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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第44章 過去からの使者

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第785話 大陸間連合軍

 帝王フィリオの依頼を受けて、翌日。カイトは今度は皇帝レオンハルトに呼び出されていた。


「というわけで、明日には再度議会を行う事になった・・・明日は長引くだろう」

「明日で全部を終らせる、ですか・・・無茶苦茶ですね」

「そうせねばなるまいよ。すでに国によっては委任状を提出し帰国した国もある・・・『死魔将(しましょう)』の復活なぞ、どの国にとっても悪夢でしかない。それも目覚めて三日は眠れないクラスのな」


 皇帝レオンハルトがホテルの一室で首を振る。シアもメルも大忙し、ということで夫が来たというのに完全に顔合わせさえ出来ない程にそこは大忙しの様子だった。

 昨日今日と休みなのは冒険者達ぐらいだ。文官や事務官達は必死で連合軍の結成に向けて動いていた。どれだけ早く連合軍を結成出来るか。それで、各国の民衆からの印象が変わってくる。

 ここは多少拙速であっても先に締結だけを急ぐ事にしたようだ。細かい所はまた各国で使者を派遣するなりここに残して話し合い、だろう。


「それで、マクダウェル公を呼んだのは他でもない。貴公の軍である『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の事だ」

「はぁ・・・再結成が内定した、とでも?」

「その通りだ・・・というよりも、そうするしかなかった、が答えだな。ヴァルタード帝国と千年王国の使者が連盟で依頼してきた」


 皇帝レオンハルトが再度ため息を吐いた。わかりきった話だ。現在、カイトとティナは公には存在していない。そして、ルクス達も居ない。であれば、これが最善策だったのだ。


「こちらの秘蔵する戦力を各個撃破されるのが一番困る、か・・・司令官はクズハとアウラで?」

「表向きにはそうなるだろう・・・貴公らの事であるから、どうせ貴公の帰還は承知済み。貴公がトップに収まるだろう。各国共に、現在は各員の移動に向けて調整中だ」

「で、隠居してない『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』は全員揃って皇国へ行かせて、司令部も皇国、と・・・厄介払いされましたね」

「自分達の秘蔵の戦力を供出してやった、が各国の言い分だろう・・・お陰で体面上だけでも司令官を選ぶ必要が出た」


 二人は少し呆れ気味に笑い合う。確かに、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の各個人はそれだけで戦場の趨勢を決する事の出来る程の実力を持つ。が、それゆえに『死魔将(しましょう)』達との因縁は深い。勇者カイトのおらぬ今、下手に狙われる要因は抱えていたくはないのだろう。

 表向きは『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の再結成だ。民衆受けも良いし、不安も取り除ける。数日耐えるだけで彼らが来る、と言われれば誰もが我慢出来るだろう。流石にたった数日で国を落とせる程、どの国もやわではない。

 そして『死魔将(しましょう)』達にしたってカイトとティナが居る上に総掛かりになられては勝ち目がない。各個撃破を警戒するのは向こうも一緒の筈というのが、皇国上層部の推測だ。同時多発で事を起こすのは無いだろう。妥当な判断だった。


「じゃあ、司令官はメル、ということですか」

「うむ・・・お飾りとして置いておくだけで構わん。これほどの大事よ。皇国の面子として、誰か皇族は配置せねば他国へ向けての示しがつかん」


 皇帝レオンハルトは非常に疲れた顔になる。そろそろメルを戻しても良い頃か、と思って居た所に、これだ。かと言って別人を就けると、英雄達を配下にした余裕で功を焦る可能性がある。それは困る。

 結局、カイトの正体を知り、マクスウェルに滞在している『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の隊員達とも縁を得ているメルが最適となったのであった。彼女ならば危険が迫ってもカイトが手を出せるし、公爵家に入っているシアが上手に補佐も出来る。これは総合的に見て良し、と出来る決定だった。


「うむ・・・と、そういうわけで話すべき内容は話した。それで、だ・・・」

「これ、ですか」

「うむ・・・」


 カイトから提出された情報を見て、皇帝レオンハルトが顔を険しいものに変える。その情報とは、魔王ティステニアが操られていた、という発言だ。


「・・・密かに、各国には流した」

「・・・満場一致で?」

「うむ。『主』の存在は秘する。それで各国ともに一致した。もし出れば、混乱では事足りぬ未曾有の災害と認識されてしまいかねん。各国ともにそれは避けたい・・・表向き、勇者カイトは存在しない、からな」


 カイトの問い掛けに、皇帝レオンハルトが頷く。他国に流した情報については『死魔将(しましょう)』と直に交戦したクオン達の情報、としておいた。

 カイトの事については、伝えていない。クオン達が聞いていてもおかしいからだ。なので、伝えたのは『死魔将(しましょう)』達には本当の主が居て、それがかつての大戦を引き起こしたのだ、という事だ。


「それで、一日経ちましたが・・・推測は?」

「まだ、解析中だ・・・が、俺の見込みでも、貴公の読みと一緒と思う」

「魔王ティステニアを潰させるつもりで、オレを召喚していた・・・」

「そして次こそが本番だろう、と。その前の『主』の情報の段階で各国ともに厳戒態勢で一致したがな・・・まあ、無駄だろう、という事はわかっているがな。それでも、やらないよりもマシだ」


 皇帝レオンハルトは疲れた様な顔を見せる。たった23人の軍勢だ。しかも、並ではない実力者達なのだ。どれだけ頑張っても侵入を防げる道理が無い。更には彼ら一人でも動ける。もう手の施しようがないのだ。とは言え、もし運が良ければ、という可能性もある。やらないよりはマシだった。


「とは言え、当分は動かない・・・というのが、各国の見立てで?」

「ああ・・・実際、バーンタイン・バーンシュタットは大将軍アグラを撃退。剣姫クオンが『剣の死魔将(つるぎのしましょう)』と交戦、これと互角に戦う。バーンタイン殿は深手だが、剣姫と魔剣士の戦いは昔から良く知られている。お互いに今回は手傷無しではあったが全力を尽くした・・・と考えたい。あまり動かんだろう。道化師とて貴公の傷は癒えてはおるまい。紅一点のあの女とて貴公の言葉が確かであれば、魔力の回復には暫く必要だろう」

「豪腕のあいつはアイゼン達『八天将(はちてんしょう)』で抑えきれる。それ以外にも現代で有名な冒険者はそれ相応に存在している・・・なんとか、ですか」

「ああ。向こうも万全の体制を整えて来るはずだ」


 現状、実はカイトとて魔力は完全回復していない。あれだけ大規模な術式を使ったのだ。当然といえば当然の話だろう。いくらカイトとて無尽蔵の魔力を持ち合わせているわけではない。きちんと限りがある。消費分の回復を待つ必要があった。

 が、そうであるのなら、敵とて一緒だ。こちらにティナが万全の状態で居る事を把握している以上、敵も全力を出せる様になるまではおおっぴらには動かない、と見るのが正解だろう。死にに来るのなら、先日の時点で事足りる。なんらかの目的が前提であれば、向こうも暫くはお休みだった。


「さて・・・そうなってくると問題は・・・どこがあいつらの拠点か、ですか」

「皇国には無いぞ」

「わかってますって。ウチはどこよりも奴らの恐怖が理解出来ている。自分達だけは助けてくれる、なんて都合の良い事は考えても居ないでしょうよ・・・とは言え」

「きちんと調査はさせている。断頭台に少しでも遠ざかれるのなら誰を売ってでも遠ざかりたいと願う者が居るのもまた事実だからな」

「なら、大丈夫ですね」


 大丈夫だろう、と思いつつも調査は怠らない。そこらやはり、皇帝レオンハルトは皇帝としての見識を持ち合わせていた。武張っているが、きちんと政治家としての目も持ち合わせていたのだ。と、そんな所に。一人の文官が大慌てでやってきた。


「へ、陛下! あ、申し訳ありません・・・」

「いや、構わん。丁度話は一段落出来た所だ・・・それで、如何な用事だ?」

「はっ・・・それが、実は・・・隣国ルクセリオン教国の使者が・・・」

「今であれば、別におかしい事ではあるまい。何用だ?」

「いえ、その・・・来られているのは、枢機卿。それもアユル卿が・・・今はハイゼンベルグ公が対処されておられます」

「「っ!?」」


 カイトと皇帝レオンハルトが目を見開いて、顔を見合わせる。枢機卿。それは、ルクセリオン教国の教皇の下で補佐する者達の総称だ。つまり、立ち位置としては組織のナンバーツーの立場だ。しかも、その名が何より物凄い人物の名だった。


「・・・通せ。公よ。万が一に備えて、控えておいてくれ」

「わかりました」


 カイトは一瞬で皇国貴族の衣服――それも軍高官――に着替えると、皇帝レオンハルトの横に立つ。何が目的か。わからない以上、最大の警戒が必要だった。そうしてその上で、呼び出すに相応しい幹部達を呼び立てて、準備が出来た所で呼び出された。


「・・・失礼します、皇帝レオンハルト陛下」

「アユル・ヴェーダ枢機卿。よくぞ来られた」


 入ってきたのは、一人の若い女性だ。年の頃は20代前半。金糸というのが似合うキレイな金色の髪の大半を、ベールで隠していた。体格はゆったりとした聖職者が着る服なので、はっきりとはわからない。とは言え、それでも女性らしさは見て取れた。悪くはないのだろう。

 枢機卿だというにしては、非常に若い。が、これには理由があるらしい。彼女は現教皇の娘だそうだ。そこらが勘案されて、枢機卿に立っているそうだ。ルクセリオン教は男女平等を謳っている。女性が教皇になることもあった。高い地位に居ても別におかしい事ではない。

 なお、母親は不明だ。もともと現教皇は教国の田舎町の教会の出身で、そこで得た娘らしい。詳しい事はそこの村が疫病で滅んでいた為、当人達に聞かない限りは誰にもわからないらしい。母親もその時の疫病で亡くなったのでは、というのが皇国上層部の見解だ

 とは言え、親のコネだけか、というとそうではなく、当人も並外れた知識を有しているらしい。現に見識の深さは見て取れる風貌だった。得意分野は治癒系統の魔術。聖職者らしいといえば、らしいだろう。


「そちらも理解しているだろうが、何分現在は何処も忙しい。単刀直入に話にはいらせて貰いたい・・・此度は如何な用か」

「はい・・・此度は停戦協定の締結を提案したく、参りました。何ら前準備も無い状況での来訪。何卒、ご容赦の程を」

「何?」


 アユルの言葉に文官達がざわめきを生む。我が道を行くルクセリオン教国が、停戦協定の申し入れ。いや、おかしいわけではない。現在はそれだけの事態だ、というのは誰もがわかっている。


「・・・それは、貴公の発案か」

「いえ、父ユナル・ヴェーダも同じ考えであります。そも、今は人類が敵対しあっている場合ではありません。父とて、それは理解している・・・それ故、まずは我らが手を取り合うべきだろう、と父は仰っておいでです」


 現在のエネフィアで一番犬猿の仲なのは、エンテシア皇国とルクセリオン教国だ。それは、少しでも政治を知っている者ならば口をそろえる。

 だからこそ、と彼女は言ったのだ。意図が読めない。ここまで諦めや道理が通じるのなら、一体今までの戦いはなんだったのか。そう思いたくなる。


「我らが犬猿の仲であることは、全ての国が知る所。だからこそ、我らが手を取り合う事で、連合軍が一枚岩である事を示そうではないか・・・それが、父のお考えです」

「・・・」


 皇帝レオンハルトは何も言い返せない。確かに、道理だ。そうすれば各国ともに我らもそうすべき時、と思うだろうし、民草達とてこのが手を取り合ったのだから、と事の重大さを理解して揉めている他国と手を取り合おうと考えるだろう。だが、だからこそ。皇帝レオンハルトにはすんなりと信じる事はできなかった。


「・・・その言葉。他意は無いか」

「御座いません」

「そなたに聞いているのではない。そなたの父はどうなのか、と聞いた」

「・・・無い。そう信じております」


 一瞬だけアユルの反応が遅れた事を、カイトも皇帝レオンハルトも見逃さなかった。どうやら、アユルその人は何かあるのでは、と疑っているようだ。当然だろう。

 とは言え、そうである以上、彼女は父親から信じられてはいないらしい。対外的に枢機卿においているだけかもしれない。そして、それを示す一言があった。


「とは言え。父とて信じられる道理がない事は、承知しておられます・・・ですので、私が皇国に滞在し、連絡役となるよう、言い遣っております」

「っ・・・」


 皇帝レオンハルトの顔が一気に険しいものになる。言いたいことは理解出来た。これはどう考えても、人質だ。教国は皇国へと実の娘を人質に差し出したのである。これはどの国だろうと、理解出来る。そう取るしかない。そしてそうであればこそ、皇帝レオンハルトはこの答えしか出せなかった。


「・・・この案件については、流石に即座に答えは出せぬ。持ち帰ろう。だが、良い答えを期待されよ」

「有難う御座います」


 皇帝レオンハルトの言葉を聞いて、アユルが頭を下げる。そうして、彼女が部屋を後にした。


「・・・公よ。どう考える」

「ぶっちゃけてよろしいですか?」

「構わん」

「相当痛いところを突いてきましたね」


 カイトの所感は、これだ。大方、これは少しすると多くの国が知る事になるだろう。当然、皇国の応対が注目される。そうなると、些かでは無いレベルに拙い。


「ここでもし手を取れねば皇国が和を乱している、と言われても仕方がない。これが皇国だったとて、触れ回ったでしょうね」

「何らかの策を覚悟で、締結しか取れぬか」

「しか。同盟軍をきちんと機能させる為にも」

「はぁ・・・帰ってからは大揉めするか・・・何名か急ぎ戻り、即座に情報の収集と対処に急げ」

「御意」


 皇帝レオンハルトの命令を受けて、ただでさえ慌ただしかった動きが更に慌ただしく動き始める。そうして、この日はカイトもこの応対に追われる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第786話『天将の王』

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