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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第44章 過去からの使者

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第760話 過去の残滓

 瞬や桜らが会議場で自分達の処遇について話し合われる会議に参加していたとほぼ同時刻。ティナはクオンの来訪を受けていた。


「嫌な予感がするのよねー」

「嫌な予感・・・?」

「うん。嫌な予感」


 クオンはティーカップをソーサーに置いて、ティナの問い掛けを認める。話の内容は、数時間前の出来事だ。気の所為、と考えるには少々違和感が拭えなかったらしい。フードの人物達がクオンを警戒するのも当たり前、と言えるわけであった。


「300年前に感じた、嫌な予感。『死魔将(しましょう)』を前にした時の、あの生死の狭間に立たされるような嫌な気配」

「っ・・・『死魔将(しましょう)』か・・・」


 ティナの顔が、複雑な表情で歪む。『死魔将(しましょう)』。それは、かつてテニアが語った先代魔王ティステニアの率いた幹部達だ。大戦が終結すると同時に忽然と姿を消したと言われる大幹部達。それの総称が、『死魔将(しましょう)』だった。

 とは言え、これは彼らが名乗ったのではない。時折周囲に恐怖を撒き散らす為に名乗った事はあるが、自ら好き好んで自称したものではなかった。連合軍が膨大な恐れと僅かな畏敬の念を込めて、死を撒き散らす魔将、とあだ名されたのである。


「ねぇ・・・本当に、あなた達の転移は事故?」


 クオンが疑問を投げかける。ここに来て嫌な気配を感じてから、クオンの頭からはこれが拭えない。どうしても、彼らの転移と『死魔将(しましょう)』という最悪の敵の感覚が同時に感じられた事が意図的に感じてならなかったのだ。


「事故でなければなんだ、というんじゃ」

「復讐・・・は、無いか。うーん・・・そこ、なのよねー。そこだけが、どれだけ考えても理解が出来ない・・・それに、彼らに出来るとも思えないのよねー・・・」


 クオンがため息を吐く。復讐は無い、と断言できた理由は、たった1つ。彼女もまた大戦に出た戦士の一人だからこそ、だった。


「復讐ではない、と言えるその根拠は?」

「他がどうかは知らないが、少なくとも私が何度も刃を交えた『死魔将(しましょう)』は私が尊敬出来る武人だった。勝敗は兵家の常、と復讐は有り得ない。『死魔将(しましょう)』が『死魔将(しましょう)』として纏まって動こうというのなら、確実に復讐だけは無い、と断言する」


 クオンは剣姫モードになり、ティナの問い掛けに断言する。刃を交えた者同士だからこその、奇妙な信頼関係があったらしい。そうして断言をし終えてから、クオンは通常モードに戻った。


「まあ、そういうわけで復讐だけは無い、と断言できちゃうのよねー」

「奇妙な信頼関係じゃな・・・」

「彼が組織の一員である以上、復讐は無いでしょ。『死魔将(しましょう)』は人が言うほど、悪い奴らじゃ無かったし。あの何考えてるかわかんない道化師は兎も角、だけどね」

「はぁ・・・」


 ティナがため息を吐く。あの大戦の最深部に立っていた者達は総じて、これに同意するだろう。ティナとて、これに同意する。カイトも勿論同意する。

 『死魔将(しましょう)』は確かに敵で自らの親愛する義弟のクーデターに参加した者だが、決して悪人と断ずる事の出来る相手では無かった、と。そしてこれが何より、ティナに全ての事件の解明を困難にしていた。彼らが悪人とは思えなかったからだ。

 ティステニアがもし操られていた、というのなら、彼ら最高幹部が操っていたと考えるのが一番の筋だ。というよりも、それしかない。ティステニアと『死魔将(しましょう)』達に対して他の幹部達とはどうしようもない程の実力差があった。

 他の幹部達と互角だろうと、『死魔将(しましょう)』には手も足も出ない。それが、現実だった。そして『死魔将(しましょう)』と互角であっても、ティステニアには届かない。それだけの実力差があった。

 が、その彼らの意図が掴めない。そして等しく生命のやり取りをしたからこそ、そういう奴らなのか、と疑問を呈するしか無いのだ。

 それ故、誰もがティステニアが何らかの欲を抱いて自らの意思でクーデターを起こした、と考えていたのである。これはルクスやバランタインも一緒だった。そして、更に疑問を深めるのが、カイトの不可解な行動だった。


「カイトは、何かに勘付いておる様子じゃったな」

「そこ。そこなのよ。なぜ、カイトは魔王城へ何度も出入りしていたのか。何を彼は知りたかったのか。なぜ、疑問を抱いているのか。何に疑問を抱いているのか。そこがわからないのよねー。で、考えられるのはただ一つ。カイトは、クーデターの真実に近づいている」


 クオンがティナの言葉を認める。カイトだけは、何かを知っている。実はティナにも内緒で何度か同行した事のあるクオンだからこそ、その疑惑を誰よりも得ていた。

 だが、カイトも確証を得られていないらしい。だからこそクオンは彼も真実に近い、と言ったのだ。彼もまた、真相にはたどり着いていないのである。


「あの大戦はあまりにも可怪しい事が多すぎるの。300年・・・私達は修行の傍ら幾つもの残党と戦ったわ。その中で、先代魔王・・・あなたの義弟が築いたとされる幾つかの要塞や砦にも攻め入った。明らかに、あなたの技術では無い技術・・・いいえ、この世界の物ではない技術が使われていた」

「知っとるよ、そんな事は。余らも何度も攻め入っておるからのう」

「あら・・・釈迦に説法だったわね」


 ティナの言葉に、クオンが苦笑を滲ませる。再度言う必要の無い事だった。だが、そこが前提条件としてあればこそ、次があった。


「だから、私はこう考えた・・・『組織』が絡んでいる、と。あそこは明らかにエネフィアの知識とはかけ離れた理論を持ち合わせている」

「っ・・・まさか・・・そこと手を結んでいた、と?」

「私は、そう考えている。いえ、影響や当時の力を考えて直接的に手を結んでいなかったとしても、間接的には協力関係にあった、と考えている。因子の掛け合わせなぞエネフィアでは誰も考えないし、そもそも出来る技術でもない・・・それを体系化して、一定程度の成果を上げられている。明らかに、エネフィアの技術だけでは成立しない領域よ」


 クオンの言葉を、ティナは真剣に考え始める。『組織』。全てが謎で、それ故『組織』と呼ばれる組織。アポイントメントの取り方は無い。向こう側がいつもアポイントを取ってくる。

 多くの者は単に世界の裏に潜む人身売買もどきの組織だ、としか考えていない。事実、数百年もの間それしかやっていない。表舞台に立ったのだって、カイトがエネシア大陸から奴隷制度を撤廃したからだ。

 だからこそ、大半の者はその『組織』の理念などは気にもしていない。人身売買が禁じられた事で新たに現れた単なる後釜なのだろう、と考えていたからだ。


「・・・お主も、同じ事を考えておるのか?」

「『組織』は別世界からの侵略者。もしくはそれに類する者・・・ティステニアはそれに操られたか、自ら降ったか、という事?」

「うむ」

「そうね。私は、その線で探っている」


 クオンもまた、ティナの言葉に同意する。カイトは否定したが、二人から見ればそれが一番妥当だった。否定出来る理由がない。なにせ、カイトその人が認めていたのだ。その可能性もあり得る、と。


「少し前にカイトと話した時には思わず道理だ、と思うて黙ったが、一つ可能性があった。大精霊にバレる、とあれは言うたが、逆説的に言えば大精霊からも隠れる事が出来れば、異世界の侵略は成し得る」


 ティナが、自らの今の考えを開陳する。実は、大精霊達は言うほど万能ではない。確かに万能の様に語られ、真実世界に対しては万能に近い権能を持ち合わせるが、能力としてはさほど高くはない。

 カイトとの組み合わせによって馬鹿げた戦闘力を持ち合わせるが、その実、彼女らはティナでも殺せる程度しかないのだ。クオンは些か向き不向きの関係からは無理だが、条件が整えば殺せる事だけは確かだ。

 殺した瞬間世界からその概念が失われて世界そのものが滅びる事になるのだが、殺せる事だけは確かだった。つまり、彼女らはその程度でしか無いのだ。そして異界化という世界を騙す技術がある以上、大精霊達を騙す事も可能なのである。


「支配する者を滅ぼす事を誰も考えぬが故に殺す事なぞ誰も考えぬ・・・が、そうではないのなら、実は案外出来る技術ではある。大精霊を騙す、という事はのう。それでも、これの体系的な技術化は不可能じゃから、属人的にはなるんじゃが・・・」

「異世界なら、可能じゃないの?」

「無理じゃな。それを認める世界はあり得まい・・・基本、世界は放任主義じゃが、文明が見れぬ様になるのは許容はせぬ・・・まあ、『守護者』と戦うのであれば、別じゃがな。それも星が産む『小守護者(ガーディアン)』ではなく、この世界が産む『大守護者(ウェポンズ)』の方じゃ。その時、文明・・・否。星系が滅ぶじゃろうな」

「『大守護者(ウェポンズ)』?」


 聞いたことのない単語に、クオンが首を傾げる。彼女も『守護者(ガーディアン)』の事は聞いたことがある。現に古代文明の一つは、安易に何かの禁忌に触れて『守護者(ガーディアン)』に滅ぼされている。

 が、その上と言われる『大守護者(ウェポンズ)』と言うのは、聞いたことが無かった。とは言え、これは当然だろう。地球に行ったティナが、そこで見出した理論だからだ。つまり、提唱者は彼女だった。


「エネフィア、と余らは一言でこの世界を表すが、それはこの星しか余らが知らぬ、そして他の星々に他の文明がある事を想定しておらんが故、余らはこの世界をエネフィアと言うた。が、これを地球の理論で当てはめれば、単にこの星をエネフィア、と言うだけに過ぎぬ・・・ここまでは良いか?」

「ええ。確かに、あるがままを受け入れれば、そうなるわね」

「うむ・・・では、その理論に当てはめれば、星が生み出す『守護者(ガーディアン)』は広義的には『小守護者(ガーディアン)』と呼ぶ事ができよう。星単独を守る存在じゃからな」

「であれば、更に上。世界が生み出す存在が居るはず、ということね」


 ティナの言葉は、道理だった。それ故、クオンの胸にもストンと腑に落ちる。星の上位に惑星系があり、惑星系の上位に銀河系が、その上には宇宙が、その更に上にはこの世界そのものの意思がある。地球の科学技術を下にティナが理論的に考えた結果が、これだった。


「うむ。それら全ての最上位を、余は『大守護者(ウェポンズ)』と名付けた。確実に、数多の星々なぞ消し飛ばすじゃろうからな。が、ここらは流石に地球の理論が関わるが故、論文にもしておらん。何処からその着想を得た、と疑問が出るからのう」

「世界が生み出す戦士・・・『大守護者(ウェポンズ)』か。確かに言い得て妙ねー・・・私でも無理そう」

「お主で無理、ではない。誰でも無理、じゃろうな」


 クオンの言葉に、ティナが笑う。さすがのティナも星々を破壊するようなバケモノを相手に勝てるとは思っていない。確かに彼女も馬鹿げた存在だが、システムそのものに喧嘩を売って勝てるとは思っていなかった。そして流石に今の彼女では無理だ。相手があまりに桁違いの戦闘力だ。


「大精霊達は戦士では無い、ね・・・」

「所詮、といえば不敬じゃが、大精霊様は謂わば管理者。マネージャーじゃ。戦う事に特化した者ではない・・・それ故、それを守る為には戦士が必要。世界の道理と秩序を守る戦士が。それこそを、『守護者(ガーディアン)』と呼ぶ」


 二人はわずかに、背筋を凍らせる。『守護者(ガーディアン)』、ひいてはティナが提唱した『小守護者(ガーディアン)』と『大守護者(ウェポンズ)』は人類文明なぞ一切考慮してくれない。

 星を、世界を守る事しか考えていない。いや、そもそも考えてさえいない。世界がその対象を滅ぼす為だけに遣わす、ある種本当の天の御遣いだった。それはそれ故、彼女らでさえ背筋を凍らせる実力を有していた。


「世界を守る為だけに存在する、優しくて、厳しい最悪の存在・・・」


 クオンはしかし、その存在を優しい、と断ずる。それは同時に人類の守護者でもあった。基本的に、世界は人類の自由をかなりの範囲で認めている。なので喩え人が人論にもとる行為、と断罪するような行為であっても、世界は許容する。所詮善悪は人の基準。悪と断ずる事は無い。

 そして、同時に世界は人類を愛してもいる。安易に滅んでもらっては彼らも嫌なのだ。だからこそ、もし外的要因により人類ではどうしようもない事態に陥った時、『守護者(ガーディアン)』が現れて人類を守ってくれるのであった。人類を滅ぼしもし、守りもする。それ故、人々は畏敬の念を持って『守護者(ガーディアン)』と呼ぶのであった。


「『守護者(ガーディアン)』だけは、触れてはならぬ」

「『組織』。本格的に調査した方が良いわ。今まで誰もが利益だけを受け取れていたから見過ごしていたけど・・・利益だけを私達が享受出来るわけがない。彼らとて何らかの意図を持っているはず。もしそれに触れるような存在であれば、この世界・・・いえ、この星が滅びる」

「皇帝レオンハルトに奏上しろ。余がやるより、現地調査を行ったお主がやる方が良いじゃろう。地位としてもそれが許される立場じゃ」

「アポをお願いね」

「うむ」


  その会話を最後に、クオンが窓からその場を後にする。そうして、ティナはその窓から外を眺める。


「・・・天桜学園が呼ばれた・・・余らが呼ばれたのか、それとも学園そのものを呼び込む事に意味があった・・・む?」


 改めて全ての始まりを思い出して、ティナは思考の淵に僅かな引っかかりを感じる。何かが、可怪しい。何かが可怪しいのだ。


「何じゃ、この違和感は・・・」


 何かが可怪しい事はわかっている。だが、何かが可怪しい事がわからない。奇妙な感覚が去来した。


「記憶・・・再生開始・・・」


 ティナは記憶を保管しておく魔術を展開して、あの時の事を思い出す。ひび割れていく天。漏れ出す膨大な魔力。強烈な光。だが、全てを三度見直しても、コマ送りにしても違和感が見付からない。


「何も・・・おかしな所が無い・・・?」


 全部、今までの情報に合致する。地球に転移した海棠 村正の兄、蘇芳翁が転移された時に聞いた情報と全てが合致する。他にも中津国やその他幾つかある事故での転移の観測で観られた情報とも全てが一致している。だと言うのに、違和感が拭えない。


「気の所為・・・か? そう・・・じゃろうな。意図的に世界をぶつけたのではないか、と思うたが故に、違和感を感じただけ・・・じゃろう」


 ティナは改めて自分で全てを見直して、違和感などない、と納得する。強引ではあったし未だ納得は出来ていないが、それでもどこにも違和感は無いのだ。時に直感を信じる事も大事だが、事実を事実として認める事も必要だ。

 世界一の学者が多角的に見て現象に違和感が無い以上、それは論理的に違和感なぞない、と言う事だ。そして現にティナとカイトが提出した記憶映像を見て皇国の学者達も、今回集った各国の各学会の魔術師達も研究者達もこれが事故である、と結論づけている。これで事故でないはずがない。


「ふぅ・・・気の所為・・・じゃな。少し根を詰め過ぎたか」


 ティナは首を振って、違和感を思考の淵へと追いやる。ここら捨てるでは無いのが、彼女らしいだろう。そうして、ティナは僅かな違和感を抱えながらも、クオンに頼まれた通り皇帝レオンハルトへとアポイントの用意を整える事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第761話『大戦の記憶』

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