第806話 追加の依頼
帝都の西側で一大勢力を誇っていた盗賊の掃討作戦を終了させて、すぐ。カイトが呼び出しを受けていた。と言っても叱責の類ではない。ティトスが相談したい、と言う事で軍の飛空艇に呼び出されたのである。
『ふむ・・・さすがは勇者カイト、という所か』
「まぁ、あいつらのお宝って所詮は誰かから盗んだ物。持ち主に返してやれるのなら、それがベストだからな」
『それで、わざわざ移送させる様に手はずを整えたのか・・・』
カイトの考えの本当の所を聞いた帝王フィリオが非常に感心した様に頷く。そう。実のところ、カイトが焼いたのは生き物だけだ。それ以外は全て回収出来る様にしていた。つまり、彼らが手にしていただろう貴金属類や宝石の類、それ以外にも彼らが残しただろう書類などは全部回収出来たのである。
「あはは。何処かに隠し財産とかあっても面倒だからな。が、移動するなら、確実に持ち逃げするはずだ。怖いのは書類やらを持ち逃げする様な奴だった場合だが・・・ま、そこまでの頭は無かったようだな」
『助かった。お陰で摘発が進む』
帝王フィリオがカイトへと感謝を述べる。盗賊の中には、貴族達が裏から手を回している集団が居る事がある。そうなってくると証拠を掴む事が何よりも重要なのだ。
で、その証拠となり得るのは、貴族達からの依頼書や契約書の類だ。少し頭の回る盗賊であれば、貴族達と自分達の取り引きの証を物証として残させる。万が一に切り捨てられそうになった場合には道連れにできるからだ。
とは言え、貴族達にしてみれば軍の中に手を入れて戦闘のどさくさに紛れて燃やさせる事も出来る。特別気にする事もない事だった。
「ま、書類の類を気付いているのは、極一部。気付いた奴は殆ど居ない。先んじて回収しておいたからな」
『助かったが・・・一体どういう考えだ?』
「うん?」
『いや、君であれば、気にする事もなく燃やし尽くす事も出来たはずだ。わざわざ書類まで、とはな』
「ああ、そこか。別にどうってことはない。契約者に対してのお節介と言うところだ。オレは祝福を得た者。あんたらは契約者・・・こちらからの親愛の証、としておいてくれ」
『ふむ・・・』
帝王フィリオはカイトの言葉の裏を図る。基本的に彼らの世界は騙し合いだ。裏を考えるのは基本中の基本だった。が、それは半ばで止めた。
カイトの言う通り自分は契約者で、彼は祝福を得た勇者。これはとどのつまり、それだけの話だからだ。大精霊が認めた者なので彼もまた認める、と。そういうだけだ。
『わかった。では、遠慮なく頂いておこう』
「ああ、それで頼む」
帝王フィリオがカイトの言い分を受け入れたのを受けて、カイトも頷く。これは単なるお節介。本当にそれだけだ。まぁ、敢えて言うのなら、会議の時に受けた彼への借りを返した、という程度だった。
帝王フィリオとしても気にした事は無い――単なる主導権争いの一環なので――が、カイトや天桜学園が恩を受けたのも事実。事実は事実故に返礼した、という単なる自己満足だ。
「じゃあ、一応これで後始末はそちらに任せる」
『そうしてくれ』
カイトの言葉に帝王フィリオが応じる。これ以上はカイトも他国の公人として関わるべき事ではないし、帝王フィリオにしてもこれ以上関わらせるのは悪手だ。選ぶべきではない。そうして、これで盗賊討伐は全て終わる事になるのだった。
さて、盗賊の討伐を終えた後、さして何事もなく日々は続いていた。強いて言えば、カイトが喫茶店の客達――もしくはコトリのファン達――に絡まれて、コトリの見送りと荷物の搬出に駆り出された、という事ぐらいだろう。
「変に演じるべきじゃなかった・・・」
「あはは。お疲れ様」
妙な疲れに苛まれるカイトに、ユリィが笑いながらその労をねぎらう。口説いている風を見せかけたわけなのであるが、それ故、同じようにコトリ狙いの常連客に絡まれていたのだ。
「ま・・・その代わり、コネが入手出来た。良しとしておくか」
「こ、転んでもただでは起きないな・・・」
ずらり、と並んだ名刺の束にカイトが口角を上げ、瞬が頬を引き攣らせる。意外というかなんというか、コトリは意外と頭の回転が速いらしい。そこでお得意様達と仲良くなったのであった。
よく思えばレシピ以外にも果物の旬、胡麻の販売店等をきちんと把握していたりしていた。カイトの会話にもついて行けていたし、相槌も適切だった。単なるバイトにしては、確かに悪くない。喫茶店の食事目当てではなく、コトリとの会話目当ての上客と言われる街の上役達が比較的居たのであった。今回はそういった人達が手配したり、そういった人達が来たのでそこで交流を深めたのであった。
「でも、どうするんですか? そんなコネ・・・」
「そう言えば、そうね。もう少ししたらここから戻るでしょう?」
「ん?」
桜と楓の問いかけに、カイトが首を傾げる。確かに、今更といえば今更だ。今更コネを得た所で、後は睦月と帝王フィリオのレシピの完成を待つだけだ。
「いや、また来た時使えるじゃん。公爵として来ても大丈夫だし、姿隠しても有りだからな。何時使えるかわかんないぞ、こういう縁は。縁は切れるのは簡単だが、結ぶのって難しいからな。冒険者時代のコネは意外とどういう時にでも使える」
これで終わり、なぞカイトは考えていない。そもそも研究所がエネシア大陸のみに存在する、などと一切考えていない。そうであるのなら可怪しい点が存在するからだ。
それは、浮遊都市レインガルドと言うか浮遊研究所レガドだ。あれの補給ポイントがなぜ、世界中に存在しているのか。その説明が出来ないのである。
「なるほど・・・」
横で会話を聞いていた瞬が頷く。どうやら気付いていなかったらしい。そもそもカイトが瞬に軍人達との飲み会の許可を出したのもそれだ。情報とコネは無形の財産。後の皇帝にして、カイトの親友の言葉だった。
「ま、そういうわけで・・・これは名刺入れに仕舞っておくか」
「クズハ達も使えるしねー」
何処からどういう縁が結ばれるのかだけは、カイトにも想定が出来ない。そして、縁は結べれば結べるだけ得なのだ。というわけで、カイト達は得たコネを全て共有していた。
と、そうしてここ数日はコック長と厨房で最後の調整を行う睦月を待ちつつ、カイト達はのんびりと時を過ごしていた。が、そんな時だ。帝王フィリオ直属の密偵が密かに部屋に入ってきた。
「何か用か?」
「うん?」
『申し訳ない。陛下がお呼びだ』
気付いたのは瞬と桜達以外だ。実力として彼が頭幾つも飛び出ているし、曲がりなりにも帝王直属の密偵だ。気付けぬのも仕方がない。
「全員か?」
『いや、貴殿のみ、と伺っている。誰にも気付かれずに来て欲しいそうだ』
「何か緊急事態、ということね・・・」
カイトが頭を掻く。来る事を見られたくないのであれば、カイトとユリィしか無理だ。というわけで、カイトは致し方がなしに密偵と共に隠れて帝王フィリオの所にまで移動する。場所は彼の執務室だ。
「来ました」
「ああ、すまない・・・この間の盗賊の一件は覚えているか?」
「ええ、まぁ・・・事の次第がわかったので?」
「そんな所だ」
カイトの問いかけに、帝王フィリオが机に置かれていた書類の束をカイトへと受け渡す。それはカイトが盗賊達の所から回収した資料だった。
「・・・はぁ。面倒だな、そっちも」
「ああ。まぁ、何時もの事だ」
カイトと帝王フィリオは苦笑混じりに頷き合う。良くある話として、やはり大規模な盗賊団のバックにはどこかのお貴族様が控えていたのだ。
「ま、可怪しいとは思ったんだがな。御母堂の馬車がああまで体よく絶好の場所で狙い撃ちされる、なんて」
「すまないな」
カイトが帝王フィリオが首を振って謝罪する。どうやら盗賊達の襲撃は予め情報が漏れていた事による物らしい。
「で、それで?」
「行って欲しい所があってな。こちらの密偵だと動きが掴まれかねない・・・その点、君達ならば行った所で可怪しくはない場所だ」
「お使い、と? さすがにこれは別料金ですよ?」
「わかっている。それについては工面しよう」
どうやらカイトに隠れて来て欲しかったのは、表向きは別の理由に見せかけてもらう為だったのだろう。ここでの接触が掴まれていないのなら、カイト達の理由で訪れた事に出来る。ちなみに、口調は仕事向けとして変えたらしい。
密偵達でも良いのだろうが、万が一も有り得る。そして情報の受け渡しだけであれば、カイト達には何も知られる心配もない。そもそも情報が彼からもたらされている以上、手持ちの情報を知らせた所で帝王フィリオに不利益はなかった。
「口止め料込みでミスリル銀貨10枚。それでどうだ?」
「良いでしょう・・・それで、場所は?」
「娯楽都市『エンド・ターミナル』」
「ぐっ・・・」
出された都市の名前に、カイトが盛大に顔を顰める。そこはカイトは知らないはずがない場所だった。なにせそこの大半は彼――と大陸間連合――の返済した金で出来ている様な物だからだ。
「君もスポンサーへの挨拶が必要なのでは無いか、と思ってね」
「ババアの持ち込みか・・・ということは、向こうからの指示で使いっ走りはオレに、と?」
「ああ、そんな所だ。実際、若干密偵では困る状況だったのも事実だ。必要経費と受け入れさせてもらった」
どうやらヴィクトル商会と帝王フィリオ率いる帝国上層部の利益が一致した結果が、カイトを呼び寄せる、という事だったのだろう。後はカイトが受けるか否か、というだけだ。そして、別に使いっ走りであれば受けて損はない。
さらに言えばそこはこの世界で一番安全だ。世界一の大企業が運営する娯楽施設で、更にそのバックにはマクダウェル公爵家、ひいてはカイトと大精霊達が控えている。世界で一番安全な娯楽施設、というのが謳い文句だった。
「はぁ・・・わかりました。承りましょう」
「ああ。何、別に情報の収集を依頼しているので、それを受け取ってもらうだけだ。どうということもない依頼だ」
「移動は?」
「直通の飛空艇が出ている。それを使ってくれ。渡航費用と偽装様の交遊費はこちらから支給しよう」
「わかりました。じゃあ、全員を連れて行った方が良いですね。睦月も連れて行きます」
「ああ。こちらももう殆ど作業は終わった。後は私とコック長だけでどうにでもなる。最後に事の顛末を見届けて、君たちの仕事は終了という所だ」
帝王フィリオはカイトに本来の仕事が殆ど終わりかけである事を明言する。すでにどんな料理を振る舞うか、何時になるか、というのは決定している。後は当日に備えるだけだった。
「わかりました。じゃあ、名目上は貴方から依頼の完了が見えた事で休暇が与えられた、としておきます」
「ああ、ベストな判断だ」
カイトの言葉に帝王フィリオも同意する。手続きもこれで行くつもりだったし、それなら誰にも怪しまれる事はない。事実、娯楽都市は巨大な歓楽街だ。貴族達から冒険者達が集まる。帝王フィリオが仕事の休暇として与えたとしても、他大陸からのカイト達が興味本位で行ったとしても不思議はなかった。というわけで、カイトは戻って表向きの理由を説明する。本来の話はまた後で、だ。
「というわけで、少し休暇に行くぞ」
「殆ど休暇の様なものだったんだが・・・」
「言うな。心遣いだから、有り難く貰っとこう」
「あそこかー・・・」
どうやらユリィはカイトの出した場所の名前から事の次第をしっかり理解したらしい。そして、もう一人。事の次第を理解していた。
「ヴィクトル商会・・・ね」
それは楓だった。ヴィクトル商会とこの間の盗賊の襲撃、更にその前の情報屋の話を繋げて、事の次第を理解したのである。とは言え、それ故に今は黙っておく方が良いと理解したようだ。なので何も言わなかった。
「というわけで、明日から出掛けるか」
カイトの号令で、一同が数日分の支度を整える事にする。そうして、カイト達は翌日に飛空艇に乗って娯楽都市へと出掛ける事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第807話『娯楽の都市へ』




