第782話 終わらぬ悪夢・夢の終わり
昨夜いつも通り活動報告と言うか定例報告を上げました。次の断章についてのお話とか入れているので興味ある方は一度ぜひ。
戦いが終焉へと向かっていた頃。カイトへと<<神剣キズナ>>の解放を止めたレヴィはというと、冒険者達の指揮の大凡をユニオンの職員達にまかせて、己はカイトの隠蔽を行っていた。己の言葉で解放を止めたのだ。隠蔽工作については、実はカイトの前に来る前にはほぼほぼ終わらせていた。
「・・・こんな所か」
やったことはさほど難しい事ではなかった。まず第一にはあふれる魔力の隠蔽だ。これはカイトを外側から密かに補佐してやるだけでなんとでも出来た。
次は、違和感の抹消だ。300年前にはカイトは死者の呼び戻しを影としてしか成し得なかった。実体を持つ形に出来たのは地球での修行の結果だ。300年前を経験してそこに違和感を抱かない者はあまり多くない。これについては、すでに彼女は己の立場を利用して各国に連絡を入れた。
勇者カイトは10年の滞在期間の間に更なる力を手にしていて、万が一の切り札として死者達を実体ある存在として呼び戻せる様にしておいた、と。
こう言われては誰も疑いようがなかった。そもそもこの力が公に最後に使われたのは300年前のティステニアとの最終決戦の時だ。それ以後は一度も使われていない。なので誰もその後にこの力が強化されていたのか知らないのだ。知っているのは、クズハ達だけだ。が、彼女らはカイトと口裏を合わせる。何も問題はない。
そして『死魔将』達が存在している以上、隠していても不思議はない、と思うしかなかったのだ。現に、今回はその見通しのおかげで助かったとも言えるのだ。カイトの慧眼を賞賛こそすれ、レヴィの言葉を疑う者は居なかった。そしてレヴィとカイトの関係だ。唯一聞いていても不思議はない。
「・・・来たのか」
「ああ・・・あれが呼んだのでな。貴様の護衛を頼まれた」
そんなレヴィの所に顔を出したのは、グライアだ。彼女はバレては困るのでマクスウェルに残っていたのだが、事の大きさを見てカイトが呼び寄せたのだ。勿論、それでも公に関われるわけではないのでレヴィの援護をするつもりだった。
と、そうしてレヴィの援護に入ったグライアだが、少しだけ顔を顰めていた。カイトから『死魔将』達との会話を聞いていたからだ。
「にしても・・・ただならぬ事態になっている様子だな」
「ああ・・・もしかしたら、奴らは気付いているかもしれん」
「余を含め6体と言われる古龍が本当は5体しか存在していない、という事か?」
「ああ。気付いている可能性はある」
グライアの言葉にレヴィも同意する。これもまた、世界の真実の一つだ。が、詳しい事は彼女らは語らなかった。
「グライア。貴様も気をつけておけ。奴らは下手をすると貴様らを超えている可能性もある」
「気を付けよう。不死身ではあるが、封ぜられる事は出来るからな」
グライアはレヴィの忠告を受け入れる。ティナでさえ、一息には倒せない相手だ。自分に匹敵する、もしくは上回る可能性は十二分にあり得た。ならば、封印も可能かもしれない。注意しておくべきだろう。
「それを考えれば、余らが輿入れしたのは正しかったか。あれの側に何時でも行ける」
「だろう・・・知った時には驚いたがな」
「レヴィア・・・貴様も輿入れしておいた方が良いのではないか? 安全の確保が出来るぞ」
「冗談でもやめろ」
楽しげなグライアに対して、レヴィが非常に胡乱げな顔で拒否する。ここはグライアは言うまでもないが、レヴィはランクSの冒険者だ。なのでこんな雑談をしていても問題はない。
それに今回レヴィは裏方に徹している。あまり魔物との戦いもない。グライアの増援も彼女が狙われるという万が一に備えていただけだ。そうして、こちらはほぼほぼ戦いらしい戦いをせずに、戦いは遂に終わりを迎える事になるのだった。
細かい戦果は置いておく事にして結論だけを述べると、結局『死魔将』にも生き残った軍団長、大将軍にも逃げられてしまった。そもそも逃げる事を目的としている様な戦い方だった、と後に全員が口を揃えた。
ならば、仕方がない。今回は奇襲されての事だ。討ち取れなかった事を怒るではなく、こちらの被害が抑えられた事を喜ぶべきだろう。
「・・・バーンタインか。中々にやる男だった」
アグラがひしゃげた右腕の治療に専念しながら、左手で大斧を担ぎ直す。右腕に傷を負わせたのは、言うまでもなくバーンタインだ。大斧と大斧。武器は同じ。実力もさほど大差はなかったようだ。素直に好敵手と認めていた。
「ああ、アグラさん。お疲れ様でした」
そんな彼に近づいてきたのは、『道化の死魔将』だ。彼らが何処に逃げたのか。実はそれは外を見れば簡単にわかる。外は真っ暗闇。が、宇宙ではない。そして夜というわけでもない。それでなお、光が届かぬ世界。即ち、深海だった。つまり彼らが逃げた場所とは潜水艦の中だった。それも地球の潜水艦に似た風貌だ。これが、今の彼らの拠点の一つだった。
ティナでさえまだ、潜水艦は開発していない。出来るだけの技術と材料は整っているが、まだ開発段階にはない。移動速度などの関係で完全に趣味の領域になり、優先順位は低いからだ。地球の技術を手に入れられているのは、ティナ達だけではない様子だった。
「ああ・・・それで? 首尾は?」
「ええ・・・ご覧になられますか?」
「ああ」
アグラが口端を上げる。当たり前だが、戦う為だけに彼らは姿を現したわけではない。目的があって、姿を現したのだ。そうして、道化師とアグラは二人揃って、潜水艦の中を歩いて行く。どうやら潜水艦はかなり広いらしい。
「これを」
「おぉ・・・懐かしいな、戦友よ。魂だけでも、お前を感じるぞ」
アグラの顔に笑みが浮かぶ。そこは、十数個のカプセルが浮かんだ空間。その中には一つ一つに別の白い宝玉が浮かんでいた。
「4の『死魔将』、8の大将軍、12の軍団長・・・ああ、いえ。マギナウ将軍は裏切りましたので、7の大将軍ですか」
入っていたのは、かつてカイト達が討伐せしめた全ての最高幹部達。彼らのあの場での真の目的とは、その魂を賦活する事だったのだ。あの白い宝玉は、その魂の入れ物だった。
「総勢23人の最高幹部・・・まあ、これからなので暫く時間は必要ですが」
道化師の道化師たる悪辣な笑みが、深海の中に響く。ここの指揮官は、彼だ。これらも彼が取り仕切っていた。それは、何か。死した大将軍達の復活だった。
「ホムンクルス技術・・・中々に苦労しましたよ」
ホムンクルス。確かに、一葉達の時のティナの発言を考えれば魂さえあれば肉体は構築出来るだろう。が、それは同時に、ある一つの法則も冒していた。
「うざいですね、どうにも」
どんっ、という音が鳴り響く。何かが顕現しそうになり、それを消し飛ばしたのだ。何か。それは、『守護者』と呼ばれる化物だった。その予兆が出た所で、彼が消し飛ばしたのである。
「死者を蘇らせてはならない。勇者カイトでさえ時間と空間を隔離して死者蘇生を成している・・・そこまで怒る事ですかねぇ」
予兆の残滓を踏み躙りながら、仮面の道化師が笑みを浮かべる。それは嘲笑の滲んだ笑みだ。
「というよりも・・・そもそも勇者カイトこそが、死を確定させながら生き返った最たる例。ダブルスタンダードも良い所だ」
世界を嗤う。世界そのものがダブルスタンダードだ、と。ならば自分達がやっても別に良いだろう、と嗤っていた。そんな道化師に、アグラが告げる。
「・・・報いを受けるのは覚悟での事であろう、道化師殿よ」
「・・・ええ、覚悟していますとも。所詮、ダブルスタンダードでもなんでもない。我々がダブルスタンダードだと思っているだけのこと。でなければ、こんな事は出来ませんよ」
「ふんっ・・・別に貴様らがどう考えていようとも、我らは知らん。戦える場所が貰えるのならな」
アグラは仮面の裏の更に裏、鉄面皮に隠された仮面の下でどんな表情をしているのか悟らせぬ道化師に告げる。別に彼らだって心酔している、とか忠義で、というので従っているわけではない。各々が各々の思惑で従っている。ただ、彼らの与えてくれる報酬が自分の利益になる、というだけだ。
「とは言え・・・ひっきりなしではどうにもできんぞ?」
「ああ、安心してください・・・もう少しすれば、あのお方が対処してくださいます。所詮、あれは世界の守護者。守り手。ならばだまくらかす事も可能なのですよ」
「・・・そうか」
こいつらは一体どこまで世界の深淵に手を伸ばしているのか。それを思い、アグラは僅かに恐怖を滲ませる。実は、彼らにも『死魔将』が何者なのかはわかっていなかった。
ただ、絶大な力を持つ謎の集団。一応、何らかの目的はあるらしい。誰かの指示で動いているらしい。それはわかる。が、その目的はわからないし、そもそも彼らの顔だって見たことがなかった。真の主の存在なぞ、ここ最近になってようやく教えてもらえたぐらいだ。
とは言え、彼からするとそれはどうでも良い事だ。なにせ彼の場合、血と闘争を好む。それが些か強すぎただけだ。本来ならば、悪鬼羅刹として英雄に討伐されるはずの者。その彼がどうして、平和を創るティナに従えようか。結局、戦争を起こして戦う場所をくれるのなら、それで良かった。
そしてマギナウ以外の最高幹部達は、全員そうだ。マギナウとて偽りの降伏をしている時には、そう振る舞った。魔族を統一して争いを無くしたティナには従えない過去の残滓。ティナと戦い討ち死にするはずだった修羅の権化達。それが、彼らの真実だ。そうして、道化師が蘇りつつある者達の調整に動いた為、アグラは治療に戻る事にする。
「・・・ふん。理解できんな・・・」
最後に、そう告げる。わからぬ事だらけだ。結局、真実は彼ら『死魔将』達しかわからない。どうしてこんな技術を持ち合わせているのか。これら技術を培うだけの、蓄えるだけの財力や資源は何処から得ているのか。なぜ、因果応報を覚悟で自分達を蘇らせてまで再結成させるのか。そしてなぜ、この死者蘇生の案件に関わるのは道化師だけなのか。あまりに不明瞭な事が多すぎる。
利用されているだけ。それはわかっている。とは言え、彼にとっては結局どうでも良い事なので、そのまま医務室へと戻っていくのだった。
一方、レインガルドのカイト達は、というと戦いの事は考えない様にしていた。今は、戦いを、『死魔将』達の虎口を逃れた事を喜ぶ為だ。
「・・・はぁ・・・」
「しみったれた顔だな、おい」
カイトの横に、バランタインが腰掛ける。こういう場合にしみったれた顔をするな。そう教えたのは彼だ。指揮官がしみったれた顔をしていると、兵士達にも伝わってしまう。だから、豪快に笑って死んだ奴を馬鹿な奴だ、と送り出し、生きている奴へと豪快に笑ってお前らは良くやった、とねぎらってやるのだ。そう、教えたのだ。
とは言え、カイトとて別に悲しんでいるわけではない。これを全力でやったのは、今日がはじめてだ。思う所があったらしい。
「・・・ただ一夜限りの夢を映し出す。本来、こんな力は無い方が良い」
「たりめーだな。普通死者との再会なぞ成し得るはずがない。大きく道理から外れちまってる・・・が、しょうがねーだろ。あの時、お前さん。本当に死んじまってたんだからな」
「死んだ・・・だからこそ、あの世に声を届けてしまえる」
カイトがため息を吐く。バランタインとユリィは、カイトと堕龍との戦いの顛末を知っている。そう。実はカイトは一度完全に死んでいた。何の言い逃れも出来ない程に、完全に完璧に、だ。だからこそ、ユリィは泣いていたのだ。死んだ、と。
あの戦いの時。堕族に堕ちた彼は堕龍とお互いに死力を尽くして、それこそお互いの身体の大半がなくなるまで戦った。正真正銘、カイトはあの世にまで行ってしまっていたのだ。
「はぁ・・・で、あの世で半分半分の生命わけあってこの世に復活、か。そりゃ、化物じみた出力持つわな」
「コアが人間の物じゃあないからな」
カイトがとん、と己の心臓があるはずの部分を叩く。そこに、カイトの心臓は埋まっていない。あるのは、かつて彼が戦った堕龍の心臓。いや、堕ちた状態から立ち直った龍の心臓だ。そして、移植されていたのはそれだけではなかった。
「貴様の目は龍の目。貴様の心臓は龍の心臓・・・どうやって移植された?」
「さぁ・・・オレは結局、やってもらっただけだ。本来、あいつが生き返れた。が、あいつが譲って、オレが生き返った。それだけの話だ」
これが、堕龍退治の真相。相討ちになり、最後の最後で、命を譲られた。お前から家族を奪ったのは私だ。だから、その贖いをさせてくれ。あの世にて、魂が眠るまでの僅かな間に彼はそう申し出たのだ。
はじめ、カイトは断った。というよりも生き返りたいと思った事もなかった。穏やかな眠りの中、死を受け入れていた。そう言う場所なのだ。あの世とは。
が、そこで、引っ叩かれた。同じく眠りに落ち、夢の中に居たシャルに、だ。彼女も泣いていた。神器と魂がつながっていたが故か、彼の死を目ざとく嗅ぎつけていたのだ。
「生きろ。死ぬな。差し出された手を取りなさい・・・死人叩き起こす死神が居るかっての・・・」
カイトが小さくため息を吐く。正直、あそこで寝たかった。だというのに、死神に思いっきり引っ叩かれたのだ。そしてその後は、彼女の手に引かれて、この世に舞い戻った。そうして、そんな過去を思い出した彼が大の字になった。
「あー・・・死んでた方が楽だったってのに・・・」
生きるより、死んでいた方が何万倍も楽だ。なにせ面倒事がない。寝ていれば良いだけだ。で、生き返ってしまったが故に前世の因縁やハーレム騒動などに巻き込まれる始末だ。
「死んだほうが楽。生きてる方が楽しい・・・そう言う顔してるよ?」
「おかえりー」
逆側の横に腰掛けたルクスに、カイトが手を振る。彼らは知らないはずだった。だが、死後にカイトが己の過去を教えたのだ。今更隠す必要もない、と。そうして、カイトが笑いながら起き上がった。
「まぁ、否定はしねぇよ。生きてる方が楽しい」
わいわいとクズハやアウラ、ユリィがヘルメス翁を縛り上げてお説教をしている。現在のハーレムの原因を家族会議で追求しているのである。勿論、弁護人は居ない。一方的な断罪だった。
が、そんなヘルメス翁の顔が楽しそうなのは、やはり良いことだろう。見ているカイトも楽しげだ。そしてその横には、アルテシアらも一緒だ。一名――クズハ――多いが、フロイライン家の再集結だった。
「ハロウィンもやっかなー」
「本物の死者が練り歩く街か」
「そっちの方が雰囲気出るっぽくね?」
「やめておけ。そう言う力ではないだろう」
己の背を背もたれに腰掛けたウィルが首を振る。そもそもハロウィンとは収穫祭だ。死者が帰ってくるのはお盆だ。見世物にするわけでもなし、そんな事はすべきではないだろう。
「・・・どうやら、魂は元ある世界に送られるようだな」
「・・・探してたのか。律儀な奴だ」
「ふん・・・貴様がやれば、良いんだろうがな。まぁ、ここらは元々考えられていた事か。改めて俺が確認したかっただけだ」
ウィルが探していたのは、瞬のトラウマとなった少年だ。が、どうやら呼び出す事は失敗していたらしい。いや、そもそもカイトが呼び出そうとして呼べるものではない。相手側が聞き届けなければ、呼べないのだ。つまり、声が届いていなかったのだろう。
「さて・・・それで、聞いておこうか」
「何さ」
「なぜ、勇者がこんな所に隠れている?」
「たはは・・・」
カイトが、苦笑する。当たり前だが勇者カイトだ。本来ならば誰よりも輪の中心にいるはずの人物だ。が、そうなっていないのには理由がある。カイトは、輪から出ていたのだ。何故か。簡単な話だった。
「オレがこれを成し得る事を知れば、人はそれを求めるだろう。現に何度も求めた。失われた痛みとは、決して癒える事がない。それが呼び戻せるのなら、とどこまでも人は浅ましくなれる。悲痛な努力・・・夢を顕現させる為だけに、今を生きる力を使う。そりゃ、間違いだ。所詮夢は夢。儚く消える。これは明日へ足を伸ばす為に、過去の奴らが力を貸す為の力だ。だからこそ、応じてくれる。明日へとオレ達は歩いて行くから、それでもどうしようもないから、情けない奴らだ、とお前達が力を貸してくれるだけの話だ」
履き違えてはならない。これは、過去に縋る為の力ではないのだ。だからこそ、今この場ではカイトは影に徹する。生者達が死者達に別れを告げる為だけの影に徹する。ここでカイトが姿を現せば、もっと長く、もっと一緒に、と思ってしまう。願ってしまう。
だが、カイトにはそれは出来ない。死者も許さないだろう。だからこそ、カイトは言ったのだ。情けないからケツ蹴っ飛ばしてやってくれ、と。一緒に居る為の力ではないのだ。明日へ送り出す為の力なのだ。
「どんな別れを交わすのか。それはオレは知ったこっちゃない。好きにすりゃいいさ。聞こうとも思わない。無粋も良い所だ。だが、一つ。笑って送り出せ。それだけしかない」
「贔屓してるくせに」
「悪いか? オレは聖人君子でもなんでもねぇよ。オレはオレの為に、この力を使う。だからこその勇者。だからこそ、英雄ではない」
ルクスの言葉に、カイトが笑う。力には責任が伴う、強大な力は国によって管理されるべき、などとの道理を気にするつもりはない。制するなら、征するまで。この力は自分の為に使わせてもらう。残念ながら、カイトはそういう人物だ。
国が敵ならば国と戦い、人類が敵ならば人類と戦う。降りかかる火の粉は振り払うまで。彼らは人類にご奉仕なぞしてやるつもりはない。究極の独善にして、究極の偽善。それが、彼らだ。
それが、『奉仕者』と『偽善者』の差だった。勇者とは、偽善者なのだ。他者の為に勇気を振り絞れるはずがない。自己犠牲精神なぞあるはずがない。勇者は己が為に勇気を振り絞るのだ。己が失いたくないが為に、勇気を振り絞るのである。
「勇者と魔王は表裏一体・・・わかりやすい奴だ」
「一番魔王の概念を生み出すきっかけになった奴でしたんで」
「始まりの時、かー・・・僕らも居たのかな、その時には」
「さぁ・・・が、少なくとも思うな。こいつと関わらなくてよかった、と」
「あ、ひで」
カイトが笑う。始まりの時。それは、魂の輪廻転生が始まった時の話だ。カイトは、そこに居た。そして、<<原初の魂>>とは本来、その時の事を指し示すのだ。
カイトが居た一番始めの時に彼らがいたかどうかは、今のカイトにもわからない。だが、友情を結べれていれば良いとは思う。あそこに居たのが8人だけではないのだ。
その中には、また別の人が居たはずなのだ。カイトの記憶の中にも、それは刻まれている。その中に、自分達がいれば良いと思う。それだけの話だ。所詮、こんな物は今の友情に比べれば毛ほどの意味も持たない。あればよかったね、という程度なのだ。
「ま・・・何時か思い出す日も来るでしょうさ」
「さて、な」
カイトの言葉に、ウィルが笑う。しかし、その笑みに込められた違和感に、カイトは気付いていない。なぜ、死者である彼らが前世を取り戻す様な言い方をしているのか。そして、もう一つ。こういう力だ、と思っているが故に、気付いていない。
なぜ、死者。つまりは過去に止まった者達が成長、つまり前へと進めるのか、ということに。そして、実は死者にも2つのパターンがあったのだ、ということに。そうして、不出来な勇者は不出来なまま、また前へと進んでいくのだった。
お読み頂きありがとうございました。駆け足でしたが、これで戦いは全て終了です。明日からは事後処理で、それが終わればまた新章のスタートです。
次回予告:第783話『戦いの傷跡』




