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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第44章 過去からの使者

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第749話 冒険部の動き

 今日から新章です。

 さて、カイトへの冒険部の報告はファナが行うわけだが、同時に、カイトに暗殺者が持ってきた手帳の様な報告書には、アル達の事も記されていた。となれば、彼らにも特筆すべき事が起きていたのだろう。というわけで、少しだけ、時は遡る。それは会議が始まってすぐの事だ。アルへと、父のエルロードが告げた。


「アル・・・カイト殿からの連絡だ。お前に双子はいるのか、だそうだ」

「どういうこと?」


 父からの言葉に、アルは苦笑混じりに首を傾げる。いつもワケがわからないカイトだが、今回は輪をかけて理解が出来なかった。とは言え、父の方には、答えが来ていた。


「・・・ルーファウス・ヴァイスリッターも来ていたそうだ」

「っ」


 アルの顔に、僅かではない興味が浮かぶ。やはりか、と思うと同時に、そうだろうとも思った。自分が呼ばれている以上、そして『白騎士団(ヴァイスリッター)』が常に参加している以上、同時に同じ場に立つのは必然であった。


「・・・斬りかかろうなぞとは思うなよ。我々は騎士。侮辱されようと、手は出すな」

「わかっているよ・・・そこ、信用してよ」


 エルロードの言葉に、アルが少し不平を言う。とは言え、エルロードとてわかってはいた。だが、それでも念を押して起きたかったらしい。そしてそれだけの理由があった。


「ルーファウスはどうやら相当こちらを敵視しているらしくてな。カイト殿の乗機がマクダウェルであるのを見ると、ものすごい睨んでいたそうだ」

「ああ、なるほど・・・向こうが剣を抜かない限りは、僕も抜くな、という事ね」

「そういうことだ。相当挑発はされるかもしれないが、絶対に取り合うな。教国との引き金に成りかねん」


 教国と皇国が冷戦中で、しかも小競り合いが何度となく起きている事はエネシア大陸ならどこの国でも常識だ。であれば、改めて言われる必要も無いが、念押しは必要だった。

 更に都合が悪いのは、ホテルは大陸ごとに纏まって割り当てられている事だ。つまり、皇国と教国はものすごい近くにホテルがあるのである。気の一つも使え、と思わないでもないが、これは300年前の取り決めだ。何処の国が戦時中だろうとなんだろうと、変更は無かった。


「と言っても、何かが起こるとは思わないけどね」


 父からのお小言をもらい終えて、アルが苦笑交じりに部屋を後にする。彼らは会議の最重要オブサーバーとして呼ばれているマクダウェル公爵家の私兵の扱いだ。

 それ故、彼らはレインガルドに滞在する事を許可されていたが、逆に『白騎士団(ヴァイスリッター)』は道中の警護が主でレインガルドへの滞在はしない。高官達の身辺警護は『黄金騎士団(ゴルドリッター)』が務める事になっている。幾ら名家ヴァイスリッターでも職分は侵さないだろう。


「さて・・・じゃ、僕は今日は休暇だし・・・デートにでも出かけよっと」


 基本的に彼らの仕事はクズハ、アウラ、ユリィを筆頭にしたマクダウェル公爵家の従者勢の護衛だ。カイトと同じく守る側よりも守られる側の方が圧倒的に強いので必要とは思えないが、見せるだけでも違いはある。必要と言われれば必要だった。

 とは言え、勿論毎日な訳がない。たった一人だというカイトが異常なだけだ。シフトが組まれていて、きちんと休暇も設けられていた。というわけで、彼は特段何も心配は無く、凛とのデート――凛側が休暇を合わせた――に出掛けるのだった。




 さて、デートに出掛けたアルと凛は兎も角。冒険部に残されたソラ達は、というと、再び地獄の日々が始まっていた。しかも状況はマクスウェルに居た頃よりも遥かに悪かった。

 というのも、密偵達が使えなくなってしまったからだ。密偵を雇える程の財力は冒険部には無い。怪しまれるので引き上げさせたのである。まあ、そのかわりカイトとはこまめに連絡を取れる様になったので、結果としてはとんとん、という所だろう。


「なるほど。今はそうなっていたのか・・・」

「うっす・・・にしても、急にどうしたんっすか?」


 納得したように頷く瞬に対して、ソラが問いかける。瞬が指揮系統について興味を持ち、ソラが自分の考えを伝えていたのである。とは言え、これはソラが疑問に思うぐらいには、珍しい事だった。

 リィルが告げた様に、瞬は基本的に運営に関する事にはあまり関わっていない。やって書類にサインするぐらいだ。かつてのトラウマから忌避していたからだ。やらないで良いのなら、やらない事を選択していたのである。そうして、瞬は少しだけ、悩んだ様子を見せた。


「・・・お前には良いか」


 どうするかを考えて、瞬は語る事を決める。それは晴れやかとまでは行かないまでも、どこか感情に区切りが出来ている様な表情だった。


平 俊平(たいら しゅんぺい)

「?」


 唐突に出された名前に、ソラが首を傾げる。どこかで聞いた様な覚えはあるが、覚えの無い名前だった。それに、瞬が笑った。


「あはは。そうだろうな。お前とはほとんど関係のない奴だ・・・まだ俺達が冒険者として成り立ての頃に死んだ陸上部の奴の名前だ」

「っ・・・すんません」


 どうやらソラも一度は聞いたことのある名前だったようだ。瞬からの指摘に、彼がかなりバツが悪そうに顔を顰めていた。とは言え、瞬は非難すべく指摘したわけではない。そして非難するつもりも無かった。


「ああ、いや、すまん。そういうつもりじゃなかった・・・逆に知っていた事が驚きだ。はぁ・・・まあ、彼のご両親から、返信が来てな」


 随分と前の話だ。当たり前と言えば当たり前の話だが、学園からメッセージを送る時には、こちらは命の危険が高い事、そしてすでに死者もでている事も述べていた。

 となれば必然だが、かつての俊樹少年然り、この俊平と言ったらしい油断に殺された少年然り、死に繋がる詳細を述べなければならなかった。そして同時に、メッセージボックスの中には密かに、彼らの遺骨の一部も収めていた。そこでの話、だった。


「カイトに頼み込んでな・・・自己満足だ、とは言われたが、謝罪させてもらったんだ。そのメッセージに、返事があったんだ」


 瞬は苦笑気味に語る。彼に俊平という少年の死の原因は存在していない。だが、当時のトップは彼だった。それ故、非難も八つ当たりも覚悟で、自分から全てを語らせて貰おうと思ったのだ。これはカイトが言った通り、自己満足だ。あの時期にこれに対処しろ、とは無理難題にも程がある。

 カイトも居ない、ティナも居ない。生徒達はなまじ才能が優れていたと思っていた所為で、驕っている。そんな状況で死者を出すな、という方が無理だ。必然だろう。だがそれでも一つの区切りとして、瞬はその後の顛末も含めて自分からすべきだ、と考えたのである。


「・・・正直言って、怖かった。あそこまで怖かったのは初めてだった」


 なんと言われるのか。それを想像しただけで、当分の間はメッセージへの返信が開けなかったそうだ。彼の変化にまで若干のラグがあったのは、それ故だった。


「カイトが遠くに出る様になって、お前が全てをひっかぶる様になって・・・改めて、思ってな。このまま立ち止まっていて良いんだろうか、ってな」

「それで、開けたんっすか?」

「ああ・・・予想とは全然違ったよ。ありがとう。そこまで思ってくれていて、息子は幸せだっただろう、って・・・それだけだった」


 瞬はあの時の事を思い出して、遠くを見つめる。おそらく、二人には言いたいことはあったはずだ。だがそれでも、瞬の抱える苦しみ等を理解して、彼に激励を送ってくれたのだろう。


「それで、少し考えてな。俺ももう一度きちんと前で立たないといけないよな、ってな。団員は増えてきた。いつまでもお前に任せきり、というのは副団長・・・サブマスターとしてどうなんだ、と思って、今更ながらに色々と勉強する事にした」

「そうなんっすか・・・」


 色々とやはり考えているのだな、とソラが感心する。今の冒険部で死者がでていないのは、カイトでさえ認める程の奇跡だ。奇跡がバーゲン・セールでも起こしてくれていたが故に、誰も死んでいない。

 どれだけ酷くても、せいぜい半死半生の境目をさまよう程度だった。年間数千単位で命を落とす冒険者にしては、奇跡としか言いようがない成果だった。それ故、今のソラの様に死者が出た事を忘れている者も多かった。


「死者を無くすのなら、知恵が必要だ。そう思った・・・今は奇跡なんだろうからな」

「・・・そっすか」


 それならそれで良いのだろう。ソラはそう思う事にして、瞬の言葉になるべく重くならない様に返事を返す。そうして、しばらくの間二人は色々とこれからの予定についてを話し合う。

 なお、ソラと瞬が冒険部の中でも護衛を引き受けている護衛部隊を指揮して、桜と楓の二人が事務方、所謂会議に向けた様々な書類仕事や会談を求めてくる大使達へのやり取りを担っていた。なのでソラと瞬がやっていたのは、その護衛部隊のシフトの調整等だった。

 この会議は一ヶ月あって、体調不良や怪我、急な用事等、色々な事があり得る。そして地球でのアルバイトの様にお手軽にバイト仲間でシフト調整してくれよ、なんて言えない。

 ここには各国の大使達が集まっているだけではなく、正真正銘の王様まで居るのだ。このシフト表は各国に通達しないといけないのである。そこらの兼ね合いから、調整はこまめに行わなければならなかった。これは冒険部だけではなく、この会議にギルドとして参加している全ての所に共通していた。


「・・・」

「・・・」


 しばらくの間、二人は無言で作業を行っていく。まあ、何かを語る必要も無いし、しているのは単なる書類仕事だ。これは至極当然とも思えた。思えたのだが、そんな作業の最中にふと、少し気になる噂が流れてきた。


「うん? アルのドッペルゲンガー?」


 瞬が首を傾げる。暇だということで顔を出した瞬の同級生が、ちょっとした噂を持ち込んだのだ。それはすでに瞬が述べた通り、アルが二人いた、という事だった。


「ああ。街歩いてたら、なーんか見た顔だなー、と思ったんだよ。で、そいつの前から見たら、アルだったんだ。でもおかしなことに、そいつ金髪で人気のない所で30代後半ぐらいの全く知らない奴と一緒だったんだよな。まあ、金髪だったっけ、と思って声掛けないで、こんな場所だからなんか用事なのかな、と思ったんだけど・・・」

「ちょっとしたら、お前の妹と歩いてるあいつ見てな。思わずお前、仕事は? って、聞いたら、今日は非番でずっと一緒だった、つわれたんだよ」

「そういうこと。で、ちょっと怖くなって二人でさっきの場所に急いで向かったら、誰も居ない・・・思わず冷や汗掻いたよな」


 二人の瞬の馴染みの生徒が、笑いながら瞬へとついさっきあった事を話す。彼らは知る由もない事だったが、彼らが出会ったのはルーファウスだ。今回の大使を務める司教達に父親と共に呼び出されて降りてきていたのであった。

 呼ばれた理由は至極簡単で、少し前にアルが言われた内容と同じだ。アルを敵視というか気にしている事は司教達も知る所だ。流石にここでの揉め事は彼らも避けたい。なので一応は注意をしておこう、と思ったわけであった。


「不思議な事もあるものだ・・・」


 この時は、まだ瞬はルーファウスの存在を知らない。知らないが故に、真夏の怪談話の一つとしか考えておらず、仕事に疲れた頭には丁度よい気晴らしになってくれた。


「アルには言ったのか?」

「いや、デートの邪魔は出来ねえっしょ」

「だろう。なんで、そのまま」

「それもそうか」


 言われて、たしかに瞬も無粋と思ったようだ。唐変木や朴念仁と呼ばれる彼だが、そこらの機微ぐらいはわかっている。まあ、指摘されないとわからないあたり、朴念仁ではあるようだ。


「にしてもドッペルゲンガー、か・・・強いのかな?」

「知らねーよ、そんなの。天音かミストルティンにでも聞けよ。あいつら無茶苦茶知恵あるんだから」

「ドッペルゲンガーが居るかどうかから、疑問だな」


 友人の言葉に、瞬が笑う。ドッペルゲンガーが居るというのは、彼も聞いたことがない。魔術について知ったのでもしかしたら、とは思うが、今の今まで忘れていた為聞いたことも無かったのだ。そして、それは友人達も同じだった。


「そう言えば、それはそうだよな・・・こうやって幾つもの事知って、でもドッペルゲンガーって一度も聞いたこと無いよな・・・」

「椿ちゃん。何かしらない?」

「はい?」


 というわけで、生徒の一人が椿へと問いかける。彼女はカイトから冒険部全体の補佐を言い遣っている。ということで、大抵は執務室に待機していたのである。


「ドッペルゲンガー・・・何かしらない?」

「ドッペルゲンガー・・・ですか?」


 至極当然の様に問い掛けた生徒に対して、椿は首を傾げる。まるで知らないかの様だった。そして事実、知らなかった。


「なんですか、それは?」

「へ?」


 知らない、と言われて瞬を含めた三人が目を丸くする。とは言え、これは当然だった。そして、楓が口を挟んだ。


「バイロケーションは魔術で起こしているのが大抵だそうよ」

「へ?」


 口を挟んだ楓に、三人が振り向く。実は楓も気になって聞いてみた事があったのだ。ちなみに、バイロケーションとは同一人物が全く別の所で同時に観察される現象の事だ。ドッペルゲンガーを現象として言った物と考えて良いだろう。


「推理小説でバイロケーションが取り扱われてて、ティナに聞いたのよ。大半のバイロケーションは転移術を使って本当に同じ人が別の所に現れるか分身を使っているか、もしくは他人の変装だろう、って」

「へー・・・」


 確かに、それは有り得そうだ。三人は顔を見合わせて頷く。だから、椿は知らなかったのである。ドッペルゲンガーにせよバイロケーションにせよ、原理がわからない謎の現象故にそう呼ばれているだけだ。

 原理が解明されて分身や転移術とわかっていれば、ドッペルゲンガーもバイロケーションも始めから単語として存在しないのである。

 そうして、意外でもなんでもなく楓も博識だ、と改めて生徒達は認識して、この日一日は何事もなく書類仕事だけで過ぎ行く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第750話『代理人』

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