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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第46章 娯楽の街編

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第810話 目標決定

 カイト達が情報屋から延期の要請を受けた翌日。とりあえず全員で遊びまわると、夕方になってカイトは再び情報屋と接触していた。とは言え、今度の同伴はユリィだけで、さすがに二度目の接触と変な監視が付けられていないか気になったので一葉達に部屋の外で監視させていた。


「で?」

「ああ、終わっている。これが、その情報だ」

「わかった。確かに、受け取った」

「ああ。では、情報屋ギルドとしてはこれで良いな?」


 昨日とは打って変わって焦りの見えない情報屋の男はしっかりとした口調でカイトへと情報の入った魔道具を手渡す。勿論、中を確認する権限はカイトに無い。なので受け取っただけだ。

 とは言え、受け取ったのは、受け取ったのだ。なのでカイトはそれに頷いた。きちんと仕事は果たしている。なので問題はない。


「ああ。依頼料については、上司へと蒼の25番と言えば通じる筈だ。上にはそれで伝えておけ」

「どういう意味だ?」

「何も聞くな。お前にその権限があるのか?」

「・・・わかった」


 男は何か言いたそうだったが、ここを盗み聞きしている上からそれで了解した、と言う言葉が出たらしい。不承不承ながらも頷いた。

 なお、蒼の25番とは、ヴィクトル商会に持つカイトの口座の一つの事だ。本来使っている物ではなく、何か疑わしい場合にのみ使われるものだ。ある意味、彼の上への疑念の通達でもあった。

 そこから引き落とせ、というワケだったのである。納期遅れから、カイトは手渡しではなく口座引き落としに変えたのである。それぐらいはやられても文句は言えない。そうして、カイトは部屋を後にして一葉達と接触する。


「さて・・・どうだった?」

「ナンパ男の方ですか?」

「あはは。いや、仕事の方だ」

「でしたら、数名怪しい者が」


 一葉は視線を動かさず、数人怪しい、と踏んだ者達を魔術を応用してカイトへと伝達する。それに、カイトがため息を吐いた。


「はぁ・・・やっぱりか。んなこったろうと思ったんだよ」


 実はカイトは一回報告が遅れた時点で、情報屋の事を怪しんでいた。そして案の定、という所だろう。というわけで、カイトは一葉達に隠蔽を任せると同時に、密かに渡されていた帝王フィリオへ通ずる緊急連絡用の魔道具を起動した。


「フィリオ殿。カイトだ。少々良いか?」

『ああ・・・案の定、と言うところか?』

「だろう。情報屋にも手が回っているな。見張られている」


 どうやら帝王フィリオはカイトが連絡を取ってきた時点で、要件を理解していたらしい。内容は彼らが言うとおりだ。情報屋が嘘の情報を流してきた、という事だった。

 ヴィクトル商会とて一枚岩ではない。中には着服して私腹を肥やすような者も居るし、今回の様におそらくこれに関わっているだろう貴族の賄賂を受けて嘘の情報を受け渡す者も居る。手渡しにしなかったのは、中抜きを危惧しての事だった。彼の不満げな顔を見れば、案の定中抜きをしていたのだろう。


『ふぅむ・・・厄介だな』

「どうする? 中身は一応確認しておくか?」

『ああ。こちらに転送してくれ。転移術はお手の物だろう?』

「わかった」


 帝王フィリオの依頼を受けて、カイトは転移術を行使してこの娯楽都市の外、連絡用の飛空艇にて待機している帝王フィリオ直属の部下へと情報の入った魔道具を転移させる。次はその部下から港町に待機している隠密へ送られて、帝王フィリオへと即座に情報が送られる仕組みになっていた。


『助かった。とりあえずは精査に入る』

「ああ、そうしてくれ」


 帝王フィリオは送られてきた情報の精査に入る。ここら、信頼出来る腹心の少ない彼の哀れな所だ。国としては彼の部下になる情報部にも敵の手は及んでいる。重要な所は自分と弟のティトスや信頼出来るごく僅かな者達だけで片付けなければならなかった。


「ふぅ・・・大変だな、ヴァルタード帝国は」

「所詮、あの国は魔王ティステニアの・・・いえ、彼を操っていた主を敵として纏まっていただけの国。共通の敵が居なくなれば、こうもなるでしょう」

「言ってやるな。それでも一国は一国だし、大国になってしまったからには大国の意地もある。下手に分裂も出来ん。ユリィが言っただろ? あの国は常に興亡を繰り返している様なものだ、って」


 一葉の辛辣な言葉に、カイトが苦笑しながらフォローを入れる。共通の敵を鎹として一つに纏まっていた以上、その共通の敵がなくなれば分裂するのが道理だ。逆にいままで良く保ったと思うのは、素直な感想だろう。


「・・・ま、それはそれとしておくか。所詮他国の事だからな」

御意のままに(イエス・マイ・ロード)

「ん・・・さて、じゃあ今日も今日とて遊ぶか」

「わーい!」


 カイトのお仕事終了宣言に、三葉が歓声を上げる。そうして、カイト達はとりあえずどうするかの判断を帝王フィリオに一任する事にして、今日も今日とて遊びに出掛ける事にするのだった。




 さて、そんなわけでカイト達は少し遅れてカジノに入ったわけなのであるが、勿論それはカイト達だけだ。そうではない桜達は先んじて遊んでいた。

 遊びの内容は『運命の女神ディアーティ・オブ・フォーチュン』の三枚ルールだった。せっかくの異世界だ。異世界ならではの遊戯に触れてみたい、と思うのは至極当然の話だった。

 そして幸いな事に、楓は以前に二枚仕様とはいえルールを聞いていた。手ほどきを受けながら遊戯に興ずる事が出来た事も大きかった。


「『栄誉への賞賛』」


 プレイヤー達が一斉に手札を開陳する。桜が出したのは、『勇者』の絵柄が描かれたカードと『剣』のカード、そして『王様』のカードだ。


「そちらのお客様の勝ちとなります」

「ふぅ・・・」


 テーブルに着いているディーラーが、皐月を指し示す。このテーブルでは冒険部の4人が揃って遊戯に興じていた。残る一人は瞬だ。今日は朝にコロッセオへ行った為、昼からはこちらで遊ぶ事にしたらしい。

 4人なのはそれがこのゲームの最大の参加可能人数だからだ。弥生らは別の所で他の客達と『運命の女神ディアーティ・オブ・フォーチュン』に興じていた。ここは瞬が初体験なので教えながらやろう、とディーラーに頼んで賭け金無しの特別ルールで行っていたのである。ここには子供も居る為、納得が得られればそういうルールも有りなのであった。


「ちっ・・・どうにもまだ自意識に引っ張られるな」


 思った通りの手札が出せず、瞬が舌打ちと共にため息を吐く。他は知っての通り、昨日の練習やそもそもの適正の関係で自分に関係が無い手札を出せる様になっていた。が、瞬は自らの内面を指し示した様なカードが選ばれる傾向が強かった。


「とは言え・・・中々に面白いな」

「ええ・・・今回は読み過ぎました」

「ふふふ・・・伊達にカイトを翻弄してないのよねー」


 桜の同意とどこか悔しそうな言葉に、皐月が笑みを見せる。彼女の得手は何よりも他者を翻弄する事だ。と、そうして何度かプレイした瞬が、ふと問いかける。


「ふむ・・・なぁ、これ、買って帰れないのか?」

「ご購入をお考えですか?」

「あ、はい。どこかで売っていますか?」


 話を聞いていたディーラーの問いかけに、瞬が頷く。お土産にちょうどよいか、と思ったのだ。冒険部のギルドホームにはこういう遊戯が出来るバーがある。今でもポーカーなどのカードゲームは部の費用として購入されて設置されている。福利厚生の一環だ。そこに置いておくのは良いかもしれない、と考えたのであった。


「あちらでカジノのメダルと交換させて頂く事も出来ますし、ご入用であれば、ホテルの売店でも販売しております。他にもヴィクトル商会へとお申し付けくだされば、納品させて頂く事も可能です」

「あ、そうなんですか」


 意外と簡単に手に入るんだな、と瞬は思った。と、そうして更に思ったのは、やはりこれが勝負事だったから、だろう。


「メダルだと何枚ですか?」

「はい、こちらは皆様のお持ちのメダル1000枚との交換になります」


 新品のセットを取り出したディーラーがメダルでの交換枚数を答える。カジノで遊べるメダルは一枚日本円で10円だ。なのでワンセット一万円、という所だろう。

 なお、メダルが一枚10円と言ったが、それ以上の価値があるメダルもある。瞬達に与えられた予算は一人2万円程度だ。多く遊べる様に、と価値の低いメダルと交換していただけである。なので一枚1万円もするメダルも存在していた。

 ちなみに、更に子供用に一枚一円のメダルもある。が、さすがにそれは子供用で子供達が遊ぶのに使う用でほぼほぼ勝負には使えないので、このメダルというわけだ。


「あら・・・意外と高い?」

「魔道具だから、でしょう? そう考えれば意外と安いのでは無いかしら」


 皐月が意外と高かった事に目を丸くしたのを見て、楓が理由を推測する。これが正解だった。これには魔石が取り付けられているし、特殊な加工を施してもある。更には絵柄が変わらない様にする為の専用の台座も必要だ。それ相応のお値段にはなったのである。

 とはいえ、魔道具故にトランプなど一般的な紙のカードよりも断然耐久性は高い。破損してもすぐに買える分安い方を取るか、破損しにくい代わりに高い方を取るか、という差でしかないだろう。別に不思議な事ではなかった。と、そんな4人に対して、ディーラーが更に情報を教えてくれた。


「こちらはカジノの景品になっておりますので、お店で販売している物よりも安価にご提供させて頂いております」

「外の売店だといくら?」

「金貨1枚に銀貨2枚となります」

「銀貨2枚分お得、というわけね・・・」


 皐月が儲かってるな、と内心で思いながら、どうするか考える。彼女としてもこれは中々に楽しいのでできれば持ち帰りたかった。

 とは言え、そうなってくると困るのは予算だ。一人2万円。つまり、金貨2枚。向こうに帰ってからも買えるとは言え、冒険部の母数を考えれば少なくとも10セット、つまり金貨12枚分は欲しい所だ。更には自分達用も幾つか欲しい。

 となると、どう考えても予算が足りない。まぁ、最悪は後で帰った時に買えば良い――ヴィクトル商会の本社はマクダウェルにある――が、ここで安く手に入れられるのなら、手に入れたかった。


「・・・じゃあ、いっそ稼ぐ?」

「そうだな。まぁ、先生達にバレると怒られるし、正真正銘博打なんだが・・・」

「あら。こちらじゃカジノは合法よ? 地球でも最近日本でも合法になってるし、ベガスやモナコなんかじゃ、普通に一般的よ?」

「ですね。賭け事は負けても文句は言いっこなしです」

「お、おぉう・・・」


 意外な腹黒さを見せたお嬢様二人に、皐月が頬を引き攣らせる。とは言え、言っている事は道理だ。カジノは国にもよるが、合法だ。そしてエネフィアではカジノは色々な制限こそあるものの合法である。

 ということは、金を賭けて戦う以上、稼ぐ事も可能なのだ。それに今回は流石に身持ちを崩すほどやるわけではない。目標金額にしても理由にしても些細な物だ。負ける可能性もあるが、勝つ可能性もある。どうするのも自由だった。


「・・・それもそうか。それに、せっかくだ。いっそならカジノで稼いでみたいしな」

「はぁ・・・じゃあ、とりあえず一度解散で良いかしら?」

「ああ。ご教授、ありがとうございました」

「いえ。では、お楽しみください」


 瞬の一礼を受けて、ディーラーが笑顔で一同を送り出す。そうして、せっかくなのでカジノで『運命の女神ディアーティ・オブ・フォーチュン』のセットを手に入れられるお金を稼ぐべく、冒険部が活動を開始するのだった。




 さて、カジノのやり方は個々人で様々だ。例えば瞬であれば、コロッセオでの賭けに興ずる事にしていた。コロッセオは基本的にルール無用の対人戦だった。

 命懸けの戦いを売り物にするアングラなコロッセオもあるそうだが、ここは合法的なカジノだ。闘技場と同じ様に致命打を受ければ自動で外に出す事の可能な安全性が取られているのは至極当然な話だった。

 なお、聞けば安全を確保した上で時には魔物との戦いもあるそうだが、もし沈静化や鎮圧、移送などに失敗すると困る為、滅多に実施される事はないらしい。


「ふむ・・・」


 瞬は今回の倍率、今までの勝敗、武器、戦い方等コロッセオの管理者が出す情報を見ながら、賭ける方を決める。ここらは、彼の得手だ。


「当分は手堅く行くべきか・・・」


 情報はその日催される試合全てが記されていた。当たり前だが闘士達とて数に限りがある。彼らの疲労度などを考えると、一度の試合数は限られていた。なお、本来は参加も出来るのだが、カイトからキツく止められていた。こちらでまだ戦いがあるかもしれないので情報は漏らすな、ということだった。


「良し。じゃあ、これで行こう」


 瞬はそう決めると、専用の魔道具にメダルを入れて、チケットを受け取る。そうして、彼は彼の方法でメダルを稼ぐ事にするのだった。

 さて、コロッセオで稼ぐのは瞬ぐらいなもので、他はと言えば普通にカジノで稼ぐ事にしていた。とは言え、せっかくここでの目標を決めたのだ。なので全員で共有する事にした。


「と、言うわけなのですけど・・・どうですか?」

「ああ、でしたら、私達も協力させて頂きます・・・と言っても、あの子達は遊ぶだけですので協力出来ない可能性は高いですが・・・」


 桜が告げに行ったのは、カイトの護衛と言うかその依頼による見張りをしていた一葉だ。二葉と三葉は入れ替わりで遊びに行っている。三人がずっと動かないでも不信感になる。順番に少しずつ遊びに動いていたのであった。


「ロデオ、気に入った様子なんでしょうか・・・」

「あ、あはは・・・」


 桜の視線の先には、ロデオマシーンに乗った二葉が居た。ここでのロデオマシーンは難易度に応じて、賭け金が帰ってくる仕組みだ。最高難易度まで達すれば賭け金が5倍になるらしい。勿論、魔術は使えない。


「三葉に勧められてやったのですが・・・ドハマリした様子ですね」

「一回20枚・・・5倍だから・・・最高難易度突破で100枚・・・」


 一葉が楽しげと言うか苦笑混じりというか、という微妙な表情を浮かべる横で、桜が最高難易度を突破した時のリターンを計算する。

 勿論、これは最高難易度突破というだけであって、実際にはもっと少ない。が、どうやらドハマリした二葉は元の運動神経の良さも相まってそろそろ完全にマスターしそうだった。


「一応、最高難易度を3回連続で突破した場合はその日の挑戦は禁止になるそうなのですが・・・もうすでに目をつけられていますね。まぁ、動き出す為の運転資金にはなるのではないでしょうか」

「あはは・・・」


 今度は桜が苦笑する番だった。すでに近くにはカジノの職員が待機していて、何時でも禁止を通達する用意が出来ていた。とは言え、この様子なら、稼ぎは結構だろう。協力が貰えるならそれで十分だった。


「後は私からマスターとあの子達には伝えておきます。桜様もどうか、お楽しみを」

「はい、有難う御座います」


 一葉の言葉を受けて、桜がその場を後にする。向かう先は他の面子と同じく、カードゲームのエリアだ。狙うのは『運命の女神ディアーティ・オブ・フォーチュン』だ。

 皐月や弥生らは手堅く行くつもりか慣れているポーカーを選んだそうだが、逆に桜と楓はこれが興にあったらしい。そうして、桜もまた、メダル稼ぎに興ずる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第811話『勝負師達の戦い』

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