼女を指名して年単位で雇い入れると馬鹿にならない金額になる。それを考えれば、上客としてもてなした方が遥かに安上がりなのだ。


「ふーん・・・じゃあ、ま。次はユニオンの会議かねぇ・・・」

「多分な。そこで再会だろ」


 カイトの言葉をカリンも認める。この船団は基本的に、マクスウェルとヴァルタード帝国の間を移動し続けている。マクスウェル限定なのは本社があるのがあそこで、あそこでしかこの船団の本格的なメンテナンスが出来ない事からだ。そしてこちらは一応、ヴィクトル商会発祥の地だ。往復の片方に定めても不思議はないだろう。

 今でこそ本社機能は全てマクスウェルに移動させたが、次に大きな支社があるのはあそこになる。その間を移動させつつ、カジノを運営しているのである。


「じゃ、また当分はお別れか」

「だな」


 二人は適度に肩を竦め合う。何か大事が起きない限りは、ここらの上位冒険者達が集うことはない。そう思って良い。集まる時は会議等何か理由があるか、それとも有り難くない話か、だ。なら、会わない方が良い事は良いのだ。そうして、二人はそこらの話し合いをしながら、食事を食べ終えるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第817話『延長』

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