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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第43章 大陸間会議編 ――千年王国編――

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第745話 襲撃

 情報屋より襲撃の情報を入手してから、更に一週間ほど。議会も半分程の日程が終了して、総会の重要な議題は大半が終了した様な頃だ。


「はてさて・・・」


 カイトが首を鳴らす。今日が襲撃の予定日だった。というのも、今日は珍しくシャーナ女王に面会の仕事があり、その関係で警備体制が僅かに変わるらしい。警備体制を変えるのは大大老達の指示だ。事情はカイトの知った事ではない。重要なのはその間隙を縫う様にして、襲撃を仕掛ける手はずらしい、ということだ。


「では、一時的に貴方に仕事を一任しますが・・・問題ありませんね?」

「ええ、何も」

「まあ、軍も周辺警護はしています。気張らずにいなさい」


 カイトに対して、ハンナが告げる。ここで全ての罪を引っかぶせる為には、なんとかしてカイトの不手際にする必要があった。

 というわけで、カイトとシャーナ女王を二人にしてしまおう、という考えだったのである。そしてそれでも大丈夫だと思わせる様に、ここ数日は彼女の言葉どおりに、軍の周辺警護も本格的な物だった。


「さて・・・お仕事のお時間ですかね」

「はい?」


 ハンナが出て行くと同時に本気になったカイトに、シャーナ女王が首を傾げる。気配が変わった事は彼女にもわかったらしい。


「大大老のクソ共が動いた、というこってす・・・ちょいと切り札切りますよ」

「・・・ええ」


 カイトの言う事はシャーナ女王には簡単に理解出来た。自分が遠からず切られるだろうな、というのは彼女自身が理解していることだ。それ故、嘆くこともなくその時が来たのか、と思っただけだ。

 そしてもう一つ思うのは、カイトに迷惑は掛けたくない、という事でもあった。心が読めるとわかってからも、彼は触れてくれている。その心意気こそ、彼女にとって大切な物だった。だからこそ、彼の責任になってしまうここではまだ死ねなかった。


「貴方に全ておまかせします」

「はいさ・・・月花」

「はい」

「いざという場合は控えておけ」

「わかりました」


 カイトの指示と共に、姿を見せた月花が再度消える。自分が守っているとわからせる為だけに姿を現しただけだ。大大老達に見られる前に、消さねばならなかった。


「今のは?」

「使い魔の一人です。実力は保証します・・・なので、そこから動かないでください」

「わかりました」


 今の彼女には本当に味方がカイト以外に居ない。なのでシャーナ女王はその身の全てを、カイトに任せる事にする。


「ふぅ・・・来るなら、来い」


 シャーナ女王の信望を受けて、カイトは後は敵を待つだけになる。とは言え、流石にカイトの言葉と同時に来る事は無い。それから、約3分。爆音が鳴り響いて、遠くの部屋の壁の一部が崩れ去った。


「来たか」


 あぐらをかいていたカイトは、爆音と同時に立ち上がる。鳴り響いた爆音の数は3つ。どれも今シャーナ女王が居る部屋からは遠いものだ。カイトをおびき出す為の誘導だった。

 まだ数ヶ月しか無い経験の浅い冒険者ならば、確かにこれに引き寄せられてしまうだろう。そうでなくても慌てふためくだろう事は確実だ。カイトをその前提として見ていれば、作戦としては悪くなかった。だがこれはその前提であれば、の話だ。


「そこだ!」


 カイトは天井へ向けて、槍を突き出す。今度の暗殺者は何時ぞやとは違い、トラップに引っかかってはくれなかった。実力相応ではある、という事なのだろう。


「っ!」


 暗殺者の驚きと共に天井が破られて、暗殺者が3人落下する。が、それはカイトの攻撃によって落下したのではなく、カイトに気付かれた事を受けて強襲へ切り替えた事による降下というべきだろう。

 そうして降下した彼らは、地面に降りる前に虚空を蹴ってシャーナ女王へと肉薄せんとする。<<空縮地(からしゅくち)>>を使ったようだ。迷いがない判断と良い、腕は前情報の通り、ランクA程度と見繕って良いだろう。


「<<陽炎(かげろう)>>」


 一直線にシャーナ女王を目指す暗殺者達に対して、カイトは即座に<<陽炎(かげろう)>>で分身を作り出す。ランクB以降何をしてくるかわからないのは魔物だけでなく冒険者も一緒だ。誰も彼もが腕に一癖も二癖もある奴らだ。油断は出来ない。なのでこちらも数で応対する事にしたのである。


「っ!」

「ちっ!」


 暗殺者達を吹き飛ばす直前。彼らの視線がシャーナ女王が立つ床に向けられていた事に気付いて、カイトは今度は<<背縮地(はいしゅくち)>>を使用して、言われるがままその場で待機していたシャーナ女王を抱きかかえて、崩れた天井へと手を伸ばす。そしてそれと同時に、地面から槍衾が生えてきた。下の階に忍び込んだ暗殺者の一人が、こちらへ向けて何らかの(スキル)が展開されたのだろう。


「ちぃ! 陽動は一人か!」


 カイトが天井に手をやると同時に降ってきた漆黒の影に、カイトが顔を顰める。漆黒の影は暗殺者で、手には分厚い短剣が握られていた。毒は当然の様に塗られているだろう。

 どうやら上に居たのは3人では無く、4人だった様だ。貰った情報とは違う情報だった。そもそも暗殺者ギルドの連中からの情報を信用するのが馬鹿だ。

 カイトも彼らを仕事以外で信頼してはいるが、仕事関係で信用はしていない。暗殺に成功すれば、それがベストだろう。流出さえ作戦に組み込んだとて、不思議はない。

 とは言え、始めからここまで見越しての反応なのか、カイトの情報を得た事で念を入れたのかはわからない。が、カイトの行動に淀みはない。この程度は乗り越えてきたのだ。ならば、今回も乗り越えるだけだ。


「<<爆裂拳(ばくれつけん)>>!」


 カイトはシャーナ女王を左手に抱きかかえたまま、天井を掴んでいた右手を離して炎を宿して地面へと振り下ろす。


「っ!」


 自らが貫いた天井というか2階の床が高温になったのを見て、暗殺者が即座に槍を手放してその場から飛び去る。幾らなんでも彼らとてカイトの攻撃に直撃すれば死ぬだけだ。命あっての物種。このまま待ち構えていれば殺せるかも、と思ってバカ正直に死地に待ち構える馬鹿は居ない。


「最大版・・・<<風通掌(ふうつうしょう)>>!」


 カイトは地面の安全を確保すると、そのまま空中で半回転して上空から追撃を仕掛けんとする暗殺者に対して、風の拳を突き出して吹き飛ばす。殺せるとは思っていないが、それでも彼は大きく吹き飛ばされて、追撃は回避出来た。


「まずは一人!」


 豪風を纏う拳で暗殺者を吹き飛ばすと同時に、カイトは地面に着地してシャーナ女王を地面に下ろす。そしてそれと同時に、暗殺者達もカイトを包囲するように音もなく着地した。


「月花! 後どれぐらいで来る!」

『後2分という所です。遅くとも3分で下から軍が来ます』


 カイトの問い掛けに、月花がホテル全体の監視からの情報を伝える。あの爆音はカイトに言い逃れをされないために、敢えて何処からでも聞こえる様にしているものだ。

 それ故、逆に爆音が聞こえなかった、という言い訳は出来ない。であれば、女王が襲われているのだ。幾ら自作自演であろうとも、軍が即座に動かなければ何処の国からも怪しまれる。片手落ちどころか自らの致命打に成りかねなかった。


『ただ・・・動きが遅い。ええ、少々遅すぎます。どこか右往左往している様な感がある』

「は・・・?」


 馬鹿な、とカイトが思わず顔を顰める。遅れれば遅れた分だけ、自分達の失点にも繋がる。カイトが一人であるのは彼らの目論見から外れてエネフィア中の参加者達が知っている。

 遅れればその間一人で護衛を成し遂げたカイトが良くやった、と言われるだけだ。望むはずもない。最速で動いて無理だった、と言いたいのだ。だというのに遅れる意味がわからなかった。


「ちっ・・・」


 どこかからの横槍か、それとも何か別の事件が起きているからか。それは流石に今のカイトにもわからない。わからないが、一つだけわかっている事はある。暗殺者達は容赦してくれない、ということだ。彼らが逃げてくれるのは、どれだけ早くとも援軍が来る2分後だ。それまでは、カイト一人で相手をする必要があった。


「ふっ!」


 こちらの疑念を他所に、暗殺者達が地面を蹴る。聞こえた呼吸は一つ。カイトの真後ろの暗殺者の者だけだ。どうしても音が鳴れば、人はそちらに意識を持っていかれる。そちらを囮に左右がシャーナ女王を狙い、背後がカイトを狙う算段だった。

 彼らは何も語ってくれない。捕らえられたとて、その場合は自害するだけだ。語ってくれるのは、依頼人かそれに準ずる者に対してだけだ。どうやら先程までは様子見だったらしく、全員が先程よりも遥かに速い速度だった。


「ちっ!」


 <<陽炎(かげろう)>>を展開している余裕は無い。あれは無条件に何時でも何処にでも何体でも一瞬で分身を生み出せるわけではないのだ。なのでカイトは無理を判断すると、一瞬で出来る事を行う事にする。

 それは彼自身の特技である、武器の創造だ。肉厚の大剣を檻のように幾つも創り出して、シャーナ女王を守る事にしたのである。


「「「「っ!?」」」」


 幾ら高位の実力を持つ暗殺者でも、転移術を使えねば物理的な障害は越えられない。まさかの現象に思わず呼吸を乱していた。そしてこうなれば、カイトが戦うのは目の前の一人だけだ。

 背後の一人は大剣に進路を阻まれて、左右の二人もシャーナ女王狙いだったのでこれもまた、大剣に阻まれていた。流石に<<縮地(しゅくち)>>の最中に進路を変えるのは彼らにも無理だったようだ。激突しなかっただけ、良かっただろう。


「もう一人!」


 カイトは即座に刀を取り出すと、そのまま目を見開いている残りの一人へと刀を振りかぶる。そうして刀が触れるか触れないか、という所で、唐突に暗殺者の姿が人型の小さな紙に代わり、消え去った。


「<<身代わりの札(みがわりのふだ)>>!?」


 カイトはわずかにだが、驚きを露わにする。<<身代わりの札(みがわりのふだ)>>とは、転移術の簡易版を一度限りの物として再現した物だ。

 竜騎士レースの物と似た原理の簡単な物だが、これは暗殺者ギルド独自の技術で、彼らの門外不出の品だった。予め遠くに設置しておいて、もし万が一致命打を貰うと判断した場合にその場と入れ替わるのである。本能が致命打を察すると自動で展開される物だった。

 どうやら、相手の力量から逃げる事を考えている、というのは事実らしい。そうでなければ、こんな門外不出の品を彼らが持ってくる事はなかった。


「ということは・・・少々本気でやってもよさそうかな?」


 カイトが密かにほくそ笑む。実は殺すつもりでやっている様に見えて、暗殺者達は殺さない様にしていた。彼が本気になれば、本能が致命打を察するよりも前に殺す事は造作もないのだ。

 今までは敵の力量と持ち物がわからず手を抜いていたが、これがあるのなら、話は別だった。だが、その次の瞬間だ。月花がカイトに警告を送ってきた。


『カイト殿!』

「っ!」


 月花の警告とカイトが気付いたのは、ほぼ同時だった。カイトは背後を向いて、斬撃を放った。


「六人目!?」

「何奴!?」


 カイトと暗殺者の言葉が同時に放たれる。そこに居たのは、もう一人別の暗殺者だ。とは言え、暗殺者ギルドに属しているわけではないらしい。暗殺者達も知らされていなかった別の暗殺者の存在に驚きを浮かべていた。問い掛けは思わず出た声のようだ。


「・・・」

「ちっ・・・」


 完全に暗殺者ギルドとは別口のどこかの私兵。カイトはそう判断する。この騒動を見て強襲を掛けてきたと考えるのが妥当だろう。しかも、相手はかなりの手練の様だ。


「誰だ、と問い掛けて答えてくれるわけもなさそうか?」


 とりあえず、カイトは自らの斬撃を軽々と避けてみせた暗殺者に対して問いかける。新たに現れた暗殺者はこちらも服は漆黒だが、顔は仮面で隠していた。

 暗殺者ギルドの暗殺者が仮面で隠す事は殆ど無い――戦闘で割れる事と万が一の物証を残す事を厭っての事――ので、どこか別の暗殺者である事は確実だろう。


『・・・月花。後ろから仕掛けろ。オレは他を』

『わかりました』


 カイトの言葉を受けて、月花がタイミングを探る。現状、カイトも暗殺者ギルドの暗殺者達も仮面の暗殺者も、誰もが様子見だ。動くとなれば、同時だろう。そう判断しての事だった。そして、カイトが動いた。


「<<陽炎(かげろう)>>」


 生み出したのは、再度<<陽炎(かげろう)>>による二体の分身だ。そしてそれとカイトが地面を蹴ると同時に月花が顕現して、仮面の暗殺者へと刃を振るった。


「まずは、お前らからだ!」

「っ!?」


 暗殺者達があまりの速さに、目を見開く。カイトは彼らでも気付かぬ程に一瞬で肉薄していたのだ。正体不明の敵が出た時点で様子見をやめたのである。そうして、暗殺者達が一斉に呪符を残して消え去った。


「きゃあ!」

「月花!?」


 カイトが即座に暗殺者を仕留めると同時に響いた悲鳴に、カイトが思わず目を見開く。悲鳴は月花の物だ。彼女ほどの実力者が悲鳴を上げたとなると、いよいよ大事だった。とは言え、斬られた等というわけではなく、上手く力を利用されて脱力させられただけのようだ。それに、カイトが月花では無理を悟る。


「・・・月花。もう一度消えろ」

「はい」


 月花はカイトの命令を受けて、再度消える。選手交代だ。とは言え、完全に消えたわけではなく、何時でも顕現出来る様にはしていた。


「ふっ!」


 月花が消えると同時に、カイトが仮面の暗殺者へと肉薄して斬撃を放つ。それを、仮面の暗殺者は軽々と拳でいなした。カイトもシャーナ女王の事もあり強引な手段を取れず手加減をしている以上、一度ぐらいは可怪しい事ではない。


「ふっ! はっ! てぃや!」

「ふっ! はっ! っ!」


 三撃目までは自らの拳で相殺した仮面の暗殺者だが、更に速度を上げた四撃目は対処しかねたらしい。バックステップで回避する事にしたようだ。そして、それが読めぬカイト達では無かった。


「はっ!」


 バックステップで回避した所へと、月花が背後に再度顕現して追撃を仕掛ける。これは試合ではない。殺し合いだ。仮面の暗殺者が暗殺を試みた様に、カイト達とて正々堂々と戦うつもりは無かった。が、そこで、驚きが起きた。


「何!?」


 仮面の暗殺者はまるでそれを見越していたかの様に、身を捩って月花の刀を回避する。とは言え、一度回避出来たからと言ってなんなのだ、という話だ。

 ランクSに匹敵するだろうこの暗殺者であれば、月花の追撃を避けた所で不思議は無い。だが、そうだからと言っても、その後も連続して避けれる事にはならなかった。


「ここだ!」


 空中で身を捩る仮面の暗殺者に対して、カイトが切り上げの一撃を放つ。空中での回避は至難の業。それが特にこのように強引に回避したのであれば、尚更だ。だが、仮面の暗殺者はそれもまるで知っていたかの様に、魔力を強引に放出して距離を取る事で回避した。


「<<風神招・鶴(ふうじんしょう・つる)>>」


 距離を離した暗殺者に対して、月花が更なる追撃を仕掛ける。それは風で編んだ鶴だ。それは複雑な軌道を取り、仮面の暗殺者へと肉薄する。が、それをも仮面の暗殺者は自らに直撃する物だけを器用に破壊してみせた。


「・・・まさか・・・」


 そこで、カイトは違和感を確信する。あまりに、有り得ない。確かにシャーナ女王の手前どうしても仕方がなく手加減しているという事情はあるが、それでも自分と月花の二人の連携からここまで的確に逃れるのだ。武蔵達でさえそんな事は無理だ。やろうとすればどこかでミスが出る。

 いや、念の為に言えばカイトの知る限り出来る者は数人居るが、全員暗殺とは無縁だ。それに半数ほどは地球に居る。であるならば、何らかのからくりが有るとしか考えられなかった。そうして、カイトが口を開く直前、エレベーターが開いて大大老達やその護衛、ハンナが現れた。


「シャーナ様! ご無事ですか!」

「ハンナ! こちらは大丈夫です!」


 ハンナの問い掛けに、シャーナ女王が剣の檻の中で応ずる。そしてハンナ達が現れた事で月花は即座に消えざるを得ず、それを受けて仮面の暗殺者は再度強襲を仕掛けてきた。


「ちぃ!」


 カイトは違和感の確証を得る為に、一直線にシャーナ女王へと向かう仮面の暗殺者へともう一度斬撃を放つ。が、これを暗殺者は<<縮地(しゅくち)>>で移動しながらも身を捩って軽々と回避した。更に続けて放っても、結果は一緒だ。違和感の正体に確信を強めるだけにしかならなかった。


「やっぱりか!」


 何度も回避されて、カイトは感じた違和感の正体を確信する。そして同時に、顔に苦い物が浮かび上がる。正体の断片を確信した事で、敵の正体の手がかりを得たのだ。

 もしそうであれば、この相手はどうあっても殺せない。殺してはダメな類の敵だった。そうなれば下手すればこの暗殺に成功されると同程度の厄介さを生み出しかねない。そして、それと同時。カイトはシャーナ女王を抱き寄せたハンナがそれに隠れて手で小さく奇妙な動きをしていることに気付いた。


「・・・は?」


 ハンナがしていたのは、軍の暗号で『逃げろ』というジェスチャーでの合図だ。とは言え、カイトは逃げる意味が無い。軍が来た時点で彼の勝ちが決まっているのだ。

 だが、カイトはそれで敵の正体に当たりをつけると同時に、それの真の意味を理解した。とは言え、それだけでは足りない。なのでカイトはもう一手、ハンナの指示に一手間加える事にした。逃げて欲しいのは彼も一緒だ。ならば、逃さねばならないのだ。


「!?」


 カイトの攻撃を辛くも防御した仮面の暗殺者に驚きが浮かぶ。それは今までは通じていた策が通じなくなって浮かんだ驚きだった。


「っ! くぅ!?」


 連続して繰り出される攻撃を、仮面の暗殺者は必死で防ぎ続ける。先程まではあれほど軽々と避けていた彼が、今はなぜか押されまくっていた。速度はさほど変わっていないのに、今はなぜか避ける事さえままなっていない。出来ているのは必死に防御するだけだ。


「おぉ! 押している!」


 軍の兵士がカイトが押し始めたのを見て驚きの声を上げる。先程までは遥かに敵が上回っていたのだ。だと言うのに急に押し始めれば、驚きもするだろう。そうして、真剣白刃取りの要領で仮面の暗殺者が刀を掴んで、拳と刀が拮抗状態を創り出した。


「・・・スタミナ切れを演じる・・・必要もないだろうな。蹴っ飛ばす。そのまま撤退しろ。出来ないは聞かん」


 カイトの言葉に仮面の暗殺者は、何も言わない。だが、カイトはその瞬間、仮面の内側から血の匂いがしている事に気付いた。怪我はしていないはずだ。だというのに、血の匂いがする。それで、カイトは彼の正体ではなくとも、その由来を確信する。


「はぁ!」

「ぐふっ!」


 カイトは白刃取りされた刀から手を離すと、そのまま回し蹴りを放つ。それを仮面の暗殺者はあくまで回避できない体で敢えて受け入れて、壁を突き破って吹き飛ばされる。

 彼は仮面の外にまで血を吹いていたが、死んではいない。そして吹き飛ばされる勢いは音速を超えていたが、ランクSに匹敵していれば耐えうるはずの一撃だった。血が外的要因によるものでないという推測から、この程度ならばなんとかなる、と推測してのかなり強力な一撃だった。


「追え!」

「はっ!」


 吹き飛んでいく仮面の暗殺者に、軍の隊長格の男が指示を出す。そうして、それを受けて、複数の兵士達がそれを追いかけるべく突き破られた壁から出て行くのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第746話『言葉の剣』

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