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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第45章 小さく、しかし大切な依頼

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第799話 小悪魔・大強化

 ディーネとノームのプレゼントを貰ったカイト一行だが、その翌日の午後には土鍋が完成した。


「はぁ・・・まさかノーム様が御出になられるとはな・・・」

「ま、心意気に応ずるのが、あいつらの良い所だ」

「眷属が改めて言われるまでもない」


 クレイムが少し興奮気味に、土鍋の出来上がりを認める。別に特に変わった所は見受けられないが、少しだけ、柔らかい土の魔力を帯びている様な感じがあった。


「土鍋の出来栄えとしちゃ、大したモンではないが・・・そういうプレゼントという意味であれば、一級品だ。これで満足の行く出来だろう・・・乾燥も終わったな」


 クレイムは塗料がきちんと塗られている事を確認して、一つ頷いた。完成した土鍋は、茶色系統をベースにして、青色の塗料で少しアクセントを加えた物だ。それに更に、ヴァルタード帝国の国章を簡略化した物を刻み込んでいた。もともとは白系統で統一するか、と考えていたのだが、昨夜の一件で急遽変更したのである。


「・・・持っていけ」

「ありがとうございました。この謝礼はまた後日、兄上から」

「ふん・・・俺よりもノーム様とウンディーネ様に感謝述べとけ」


 一度軽く叩いて音を確認していたクレイムは、ティトスの感謝に素っ気なくそう返すだけだ。それにティトスはきちんと梱包して、頷いた。


「では、ありがとうございました」

「ああ・・・カイト。お前さんも元気でな」

「おーう。まぁ、なんかあった時は言ってくれよ。爺さんの陶芸はオレも使わせて貰ってるからな。遠い所為で滅多に手に入らないのが、難点だがな。ま、できりゃ師匠の所に受け渡して貰えると助かる」

「俺の茶碗を普段使いにするのはお前ぐらいだ」


 カイトの言葉に、クレイムが上機嫌に笑う。だから、彼はカイトを気に入っていた。道具は所詮道具だ。飾る物ではない。クレイムは有名になった事でその作品は陶芸品として有名になってしまったが、本分は失っていない。今なお、茶碗や湯呑みなどの実用的な物を作り続けている。

 そして使い続けて味が出た時こそを、彼は本当の完成としていた。勿論、使う以上は壊れもする。勿体無いと感じるのも仕方がない。だが、そうしなければ彼の作品は完成しないのだ。そう言う意味で言えば、今ではカイトやユリィぐらいしか彼の作品を完成させていないと言えたのであった。


「まぁ、また来い」

「あいよ」


 カイトはクレイムと別れを交わす。近くに寄った時には、カイトはここに顔を見せていた。クレイムにしてもカイトは上客だし、物の道理がわかるお気に入りの客でもある。邪険にはしていなかった。そうして、カイト達は少しだけ予定を早めてその日の内に帝城へと帰城する事にするのだった。




 帝城に戻った一同だが、とりあえず任務報告が必要なエリオは飛空艇を止めると同時に帝城の軍が管理するエリアへと向かっていった。そして一方、ティトスはかなり急ぎ足で兄の下へと向かっていった。


「どうした? 明日の帰りだ、と思っていたのだが・・・」

「いえ、兄上。とりあえず、何もおっしゃらずにこちらを御覧ください」


 帰るなり急用だ、と言って兄の予定を空けさせたティトスは、事情を説明するよりも先に自らが作った土鍋と、ディーネが下賜してくれた水を見せる。それはどちらも、誰でも簡単に普通ではない、とわかる一品だった。


「これは・・・一体何があった?」

「実は・・・」


 これは明らかになんらかの大精霊が関わった一品だ。そう理解した帝王フィリオが目を見開いて問いかけると、ようやくティトスが事情の説明を始める。言った所で理解はされにくいのだ。ならば、見せた方が早い、という判断だった。


「なるほど・・・ははは! 飛空艇一隻以上の働きをしてくれたな!」


 全部を聞き終えて、帝王フィリオが笑い声を上げる。この二つは然るべき筋に出せば、軍用の飛空艇でさえ何隻でも買える様な値段になるだろう。それぐらいに物凄い品だった。


「これは・・・私も腕によりをかけて料理をしなければな」

「はい」


 帝王フィリオの言葉に、ティトスも同意する。弟が頑張って土鍋を完成させて、更には大精霊達までもがプレゼントをしてくれたのだ。ならば契約者の名において、何時も以上にやる気を出すだけだ。

 ちなみに、彼らもこれは凄い価値のある物だ、と理解している。だが、だからといって恐れ多いという理由で使わない、という事は無い。そこが契約者と常人の差だった。大精霊達がプレゼントしてくれたのだから、きちんとそのために使うのが筋だ、と理解していたのである。


「それで、兄上。料理については?」

「ああ、実は偶然にも私と母上の予定が来週の頭で2日連続して空けられてな。お前の予定も空けられそうだ。ならいっそ、2日にしてみるのも良いか、と思って考えている所だ」

「それは・・・今年は本当に幸運ですね」


 ティトスが嬉しそうに微笑みを浮かべる。ここは本当にアットホームな帝室だった。まぁ、昔は信じられる者が殆ど居ない彼らで、そして現状も出自からそこまで帝国内に味方が多いわけではない彼らだ。家族の間が強い繋がりで結ばれているのは仕方がない事だったのだろう。


「で、兄上。料理は?」

「楽しみにしておけ」


 あ、これは隠しているパターンだな、とティトスが理解する。兄弟だけの時には、今も時折帝王フィリオから少しいたずらっぽい性格が顔を覗かせるのであった。


「まぁ、お前も疲れただろう。今日はもう休め。さすがにこれにはどこの馬鹿貴族だろうと手は出さないだろうからな」

「そうですね。わかりました」


 帝王フィリオの言葉を受けて、ティトスが頭を下げてその場を後にする。いくらなんでも大精霊が直々に下賜している品物に毒物を混入させる貴族はいない。そんな事はまかり間違っても出来るわけがない。

 もしそんな事をして大精霊の顰蹙を買ったら、と考えるだけでどんな悪徳な貴族達だろうと手を出さなくなるからだ。さすがにそれには大精霊達だって怒る。確実にそんな無粋な事をしたらカイトを動かしてでも報復に出るだろう。それがわかりきった話なのに、やる馬鹿はどこにもいないのであった。


「さて、料理は何にするかな・・・」


 少し楽しげに、帝王フィリオが顎に手を当てる。つい昨日の話だが、空いた時間で睦月と試行錯誤して胡麻ダレを完成させていた。薬味としての胡麻も味見をして美味しかったので量産体制に入らせた。これらを使いたい所だった。


「日本の鍋料理は本当にいろいろな事が出来るな・・・料理のしがいがある」


 笑いながら、帝王フィリオが料理についてを考える。そうして、そんなこんなで僅かに仕事の遅れが出るのであるが、ここから数日の間彼は非常に上機嫌で過ごす事になるのだった。




 さて、一方のカイト達は、というと依頼の殆どが終わっていた為、談話室で統括に入っていた。


「なるほど。じゃあ結局は鍋物にすることにしたのか」

「はい」

「2日ねぇ・・・なら、別々の鍋物にも出来るな」

「ええ、そう考えています。あ、後それとカイトさん達が出ている間に、胡麻ダレと胡麻が量産出来る様になりました」

「ほう・・・」


 カイトは睦月と桜達のそれぞれから、今までの報告を受ける。が、敢えて言うこともないかもしれないが、特段の問題は起きていなかった。起きても困るが、起きなくて一安心だった。

 ということで、特に問題無し、で依頼については順調に進んでいる、と言うことで統括が終了した。が、やはり変化がある所もあった。


「あら・・・じゃあ、私に興味を持たれているわけね?」

「ええ。今度馬車で西に一度行くので、その時に一緒に来てくれないか、と仰っておいででした」


 弥生の問いかけを受けて、桜が頷く。皐月の一件の後、フューリアはどうやら弥生にも興味を持ったらしい。ぜひ一度話をする機会を持てないか、と考えたそうだ。

 で、今度2泊3日程度の予定で西に公務の予定があるので、そこで道中話せないだろうか、となったわけである。行きはちょっとした理由から馬車になる予定で、暇が多いらしい。ここらは依頼の範疇だ。問題はないだろう。そうして、楓が更に続けた。


「行きは新型馬車の試乗を頼まれたので、その試乗と行幸を兼ねて、と。そこの道中で少しお話し合いを持ちたいそうね」

「光栄ね。カイト、良いかしら?」

「ああ・・・まぁ、西だとコカトリスの出没が怖いが・・・流石に軍の奴らが魔物に遅れを取るとは思えんか。それに万が一はオレ達なら飛ばせばすぐの距離だ。大丈夫だろ」


 弥生の問いかけを受けて、カイトはおおよその予定を見ながら許可を下ろす。馬車は普通の馬車だ。なので一日に進める距離は約5~60キロメートルが限界だ。一度宿場町に顔を見せて、その次の日には目的地に到着する。なので大体帝都から100キロの距離だろう。

 カイトでなくても瞬の足であれば、全力で走れば1時間も掛からず追いつける距離だ。軍にしても問題なく飛空艇がすぐに駆けつける距離である。何か危険な事は無いだろう。


「さて・・・じゃあ、これで終わりで、全員寝るか」

「さんせー」

「あぁ、カイト。少し良いか?」

「あ、話すならお風呂先入っていい?」

「うん?・・・と、皐月ー。お風呂先入って良いぞー」

「らじゃ」


 終わるか、と言って全員立ち上がった所で、瞬がカイトを呼び止める。終わった後に呼び止めた所を見ると、仕事に関係する話ではないのだろう。

 ちなみに、カイトが皐月にお風呂の事を言ったのは、お風呂が一部屋に一つだからだ。さすがにカイトも今になって皐月と一緒にお風呂に入りたくはない。どうなるかわからない。というわけで、皐月が先に部屋に帰ってお風呂に消えていった。


「どこぞのカップルとかじゃないぞ?」

「な、何も言ってないんだが・・・」


 少し茶化す様なカイトの言葉に瞬が苦笑する。それに、カイトは相変わらず笑いながら先を促した。


「あはは。で、なんだ?」

「いや、実はエリオの奴から城下町で一杯どうだ、と誘われてな・・・今から出て大丈夫か?」

「スラムとかじゃないんだろ?」

「普通の飲み屋だそうだ。こっちの軍の人達と一緒なんだが・・・」

「なら、行って来い。こっちはもう寝るだけにしとくからな。それに、伝手作っとくのも悪い話じゃない」


 瞬の申し出に、カイトは笑いながら許可を下ろす。ここら、瞬は律儀だった。聞かないでも仕事後の飲み会ぐらい行けば良いだろう、と思うが、『報連相(ほうれんそう)』――報告・連絡・相談――は大切だろう。それが夜ともなれはなおさらだ。


「ああ、悪いな。じゃあ、後は任せた」

「何も無いって・・・ま、楽しんでこい」


 少し楽しげに背を向けた瞬に、カイトが手を振って送り出す。そうして、カイトは自分も休憩を取る為にお風呂に入る事にした。勿論、皐月が上がった後に、だ。


「ふひゅー・・・」


 今日のお風呂は一人だ。そしておおよその事は考えている為、流石のカイトも今日は何か考え事をしながらお風呂に浸かる事もなくゆっくりする事にする。


「女子会、相当盛況なようだな・・・」


 カイトは漏れ聞こえる笑い声に少し苦笑する。夏場の風呂場なので窓を少し空けていたのであるが、どうやら桜達の部屋で弥生とユリィを交えた女子会が行われている様子だった。更には三人娘も一緒だ。

 ユリィがここに入ってこないのはそう言う理由なのだろう。この様子だと、今日一日は帰ってきそうにないだろう。そして弥生はそろそろ仕事が大詰めを迎えた睦月に気を遣っているのだろう。

 窓を閉じておけば、部屋に仕掛けられた魔術が作動して完全に防音状態になるのだ。一人レシピを練り直すには、丁度良い空間だった。


「一葉達も・・・楽しそうか」


 当たり前といえば当たり前だが、彼女らはカイトの前では従者として振る舞っているだけだ。普通にはきちんと少女達の様な性格なのだ。カイトとしてはもう少し素で振る舞って欲しいのであるが、そこはまだ、難しいだろう。彼女らとて完璧ではないのだ。まだまだ、ゆっくりと色々と学んで欲しい所だった。


「ふぅ・・・善き哉善き哉」


 カイトは湯船に浮かべた冷酒を一杯呷る。異郷の地で露天風呂ではないが、星空も見えて悪い場所ではない。


「ああ、そういや皐月が何処か旅行を、って言ってたか・・・秋口に中津国に温泉、行くか」


 お風呂に入りながら星空を眺めていたからか、カイトはふとそう決める。中津国には怪我人向けの療治の湯もある。怪我の多い冒険者達が時折骨休めに来るのだ。そういう所から、観光客向けの施設も多かった。悪いアイデアではなかった。


「一度皐月と話してみるか」


 十分温まった所で、カイトはそう考えて湯船から上がる。何気にその頃にはすでに2合の徳利を二つ空けていた。お風呂であった事もあって、結構飲んだようだ。


「ふぅ。さっぱりした」

「あ、おかえり。いいお湯だった?」


 風呂上がりのカイトを出迎えたのは、言う必要もなく皐月だ。彼女が寝間着姿でベッドに腰掛けていたのである。同居人が寝間着で居て不思議な事はない。

 なお、その寝間着が女の子用のひらひらが付いた可愛らしい物なのだが、もうカイトも慣れているので気にしていなかった。


「おう。いいお湯だった・・・うん?」

「どしたの?」


 自らを見て何らかの違和感を得たらしいカイトに、皐月が首を傾げる。が、そんな皐月に、カイトが笑って首を振った。


「いや、悪い。妙に色っぽいとか思っちまっただけだ」

「うっわ・・・さすがに私もドン引くわ、それ。どうせまたお風呂でお酒飲んだんじゃない?」

「うっせ。酒好きなんだよ」


 いくら片方が歳を重ねようと、この二人の間柄は幼馴染だ。というわけで、普通は他の人が居る様な場では憚られる様な言葉でも、二人はあけすけに話し合う。

 と、そうしてカイトが皐月の横に腰掛ける。なお、彼の最初の発言は勿論、冗談である。皐月もそれはわかっているので、返しも演技混じりの冗談だ。


「さて・・・」

「勝負!」


 二人は何も示し合う必要もなくスマホ型の魔道具を取り出すと、そこに入っているアプリを起動させる。対戦型のゲームであった。何度も言うが、二人は幼馴染で間柄としては親友と言える。なので普通に子供の様に遊ぶのであった。そうして、暫くの間二人は並んで対戦を行う。


「・・・っしゃ! オレ様大勝利! 勇者さまはゲームでも勝利するのだよ!」

「ちっ!」


 カイトが勝利して、皐月が盛大に悔しがる。物凄い大接戦だったらしい。やはりカイトも本質としては大昔からなんら変わっていないのだ。10数年のブランクがあれども、幼馴染の前では平然と子供の様にはしゃぎまわっていた。と、そこで事件は起きた。


「よーし、もう一戦だ。こいや、おら!」

「ならば!」

「はっ! オレにはきかね・・・?」


 ならば、という声と共に、皐月がカイトに対して妨害行動に出る。背中に張り付いたのだ。何時もの事だった。戦況が不利になると、カイトだって皐月本体狙いに動く事がある。皐月も言わずもがな、なのであった。類友なのだろう。

 そして彼女の場合、誘惑する様な小悪魔的な行動が大半だ。まぁ、これが大抵の男子諸君ならば効果は抜群だ、なのであるのだが、残念ながらカイトだ。普通ならば効くわけがなかったが、そこでカイトは違和感を得た。


「・・・!?・・・!?!?!?!?」


 カイトが大混乱する。あってはならない物があるような感覚があったのだ。具体的には、二つの柔らかい膨らみである。部位は背中。ささやかだが、確かに感じる柔らかみだった。更には皐月の身体にも、何処か柔らかさがあった。


「あれ? どうしたのかしら?」

「あ・・・え・・・うあ?」


 妙に色っぽい声で、皐月が問いかける。それは何時も通り、可憐な少女としか思えない声だ。そうして、そんな彼女は更に強くカイトに後ろからしがみついた。すると、後ろでむにゅん、とささやかだが確かに何かが歪む感覚がカイトの背中にはっきりと伝わってきた。


「!? やっぱりある!?」

「ふふふ・・・さぁ、再戦!」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」


 勝手にゲームの再戦ボタンをクリックした皐月は、少しだけ胸元を開けていた。するとそこには、男ならばあってはならない膨らみが存在していた。それはカイトだって大混乱するだろう。最早悲鳴が声にならない程の混乱だった。


「あ・・・え・・・?」


 カイトは大混乱だ。当たり前だろう。どこからどう見ても、それは女性としての膨らみだ。そしてよく見れば、皐月の体つきはいつも以上に何処か女性っぽい。なんというか、小悪魔チックな中にも女性特有の艷があるのだ。そうして、その間にも皐月は一方的にカイトに対して攻撃を叩き込んでいく。


「あら~? どうしたのかなぁ?」

「え、いや、それ・・・えぇ?」

「勇者さまはゲームでも大勝利するんじゃなかったっけ?」

「あ、くそっ!」


 笑いを堪えた皐月が、カイトへとニマニマとした笑顔で問いかける。明らかに彼女はわかってやっている様子だった。それにカイトもなんとか我を取り戻すも、流石に間に合わなかった。混乱も手伝って完全に完敗してしまう。そんな混乱するカイトに対して、一方的な勝利を得た皐月が口を開いた。


「っしゃ! ふふふ・・・フューリア様が気まぐれに教えてくださったのよ。<<転化の法(てんかのほう)>>って言うんでしょ? 簡単な上にどうにも馴染んだらしいのよね」


 くすくすくす、と皐月が大混乱するカイトに向けて、事情を説明する。かつてカイトが暦の前で使ったのも、この<<転化の法(てんかのほう)>>だ。フューリアが何故そんな医療用の魔術を知っていたかは少々疑問だが、戯れに皐月に教えたのであった。本人はこんな子が女の子になるとどうなるか、と興味半分だったらしい。残りの半分はこうした方が潜入しやすい、という老婆心である。

 こそこそと何をやっているのか、と思って出て来た皐月を見た時には桜達も大いに驚いていた。というわけで、桜達は未習得である。

 まぁ、当人達もこれで皐月が遊ぶと思うよりも、たしかにこれならここにも潜り込みやすいな、と感心していたぐらいだ。が、カイトは違う。この組み合わせによる危険性を誰よりも把握していた。


「ふふふ・・・どう? この完璧な女の子の姿は」

「なんっつーことを・・・」


 どうみても女の子にしか見えないどころか正真正銘女の子になって勝ち誇る皐月を前に、カイトは本気でがっくりを膝をつく。カイトが愕然としているのが一番皐月には嬉しいらしい。

 カイトとしては、一番教えてはならない魔術を一番教えてはならない者に教え込むとは、と本気で殴り込みに行きたい程だった。

 なお、念のために言っておく。皐月の女装は楽しいが故にやっているのであって、女の子になりたい、という事は考えていない。なので今回の<<転化の法(てんかのほう)>>にしてもいたずら以外に使うつもりは一切無かった。そのイタズラが一番厄介だ、とはカイトの言である。


「下、きちんとついてないわよ?」

「そりゃ、そういう魔術だからな・・・」

「・・・ほい」

「やめーや! ガチで混乱してんだから!」

「い・や!」


 理解が追いつかないカイトに対して、皐月が楽しそうに再び胸を押し当てる。現状、皐月は久し振りにカイトで存分に弄って遊べるのだ。一気に押せ押せ、という感じだった。そうして、夜は更にふけていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。遂に皐月が最悪の魔術を習得した。

 次回予告:第800話『幼馴染ーズ』

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