表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第44章 過去からの使者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

786/3942

第765話 学者との会合

 アルとルーファウスの遭遇から、更に数日。ティナやオーア達が危惧した通り、会議も大半が終了したこの頃には警戒態勢は当初の物と大差ない状況になっていた。


「・・・結局。何も無かったよなー」


 はじめの内こそ警戒していたソラ達だが、一週間も何事も無いと流石に警戒感を失う。とは言え、ティナ達とてわかってはいた。これこそが、敵の考えなのだ。こちらに警戒だけさせておいて、警戒感が緩んだその時を狙って攻撃を仕掛ける。それこそが、一番のチャンスなのだ。

 が、これはやられた方は堪ったものではない。なにせ何時攻撃が来るかわからない以上、持久戦になってしまうのだ。しかもこれが物資面での持久戦ならまだしも、精神面での、しかも来るか来ないか誰にもわからない類の持久戦だ。上は危機感を持っていても、下までは行き届かない。


「結局、何かあるかも、っての勘だろ? 外れたんじゃないのか?」

「かもなー」


 ソラと翔は二人して、緩みきっていた。仕方がない。一週間もずっと気を張り詰めていたのだ。一気にバックロードが来て弛緩しきっていたのである。とは言え、それも仕事となると、やはり気を張り詰める事になる。


「えーっと。今日の面会ってあったっけ?」

「えーっと・・・今日はお昼過ぎにクラウンさん、って学者さんが面会を求めてきてるよ」

「どんな人?」

「さぁ・・・空間系の魔術学会の人、って」

「またか・・・」


 ナナミの言葉に、ソラがため息を吐く。またか、と彼が言うようにこの彼ではないが、何人もの空間系の魔術を専門に研究している学者達がソラ達に意見や感想などを求めてきていた。彼らにとって天桜学園は垂涎の研究対象だ。求めてくるのは当然だろう。

 とは言え、求めてくるのは空間系の魔術学会だけではない。異世界を専門に研究している学会から、日本の文化風習などを専門に研究する学会など多種多様な学会の研究者がひっきりなしに意見を求めてくる。

 学会なら学会で一つにまとめてくれ、と思うが、国や人に応じて考えている事や聞きたい事が違う。各自別々に来るのだ。おまけに、桜と瞬の会議もある。何時もなら応対してくれる桜達には頼れず、ソラが矢面に立つ事も多かったのである。


「ただいまー・・・」


 由利が疲れた様子で、執務室代わりにしている談話室のソファへと倒れ込む。横には少し疲れた様子の楓も一緒だ。流石に楓でも現状には少し疲れを見せていた。


「はぁ・・・一番この状況が危険だ、とはわかっているのだけれど」

「は?」

「わからないの? 今攻撃を仕掛けられれば、私達は一網打尽よ」


 楓はそう言うと、顎でソラに対して後ろを見る様に告げる。そこにはスイセンが立っていた。それに気付いて、ソラが椅子から転げ落ちた。


「うおぁ!?」

『今の一幕で都合三度。貴様は生命を散らせていた』

「す、すんません・・・で、何か用事っすか?」


 少し恥ずかしげに取り直したソラが、スイセンへと問いかける。基本的に彼女達は口を開かないが、必要とあらば口を開く。と言ってもティナの時とは違い仮面越し、声も変えて、だ。やはり立場の差、というのは仕方がないだろう。


『ユスティーナ様よりの伝言だ。気をつけろ。動くならここ数日だ、と・・・そして案の定、貴様らは気を抜いていた。その程度が敵にも味方にも見通せぬと思うか? ここは戦場と変わらぬ。最早、一時の安息も無いと思え』

「っ・・・」


 スイセンからの伝言に、ソラが僅かに疲れを滲ませながらも気を張り詰めさせる。せっかく休めると思ったら、これだ。まるで見透かしていたかの様な応対だった。が、当然だろう。見透かしての対応なのだ。


「マジっすか?」

『・・・現在の各国の警備体制は通常通りに戻っている・・・体制は、だ』


 スイセンは敢えて体制は、と強調する。つまり、表向きは元通りに見えて、実態はそうではないのだろう。


『各国に僅かな疲れが見えている・・・貴様と同じく警戒してそれを解いた事による反動だ・・・痛し痒しだな。警戒せねばその瞬間を狙われ、警戒すればそれが解けた瞬間を狙われる。カイト殿らは相当臍を噛んでいるだろう。敵は少数。そして猛者。それ故に出来る事だ』

「これが策だというのなら・・・」

「完全に狙い目、というわけだねー」


 ソラの言葉を引き継いで、由利が疲れ気味に告げる。ここを狙わないで何時を狙うのだ。誰から見ても、そうとしか言いようのない状況だ。俄仕込みのソラだって今を狙う。

 そして、おそらくソラが襲撃者側とてこの瞬間こそを狙える様に敵側に調整させるだろう。わかっていつつも、どうしても避けられない事だった。


「とは言え・・・まずは目の前の事やんないとね」

「あー・・・うん」


 お茶を差し出したナナミの言葉に、ソラが頷く。ナナミも全てはわからない――天桜学園向けの策謀だと思っている――までも、それでもまず何が重要なのか、というのは理解出来ている。それは目の前のお客さんへの対応だった。


「はぁ・・・学者さんも各国代表して来てるからなー・・・」

「無碍には出来ないんだよねー・・・」


 ソラの疲れ気味の言葉に、同じく疲れ気味の由利が同意する。おまけに言えば、ここの会議に来る様な学者達は各国でもその分野やその筋で著名な人物である事が多い。とどのつまり、各国の決定に多少の影響力を持ち合わせているのだ。桜達の補佐にもなった。こちらでも気は抜けない。


「はぁ・・・ナナミ。纏めては?」

「はい、これね。その学者様が提出してくれた論文」


 ソラの求めに応じて、ナナミが次に来るというクラウンなる学者が提出してくれた論文の概要の纏めを提出する。これも秘書の重要なお仕事だった。


「はぁ・・・異世界転移の実現性について・・・」

「あ、結構重要じゃん」

「うはぁー・・・」


 ソラのつぶやきを聞いて興味を滲ませた魅衣に対して、ソラはため息を吐く。尚更、おざなりには出来ない相手だった。ということで、魅衣がナナミから別の写本を貰う。


「どれどれ・・・異世界の転移に際して起こると言われているひび割れについて・・・ああ、あれか」


 魅衣がかつてを思い出して、たしかに言われている物を理解する。どうやらかなり広範囲に渡って調査をしているかなりしっかりとした学者なのだろう。

 そこに記述されている内容の大半は実際に魅衣達が見ていたり、知らなくても言われてみれば、と思える事が記述されていた。それは、転移してきた者達の残した手記などを詳細に調査していなければわからないだろう内容が多かった。


「世界を移動する際に起こっている空間のひび割れは勇者カイトと魔王ユスティーナの転移の際の情報を照らし合わせると、おそらく世界同士の衝突で起きる壁の崩壊現象と思われる。この壁は概念的な壁で、物質や魔力の壁として出来上がっているのではなく、世界という概念の中の果ての様な所と推測される。勇者カイトの残した言葉によると、重力圏と言う言い方が最も相応しいだろう・・・んー・・・とどのつまり、万有引力の法則とかってこと?」


 魅衣は概要部分の中でも序文だけを読み上げて、おおよそ自分が抱いた感想を告げる。この後は調査報告等その結論に至る為の内容が書かれていた。そしてこの書かれていた事はアウラも同じ推測を行っている内容があったり、自分達もまだ知らない事があったりした。わからない理論なども多かった。

 とは言え、総じて自分たちよりも遥かに理論的に描かれているな、とだけはわかった。やはり俄仕込みの学生達ではなく、本職の専門家達は違う。それがわかる文章だった。後は、研究班に任せるべきだろう。


「詳しく聞いた方が良いんじゃない、これ」

「はぁ・・・頑張ってくる」

「がんばってねー・・・ナナミ。お茶お願いねー・・・私ダウンしてるー・・・」


 どうやら由利はかなり疲れていたらしい。全てをナナミに預ける事にする。それに、ナナミが笑って頷く。そうして、ソラとナナミは学者との会談に臨む事にするのだった。




 それから、2時間程。先の一件が朝11時ごろの事だったので、丁度昼過ぎの事だ。その頃に、クラウンなる学者がやって来た。性別は男。20代中頃の美丈夫だった。神経質さは無く、何処か柔和な感じがあった。

 それに、ソラが少し意外感を得る。あれだけしっかりとした内容を書いていたので、てっきりもっと年上で白髪混じりの神経質そうな人だ、と思ったらしい。


「あはは。すいませんね。会う人会う人、そういう顔をするので・・・」

「あ、いえ。すいません・・・」


 どうやら何時もの事だったらしい。クラウンの言葉にソラが少し頬を赤らめて首を振る。そしてそんなソラは、少し照れ気味に早速本題に入る。


「えーっと。それでお話が聞きたい、という事だったんですけど・・・」

「ええ。今まで世界を越えた方とお会いした事がなかったので、ぜひ自分の理論に裏付けをするためにも、と・・・ああ、私の論文は・・・」

「あ、時間が無かったので概要部分だけ、ですが・・・」

「有難う御座います。それで大丈夫ですよ。下は所詮、そこに至るまでのお話ですからね。あ、録音しても?」

「ええ」

「重ねて、有難う御座います」


 ソラの言葉に、クラウンが頭を下げる。総じて礼儀正しく好青年、と言う感じだった。まぁ、シャムロックが化けていた様に、エネフィアでは貴族の末弟等が道楽で研究者をやっている事も多いのだ。全員が貴族として食べていけるわけではない。教養もあるし、地位もコネもある。研究者としてやっていく事もあるらしい。そんな彼はソラの許可を受けると、ボイスレコーダー型の魔道具を取り出して、机の上に置いた。


「まあ、それならおわかりかと思いますが、私の研究内容は異世界転移について、と。300年前の勇者カイトの一件以降盛んに行われている研究分野です」

「はぁ・・・」

「あはは。わからなくて大丈夫です・・・それで、聞きたい事ですが・・・」


 それから暫くの間、ソラはクラウンの質問に答えていく。聞かれた事は主に転移の際に感じられた体感的な事だ。匂いや音、振動などの感覚、その前後に違和感は無かったか。それら文献にはわずかしか遺されていなかったり、もしくは差が出ていたりした内容が大半だ。

 一応これらは皇国で取られた調書には書かれているが、皇国側も調書全てを公開したわけではない。別に隠しているわけではないのだが、全部提出としても学術的な意義を除けば無意味な内容が多い。纏めを提出していた。そしてここらは、纏めからは漏れた内容だった。


「なるほど・・・きーん、という音ですか。そしてそれを多くの方が聞いていた、と・・・」

「はい」


 メモにソラの言葉を残しながら、クラウンが興味深げに頷く。どうやらここらは人によって分かれていた内容らしく、これだけ多くの人が聞いているのだから、とこちらが正確なのだろう、と判断したらしい。そうして、彼は自分の考えを纏める為にも、一度考えを口にする。


「ふむ・・・もしかしたら、衝突の際のエネルギーのロスで生まれているのかもしれませんね」

「はぁ・・・」

「世界と世界の壁の衝突には当然、莫大なエネルギーが発生していると考えられます。であれば、莫大なエネルギーは何処へ行くのか。大半は壁の破壊や貴方方の転移に使われるでしょうが、それでも莫大なロスが生ずるはずです。それが皇国で観測されたと言う謎の膨大な魔力の観測や閃光という形で消費されているのでしょう」

「なるほど・・・」


 言われてみれば、理解出来る話だ。世界と世界の間でもエネルギー保存の法則が働くとすれば、衝突で起きたエネルギーは全て何処かで消費されていないと可怪しい。

 クラウンが述べた様に大半は壁の破壊に使われたのだろうが、それでもエネルギーに応じてはまだ足りない可能性は十二分に存在する。その際のロスが、閃光や音と変換された可能性が無いという方が可怪しいだろう。学者らしい論理的な考え方だった。


「であれば・・・おそらく聞こえたのと聞こえていない状況の差とはこの衝突の際のエネルギーが異なる、という可能性も・・・」


 少しの間、クラウンは学者特有の思考の海へと沈み始める。それに、ソラは苦笑混じりに少し待つ事にする。こうなったら後は放置しか出来る事が無いのだ。と、それも3分程でクラウンが気付いた。


「ああ、すいません。色々と考えてしまいました。勇者カイトの手記には実はほとんど何も記されていなくて・・・日本からの転移、というのは非常にサンプルとして我々には重要なのですよ」

「いえ、知り合いにも数人居ますんで・・・」

「あはは、すいませんね」


 ソラが首を振ると、今度はクラウンが恥ずかしげに首を振る。どうやら聞きたい事はこれで終わっていたらしい。クラウンはボイスレコーダーに手を伸ばした。とは言え、止める前に、もう一度口を開いた。


「ありがとうございます。考えが纏まったらまた伺わせて頂きます」

「あ、はい」

「ああ、そうだ。他の方に話を伺っても構いませんか?・・・と言っても今日では無く、明日ですが・・・本日は先にこれを受けた考えを纏めたいので・・・」


 自らの言葉に応じたソラに、クラウンは再度問いかける。ここらは自分達の判断で行う様に、と言っていた。なのでクラウンが問い掛けて、ソラ達が応じればそれで承諾だった。それに、ソラは先程までの内容や彼から見たクラウンの印象などを考えて、許可を下ろす事にした。


「ええ、良いですよ」

「ありがとうございます。では、これで」


 ソラの返答を受けて、クラウンは笑顔でボイスレコーダーを停止させる。おそらく止めなかったのは言質という事なのだろう。意外としたたかだった。そうして、ソラも幾つか得る物を得て、学者との会談を終えるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第766話『過去からの来訪者』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] クラウン(道化)じゃねーかw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ