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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第45章 小さく、しかし大切な依頼

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第792話 胡麻を求めて

 カイト達が外に出て胡麻を求めていた頃。睦月はレシピを見ながら、日本料理の基本を思い出していた。


「うーん・・・基本的に日本料理は旬の食材を使うから、ここら辺での旬の食材を調べる必要があるかな・・・」


 地域に応じて、旬の食材はやはり変わってくる。基本的な食材は地球で使われている物もあるが、それ以外にもエネフィア独自のものだったり、逆に地球にしか無い物もあったりする。色々と考えないといけないだろう。


「あ、それならやっぱり旨味成分は重要・・・って、旨味成分ってあるのかな・・・」


 睦月が気になる事はやはりいくつもあった。欲しい物も挙げ始めればキリがない。と、そういうわけで彼の方でも仕事に向けた幾つもの手はずを整えられつつ、仕事は進んでいくのだった。




一方のカイト達はというと、当初の目的通りコトリから種屋についてを聞く事にしていた。


「種屋、ですかぁ?」

「ああ。ちょいと胡麻が欲しくて」

「油ですかぁ? そこらの食材屋で買えばいいじゃないですかぁ」


 カイトの問い掛けを受けて、コトリがもっともな意見を返す。とは言え、ここは少し勘違いがあるからこそのこの発言だ。なのでカイトがそれの訂正を行って、事情を説明する事にした。


「いや、この間まで会議場に居たんだけどさ。実は胡麻の種って食べれるらしいんだよな」

「え・・・? あれ、固くて食べれませんよー?」

「あはは。いや、オレ達もそう言う印象だったんだけどな。どうにもやり方があるらしい・・・で、試しに聞いてみたら、案外簡単に出来そう、ってなって今後考えて一度街に居る間にやってみるかーって。食べれればめっけもんだろ?」

「へー・・・」


 カイトからの言葉に、コトリが少し感心した様に頷く。胡麻というのは生では食べれない。と言うか、収穫して洗って乾かしただけでは皮が固く香りも無いのだ。

 通常食卓に提供される胡麻は煎りゴマと言って、火で炒った物を一般には胡麻と呼んでいるのである。そこから更にすり鉢などですり潰してすり胡麻などにしていくわけだ。


「でも、小さいですよぅ?」

「ああ、調味料として使えるらしい」

「実はこいつ、料理好きなんだよねー・・・こう見えて一度王様に振る舞った事あるぐらいだし」

「えへん」

「へー・・・」


 ユリィからの言葉に胸を張ったカイトを見て、コトリが納得する。実はこれは演技でもなんでもなかった。そもそもこういう調味料や食材を探求するのは、冒険者でもかなり稀だったのだ。

 料理出来ない冒険者はそうは居ないが、逆に料理は出来るけど凝った料理を作る事が出来ない者は多い。大抵が料理には拘らず、その日食べれれば良いからだ。

 なので冒険者の基本は煮る・焼く・炙るなどの簡単な料理だ。カイトの様にブイヨンスープだのクルトンを入れたサラダだのとどこのコックだ、と言いたくなる料理を作る者はかなり稀だ。更に言えば最早調味料まで自作しよう、というのはよほどの好き者でしかなかった。


「じゃあ、いっそ冒険者辞めて働きませんかぁ?」

「お、定職か。それいいねぇ。危険じゃないってのが何より。それに一番はここ、コトリちゃんも居るし」

「あはは。残念ですよぅ。今度私親戚の所行っちゃうんで、今月一杯で終わりなんですよぅ。というわけでのスカウトだったりするんですよぅ」

「あら・・・そりゃ残念」


 コトリの言葉に、カイトが肩透かしを食う。まあ、カイトにしてもコトリにしても本気ではない。とは言え、コトリの言い訳は本物だろう。

 今月も後一週間程度で終わりだ。本当にあと少し、という所での偶然の出会いだったのだろう。こういう一期一会も、旅の醍醐味だった。と、遠く行くという発言にユリィが興味を持った。休みではなく終わり、という事は、かなり遠くになる、と思ったのだ。


「どこ行くの?」

「さぁ・・・エネシア大陸の有名な都市とは聞いてるんですよぅ。でも、詳しい話は今度迎えに来てくれた時に、ですねぇ」

「そ、そか。頑張れよ」


 まさか入れ違いにコトリがそっちに行くとは、とカイトもユリィも思わず頬を引きつらせる。


「まあ、もし会えたらよろしくお願いしますねぇ。他大陸へ渡る程の冒険者さんなら、そう言うご縁もあるでしょうしねぇ」

「まぁなぁ・・・こっちももともとそこ出身だし・・・ま、とは言えあと少しこっちなんだろ?」

「そうですよぅ。後一週間はフルカウントなんですよぅ・・・」


 コトリが何処か悲しそうにする。どうやらお休みが欲しかったらしい。それに、カイト達が笑い、暫くはそんな雑談が続く。そうして一頻り笑いあった所で、本題に戻ってきた。


「で、種屋さんですねぇ・・・えぇと・・・北側に農耕地帯があるんですよぅ。そこら辺に行くのが良いと思いますよぅ?」

「お、サンキュ。じゃあ、明日にでも出来たら持って来るよ」

「楽しみにしてますよぅ」


 支払いと共に告げられたカイトの言葉に、コトリが笑顔を浮かべる。期待はしていなさそうだった。所詮、冒険者の言葉だ。真に受ける方がどうかしている。

 そうして喫茶店を後にしたカイト達は、とりあえず教えられた帝都の北区画へと向かう事にした。と、そこで瞬が物凄い感心をしていた。


「はー・・・そう言えばお前と旅をするのは初めてだったが・・・やはり慣れているな」

「ん?」

「いや・・・ああもスラスラと嘘がよく出てくるな、と思ってな・・・」


 唐突な賞賛にカイトが首を傾げると、瞬がその理由を告げる。彼自身、自分の事は口がうまいとは思っていない。が、それ故にああまでするりと人の心の中に入っていって情報を入手してみせた事には思わず感心したのだ。と、そんな賞賛に弥生が笑った。


「まぁ、カインの口の上手さって、私達が鍛えた様なものよねー」

「あー・・・」

「そうなの?」


 何処か認める様な様子のカイトに、思わずユリィが驚きを浮かべた。思えば彼女とたった二人でコンビを組んでいた頃よりも前から、カイトは口がうまかった。それを見てアルテシアらは口から先に生まれた、なぞと茶化していた事を今更ながらに思い出していた。


「・・・ほら、こいつ」

「ひゃ」

「・・・この見た目で男って信じられるか?」

「いえーい」

「うん、無理」


 カイトの腕に絡みついてピース・サインをする皐月を見て、ユリィが即座に断言する。今でもユリィさえ女の子なのではないか、と時折疑っているぐらいだ。実はこの面子を紹介された際にはティトスも帝王フィリオも思わず唖然となった程だった。


「まぁ、そういうわけなんで・・・」

「彼氏役に駆り出したりしてたのよ、私」

「男と男でデートとか、最高だったわよ?」


 クスクスクス、と弥生が笑う。もう楽しくて仕方がないのだ。なにせ皐月のあの見た目だ。かと言って性器でも見せねば納得はしてもらえないだろうし、それはそれでアウトだろう。

 というわけで、最善の方法は彼氏が居る、という事だったのだ。で、全部把握した上で使える奴は、となると彼女らにはカイトしかいない。そうして、カイトが彼氏役に駆り出される事になるのである。となれば必然、口も上手くなる。必要に駆られた進化だった。


「なにそれ。超見たかった」

「でしょ? 二人で取った写真とか超見ものよ?」

「ちょ、八重! 探すな!」

「へい、パス!」

「わー!」


 弥生専用のスマホ型魔道具の中には、どうやらその当時撮影された偽装デートの時の写真があるらしい。それを奪い合うカイトとユリィの姿があった。そして、それは更に波及する事になった。


「二葉! パス!」

「へ? きゃあ!」

「良し! 二葉、こっちに渡せ!」

「・・・ごめんなさい、マスター! 私も見たいです!」

「なんだとぉ!?」

「よぉし! 読み通り!」


 まさかの護衛役の裏切りに、カイトが目を見開いて、ユリィがガッツポーズを行う。さすがに二葉は立場上今まではしゃぐ事に参加できなかったらしいのだが、ユリィにはしっかりと理解出来ていた。興味あるな、と。というわけで、興味には抗えなかったようだ。彼女もスマホ型魔道具防衛戦に参加する。それを見ながら、弥生と八咫烏が小声で話し合っていた。


「これが、私が守りたかったカイトよ」

『・・・そうか。確かに、子供の様だな』

「ふふ・・・そう。私が守った『天音 カイト』は、子供の様にはしゃいで、子供の様に笑う。そんな人よ」

『そうか』


 いつの間にかどうやら皐月まで加わった騒動を前に、弥生が優しい顔で頷く。これは、彼女の人生でも極僅かな時間だけ見れる一瞬。とても大切な一瞬だった。だからこそ、彼女はこれを覚えておこう、と思っていた。そして失いたくない、とも。だから、守り抜いたのだ。

 そうして、そんな一つ年上のお姉さんの見守る中でどこにでも居る普通の幼馴染達がはしゃぎながら、北区画へと歩いていくのだった。




 そんなどこにでもある様な騒動が終わり、結局カイトと皐月のデート姿が晒された後。カイトがユリィと皐月によっておもちゃにされた更に後だ。街の警吏の者達に道を聞いて種屋の場所を確認した頃には、騒動は終わりを迎えていた。


「種屋・・・そう言えばスルーしていたんだが、どういう店なんだ?」

「字の如く普通に種を売ってる店だ。地球にもあるぐらいだから、普通だろ?」

「そうなのか?」

「そりゃ、地球でだってどこもかしこも農家だから品種改良を、というわけじゃあないだろ? だから、品種改良した作物の種を専門に取り扱う店はどこの国にもある・・・こっちじゃ、商人ギルド有数の加盟店でもあるぐらいだぞ?」

「なるほど・・・飯は全ての基本だからな。馬鹿にできんか」


 瞬がカイトの言葉に頷いた。考えれば、道理ではある。品種改良をどの農家もやっているか、と言われるとそうではないだろう。とは言え、農家の皆さんのたゆまぬ努力により、より良い作物が日々生まれているのもまた事実だ。

 だが、もし農家が個々に種を収穫していた場合、そういった品種は出回らない。そういった所はやはり種屋が流通させて初めて、新しい品種が一般に出回るのだ。そう言う為にも、種屋は必要だった。

 なのでエネフィアでの種屋は一般的には遠くの作物の種だったり、品種改良された新しい作物の種を取り扱うのが基本だった。とは言え、普通の作物の種を取り扱っていないわけではない。きちんと、そこらも取り扱っていた。


「「「いらっしゃいませー!」」」

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」


 種屋にたどり着いた一同を出迎えたのは、男性店員だ。農家というよりも商人という方がふさわしい体格だ。おそらく、この種売りを商いとしている者で、作物は育てていないのだろう。さもありなん。ここはヴィクトル商会の系列店なのだから、当然である。種屋もやってるのか、とカイトとユリィが呆れていた。


「胡麻の種、ってありますか?」

「白と黒がございますが・・・どちらをお探しでしょうか。量は大中小の袋で取り揃えております。小袋1つで10メートル四方の畑に植えられるだけの分となっております。以降、中袋5つで100メートル四方、大袋5つで1000メートル四方と」

「量り売り頼めますか? ちょっと仕事で入り用で・・・試しに使ってみないといけなくて」

「かしこまりました。どれほどで?」

「とりあえず、30グラムずつ。あ、できればガラに入ってるのも貰えれば」

「かしこまりました。値段は量り売りですので、只今計算させて頂きます」

「お願いします」


 カイトはほっと安堵のため息を零す。量り売りの文化があるかどうかは未知だったのだが、どうやらヴィクトル商会の女主人はしっかりと採用していたらしい。

 そうして、カイト達はとりあえず胡麻が自分達の思う胡麻である事を確認する為に、とりあえず白ごまと黒ゴマと呼ばれた物を30グラムずつ購入する事に成功する。


「さて・・・じゃあ、一度帰るとするか」


 カイトの号令で、一同は帝城へと帰る事にする。というのも、このままでは煎りゴマにはできない。これは洗ってもいない完全に生の胡麻の種なのだ。兎にも角にもまずは洗って乾燥させたりしないといけないのである。となれば、帝城のキッチンを借りるしか術は無い。そうして、カイト達は求めた胡麻が希望通りの品であるか確認する為に、一度帝城に帰るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第783話『お料理』

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