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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第46章 娯楽の街編

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第807話 娯楽の都市へ

 カイトが密かに依頼を受け取って、翌日の午後。カイト達は朝から飛空艇に揺られながら、移動していた。


「ということは、もう殆どレシピは完成したのか」

「はい。他にも胡麻ダレもちょっとレシピを変えたり、和え物に出来る様に粗挽きの物を作ったりもしてみました」

「そか。十分、という所か」


 これだけ働けば依頼分はきちんと働いた、として良いだろう。カイト達にしても盗賊の討伐を行ったり、と予定外の仕事もしている。十分働いたと言って良いだろう。そうして、とりあえずのしごとの確認が終われば、次は遊びの確認だ。


「さて・・・で、いくら使えるの?」

「全員でミスリル銀貨2枚・・・大体日本円にして20万か」

「結構貰えたのね」

「まぁ、カジノだからな。遊ぶのにも金がいる・・・それに、人数考えればな」


 今回、人数分で均等に払うつもりだった。なので10人強で一人2万という所だ。とは言え、それ以上は自分で払うだけだ。なので実質的にはお小遣いと殆どかわらない。これは心遣いだし、交通費は出してもらえている。別に文句を言う筋合いはなかった。


「にしても、カジノか・・・腕が鳴るな」

「うふふ・・・」

「・・・なんか怖い」


 微妙に桜が黒い笑顔を浮かべている様に見えて、皐月が怯える。なお、純粋に楽しみにしているのは瞬だ。彼は基本的に勝負好きなのだろう。勝ちに行くつもりらしい。


「ま、いいさ。それで、後少しで街に到着するはずなんだが・・・ああ、見えてきたな」


 カイトは展望台の窓から外を覗いて、街が見え始めた事に頷いた。娯楽都市というぐらいなのだから、綺羅びやかな都市なのだろう。そう思って、一同もそれに続いて街を見る。が、そこに映っていたのは、普通の街だった。


「・・・なんか想像と違うわね。もっとベガスの様な感じを想像したのだけれど・・・」

「あれ・・・オレもそう思ったんだけどな・・・」


 どうやら違和感を感じたのはカイトも一緒らしい。首を傾げていた。と、そんな様子に、ユリィがすっかり忘れていた、と手を叩いた。


「あ、そっか。そう言えば言ってなかったっけ」

「うん?」

「今、船と港町じゃないの。今は飛空艇でカジノを運営しているよ」

「え?」


 ユリィの言葉に、カイト達は周囲を見回して飛空艇の姿を探す。なお、カイトが前に来た時には、豪華客船が一つ丸ごとカジノを含んだテーマパークという有様だった。当時は陸よりも船の方が安全な事も多く、それ故の判断だった。


「どこにも無いぞ?」

「さぁ・・・私も実際に来た事ないんだよね。前には私達の所に来て飛空艇作れって言われただけだし・・・スポンサー特権で無理くりねじ込んだんだよね。20年ほど前の飛空艇黎明期にお金注ぎ込んで作らせたの。ウチの技術班に部隊の技術班集めて・・・私もあんまり見てないんだよね。当時今の皇帝陛下が色々と揉め事起こしてて、そこの調整が忙しかったから。数隻作らせてた、とは聞いていたけど・・・」

「黎明期に飛空艇の大船団・・・ちっ・・・相当儲けやがったな、あのクソババア・・・」


 泣く子と地頭には勝てぬ。そう言うが、さすがの勇者もスポンサーには勝てないらしい。この世は所詮金が無ければ動かないのだ。さらに言えば復興にも多大な労力を割いてもらった。マクダウェル公爵家は総じてヴィクトル商会には頭が上がらないのだ。

 とはいえ、何時までも苦々しい表情を浮かべていて良い事なぞ何も無いので、カイトは即座に思考を切り替える事にしたらしい。


「まぁ、良いか。ということは、ここから乗り換えで専用便か」

「そうじゃないかな。周囲に明らかカジノ目当ての人多いし、それについて行けば良いんじゃない?」


 カイトの推測に、ユリィが推測を返す。明らかに道楽貴族から一夜の夢を求めた冒険者達など、カジノ目当ての観光客っぽい人達がこの飛空艇の中には乗っていた。

 まぁ、そもそも娯楽都市へ行く人の大半がヴィクトル商会の関係者の商人達か、テーマパーク狙いの客だ。そして比率として多いのはどう考えても後者だろう。これに従って歩いていけば、自動的に目的地に到着する算段だった。と、そんな話をしていると、飛空艇が街に着陸する態勢に入った。


「あ・・・到着近いね」

「っと、一応席についてシートベルトしておくか」


 飛空艇は飛行機よりも遥かに安全とは言え、やはりいちばん危険なのは出力が大きく変動する離着陸の瞬間だ。飛行機ほどではないがなるべく歩かない様に言われていた。そうして、カイト達は一度近くの椅子に座る事にして、着陸を待つ事にするのだった。




 と、そんな会話から更に30分。カイト達は更に空母型で無くても巨大な飛空艇なら乗り降り出来る小型の飛空艇を乗り換えて、飛空艇の船団が待つ空域へと向かっていた。そこまでは良かった。が、見えてきた飛空艇の船団に、カイト達全員が目を瞬かせる事になった。


「・・・あれ?」

「うっわー・・・夜来なくてよかったー・・・」


 豪華客船を空に浮かべればこうなるだろう。一同の目の前には、そう言う状況が広がっていた。5隻の500メートル級の巨大な飛空艇には綺羅びやかなネオンサインに似た魔道具の装飾が施されて、テーマパークである事を露わにしていた。

 ちなみに、カジノはさすがに一隻だけだ。カジノが数隻あった所で無駄だ。他はカイトの持ち込んだ遊戯を遊べる遊園地だったり、同じくカイト発案というか地球原案のレジャーが楽しめる行楽地、ホテルやショッピング・モールがあったりとカジノ以外の施設も整っていた。カイトを全面的に押しまくっていた。

 なお、この中の一隻は戦闘用で、いざという場合に備えた純粋な戦闘用だった。さすがに護衛も無しというのは心理的に悪影響がある。と、その戦闘用飛空艇を見ていたカイトが、目を丸くした。見たことがある様な魔導砲が装着されていたのだ。


「・・・おい。まさかあれ・・・バカ力砲か?」

「あー・・・あれのデッドコピー。無茶苦茶無理言って乗せさせたんだよね。『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の技術班を集めたのって、それが目的だったり・・・」

「ちっ・・・だから侮れんババアなんだよ・・・」


 皇国が誇るこのエネフィア最強の船に搭載された70センチ魔導単装砲。それがここにもあるとわかれば、大抵の客は安心する。ただでさえ海の魔物は攻めて来ず、陸の魔物は近寄れない高空に位置しているのだ。この上でこの魔導砲――真相はデッドコピーだが――まであれば、どんなうるさ型の貴族達だって黙る。

 あの魔導砲は弾速の関係などから小型の魔物にはほぼほぼ無意味だが、それでも直撃さえすれば厄災種一歩手前の魔物をも滅ぼせるのだ。これ以上の安全を作り出せ、と言われても少々無理だ。カイトかティナの力が必要だろう。考え得る限り完璧な防衛を敷いた、と誰もが断言するだろう。

 と、そんな巨大な砲塔を持った船が、こちらに火砲を向ける。審査を行っているのだろう。案の定しばらくすると、再び火砲がそっぽを向いた。


「さて・・・じゃあ、着陸を待つか」


 再び着陸態勢に入った飛空艇を見て、カイト達が準備を整える。そして10分。小型の飛空艇が4隻のテーマパークを乗せた飛空艇の上に着陸した。


「まずホテルだっけ?」

「ああ・・・荷物置きたいだろ?」

「ああ」

「聞いた所によると部屋はこっちと同じ仕組みだから、部屋割りは前と一緒で良いだろ」


 翔の問いかけを受けて、カイトがホテルの間取りを答える。ホテルも当然だが、ヴァルタード帝国側が用意してくれていた。なので部屋割り等で気を遣わないで良い様に、とそのままの部屋にしてくれたようだ。


「じゃ、行くか」


 とりあえず荷物を持った一同は、他の旅行客の列に従って飛空艇を降りる。そうしてカジノの上に降り立つと、軽快な音楽と共にバニースーツの美女達が一同を出迎えてくれた。


「「「いらっしゃいませー!」」」

「「うお!」」


 いきなりのバニースーツ姿の美女達の歓待に、瞬と翔が顔を赤らめる。まさかこんな所で男子御用達の本の中でしか見ない様な姿の美女にお目にかかれるとは、と思ったのだ。


「すげー・・・」

「バニースーツって、本当にあるんだな・・・」


 コスプレでもなければ初めて見る異世界とはまた別の意味での空想上の存在に、瞬と翔が感心する。この二人はやはりなんだかんだ言っても一般的な子女と大差はない。桜達の様にカジノへ行った事は無いのであった。

 とは言え、実のところ桜達にしてもバニースーツを着るような女性の居るカジノには行った事は無い。が、男子ではないのでこういう人達も居るのか、と言う程度だった。


「はいはい・・・とりあえずホテル行こうな」

「お前はやっぱ平然とするのか・・・」

「だって持ち込んだのカイトだしー」


 翔の言葉を聞いて、ユリィが明言する。それに、一斉にカイトに視線が集まった。


「な、なんの事でせうか?」

「いや、カイトじゃん。猛烈にカジノつったらバニーだろ、って大押ししたの。実際、ここら男性のカジノ客には超受け良いしねー」


 明らかに視線をそらしてどもるカイトに対して、ユリィが更にぶっちゃける。事実である。


「ま、まぁ、それは置いておこう。と言うか、翔。お前の責任もでかいからな」

「?」

「中学の岸澤先輩」

「・・・? ・・・あ。待った! それ以上はやめろ!」


 カイトの言葉に、翔が全ての繋がりを思い出す。岸澤、というのは翔の中学時代の陸上部の先輩だ。それで全部を思い出したのである。転移前のカイトは普通にどこでも居る様な少年だった。というわけでそうなれば普通に思春期の少年だ。男子御用達の本も持っていて当然だ。

 で、そうなれば中学生だ。お金はないし、購入出来る手段は限られる。ならば、出来うる限りの資源を有効活用する為と、自分の密かな趣味の布教の為に回し読みも無くはない。カイトも今でこそ無いが、その当時はそうだった。で、その貸出先がカイトで、供出元が翔だった、というわけである。当時の翔の性癖がわかる一幕だった。


「良し! 先輩! 行きましょう! ホテルで荷物置いて、遊びまくりましょう!」

「お、おう」


 瞬とて男だ。翔の言わんとする所は良く理解出来る。なので半ば笑いながらも、翔の懇願を聞き届ける事にする。そうして、そんな二人にカイトが笑い、桜が問いかけた。


「・・・好きなんですか?」

「・・・悪くはない」


 カイトは短く、そして顔を珍しく真っ赤に染めてそう言うだけだ。流石に過去の性癖の暴露なぞ黒歴史にも程があった。


「・・・そうですか」

「・・・用意、出来るよ?」


 何かを思ったらしい桜に、ユリィが告げる。それに、桜がなんと返したか、とその夜のことは彼らだけの秘密である。

 まぁ、それはさておいて。とりあえずはそんな騒動を起こしつつも、一同は一度ヴァルタード帝国が用意してくれたホテルへと足を運ぶのだった。




 カイト達の娯楽都市到着から1時間。カイト達はとりあえず荷物を置いて、カジノ船へと足を向ける事にしていた。が、その前に一度船団の全体図を見てみよう、とホテルに設置されている展望台に向かう事にした。


「ふぇー・・・」


 皐月があまりの光景に唖然となる。船同士の間隔はおよそ500メートル。配置は中央に戦闘用の巨大飛空艇を配置して、その四方にレジャー船が配置されている。その間を小型の連絡船が無数に行き来していた。まさに、空飛ぶテーマパークだった。


「その気になれば、どこにでも持っていける飛空艇でのレジャー施設・・・こりゃ、移動娯楽都市か」

「正直・・・バカだよね、これ。やったの私達だけど。まぁ、15年ぐらい完成までかかってるから、その間待てるだけの根気と見通しがあるから出来た事なんだろうけど・・・」

「相変わらず金稼ぎに関しちゃ化物だな、あの女・・・」


 カイトとユリィが呆れ返る。展望台には様々な大陸の道楽貴族が居て、このレジャー施設が目当てで他大陸からも来ている者達が居る事が理解出来た。


「えっと・・・あっちは全天候型の屋内プール。あっちは同じく全天候型のスキー場・・・」

「あっちはカジノで、こっちはホテルとかショッピング・モールね・・・」


 桜と楓が展望台から周囲を見回しながら、レジャー施設の概要を呟く。どこか頬が引きつっていたのは、気の所為ではないだろう。レジャーでお金を使わせカジノで稼いだ金を高級ホテルの高級レストランやショッピング・モールで使わせ、とことんお金を使わせる事しか考えていなかった。

 と、そうして見た光景に、瞬が少し拍子抜けしていた。レジャー設備というのでジェットコースターや観覧車等があるか、と思っていたらしい。


「思ったよりレジャー設備が無いな」

「あはは。さすがに5隻目とかはない・・・よな?」


 カイトの視線を受けたユリィが視線をそらして、そして偶然その先には施設の職員が立っていた。と言うわけで、瞬は試しに聞いてみる事にした。


「船はこれだけですか?」

「申し訳ありません、現在第5隻と第6隻は出向中でして・・・」

「あるのか」

「金の亡者め・・・」


 瞬が驚きを浮かべて、カイトが舌打ちする。相当溜め込んでいるらしい。なお、ここに施設の予定を確認せずに来る客が居るのは何時もの事だ。ということで、カイト達がそうであったとしても疑問には思われなかった。ということで、カイトは一応問いかけてみる事にした。


「いつ頃帰ってくるんですか?」

「来週には」

「どんな設備なんですか?」

「遊園地と温泉宿です。この間の大陸間会議の一件・・・ご存知ですか?」

「ええ。その場に居ましたから・・・」


 知ってるも何もその現場に居たのだ。というわけで事情は聞いている、と明言する。


「その件でユニオンマスター様より療治の為に温泉宿と休暇の為に遊園地を貸して欲しい、と言われまして・・・そちらへ向かわせております」

「ああ、そうなんですか。有難う御座います」

「いえ、では、ごゆっくりお楽しみください」


 カイトの返事を聞いて、職員がその場を後にする。どうやらバルフレアがこの間の激闘を加味して、ヴィクトル商会に掛け合ったのだろう。あの男は意外と有能で、こういった手はずは得意なのだ。


「全7隻の船団・・・うっわー・・・」

「総予算、聞いとく? 多分、私が聞けば答えてくれると思うよ?」

「やめろ。聞きたくない」


 ユリィの言葉にカイトが耳を塞ぐふりをする。聞きたくはない。おそらく日本円にして数千億とか言われかねないからだ。とは言え、ヴィクトル商会は本当に英断だった。これだけ巨大な施設だ。一隻貸し出した所で問題は無い。それどころか、こういう時に度量を見せられる、という良い風評を得られる。

 ただでさえ観光を除けば娯楽と言える娯楽の少ないエネフィアだ。空飛ぶ娯楽都市という利点を活かして大陸を回れば、客は大量に来るだろう。

 そして、ここまで大それた事が出来るのはカイトのスポンサーであるヴィクトル商会ぐらいだ。なにせ技術力と創造力が桁違いだ。というわけで、この業界では儲けはほぼ彼らの独占だった。相当利益は得られているだろう。


「はぁ・・・とりあえず、カジノ行くか」

「あはは」


 何故か疲れた様子のカイトに、一同が笑う。そうして、そんなカイトと共に一同はカジノでの行楽に興ずる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。今日からはカジノ編です。

 次回予告:第808話『カジノで遊ぼう』

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