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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第45章 小さく、しかし大切な依頼

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第790話 活動開始 ――帝都編――

 さて、始まった帝都での日々なのだが、その前に一つ決めておく事があった。


「部屋・・・どう考えても人数分はないよな」

「相部屋、ということか・・・」

「誰と誰がどういう部屋に入るか、ですね」


 少しだけウキウキ気分で桜が告げる。お泊まり会みたいだ、と思っていたらしい。ここら辺、やはりお嬢様らしかった。


「・・・えーっと・・・部屋って何人部屋?」

「三人部屋が一つと、残りは二人部屋になります」


 カイトの問い掛けを受けたティリエルが、部屋の構成を告げる。部屋の数は全部で6つ。そのうち三人部屋が一つだ。今回のカイト達のパーティ構成が三人娘を入れて12人なので、三人部屋を使えばどうにかなる計算だ。


「とりあえず、桜と楓で同室は確定で良いか」

「はい・・・楓ちゃんもいいですよね」

「ええ・・・久し振りね、二人で一緒に、なんて」

「そうですね」


 桜と楓は少しだけ懐かしそうに、そして嬉しそうに頷き合う。二人は幼馴染だ。思い出す所があったのだろう。勿論、カイトとしてはそう言う考えではなく、単に仕事の関係だ。二人で共同してご母堂と話し合う事になるのだ。そこらで二人だけで話す事もあるだろう、という判断だった。


「で、じゃあ三人娘は三人部屋で。各個人の部屋に侵入者があれば、撃退も頼む」

「わかりました」


 カイトの言葉に、一葉が応ずる。とりあえずこの三人に警護を頼んでおけば問題がない。この面子の中ではユリィに次ぐ実力者が彼女らだ。喩えどこぞの馬鹿な貴族が何をしてこようとも、問題はなかった。


「さて・・・そうなってくると、問題は残る面子か」


 とはいえ、そこまで問題はない。ユリィがカイトと同室になるからだ。実質的には残り8人で考える方が正確だろう。なぜカイトとユリィが一緒なのか。それは簡単だ。落ち着かないからだ。


「とは言え、オレとこいつ除いて男女同室でも拙いか・・・となると、弥生さんと皐月と睦月がどっちか一緒にした方が良いだろうから・・・」

「俺としても神楽坂と一緒、というのは色々と、な」

「あ、私の部屋やーちゃん一緒だから、そこの所よろしくね」

「やーちゃん・・・ああ、八咫烏か」


 弥生の言葉に、カイトが頷く。どうやら今はまだ出てこない様子だが、部屋に入れば出すつもりなのだろう。どうやら両者の間で取り決めがあって、一時期的に使い魔的な立ち位置となる事を選んだそうだ。もともと八咫烏はそんな所の立ち位置なので、それで良いのだろう。


「んー・・・睦月。お前、料理考えるっけ?」

「あ、はい。一応レシピとか見ようかな、とは思ってます」

「んー・・・じゃあ、弥生さんと睦月が同室で、オレと皐月が同室・・・先輩、皐月と同室出来るわけないし」


 カイトは最終的な決定案を一同に伝える。ここら、誰も誰と同室が良い、とは言わないので文句は出なかった。とは言え、やはり瞬からは疑問が出た。

 ちなみに、なぜ睦月と弥生を一緒にしたのか、と言うと簡単だ。デザートならば口出しは甘いもの好きな皐月の方が良いのだが、料理だと口出しは弥生の方が長けるからだ。おせち料理や多忙な両親に代わって二人の世話を昔から手伝っていた関係で、弥生の方が豪華そうな料理だと得手としていたのである。


「そうか?」

「一言、言っておいてやる・・・土下座する事になるぞ」

「あー・・・」

「?」


 皐月はわかった様子だが、瞬はわからない――他に理解出来たのは翔のみ――様子だ。とは言え、これは仕方がない。中学時代の修学旅行のお話になるからだ。カイトと皐月、翔の同学年三人組に、カイトから聞いていた弥生しかわからないお話だった。


「中学時代の後輩兼先輩の言葉だ。受け入れといた方が良い。それに、先輩後輩ならそっちの方が良いだろ」

「あれ・・・迷いなかったもんな・・・」

「そう・・・なのか?」


 何かよくは分からないが、とりあえず何かあるらしい。翔とカイトの非常になんとも言えない複雑な表情から、また何時もの何か斜め上に行ったぶっ飛び事態か、と理解して、瞬はそれで良しとしておいた。


「とりあえず、荷物置いて今日は今後の予定考える為にも地図借りて来る事にするか」

「はーい」


 カイトの号令の下、とりあえず決まった部屋へと一同は歩いて行く。と、そうして部屋に入った所で、ユリィが首を傾げた。当たり前だが彼女とてわかるはずがない。聞いてもいないのだ。


「ねーねー。なんで数日なの?」

「ああ、あれ?」

「懐かしいわよねー・・・あれ」

「土下座だったよなー、あれ」

「土下座?」


 土下座からの繋がりが理解出来ず、ユリィが首を傾げる。そうして、カイトが少しだけ笑いながら口を開いた。


「修学旅行に行く事になってな・・・って、言う必要もないんだが」

「その時の話よねー。部屋割り決める時になって、ウチのクラス・・・ああ、別クラスだったんだけど、唐突に男子全員が立ち上がったのよね」

「で、オレのクラスに来て、一斉に土下座した。言った内容は・・・」

「言った内容は?」


 一瞬溜めたカイトに、ユリィが生唾を飲んだ。そして、カイトと皐月が頷き合って、同時に口を開いた。


「「皐月ちゃんと同室でお願いします」」

「全員一斉に斉唱してたわね、あれ」

「なー・・・ウチのクラスの奴も教師も全員、ああ、うん・・・って顔で受け入れてたし」


 カイトと皐月は笑いを堪えながら、当時の事を語る。言わなくても良いだろうが、この見た目の皐月だ。当然だが中学時代からこの姿だ。寝間着はジャージの時もあるが、多くはパジャマだ。

 教師からして、カイト以外に理性が保てるとは思わなかったのだ。特に当時といえば思春期真っ盛りのお年頃だ。生徒達にも防衛本能が働いたのだろう。迷いがなかったという。


「まあ、ヨーロッパの摩天楼の中だったんだから、仕方がなかったのかもしれないけどね。私も私と二人っきりで理性保てるのってカイトぐらいだ、と思うし」

「あー・・・」


 ユリィも皐月の言葉に同意する。皐月には色々な意味で危うい匂いが漂っている。何故か、と言われると雰囲気が、としか言いようがないが、理性が崩壊するのは容易いのだ。当人も自己防衛はしているのだが、時折、それでもどうにもならない時がある。それを考えれば、仕方がなかったのだろう。が、ここでカイトが今更ながらの暴露話を打ち出した。


「あ、実はあれ、二人っきりじゃなかったんだぜ?」

「へ?」

「実はあの時、更に追加で二人一緒だったんだよ」

「え、嘘!? 何処に!?」

「さて、何処にだろうな?」


 カイトは少しいたずらっぽく笑う。どうやら皐月は幽霊の類だと思いこんでいる――カイトは見える為――らしく、少し震えていた。が、実際は実はカイトの地球での相棒二人――これまた妖精――が一緒だっただけだ。

 と、そんな事を話し合いながら、とりあえず荷解きを行っていく。そしてそんな話をしていたからか、少し皐月が思う所があったらしい。


「・・・ねぇ」

「うーん?」

「修学旅行、した方が良いんじゃないの?」

「あー・・・そう言えば、本来天桜学園の修学旅行って秋口だっけ・・・」


 言われてみればそうだよな、とカイトが思い出す。一応、天桜学園は学校としての体裁を整えて活動している。なのできちんと街で行われる行事ごとには参加するし、文化祭も運動会もどちらも計画しているし、可能ならば街や魔導学園との合同でやれれば、と折衝を行っている所だ。

 他にもせっかく時間が地球よりも長いのだから、と街の祭りに参加したりと各種行事は考えている。そんな中、すっかり修学旅行だけは忘れ去られていたのだ。

 そもそもこの状況で旅行って、と思っていた事が大きかった。カイトが少し前に慰安旅行を考えた事もあったからだろう。あれが修学旅行で良かったのではないか、と教師達が考えていて、計画が立てられていなかったのだ。


「そうだよな・・・やっとくべきか」

「卒業式は出来ないだろうけど、だから尚更やっとくべきじゃないかな、って思ったわけ」

「そうだな・・・ん、考えとく」

「お願いね」


 大抵の場合、修学旅行が三年生では最後のビッグイベントだ。その次の文化祭は普通は受験だなんだと精神的にきつかったり肉体的に忙しくなる事もあり、三年生になると手を抜かざるを得ない状況があったりもする。それを考えれば、やはり修学旅行が最後に羽根を伸ばせる機会なのだ。

 何時帰れるかわからない状況で他の者達の事も考えれば結局は修学旅行ではなく慰安旅行になるだろうが、一季に一度慰安旅行に出かけても良いだろう。そこらは考えておいて損はなかった。


「秋だと飯うまい所行きたいよなー・・・新米に刺し身乗っけて・・・いや、海鮮丼・・・お寿司も有りか・・・あ、燈火と月花おすすめの肉寿司もありだな・・・中津国行きたいな・・・」

「飯テロ止めて」

「うぇ?」

「口に出てたよ、カイト」

「あ、あはは・・・悪い悪い」


 ユリィが半笑いで指摘すると、カイトが頬を赤らめて謝罪する。どうやらお腹が空いていたらしい事と、相棒と幼馴染が一緒だからか気が緩んでいたらしい。

 秋といえば、実りの秋だ。特に新米が美味しい季節だ。やはりそこらが気になるのだろう。そうして、そんな話をしながら、カイト達は更に荷解きを行う事になるのだった。




 荷解きを終えて、少し。カイト達はティリエルにヴァルタード帝国の概略が記された地図を貸してもらって、街の概要から行動計画を立てていた。


「さて・・・とりあえず、睦月。味噌と醤油は手に入れておいた。無いだろうからな。帝王陛下も無いって言ってたし」

「あ、ありがとうございます。良かった。これなかったらどうしようかな、って思ってました」


 カイトから手渡された壺を見て、睦月が少し安心した様に頷く。やはり日本料理の、特に家庭料理だと基本はこの2つだ。無くても出来るが、有ればレパートリーが広がる。有って損はない。


「で、睦月。とりあえずどんな料理か話は出来ているのか?」

「あ、はい。一応お身体を壊さない様に温かい料理を選んでおこうかな、とは考えてます」

「夏だぞ、今」

「そこ、なんです。一番困るのは・・・」

「うん?」


 睦月が頭を悩ませる。どうやら何か困りごとがあるらしい。


「ほら、夏って足が早いでしょ? 純日本風の料理だとやっぱり痛むのが怖いかな、って」

「ほら、日本料理は冷めても美味しいのが多いでしょう? かと言ってお鍋は季節柄熱いでしょうし、って」

「なるほど・・・」


 どうやら色々と睦月達も考えているらしい。ちなみに、少し詳しく聞いた所によると、実は帝王フィリオとティトスは料理が趣味らしい。意外とよく作っているそうだ。

 まあ、実際の所は暗殺対策に始めたのがいつの間にかこだわる様になってしまっていた、という所だそうだ。さすがにそこらは聞かせる話ではないな、と睦月には黙っておいたらしい。


「で、多分幾つか取ってきてもらう事になると思います」

「もう、か?」


 睦月の言葉に、瞬が目を見開く。確かに仕事が早くて良いことであるが、それにしたって凄い早さだった。そもそもまだ数える程しか相談をしていないのだ。料理の内容も決まっていない。


「いえ、どうにも帝王陛下はドレッシングとかに興味を持たれていて、じゃあ、ごまドレッシングをちょっと選択肢に入れたいな、って思ってるんですけど・・・」

「帝王陛下が知らない所を見ると、ここらじゃ売ってなさそう、というわけか」

「はい・・・で、一応明日には一度見に行きたいな、って・・・でも何時呼ばれるかわからないので、一度お願いしておこうかな、って」

「なるほど・・・確かに胡麻ダレは何にでも使えるよな・・・」


 日本人的な味覚からすると、胡麻ダレと言うかごまドレッシングは使い勝手が良い調味料だ。有ると便利だろう。日本風の料理を作るのなら、選択肢として欲しいというのは頷ける。


「じゃあ、とりあえず明日は市場に足を伸ばすか」

「お願いします」


 とりあえず何をするにしても、材料があるかないかを調べない事には始まらない。というわけで、一同は早速明日から依頼の為の仕事を行う事にして、今日の所はそのまま仕事の相談を行う事にして、床に就く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第781話『帝都散策』

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