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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第44章 過去からの使者

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第750話 代理人

 少しだけ、時は遡る。まだカイトが冒険部に合流していた頃の話だ。彼は自らの正体を知る上層部だけを集めて、密かに言伝を残していた。


「というわけで、だ。楓にはカジノへと行って欲しい」

「カジノ? そんな物が来るの?」

「ああ・・・ヴィクトル商会、というのは知っているか?」


 カイトが首を傾げた楓へと問いかける。それは別に博識な楓で無くても知っている事だったので、楓は普通に頷いた。


「エネフィアでも有数の多国籍企業のあれ? マクスウェルで一番大きなビルを持っている・・・」

「そう、それだ。あそこはカジノも経営している・・・というよりも、カジノが一番有名な仕事だ。あ、誤解無い様に言っておくが、カジノと言ってもどちらかと言うとテーマパークに近いぞ? 娯楽施設を取り扱う、という所か」


 カジノといえばマカオやラスベガスが思い浮かんだ上層部の面々へと、カイトは笑いながら誤解しない様に訂正をしておく。昔はカジノがメインの様な感じだったが、カイトの手が加わった結果、テーマパークと化したのである。

 勿論、一番有名というのがそれなだけで本業はきちんとした商売だ。カイトが関わった結果、ここらの分野で有名になっているだけである。商いに関しても手堅く、なおかつ広範囲にかなりの稼ぎがあった。


「まあ、某夢の国やなんちゃらスタジオ。ああいう所を経営している所だ、と思えばいいさ・・・っと、そんな話をしたいわけじゃない。ここだけの話だが・・・あそこは情報屋ギルドも兼ねていてな」

「情報屋ギルド?」

「情報を取り扱う情報屋達の集合体じゃ。ギルド連盟等からは表向きは非公認じゃがな」


 首を傾げた一同に対して、ティナが補足を入れる。ギルド連盟、とはユニオンや鍛冶師(ブラックスミス)ギルド等の集合体で作っている連盟の事だ。横のつながりが何もなしでは揉め事の種だろう。

 そして冒険者達を抱える冒険者ユニオン以外は大半が戦闘力を持っていない。寄らば大樹の陰、とユニオンと共同歩調を取る為の連盟の様な物だった。

 その代わりに、他の商人ギルドや学者ギルドもユニオンからの紹介では結構な口利きをしてくれる。かつて瞬がランクBに昇格した時に言われていた他のギルドへの口利き、とはこういう事情で出来ている物だった。


「非公認? 良いのか?」

「表向きは、じゃ。表向きは流石に情報屋なんぞ非合法な奴らを認めるわけにもいくまい」


 ソラの問い掛けに、ティナが念押しをする。情報の入手方法なぞ大半は非合法だ。非合法で無くても、違法な物、プライバシーを大きく侵害している物も多い。

 とは言え、そのまっとうな方法で入手出来ない情報が欲しいからこそ、情報屋という商売が成り立つのだ。違法性故に表向きは認められないでも、必要性故に認めるしかないのである。

 と、そんな初めて知る裏の存在に、翔が物凄い恨めしそうな目でカイトを睨んだ。彼の役割はスカウトだ。本業の遺跡への侵入や盗賊のアジト等への侵入はしていなくても、初めて行く街の情報収集は彼が行っている。これも重要なスカウトの仕事だからだ。


「そんなんあるなら早目に教えてくれよ・・・結構仕事で欲しい情報とか一杯あったのに・・・」

「言ってくれるな。暗殺者ギルドと近い奴らだ。一見さんお断りでな。向こうが利益を認めて接触してくれるか、誰かからの紹介が必要なんだよ。ほいほい行っていい場所じゃないんだ・・・街の行方不明者の何人かは、迂闊に情報屋ギルドの接触しようとした奴らが暗殺者ギルドの奴に消された、だからな」

「あ、暗殺者・・・」


 そんなのもあるのか、と何処か少しだけ感心しながらも、翔はやっぱり良いや、と思い直す。どう考えてもヤバイ匂いしかしていなかった。


「冒険者と暗殺者の二足わらじをしている奴も多い。稼ぎは良いらしいからな・・・迂闊に触れるな、ってのがわかっただろう?」

「お、おう・・・」

「まあ、そう言っても接触しないといけないのが、今回の一件だ」


 翔を怯えさせたカイトだが、その後にため息を吐いて事情を説明する。この時点で、察しの良い楓は気付いたようだ。


「つまり、私に接触しろ、ということね」

「イエス・オフコース」


 カイトは指をくるり、と回して上機嫌に楓の言葉を認める。まさに、その通りだ。意味もなくこんな明らかにヤバイ匂いのする話をしたはずがない。理由があるから、話したのだ。


「オレは千年王国に見張られている。桜と先輩は言わずもがなで、各国が注意深く見張っているだろうよ。そこで、楓というわけだ」

「なぜ私なの?」

「だって一番頭の回転が早いから」


 楓の問い掛けに対して、カイトが笑いながら言及する。それに、楓が少し意外そうに目を見開いた。意外に思ったのは、自分の事をよく見ているな、と思ったからだ。


「そう?」

「おう。その点は桜以上だろう」

「私もそう思います。楓ちゃん、私より頭が良いですし・・・」


 カイトの言葉を即座に桜が補足する。これは桜も掛け値なしに認めていた。学力的な話ならば同等だが、理論的に話をする、議論を行うという意味であれば、楓が秀でていた。

 桜はどうしても性質や生い立ちの関係で議長や会長といった場を纏める立ち位置が得意であって、文官として刃を交えない戦いでは楓が圧倒的に分があったのである。


「それに、楓の方が博識だろ? 実は何気に部内で一番博識なの楓だしな」

「あまり持ち上げないで」


 楓が少し恥ずかしげに、そっぽを向く。ここまで素直に持ち上げられるのは、悪い気はしなかった。しなかったが同時に気恥ずかしいわけでもあったのだ。


「持ち上げてるわけじゃないんだが・・・まあ、良いか。とりあえず、楓でないといけない理由はそこにある。情報屋の奴らはそれ故、頭の回転が速くてな。奴らはものすっごいこっちの足元を見てくる。自分が上だと理解しているからな。上手く立ち回ってもらわないといけないんだ」

「それで、私というわけね。良いわ。持ち上げてくれたんだもの。引き受けるわ」

「頼んだ・・・護衛に翔と他数人連れてけ」

「俺!?」


 カイトの言葉に、翔が思わず目を見開く。だが、これは当然な話だった。


「あのな・・・敵は暗殺者(アサシン)偵察兵(スカウト)の上位職みたいなもんだろうに。お前が行かねーで誰が行くんだよ」

「うっ・・・」


 カイトから正論で指摘されて、翔が思わず息を詰まらせる。どう考えても誰が考えても、彼が適役だった。ソラでも同じ事を頼んだだろうし、瞬でも同じだろう。


「ま、まさかここにギルドのトップが来たりとかは・・・しないよな?」

暗殺者(アサシン)ギルドのか? ああ、そりゃ無い。そこは安心しろ」


 カイトは翔の言葉に、笑って断言する。それだけは無いと言えた。


「どして?」

暗殺者(アサシン)ギルドの長は、絶対に姿を見せないからだ。謁見が出来るのは、当代でその補佐を行う暗殺者(アサシン)の里の補佐達と、長が直々に呼び出した奴だけだ」

「うへぇ・・・情報屋とかも知らないのか?」

「長を知って生きていられる奴は、呼び出された奴だけだ。補佐の大半さえ、長の伝令しかしらない。それ以外は全員、死んでるからな。何処で聞いたかは一切不明だ。長の名を呼んだその瞬間に首が飛ぶ。そんなブラック・ジョークがあるぐらいだ」


 カイトは首を掻っ切る動きをして、舌を出す。恐ろしい事この上ない相手だった。


「オレも呼び出されたが・・・あれは、会わない方が良い。戦士としても格が違う。生粋の暗殺者。地球でも『山の老人(ハサン・サッバーフ)』と呼ばれる暗殺者の長に出会ったが・・・どっちもヤバイ。とりあえず、暗殺者(アサシン)と名の付く奴らには関わらない方が良い」

「あれはのう・・・本気でやれば、皇帝レオンハルトでも軽く殺せるやも知れんなぁ・・・」


 カイトの言葉に、ティナも同意する。地球にも暗殺者(アサシン)としてその語源にもなった集団が今でもひっそりと続いているのだが、そちらは地球の特異性故に、とんでもなく暗殺に特化した集団だった。暗殺に関してだけを言えば、おそらくエネフィアの並の暗殺者(アサシン)達を遥かに超えているだろう。

 なお、流石に彼らにはカイトやティナを害する事の出来る実力はない。が、それでもカイト達に警戒させるだけの実力は有していた。


「そんなヤバイのか?」

「先輩・・・強敵に興味を持つのは良いんだがな? これには興味を持つな・・・自分が手を下すに足る相手と見ない限り姿を見せないが、見たら最後だ」

「見れる事もあるまいに。地面に転がっておるじゃろうからな」

「斬られた事にも気付けねぇだろうよ」

「む・・・それはそうじゃな。地面に首が転がって最後に見るのが、その顔というわけか」


 カイトの言葉に、再度ティナが同意する。どちらにせよ、とんでもなくヤバイ相手ではあるらしい。と、そうして一通り怯えさせてから、カイトが肩を竦めた。


「ま、とりあえずそんな奴らは来ねぇよ。暗殺者(アサシン)のトップ集団が動くとなりゃ、世界のバランスが崩れる様な時だ。それか長が直々に許したか、のどちらかだな。政治、宗教、金銭・・・全てに興味を持たない闇の戦士達・・・ただ、己の掲げる義によってのみ動く。悪の正義の体現者の様な奴らだ」

「お前の正反対って事か?」

「うん?」


 勇者といえば、正義の代名詞だ。その逆側に立つ様な言い方だった。とは言え、これにカイトは苦笑交じりに首を振った。


「いや、オレと似たような立ち位置だ。事実、長とは良い付き合いをさせてもらっているからな。世界に認められたか、認められていないか、の差だ。認められればオレで、認めなければ奴ら、というだけだ。等しく自分の正義を信じているからな。どちらも、力を以って世界を変える奴らだ。大差はねぇよ」


 カイトは長を知る者として、自らと長が変わらないと断言する。そして現に、長自身がカイトが今の道を進み続ける限り、暗殺はしないと明言していた。己の正義と同じだからだ。

 光に当たったか、光に当たらないか。その違いでしかないのだ。そしてカイトとは違い、彼らは光差す場所に行こうとは思わない。動きにくくなるからだ。暗殺は影の中に隠れるからこそ、出来るのだ。光が射してしまってはやりにくくなる。


「ま、どちらにしても有難くない奴らにゃ違いはない。オレはオレの正義を振りかざし、あっちはあっちの正義を振りかざす。どちらも法律なんぞ知ったことかの無法者だ・・・どちらも、等しく法律では救えぬ大義を抱える故に、大衆受けはするけどな。ある意味、奴も皇国の体現者だ」

「と言うことは・・・それなりには知られてるのか?」

「ああ。それなりには、な。都市伝説レベルの噂だ。暗殺者(アサシン)ギルドもそうだけどな。どこかの悪徳領主が食中毒で死亡した、どこかの盗賊が原因不明の失踪を遂げた・・・事故とも事件とも取れない事件では、常に語られるのが奴らの存在だ。タブロイド紙の奴らや警察達が『森の賢人』に襲われた、と言うだけだけどな」


 つまりは、都市伝説の存在。地球とも変わらない単なる噂話の存在だ。が、火のないところに煙は立たない。その火元が、彼らなのだろう。カイトは笑いながら、瞬の質問に対してそれを明言する。

 今まで誰もしらないのは、上層部はタブロイド紙なぞほとんど読まないからだろう。ちなみに、読まないのであってロビーには定期購読してある。

 なお、『森の賢人』とは長のコード・ネームの様な物だ。森の奥深くに彼らの里がある、という噂故でもある。その森がどこで、そして本当にそんな森があるのか、というのは誰も知らない。誰が言い始めたのかも疑問だ。何かの噂と合算されている可能性も高い。全ては、カイト達だけが知る事なのだろう。


「ま、そんな奴だからこそ、ここにゃ来ねぇよ。来たらびっくりどころの騒ぎじゃない。確実にどこかの王族の首が胴体とおさらばする事件だ。確実にどこの国も厳戒態勢を敷いて会議どころじゃなくなるね・・・流石にそれは奴も望まない。この会議はあちらさんの大義にも則った物だ。協力もしてくれてる。一国が馬鹿やらかしたからとて、ここではやらないのさ」

「ふぅ・・・なら、安心だ」


 カイトの言葉に、翔はようやく安心する。来れば、誰かが確実に死ぬ事態なのだ。流石に自らの義を掲げている奴がこの会議を叩き潰す様な事はしない。この会議が、彼らにとって悪とならない限りは、だが。


「まあ、そう言っても暗殺者(アサシン)ギルドの暗殺者達は出入りしている。気をつけるだけは、気を付けろよ」

「わかってるよ」


 カイトの言葉に翔は頷いて、地図を引っ張り出してくる。すでにレインガルド各所の地図は入手済みだ。なので今から計画を立てておこう、という事だった。そうして、各々が行動に入った事により、これで集会は終幕となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第751話『偵察兵のお仕事』

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