第767話 弥生の想い
すいません。昨日の次回予告は間違いです。エイプリルフールの嘘と考えてください。嘘を吐くつもりなんてなかったのに・・・
少しだけ、時は遡る。それはティナが『死魔将』達との戦いに備えて準備を始めた頃の事だ。ティナの応対から只ならぬ出来事を悟った八咫烏は、一人空を飛んでいた。
『この世に置いて、我を扱える女・・・あれしかおるまいな』
当たり前だが、八咫烏とて何の意味もなく自由気ままに空を飛ぶわけではない。いや、時には気分で空を飛ぶが、今回は違った。探している者が居たのだ。
『・・・見付けた』
八咫烏は少しの間上空を飛び回って、目的の人物を見つけ出す。幸いにしてどうやら彼女は一人だったらしい。丁度よい、とばかりに急降下して、彼女の目の前にふわり、と舞い降りた。
「あら、やーちゃんじゃない」
『やーちゃんはやめよ。我はこれでも八咫烏。栄えある素盞鳴尊の神使にして、天照大御神様の』
「だって、そのアマテラス様が、やーちゃんって呼んであげて、って言ってたわよ?」
『ぐっ・・・』
弥生からの指摘に、八咫烏が何とも言えない表情を浮かべる。アマテラスの命令なのだ。ならば、否やは言えなかった。そして実はあながちあり得ないとも言い難い。アマテラスはそういう性格だからだ。
『んん・・・ま、まあ良い・・・弥生。我を使う気は無いか?』
「あら・・・光栄ね。でもどうして、私なのかしら」
『お主がアマテラス様直々の祝福を受け、そして何より、どこか旧き者の眷属だからだ。この冒険部とやらで一番強いとされる瞬という小僧でさえ、我を使うには力が足りぬ。足りるのは、どこか旧き者の力を受け入れているお主一人よ』
「っ」
八咫烏の指摘を受けて、弥生の顔が歪む。今はまだ誰にも知られてはならないことを、八咫烏には理解されていた。弥生はなんとかはぐらかそうとしたが、即座に諦めを浮かべた。
「・・・はぁ・・・さすが、日本を導いた八咫烏、と言うところかしらね・・・」
『・・・あの男に頼みはしないのか? あの男なら、なんとか出来るやもしれんぞ』
「頼む? ふふ。言った事も無いわ。だって、これは私が望んだ事だもの」
『っ・・・自らで人の身を捨て去った、か。愚かな』
八咫烏の指摘に、弥生が少しの苦笑を浮かべる。人の身を捨て去った。カイトさえ知らない、しかし両親には話した彼女の決意。カイトが悲しむから、と今はまだ黙ったままの事だった。
そうして、彼女の長い髪が金色へと代わり、そして目の色が真紅に染まる。目鼻立ちも僅かに日本人のそれとは変貌して、どこか冷たい印象を与える顔貌に変化する。とは言え、浮かべる表情は大差がないので、そういう冷たい印象は薄かった。
『『半吸血鬼』か・・・相当高位の吸血鬼だな』
「『半吸血姫』よ、正確には・・・女王フィオナの血」
『っ! 吸血姫の真祖! 最強の吸血女王か!』
八咫烏が大いに驚き、目を見開く。神々さえも知っている名だった。喩え遥か彼方の島国だろうと、神々と同等に古くから存在する地球の吸血姫の女王の名は鳴り響いていた。
神々とさえ互角に戦い合うどころか、神格に応じては正真正銘それさえも超える化物。そして、地球で大勢力を誇る天使達があまりの危険性に手出し無用を言明した程の古強者。その血を、彼女は受け入れていた。
『あの女に噛まれたのか! なぜそれを早く言わぬ! そのままではいずれお主の意識が飲まれるぞ!』
あの悪辣な吸血姫の女王が、たかだか十数歳の小娘の願いを聞き届けるはずがない。そう考えた八咫烏はかなり焦りを滲ませながら、弥生へと断言する。だが、弥生はそれに笑いながら首を振った。
「そうはならないわよ。彼女から認められて、私はスレイブからクイーンへと持ち上げられている・・・これでも、吸血姫の一族の序列としては上から数えた方が早いのよ? 彼女の娘の友人、という立ち位置だもの・・・証拠もあるわ。彼女の愛用するレイピアの姉妹品を、私も譲り受けたもの」
『っ・・・』
八咫烏が絶句する。これが真実ならば、たしかに吸血姫の血に意識が飲まれる事は無いだろう。そもそも女王に娘が生まれていた事にも驚きだが、それが事実とするのなら、下手をすると地球の吸血姫の一族の中でも序列は一桁だ。
上位どころか、最高幹部にさえ匹敵する。だが、だからこそ、疑問だった。彼の知る吸血姫の女王は、決してそんな事をしてくれる女性では無いからだ。傲慢かつ、勝手気まま。他種族は見下して、同格とも思わない。そんな女王だったのだ。
『どうやってあの女怪を口説いた。あの女怪がそんな事をする女ではあるまい』
「・・・口説いた、かー・・・」
弥生は元の姿に戻って魔力で椅子を創り出すと、それに腰掛けて青空を見上げる。これぐらい簡単に出来た。そして、少しの苦笑を混じえた。
「女だったから。馬鹿だったから、かしら・・・そして、私が抱えていた嫉妬を見てしまったから、かしらね。彼女もまた、女よ。惚れた男が居る。だからこそ、女として理解してくれたんじゃあないかしら」
弥生が笑う。それは何処か、自分の事を馬鹿だと嘲笑っている様子があった。おそらく彼女は全てを知っての上で、願い出たのだ。
これから先、ずっと辛い思いをする。親兄弟や友人達が死んでいく中で、彼女はカイトと共に生き残らされる。それを、理解していた。しかしそれでも、後悔だけはしていなかった。
「そうねぇ・・・どっちを語ろうかしら・・・今の私の嫉妬か、前世の私の嘆きか・・・どっちにしろ、結果としては素直になろうと思ったのは一緒なんだけどもね?」
弥生は少しは語らねば理解は得られないと思い、2つの想いの内のどちらを語ろうか悩む。そうして語ったのは、前世の自分だ。流石に自分の事を語るのは照れくさかったらしい。
「前の私は、素直になんてなれなかったのよねー。前のカイトも素直じゃなかったし・・・お陰で正妻じゃないとか子供産んでないとか色々言われるし・・・はぁ・・・男の子産めなかったの結構気にしてたのになー・・・まぁ、授かりものだから、仕方がないのだろうけど・・・」
弥生がどこか悲しげに笑う。どうやら、彼女の前世はそれなりに知られている人物なのだろう。が、そこまで語って、ふと、弥生が気づいた。この話はそもそも、八咫烏が戦国時代を知らないとわからない話だったのだ。
「あ・・・やーちゃん・・・もしかして、戦国時代って知らない?」
『なんぞ、それは』
「日本の中世の事なんだけど・・・知らないわね、これは」
語っておいて、弥生はそう言えば八咫烏は古代日本からこちらの直接転移されている事を思い出したらしい。過去世を絡めるのは止める事にした。
となると、後は前世ではなく今の己の嫉妬を語るしかなかった。恥ずかしかったので嫌だったのだが、こうなっては仕方がない。
「はぁ・・・恥ずかしいから嫌なんだけど・・・<<白の聖女>>や<<蒼の巫女>>・・・知らないかしら?」
『・・・いや、知らん』
「そっか・・・カイトの本当の幼馴染さん、なんですって。変な話だけれどもね」
弥生は、かつて巻き込まれた事件の時にエネフィアの事ではなく魂に纏わるお話を聞いていた。<<白の聖女>>。それは、世界が付けたあだ名だという。
カイトはそれを如何にしてか知ったらしい。原初の時に記された魂の記憶。そこでの話を、彼女は語られていた。そして、そこで知ってしまったのだ。彼の抱える嘆きを。彼の抱える齟齬を。
「・・・前世を見て。その前も見て。その前もその前もその前も・・・ずっと見て。ボロボロになってでも、カイトは私の所に帰ってきてくれてたの・・・でもね。私は彼の期待には応えられなかった」
悲しげで、優しい顔を弥生が浮かべる。全てを聞いた時、素直に嬉しかった。ボロボロになっても、自分の所に来てくれた。嬉しかった。それしかなかった。だが、同時に知ってもしまった。
「前の自分が流れ込んで。今の自分が侵食されていって。異世界での経験があって・・・カイトは・・・ううん。私の知っていた『天音 カイト』は消えかかっていた」
『当たり前だな。前世を見るなぞ人の身で耐えうる物ではない。神々でも不可能だ。過去の者達に飲まれるのが必然よ』
「そうよねー。それでも耐えたのが、ウチのカイトよ。まあ、魂の特殊性とか色々と出来た理由はあるらしいんだけど、そこは知らないわ。興味もなかったし、難しすぎたもの」
何事にも理由がある。やはり、出来たのには出来たなりの理由があったそうだ。それもまた弥生は教えてもらえたそうだが、そこは当時の弥生には難しすぎて、カイトも笑って解説はしなかった。そういう事実を知ってもらえていればよかった。そうして、弥生が一つため息を吐いた。
「そこでね。聞いちゃったんだー・・・私は<<白の聖女>>じゃない、って。悲しそうにしてたのを、今でも覚えている。そして、理解しちゃった。私はカイトが好きで、そしてカイト・・・『天音 カイト』は私が本当に好きで。私をそんな自分の因果に巻き込みたくなくて。だから私の知ってる『カイト』にさよならしよう、って思ってるんだって。だって、『カイト』が居なくなっちゃえば、私の所に帰る理由もなくなるもの」
地球人としてのカイト。それを繋ぎ留めていたのが、弥生だ。だが、それを受け入れるには、異世界の常識や絶大な力も身につけてしまっていた。ありとあらゆるものが、彼をかつてのカイトから遠ざけていた。
そして更に、彼はその当時前世からの因縁に雁字搦めになっていた。表向きは平静を保っていたが、潰れかけていたのだ。
だからこそ、カイトは巻き込みたくなかった。己と同じ辛い思いをしてほしくなかった。あまりに重い物を背負い込んでいたのだ。だからこそ、カイトは遠ざける事にした。だが、だからこそ、弥生もまた、こう思った。
「だから、逆に思っちゃった。じゃあ、今そこで泣いているあなたは何処に行くの、って。『カイト』をどうしても死なせたくなかったのよ、私・・・」
今にしても、自分は凄い、と弥生は自分で自分を褒めたくなる。そして、ティナや彼を愛する女達からも密かに感謝されていた。あそこで先の悲劇を理解して、カイトを手放す事も出来た。そうすれば、カイトも今も苦しむ事は無かっただろう。
だが、それでも。最も失わせてはならない物だけは、守り抜いた。それは、現在の彼。つまり、前世までの『カイト達』ではなく、今世の『天音 カイト』という個だった。
「本当はここには<<白の聖女>>・・・ヒメア、って女の子が座る予定だったんだって。最初の時に幼馴染で恋人で、そして遂に奥さんになれるはずだった・・・ただその願いだけを寄す処にずっと耐え続けてきた女の子。壊れてでもカイトだけを愛し続けた凄い人・・・」
弥生は素直に、尊敬を滲ませる。同じ立場から同じ男を愛した女として、彼女の事を尊敬していた。カイトから聞いた話では、彼女は本当に地獄を見たという。
それは陵辱されたり傷付けられたりするような肉体的な地獄ではない。しかしそれ故にもっと辛い、精神的な地獄だ。辛い、と何度も泣いたという。もう嫌だ、と何度も膝を屈したという。
人類の悪徳を、人類の腐敗を幾度も幾度も、目の当たりにしてきたという。最後には人類を憎むようにさえなった。そうならない様に幾度も折れる為の選択肢を世界は与えてくれた。おそらくカイトよりも遥かに良い男もあてがわれただろう。
だがそれでも、カイトを愛し続けた。喩え自分が狂ってでも、彼だけを愛し続けた。自分は到底及ばない、と思った。だが、それを聞かされても、いや、聞かされたからこそ、尚更彼女に嫉妬した。
「でもね・・・やっぱり、今の私からすると幼馴染は私の・・・私達姉妹の席なのよね。譲りたくなんて無い・・・ぽっと出の女に、喩えそれが正解だったとしても、この席を譲る気なんてない」
弥生は確たる意思を持って、断言する。カイトが言うのだ。確かに、本当は彼女こそが座るべき椅子なのだろう。過去の人類がしてはならないことをして、弥生達は偶然に空いた席に座れただけだらしい。
だが、それを譲れ、と言われて譲れるわけがない。女として、絶対に嫌だった。引けるわけがない。なぜ、特等席を譲らねばならないのか。来るのなら、受け入れてはやる。彼女にはその権利がある。それぐらには、弥生はカイトの事を愛している。恋ではない。愛だ。それほどの差があった。
だが、今のこの特等席だけは、譲らない。無邪気に笑いあった記憶。恥ずかしそうにしていた彼を可愛く思い、いつしか愛おしく思う様になる日々の記憶。それを譲り渡してなんかやらない。そんな確固たる意思が滲んでいた。
「だって、彼女は『カイト』は知ってるでしょうけど、『天音 カイト』は知らない。『カイト』を守れても、『天音 カイト』は守れない・・・現世の同じ思い出を共有出来るわけじゃない。私が『カイト』との思い出を共有出来ない様に、彼女には『天音 カイト』との思い出を共有出来ない」
自分の思いの丈を神の御使いへと言って、弥生は一息ついた。少し疲れたらしい。だが、まだ終わりではなかった。
「・・・だから、私は願い出た。地球上で不老の力を与えられる、一番強い女王様に。不老不死をください、って。カイトを、私の好きな人を死なせない為に、私に彼とずっと一緒に居られる力をください、って・・・聖女様に・・・ヒメアには『天音 カイト』は守れない。思い出を共有してあげられない。ティナちゃんでも無理。ルルちゃんでも、エリザさんでもエルザさんでも、絶対に駄目。私が、私だけが思い出を共有してあげられる。そこだけは、誰にも譲らない。この記憶とこの想いは私の物・・・だから、私はこうする事に決めた。『天音 カイト』の帰る場所で在り続ける為に」
今度こそ最後まで全てを語り終えて、弥生は深く息を吐いた。そして、八咫烏は理解する。彼女が桜達のカイト争奪戦に入らないのは、絶対に脅かされない聖域があったからだ。これがある限り、カイトは弥生の所に帰ってくる。そして、それは失われる事は無い。なにせもう終わった過去の事だからだ。
いわば、優越感にも近い余裕。絶対に安全。最大最後の強敵と言われる<<白の聖女>>とて、弥生のその聖域を崩す事は出来ない。彼女が言った通り、『天音 カイト』との思い出を共有出来るのは彼女だけだからだ。そしてもう一つ、八咫烏は理解した。
『そうか。お主もおそらく何らかの因果を持たされて生まれ出づる魂か』
「私はそんなの意識した事は無いのだけれど・・・そうだと、嬉しいわねー」
本当に少し嬉しそうに、そうであれば良いな、と弥生が微笑む。自分が何かカイトと因果があれば、尚更安心出来る。次が起きたとしても、巡り会えると思える。恐れる必要がない。
『世界は色々な安全装置を施している。我に世界を経て尚崩れぬ様に布都御魂を与えていた様に、あの者が世界にとって何らかの重要な意味を持つ魂であれば、必ずやそこには安全装置が組み込まれているはずだ・・・お主はおそらく、その一種なのだろう。もしも何らかの理由でその<<白の聖女>>が生まれ出でぬ場合に、彼の者をつなぎとめる為の予備、と言うところか』
「そっか・・・それなら、嬉しいわね。予備でも、こうやってカイトと愛し合っているのは私だもの」
『強いな、娘』
普通なら、自分は予備なのか、と怒る所だろう。だが、弥生はそれで良しとした。世界が自分をどう考えていようとも、ここで今カイトと愛し合っているのは自分なのだ。そしてそのおかげで、カイトに出会えたとも言えるのだ。感謝したいぐらいだった。
世界の考えなぞどうでもよかった。なぜ座れたのか、というのもどうでも良い。自分が愛していて、カイトが愛してくれている。それが彼女には全てだった。そうして、そんな弥生の思いの丈を聞いて、八咫烏が笑顔を浮かべる。
『やはり、お主を選んで正解だった。弥生よ。我を手に取れ。そして時が来れば、我を振りかざせ。我の力は挫けた心を立ち上がらせる太陽の光。太陽のある限り、我が威光がウヌらを導き、守ろう』
「あら・・・ありがとう」
自らの御神体たる<<布都御魂剣>>を手渡した八咫烏に、弥生が感謝を述べる。そうして、この日から弥生は新たな<<布都御魂剣>>の担い手として、選ばれたのだった。
そして、時は今に戻る。『死魔将』達を取り逃がしたティナが必死でパニックに陥りそうになる冒険部を立て直そうとしている時。弥生は今がその時なのだ、と理解した。
「ティナちゃん! カイトをよろしくね!」
「っ! 何を・・・っ!」
ティナはこんな状況にもかかわらず弥生が少し陽気に掲げた<<布都御魂剣>>を見て、彼女が八咫烏に選ばれたのだ、と理解する。
なぜ、なぞはどうでも良い。今はそんな事は重要ではない。重要なのは、その力の方だ。そうして、弥生は<<布都御魂剣>>を高々と掲げた。
「<<布都御魂剣>>よ! 今こそその真の力を解き放ちなさい! そして我が同胞達を守り、導き給え!」
弥生の口決と宣誓を受けて、<<布都御魂剣>>が太陽を思わせる暖かで、それでいて強烈な光を放つ。それは冒険部の全員へと降り注ぎ、その身を包んだ。
「あ・・・れ・・・?」
「力が・・・溢れてくる・・・?」
「今まで怖かったのが・・・消えた?」
恐怖でパニック寸前だった冒険部一同が、平静を取り戻す。そして、それだけではなかった。魔物に必死に抗っていた数少ない生徒達には、即座に異変が理解出来た。
「なんだ、これ!?」
「すっげぇ!」
負ける気がしない。体の奥底から、力が溢れてくる。そんな感覚だった。そして事実、強力なバフ効果が一同には降り注いでいた。今の冒険部はランクとして、総じて1つ分以上上昇している。それほどまでに強力な付与があったのだ。
<<布都御魂剣>>。それは神武東征の神話では毒気を受けた軍勢から毒気を払い、活力を与えて再度立ち上がらせたという。更には荒ぶる神を退ける力さえあるという。神武天皇はこの神具に大いに助けられたらしい。
その神器の本域は攻撃能力ではなく、自分が所属する軍勢――この場合はギルド――への超強力なバフ効果にあった。精神的な高揚。肉体面への強力な強化の付与。毒などの状態異常無効。まさに、神々が与えた切り札だった。そして、今の地力に乏しい冒険部に最も相応しい武器でもあった。
「これは・・・」
ティナが思わず目を見開く。彼女は神器よりも力が強いが故か、効果は非常に薄い。が、それでも現象は理解出来た。神話の再現。それを目の当たりにした冒険部の冒険者達が、一気に活力を取り戻す。どうやらこちらで登用された冒険者にも効果があったらしい。
そして、それだけではなかった。三本足の漆黒の烏は<<布都御魂剣>>の生み出す太陽の光と見紛うばかりの光を受けて極光を纏う純白の姿へと変貌して、遥か天よりレインガルドを照らし出した。
『更におまけよ! 我が威光よ! 遥か遠き地で根付いた我が同胞とその同胞達を照らし出せ!』
<<布都御魂剣>>が生み出した光が八咫烏が胸に付けた<<八咫の鏡>>を模した鏡を照らし出し、その光を反射させて武蔵と旭姫、そして彼らが率いるレインガルドの戦士団へと降り注がせる。
「うぉ!」
「これは・・・なんと霊験あらたかな・・・」
「こりゃ・・・こんなもんが眠ってたとはねぇ・・・」
夏月が思わず感心して、旭姫が思わず素の表情で目を見開く。日本人とその関係者限定だが、武蔵達へも同じ力を与えたのである。そうして、一気に盛り返した軍勢を見て、ティナがその場を後にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第768話『死魔将』




