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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第43章 大陸間会議編 ――千年王国編――

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第743話 戦いの傷跡

 メリアとメルア、そしてアリサとの再会を経て飛空艇を降りてホテルへと戻ろうとしたカイトとシャナであるが、その途中、シャナが一つのわがままを言う。それは、少し遠くにぽつん、と森の様な物が見えたからだった。


「あの・・・あそこはなんですか?」

「ん? ああ、あれか・・・あれは神社だよ。『剣神社(つるぎじんじゃ)』・・・知らないか?」

「あれが・・・」


 シャナは遠くの神社を見ながら、何かを考える。が、そうして少しすると、女王の顔でカイトへと願い出た。


「あそこへ・・・行ってもらえますか?」

「ん?」

「シャナではなく、シャーナとして・・・私はお人形さんでも・・・兵士達は私の名の下に戦い、死んでいきます・・・だから・・・」

「わかりました」


 だから女王として、行かなければならない。シャナではなくシャーナ女王としての覗かせた彼女に、カイトは尊いものを見る様に頷いた。

 彼女は自分が傀儡である事を把握していても、責任から逃げる事はしなかった。それを尊ぶのは一兵士であった者として、そして同じく民を率いる者として、何らおかしな事ではなかった。

 そうして、二人は神社の前に降り立つ。神社は仲間を亡くした冒険者や兵士達で一杯で、満員御礼と言って良い状況だった。

 とは言え、流石にここはお墓も兼ねた死者を詣でる為の場所だ。常に騒々しい様子のある冒険者やあまり教育の施されていない兵士達であっても、全員が静かに神妙な面持ちをしていた。


「あれ? カイト。そっちの女の子は?」

「ああ、ミトラさん。彼女はとある国の・・・いえ、貴方に偽る必要は無いですね」


 カイトを出迎えたのは、ミトラだった。偶然だが、こちらに来ていたのである。


「彼女はシャーナ女王陛下。故あって、連れ出しました」

「そっか・・・シャーナ女王陛下。私はこの神社の巫女の取り纏めを行っております、ミトラ・ニムスと申します」

「ありがとうございます。私はシャーナ・ザビーネ・メイデア・ラエリア。ラエリア神聖王国女王です」


 カイトの紹介を受けて、二人が自己紹介を行う。念の為に周囲に消音の結界は張り巡らせておいたので、バレている事は無いだろう。


「案内は私がします・・・しばらく、応対をお願いね」

「わかりました」


 ミトラの言葉を受けて、巫女の一人がしばらくの指示を担う事になる。そうして、シャナあらためシャーナ女王はカイトを伴って神社へと入っていく。

 とは言え、外の混雑に反して、結界の内側に人は居なかった。というのも、ここの内側は少しばかり位相のずれた空間になっていて、共有されているのは御神体だけだ。誰もが様々な想いを抱えて、ここに来る。そんな彼らが静かにお参りが出来る様に、と考えての事だった。


「ここで、手を洗ってください。やり方は私と同じように」

「はい・・・」


 シャーナ女王はミトラの指示に従いながら、お参りを行う。それを、カイトは側で見ていた。二人がどんな考えでここに立っているのかは、誰にもわからない。そうして、しばらくの間二人は神社でのお参りを行うのだった。





 神社でのお参りを終えて、二人は結界の中から出る。そうして、シャーナ女王が頭を下げた。


「ありがとうございました、ミトラ様」

「いえ、死者達も喜んだと思います・・・王様達は色々な軋轢や事情から、滅多にここに来てはくれませんからね・・・」


 ミトラは少しだけ嘆かわしげに、そう告げる。本当なら、王様や国の代表達は誰もが来るべきなのだろう。だが、ここには各国の兵士達が何ら区別なく合祀させられている。

 死者は死者として分け隔てなく葬る、という武蔵達の考え方に合わせたのだ。とは言え、それはすなわち敵同士である者であっても、共に祀られる事にほかならないのだ。

 これを快く思わない者が居るのもまた、事実だった。その者に配慮したり神社を一時封鎖しなければならない事等を考慮して、滅多に来られなかったのだ。


「よく来れるのは、ここが勇者カイトに縁があるエンテシア皇国ぐらいです。皇帝レオンハルト陛下も武人であるからか、死者に敵も味方も無い、と思っていらっしゃいますからね」

「皆が、そう思える日が来るのでしょうか・・・」


 青空を見上げながら呟いたミトラの言葉に、シャーナ女王が青空を見上げながら同意する。敵も味方も無く死者を労れる事。それが、争いを無くす第一歩だろう。だが、戦いの傷跡は、ゆっくりとしか癒える事はない。


「難しいだろうさ。争いは無くならない。争いを無くす事は出来ない。争いの根は人の根だ。争えば、悲しみが生まれ、憎しみは生まれる・・・殺し合いに発展する事なんて、簡単なのさ」

「相変わらず、達観してるわね」

「色々と前世を見てると、戦いが常に起きている事は知れますからね。そんな戦いの連鎖を見てきてるとそうも思いますよ」

「あら、初耳」


 カイトの言葉に、ミトラが驚きを浮かべる。大抵の事は彼女は母親役の一人として、把握している。だがこれは初耳だった。


「そりゃ、ここら語ったことの無い話ですからね。オレは『原初の魂(オリジン)』の全てを見た・・・そこには常に、三人の女が居た。その中の一人。因果律を狂わせてまで、どこまでもオレに囚われている哀れな女・・・本人に言わせれば、オレが制約と契約により自分に囚われている、でしょうけどね」

「ティナちゃん・・・じゃあなさそう?」

「あいつじゃないですよ。それはあいつも認めている。あいつもルイス・・・は、知りませんか。まぁ、あいつらは『例外存在(ミストルティン)』。オレとあいつは『外れた者(イレギュラー)』。全く別の女です・・・まだ出会ってもいないバカ女・・・」


 カイトは苦笑交じりに、そしてどこか愛おしげに誰かを語る。それは彼の言う通り、まだ出会ってもいない女で、そして出会う事を確信している女でもあった。


「大切なの?」

「ええ、まあ。詳しく語りにくい存在、ですけどね。ある意味、オレという存在に関しての重要性で言えばあいつ以上は居ない。袖振り合うも多生の縁、とはよく言ったもんですよ」

「『原初の魂(オリジン)』で見た、と言われてはね」


 カイトの言葉をミトラも苦笑気味に認める。『原初の魂(オリジン)』とは少々特殊な事情によりいくつかの意味を内包しているが、ここでは過去生、つまりは遥か昔の自分、と考えれば良い。かつてティア達の言っていた始点にたどり着いた、とは即ち、前世よりも前にたどり着いた、という意味で、今カイトが言っていた事はすなわち、自分の前世の更に前の話だったのである。

 この世界は有限だ。である以上、魂も使いまわされる。無から有を創り出す事は誰にも不可能なのだ。それは神様、それどころかそれを従えるこの世界そのものであっても不可能なのである。である以上、魂を使いまわす事になんら不思議はない。そして使いまわしである以上、誰しもに前世があるのは当然だ。

 それは現状曲がりなりにも不老不死に近いカイトであっても変わらない。ティナでも一緒だし、ソラ達でも変わらない。そして前世が存在している以上、それを見る事もまた可能なのであった。

 が、当然これは他者は覗けない。他人の前世だ。覗けるわけがない。関わりがあるなら見れるが、関わりがなければそれだけだ。ミトラがわからないのは無理もない。


「あはは。でしょうね・・・ここら、世界の始点、因果の始まりのお話になっちまう。最古の魂を持つオレだから知っている事で、大抵の奴は一番始めの『原初の魂(オリジン)』に至っても無理だ。それよりもっと古いお話だ。ま、会ったら連れてきますよ。百年だか千年だか先になるかもしれませんけど」

「そうしてねー。じゃあね、女王様」

「あ、はい。ありがとうございました」


 ミトラが手を振ったのを受けて、シャーナ女王が頭を下げる。そうして、二人は神社を後にするのだった。




 所詮憎しを晴らすのも憎しみを抱くのも、生者だ。死者が恨みを晴らそうとしたわけはなく、恨みを晴らしてくれ、と頼んだわけでもない。

 生者が失った痛みに耐えきれず、奪った者を恨むしか出来なくなったが故に、恨みや憎しみがある。それは誰にも否定は出来ない。これは、そういう類の問題、だった。それは、二人が神社を出た所で起きた。


「うん?」

「なん・・・でしょうか・・・」


 神社からしばらく歩いて響いていたのは、無数の怒声だ。それは誰かを罵る物ではなく、更に悪く殺せ、だのぶん殴れ、だのそういった類の殺意の混じった罵声だった。


「誰かが・・・戦っている?」

「はぁ・・・まあ、この時期だと仕方がない事か」


 事情が掴めないシャナは兎も角、カイトは仕方がない事、と諦めながらも悲しげな顔をする。とは言え、近づくにつれて響いてきた音に、カイトも流石にそのままにはしておけなかった。


「金属音?」

「ちっ・・・」


 カイトが舌打ちする。響いてきたのは、殺気や怒声に混じった金属の音だ。それは剣と剣がぶつかり合う剣戟の音だった。そうして、シャナがカイトの裾を引っ張った。


「兄様・・・止めてくれますか?」

「言われなくても、そのつもりだ」


 シャナはシャーナ女王として、止めようと頼んだらしい。が、そう言う前から、カイトは歩き始めていた。そうして、カイトは事が大事になる前に、群衆をかき分けて騒動の中心に向かっていく。

 群衆はどうやら全員何処かの国の兵士らしい。詳しい事はカイトにもわからなかった。とは言え、同じ国の軍人ではなさそうだ。人員の比率は半分半分という所で、別の鎧が見て取れた。武装の質から見て、末端の兵士という所だろう。全員がかなり使い込まれている感があった。


「なんだ・・・?」

「誰だ、あいつ・・・何のつもりだ?」

「ユニオンの奴か? 邪魔だ、引っ込んでろ!」


 群衆を割って入ったカイトへと、罵声にも似た声が送られる。どれもこれもが、恨みの篭った言葉だった。だが、カイトはそれを斟酌しない。そうして、中心で戦う二人の傷だらけの兵士へと近づいて、同時に振るわれた剣を両手で掴み取った。


「・・・」

「誰だ・・・」

「何のつもりだ・・・」


 自分達の戦いに割って入った謎の人物に、傷だらけの兵士二人が睨みつける。二人共、おびただしいとまでは行かないまでもかなりの傷を負っていて、それにさえ気付いていない様子だった。視線は相手だけではなく、止めに入ったカイトへの恨みや悲しみ、憎しみや怒りまで込められられていた。邪魔をするなら、お前も殺す。そんな意思が込められていた。


「「邪魔するな!」」


 怒りの篭った声と共に、二人はカイトごと敵を斬り伏せようと力を込める。だが、その剣はどれだけ力を込めても動くことはなかった。


「ここで争うなよ」


 カイトは力を込めた二人に、諭す様に告げる。ここは神社の前で、そしてお墓の前だ。そこでの争いはどう考えても許される事では無かった。だが、そうして周囲の者達が告げるのは、一様にこれだった。


「わかった様な口を聞いてんじゃねぇ!」

「そうだ! 奴らを根絶やしにしろ!」

「奴らを殺せ!」

「良いだろう! そっちがその気なら、こっちだって!」

「ちっ! 剣を抜きやがった! こっちも抜け!」


 どうやらカイトと敵への罵りがきっかけになったようだ。周囲の者達もまた、剣を抜き放つ。それに、カイトが大声を上げた。


「馬鹿やってんじゃねぇ!」


 ビリビリビリ、と大気が振動して、全員が動きを止める。そうして、カイトが覇気と共に静かに、そして厳かに告げる。


「ここで、戦うな。死んだ奴が静かに眠れねぇだろう。死んだ後、やっと眠ってんのに騒がせてんじゃねぇ」

「どけよ・・・」

「だから、だろうが・・・」


 カイトの覇気を受けても、カイトが止めた二人は止まらなかった。それどころか、その言葉を聞いて尚更意思を漲らせているようでさえあった。そうして、二人はほぼ同時に思いの丈を告げる。


「俺がここであいつの首を取らねぇと、あいつの墓前になんて言えばいいんだよ!・・・だから」

「ここで止めたら死んだ兄貴はどこに行くんだ! 兄貴はあいつに殺された! 弟の俺が仇を取る!・・・だから」

「「止めるな!」」


 このまま、恨みを晴らさせてくれ。奇しくも、二人が同時に同じ言葉を告げる。二人共完全に頭に血が上って、相手の言葉にも気付いてはいないだろう。どちらも眼は恨みに曇り、頬は涙に濡れていた。


「知ってるよ、んなもん・・・知ってるんだよ、んなもん!」

「は?」

「何を・・・ひっ!?」

「うわぁ!?」


 いきなり告げられたわけのわからない言葉にあっけに取られた二人だが、その次に起きた現象に、剣を手放した。それに、カイトが安堵を浮かべる。


「良かった・・・お前らはまだ、堕ちちゃいねぇよ」

「あ・・・あああ・・・・」


 カイトの手から零れ落ちる漆黒のモヤに、周囲の兵士達が全員怯えを見せる。ここの誰もが、国の命令で、民のためというお題目の下、戦場に赴いている。その中で、これを見たのだ。だからこそ、だった。


「半・・・堕族・・・」

「半堕族だ・・・」


 口々に、カイトの事を語り合う。半堕族。恨みに堕ちた哀れな存在。やるせない想いに耐えきれず、ついにはその感情に支配された哀れな存在。最前線の地獄を歩く兵士達がそれを知らないはずがなかった。だからこそ、彼らに浮かぶのは憐憫だ。誰もが、カイトの感情を理解出来る。ここに来ている以上、誰もが何らかの形で奪われた者だからだ。


「見ろよ。これが、憎しみの果てだ」


 カイトの言葉と共に、どろりとコールタールの様に濃密な漆黒の闇が零れ落ちる。だが、これは闇ではない。あまりに濃密な殺意の塊が具現化した物だった。


「なあ、お前ら・・・ここまで堕ちる気、あるってのか?」


 カイトの問い掛けに対して、二人の答えは予想出来たものだ。そうでなければ、刃を振るっているはずはない。


「当たり前」

「あるに」

「大馬鹿野郎が!」


 二人の言葉を遮って、カイトが怒声を飛ばす。わかっていない。覚悟があって、ここに来れるわけではないのだ。覚悟が無かったからこそ、ここに堕ちるのだ。


「お前らがここに堕ちた! なら最後は仲間を殺すか仲間に殺されるか、だろうが! その覚悟があるのか、って聞いてんだよ! てめぇらも全員だ! 仲間殺す覚悟出来てんのかよ! 仲間の為に怒ってる奴らにんなことさせてぇ、つってんじゃねぇ!」

「じゃあ・・・じゃあ、どうしろってんだよ・・・!」


 カイトの言葉に対して、兵士の片方が問いかける。それは悲痛な叫びにも似ていた。どうすればこの憎しみが捨てられるのか。それがわからぬが故の問い掛けだった。だが、返すカイトもまた、わからなかった。


「わかんねぇよ! オレは恨みと憎しみでここ(堕族)に堕ちた! 和解の道捨てちまった! その果てにずっと一緒に居てくれてたダチ泣かせて、あまつさえ敵に生命救われて最後の最後で仲間と大切な相棒のお陰で戻ってこれた! だから、わかんねぇんだよ!」


 問い掛けに、カイトが涙を流す。最後まで復讐を終わらせてしまった彼にはわからないのだ。どうすれば相手と和解出来るか、なぞ。だが、それでも。一つわかっていた事はあった。それは刃を振るう事がやめられない彼らの苦しみだった。


「だがな、お前らの気持ちは痛い程わかるんだよ! オレは目の前で死んでいくあの人達をただ見ているだけで何も出来なかった! ただ憎むしか自分を生かせなかった! わかってんだよ、そんなこと! だからこそ、やめてくれ! オレと同じ悔しさを! あいつと同じ想いを! ここで撒き散らさないでくれ!」


 カイトが自ずと流れた涙と共に叫んだ。二人の兵士だけではなく周囲の兵士達へと訴えかける言葉だった。誰もが、そこに含まれた痛みを嫌というほど理解していた。彼は自らの傷跡をえぐり出して、血を流して訴えかけているのだ、と理解出来てしまった。そうして、カイトは続けた。


「わかってるさ・・・それでも、憎しみが止められないってのは・・・だが、だからこそ・・・ここでだけは、やめてくれ。他のどこで殺し合っても構わない。だけどな・・・ここは、ここだけはダメだ。互いの憎しみを捨ててでも協力していこう、って今までの自分を殺した奴らが必死で作り上げた第一歩なんだよ・・・だから、頼む。ここでだけは、戦わないでくれ」


 涙と共に、頭を下げたカイトが告げる。だからこそ、彼は兵士の代弁者足り得たのだ。兵士達が負った痛みを、悲しみを、嘆きを、全てを理解してくれている。

 最前線に立った兵士だからこそわかる言葉にも出来ないどうしようもないやるせない気持ちを理解してくれていたのだ。そして理解者を得た事で、誰かが涙をこぼした。


「うっぐ・・・ドグラ・・・」

「ソール・・・」


 2つの痛み(名前)を、誰かが口にする。お互いにその名を知っている事は無いだろう。であれば、これは2つの国々の別々の兵士のはずだ。そうして、憎しみが伝播するように、悲しみもまた、伝播していく。剣が落ちる音がする度に、涙の数が増えていく。

 ここは、そういう為の場所だった。本来は憎しみ合う者達が憎しみを捨てる第一歩となる為の場所だった。だからこそ、ここは敵も味方も無く合祀される。ここでだけは戦わない様に、と。

 彼らだって戦わないで良いのなら、戦いたくはないのだ。だが、感情が上手くコントロール出来ないのだ。ここには、そんなやるせない兵士達の想いが詰まっていたのだ。それを、誰もが思い出す。


「うぐっ・・・ドグラ・・・」

「兄貴・・・」


 静かに、傷だらけの二人の兵士も涙を流し始める。後の聞いた所、片方が失ったのは親友で、その彼が、復讐に偶然戦場で出会った殺した者の兄を殺したそうだ。親友が殺されたのは、戦いの最中にもう片方が仲間を守ろうとしての事だった。

 そして復讐に殺された兄は、もう片方にとって唯一の肉親だったそうだ。どちらも似たように気の良い男だったらしい。復讐の連鎖。こうして、それは始まったのである。


「「うわぁああああ!」」


 幾つもの嘆きの声が、響き渡る。それは憎しみの刃を止められて、そして止めてしまって、取り戻した痛みに耐えきれなくなって溢れた悲しみ声だった。

 エネフィアでは全面的な戦争はたしかに滅多な事では起きない。どちらも強大な魔物が出れば国が終わる、と理解しているからだ。そんな時に軋轢から共闘できません、では国だけではなく世界が終わる。だが、戦争という最後の一歩を踏み越える事が無いだけで、小競り合いは起こり得る。最後の一線だけが滅多に越えられないだけなのだ。

 それはエネフィアにあるのも人の国だからこそ、普通の事だった。人が居る所に争いはあり、争いのある所に血は流れ、そして戦いの連鎖が始まる。人である以上、逃れられない業だった。

 そうして、そんな最中で起こっただろう悲劇は、カイトの嘆きを見せられた事によって自分達の嘆きへと変わり、幸か不幸か食い止められる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。珍しくカイトが熱い。

 次回予告:第744話『策謀』

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