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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第43章 大陸間会議編 ――千年王国編――

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第741話 シャナ

 レインガルドの呉服屋にて街の娘達が着る普通の衣服に着替えたシャーナ女王ことシャナを引き連れたカイトは、とりあえずどうしたいか、と問いかけてみる。


「さて、シャナはどこ行きたい?」

「どこ・・・?」


 カイトの問い掛けを受けて、シャナはしばらく考える。外に出たのはそもそも連れ出されてのことだし、何かを考えていたわけではないのだ。


「あの・・・じゃあ、自由に一度街を歩いてみたい・・・です」


 おずおずと、迷いながらもシャナが告げる。どこへ行ってみたいか、と言われても彼女は行ってみたい所が多すぎるし、それ以前に彼女は街という物を知らない。

 いや、知識として知っていても、それを感覚として知っているわけではないのだ。だからこそ、自由に街を歩いてみたい、ということなのである。


「おーけー。じゃあ、適当にぶらつくか」


 シャナの言葉を聞いて、カイトが笑顔で頷く。ここらは武蔵の家が近い事もあり、その門弟たちがよく出歩いている。その為元々犯罪が起こりにくいレインガルドの中でも特に優れて治安は良かった。

 冒険者達がほとんど立ち入らない事もあって、それは今でも一緒だった。そうして、二人はしばらくの間、街の散策を行う事にするのだった。




 一方、その頃。残されているハンナは、というと、一つの事に気付いていた。それはカイトとシャーナ女王が偽者だ、ということだ。


「・・・なるほど。そういうことですか」


 ハンナは大凡の推測を立て終えて、これからの計画を考える。彼女はスパイや諜報員の類だが、それ故決して大大老や元老院達に仕えているというわけではない。

 自分の利益になると踏めば彼らへと報告を入れるが、黙っている方が彼女にとって得になるのであれば、黙っている方を選ぶのであった。


『定時連絡を』

「・・・異常はありません。シャーナ女王、護衛の日本人共に昨日と変わらぬ動きを見せています」


 大大老からの監視員の言葉に、ハンナは嘘を告げる。どうせ彼らはここにはこない。来てカイトにバレた場合、侵入者として排除される可能性を考慮していたからだ。死体の始末も手間がかかる。面倒事になりかねないので、送らなくなったのだ。

 とは言え、見た所で一緒だろう。乳母として生まれた時から一緒の彼女だからこそ、シャーナ女王が偽者だと気付けたのだ。それだって簡単ではなかった。違和感から考えはじめて、ついさっきようやく結論を出したのだ。それでも、未だにカイトについては偽者かどうかが判断出来ない。


『そうか。少しでも変わった行動を起こせば、連絡を入れろ。監視カメラの類は全て無効化されている。貴様からの情報だけが頼りだ』

「わかっています」


 監視員の言葉に、ハンナは一切の偽りを見せずに応ずる。監視カメラが無力化されていることには、一日目の夜の時点で彼らは気付いていた。

 シャーナ女王への暗殺を試みた暗殺者が居た事は、彼らも把握していた。それを敢えて見逃して、カイトがどう出るか見るつもりだったのだ。が、それが見れなかった事で、監視カメラが無力化されていることに気付いたのである。

 勿論、彼らも何度も監視カメラのコントロールを取り戻そうとはした。シャーナ女王の謁見や会議に出た隙を見計らって再設置も設置場所の変更も行った。

 だが何度カイトからの妨害を解除しても、いつの間にかまた無力化されているのだ。この頃にはついに無駄を悟ってハンナからの連絡だけに頼る事にしたのであった。そしてそれ故、カイトが動いたのである。


「・・・さて・・・」


 ハンナは通信を終えると、一人目を凝らして周囲を観察する。カイトの意図は読めている。自分の動きを探るつもりだ。であれば、何処かに監視している何かがあるはずなのだ。だが、どれだけ探そうとも何の痕跡も見付かる事は無かった。


「・・・無い? いや、そんなはずは無い・・・」


 ハンナは思い過ごしか、と思おうとして、これまどのカイトの行動からそれは違う、と思い直して再度痕跡を探し始める。大大老も元老院もカイトへは過小評価していたが、ハンナは直に接しているが故に甘い見込みを捨てていた。正直な所、彼女はカイトがランクA相当でもなんら遜色ない、と考えていた。


「・・・私には見付けられない、ということですか」


 何度探しても、どこにも見付からない。ハンナは自分では無理だ、と悟る。監視していない、とは思っていない。だからこその結論だった。


「・・・あれ(式神)ではなさそうですね・・・これは・・・単なる写し身。であれば・・・」


 自身の計画に使える。ここに来て、ハンナはカイトの有用性を認める。とは言え、扱いや応対を変える事はしない。したら大大老達に訝しまられる。それはごめんだった。


「・・・さて、どうしましょうか」


 考えるべきは、この情報を何処に伝え、何処に伝えないべきか、だ。そして伝えるにしてもどういう事を伝えるのか、を考えなければならない。


「少なくとも、シャーナ様は信頼なさっている・・・であれば・・・」


 ハンナは一人、幾つものアイデアを浮かべる。幸いにして、ハンナは今は一人だ。カイトが誘拐を考えているとは考えていない。乳母として、教育を施した者として、ハンナにはシャーナ女王がそれに乗るとは考えられないからだ。

 ならば、帰って来るまでは彼女も好きにできた。そうして、彼女は改めて自分の計画にカイトをどう組み込むかを、考え始める事にするのだった。




 さて、ハンナが一人考え始めたわけなのだが、その頃のカイト達はというと、本当に気ままに散策を続けていた。


「と、言うわけで・・・ここがかの有名な宮本様の道場、というわけだ」

「ここが・・・」


 シャナがふむふむ、と頷く。『宮本武蔵』の名はこのエネフィアであれば、常識として知られている事だ。生ける伝説。その一つである以上、興味を持つのも普通な事なのだろう。街の散策をしている最中に、ふとシャナが気になってここに来てみた、というわけだ。


「私有地なので中には入れないけどな」

「そうですか・・・」


 少し残念そうではあったが、シャナとてシャーナ女王として、法律は学んでいる。私有地への立ち入りに主の許可がいる事ぐらい簡単に理解出来た。


「次は・・・」

「あの・・・あれはなんなのですか?」

「あれ? ああ、あれか。コンサート会場だな・・・今日は確かロイス・アーリマンやらアリサ・ローレライやらのコンサートか」


 記憶を手繰りながら、カイトがシャナの指差す方角を観察する。そこにあったのは、巨大な飛空艇だ。そこからレーザの光が溢れていたのである。舞台装置の一つ、というところだ。と、ふと耳慣れた名があったことに、シャナが気付いた。


「ローレライ・・・ローレライ王家の方ですか?」

「ん? 知らないか?」

「ええ・・・」


 少し恥ずかしげに、シャナが認める。アリサは王族ではあるが、彼女の音楽は大衆音楽だ。民達を元気づけたい。そういう思いから活気溢れる歌をメインに歌っていた。とは言え、それ故にコンサートといえばオーケストラぐらいしか聞かない彼女には耳馴染みが無かったのだろう。


「行ってみるか。そろそろコンサートも始まってるだろうしな」

「良いですか?」

「おうさ。今日は自由に歩く、って話だからな」


 カイトは笑いながら、シャナの提案を認める。そうして、二人はそちらへと歩き始める。が、そうしてたどり着いた時、二人は一つの事を忘れていた事に気付いた。コンサートにはチケットが必要だったのだ。

 それを会場前で思い出したカイトは、密かに少し考え始める。せっかく来たのだし、連れ出した以上はシャナに大衆音楽を見せたくはあったのだ。


「んー・・・あんま切りたくない札なんだが・・・」


 カイトの切り札は、幾つもある。例えば、裏金も可能だ。流石にそれはやらないが、別にもう一つ、ここの警備隊に話をつける事も出来た。

 というのも、ここで歌っているのはローレライの王族だ。警備もローレライの王家が取り仕切る事になっていて、その総責任者は、近衛兵団だった。カイトの顔見知りなのである。お隣さんという理由もあるし、アリサと個人的な知り合いだ、という事も大きかった。


「まあ、ディにはバレてるし、そっからアリサにもバレてるから良いか・・・えっと、警備兵は・・・」


 カイトは何を考えているのか、と小首を傾げるシャナの横で、警備兵を探し始める。まあ、ほとんど探す必要もなくすぐに見付かった。


「すいません」

「どうしました?」

「通信機ちょっと借ります」

「え?」


 きょとん、となる警備兵の前で、カイトが彼らの使う通信機を勝手に使わせて貰う。あまりの手際に警備兵は呆然となるだけだ。その前でカイトは通信機の設定を弄って、上層部向けの緊急通信を起動する。


「こちらカイト。誰か聞こえてたら応答お願い」

『『『ごふっ!?』』』


 通信機の先で、いくつかのむせ返る音が響く。大半が彼の知り合いだった。


『・・・ああ、取り乱した。どうしました?』

「よぉ、ディ。久しぶり・・・藪から棒に悪いんだが、飛空艇、乗って良い?」

『仕事は?』

「現在続行中」

『待ちなさい! 貴方まさかシャーナ女王陛下を連れてらっしゃるのですか!?』

「あ、きちんと偽装は施してる。後お忍びな」


 ディからの問い掛けに、カイトが笑いながら頷く。彼女は他国の近衛兵だが、信頼のおける相手だ。それに、カイトの帰還を知っている。話した所で問題は無かった。そもそも斜め上を行くと知っているので、言うつもりもなかった。


『そう言う問題では・・・大大老達にバレれば・・・』

「気にすんな。あのクソジジイ共に言った所で自由に出してくれることなんぞねぇよ。監視で室内見てるが、どうにも上には上げてないしな。こちとら大戦期の英雄やってんだ。そこらは舐めんな、って話」

『はぁ・・・大大老達も貴方が貴方だと知っていれば、わざわざこんな事をしなかったでしょうに・・・』


 どうやら大大老達が何かを企んでいる事はディの下にまで聞こえているようだ。相変わらず斜め上を行くカイトの行動に、思わず憐憫を僅かにだが抱いている様子だった。


「まあ、それに・・・幾つかどこかの誰かさんの為に歌ってくれてる歌もあるんだろ? 聞いてるぜ」

『・・・はぁ・・・そう言う所が女誑しだ、と言われるのです。どうしてそうも世間に伝わらない裏の話まで全部把握しているのやら・・・わかりました。許可を下ろします』


 アリサの歌の中には、愛しい人(カイト)を待つ為の歌もある。それを知ればこその言葉に、ディもため息混じりにも認めるしかなかった。こういう細やかな所まで把握しているのが、この男の恐ろしい所の一つなのだろう。


「サンキュ。愛してるぜ」

『それはアリサに言ってあげなさい』

「待たせた分、聞きたいだけ言ってやるさ。どうせこの後にはマクスウェルに来るんだろ?」

『貴方の姉と妹に幾つか言いたいことがあります』


 カイトの問い掛けに、ディが苛立ちを見せる。どうやら私的な会話として、いくつかのやり取りがあったのだろう。ちなみに、念のために言うがカイトの愛しているという発言は単なるジョークとしての物だ。


「悪いな。随分と待たせた。あいつらも、他の奴らも、だ。あいつらの少しのわがままは目を瞑ってやってくれ。立場が立場じゃなければ、と思うよ」

『勇者は何時も揉め事しか持ってこない・・・これは貴方が仕方がない事では無いでしょうけどね』

「あはは」


 カイトが朗らかな様子で笑う。この揉め事はカイトの責任ではない。カイトが天桜学園を守る為には、致し方がない事だった。それは敏い彼女らは全員理解していた。

 だからこそ、不満を抱いていても、それを表にする事は誰も無い。しても遅い、という程度だ。黙っている事は仕方がないとわかっていた。


「じゃ、とりあえず入るよ」

『各所には黙っておく様に言い含めておきます』

「サンキュ・・・悪いな。こういう手しかなくてな」

「は、はぁ・・・」


 会話を終えて、カイトは通信機を警備兵へと返却する。どうやら警備隊長と知り合いだ、と理解したらしい警備兵は怪訝な顔を浮かべながらも、何も言わずにそれを受け取ってくれた。


「さて、これで決着っと・・・行くぞ」

「あの・・・チケット等は?」

「話が付いた。ちょっと裏の伝手があるからな」


 少しいたずらっぽいカイトの笑みに、シャナはそれを信じる事にする。


「さて・・・じゃあ、もう一回失礼っと」

「きゃ」

「飛空艇にはレストランもあるからな。そこで昼飯でも食べるぞ」

「あ、はい」


 とん、と地面を蹴って飛空艇を目指し始めるカイトに、シャナは言われるがままになる。色々と気になる事はあるが、そこは問わない事にしたらしい。

 そうして、カイト達は飛空艇の上部ハッチから密かに飛空艇の中にはいる。飛空艇はコンサートを見る為の特等席も兼ねていて、観覧席もあったのだ。そこの空いている席――欠席というわけではなく、敢えて空けている席――をカイトは伝手で入手した、というわけであった。カイトが来ている事がアリサにはバレるだろうが、そこはもう諦めている。


「わー!」


 見た目相応の様子で、シャナがコンサートを観察する。ここは個室の為、誰かにバレるということもない。多少の無作法も許される。と、そうしてしばらくコンサートを聞いていると、アリサがここで予定に無い別の曲を挟んだ。


「綺麗・・・」


 純白のドレスを身に纏ったアリサに、シャナが見惚れる。元々アリサは王女だ。純白のドレスは非常によく似合った。


「オレへの当て付けどーも」


 歌う曲は、先程カイトが言っていた恋人を待つ為の歌だ。純白のドレスはどう見ても花嫁衣装だ。戦争へ行った男を待つ花嫁の気持ちを歌った歌だった。どう考えても、カイトへの当て付けだった。そうして、カイトもまた曲に聞き惚れながら、しばらくの間コンサートに浸るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第742話『女王とお姫様達』

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