第731話 観艦式 ――四大国――
カイト達が魔導機に乗り込むと同時。各国共にほぼ同時に、観艦式の号砲を上げる。
「うぉおおお」
冒険部一同は上空を見上げて、急に始まった観艦式に釘付けになる。なお、これは全国同時ではない。号砲を行うのが同時なだけで、観艦式は一国ずつやるのが、暗黙の了解だった。
変に被ればお互いに威信をかけてやることになって要らぬ争いを生みかねない、とこの観艦式が常態化されて少しした時に起きた事件を受けて、そう取り決めを交わしたのだ。
「あっちは・・・どこの国だ?」
「東・・・昨日ユニオンの職員さんから聞いた話だと、ヴァルタード帝国、って所だったと思います」
瞬のつぶやきを聞いて、ソラが大凡の推測を告げる。なお、方角については太陽の向きから判断した。エネフィアでも惑星の自転の向きは地球と同じく北極点から見て反時計回りだ。なので西から登って東に落ちる、という事は起きない。単なる偶然だが、地球人にとってはやりやすくはある。
「ふむ・・・西は考えるまでも無いよな」
「うっす」
瞬と共に、ソラは西の空を見る。すると、そこには一風変わった飛空艇を中心としたエンテシア皇国の飛空艇艦隊があった。
「両翼に筒状の何か、か・・・巨大な魔導砲か?」
「さぁ・・・そこら辺、何も教えてくれないっすからね。軍事機密、らしいんで・・・」
ソラも動きを見せない西の艦隊を見ながら、首を振る。そうして、彼らは少し興味深そうな雰囲気で、観艦式の観察を行う事にするのだった。
さて、観艦式はヴァルタード帝国から始まる事になり、準備が出来た順番で行う事になったらしい。別に通信等で示し合わせたわけではないが、その場の雰囲気から、自分の国が何番目かを把握していた。それに則って、皇国は最後になるようだった。
「でかいな、ヴァルタードの船は」
「・・・イエス。それと同時に、測定完了。全長1050メートル。全高は175メートル。全幅は105メートル。ブリッジと推測されるエリアはおそらくあの一番高い場所かと」
「第二艦橋はありそうか?」
「イエス。ヴァルタード帝王が搭乗している事を考えれば、無いと考える方が不思議です」
カイトの問いかけに、今まで魔導機のセンサーを使ってヴァルタード帝国の巨大戦艦の状況を確認していた結果を告げる。巨大戦艦を中心としてヴァルタード帝国の艦隊は艦砲射撃を行っており、何より巨大戦艦から発射されるまさに雨としか言い得ない砲撃には目を見開くしかなかった。
なお、この巨大戦艦の比率――『全長:全高:全幅=30:5:3』――は大型船を建造する上で最も優れているとされている比率だ。帝国はこれを発見したか気付いていて、飛空艇にも流用したのだろう。
海で浮力を得ているわけではないので純粋には従わなくても良いはずなのだが、念を入れたか、海に落着した場合を考えているのだろう。
「艦砲数は100を超えているか・・・単体戦闘能力であれば、あそこが一番強いか・・・船の出力にしても、一番高そうだな」
「イエス。あの規模を実現出来たのは、素直に驚嘆に値します。出力ではこの空母型飛空艇を遥かに上回っていますね」
「ティナが臍を噛んでいそうだな」
「・・・否定も肯定もしかねます」
カイトの言葉に、アイギスが苦笑する。これは研究所の問題等があるが、ティナの魔導炉研究は小型化や安定性の追求がメインだ。出力は比較して低い。その点を比較しての言葉だった。
そうして、そんな雑談をしていると、カイトが思わず感心する。巨大戦艦の一部が開いて、号砲と共に一人乗りの小型飛空艇が発艦したのだ。と言っても、積載量はそこまで無いらしい。発艦したのは規模に反して、10数機だった。
「・・・ほう」
「考えるのはどこも同じ、の様子ですね」
「だろうな。航空戦艦、と言うところか」
今度はアイギスの言葉にカイトが同意する。空母を開発しよう、というのはどこも同じらしい。まあ、まだまだ、黎明期にもたどり着いていないのだ。一応技術力を誇る為に持ってきた、という程度なのだろう。
「この様子なら、他二国も持ってきているな」
カイトが笑みを浮かべる。考える事は何処も同じ。技術の進歩にはよほどの特筆すべき事情が無ければ、大きな差は出ない。その点、この飛空艇技術は外部から持ち込まれている物だ。根幹技術は世界的に共有されており、尚更差は出にくかった。
ならば、空母に似た機能を持つ飛空艇を持ってきていると考えるのが、普通だろう。そうして、ヴァルタード帝国の観艦式が終わる。それが終われば、次はマギーアの船だった。
「次は・・・ウルシアのマギーアか。積載量だと、やはりあそこが大きいな」
「イエス。ホバークラフトによる輸送力は目を見張る物があります。ここまで来るのは大変だったでしょうけどね」
「あそこも、見栄があるらしいな」
「イエス・・・水平移動はお手の物、ですね」
二人はマギーア国の独特な飛空艇を観察する。他二国がエンテシア皇国と同じく何処か長方形に近い形状だったのに対して、ここは正方形に近い形状だ。
なるべく揺らさない事にする為、船の下部にも飛翔機を取り付けているのだろう。先にも言ったが、船ではない飛空艇の形状が大型船の比率に従っている意味は薄い。考え方の差で、そこは誰も否定しない。
「ふむ・・・指揮力が高いな。水平移動に優れているお陰で、隊列の組み換えも素晴らしい」
「すいすいすい、って動いてますね」
「車輪陣等は組みやすそう、か・・・おまけに上に兵士達を乗せても動けるな・・・あれはあれでありか」
自分達の発想とは違う文明を見て、カイトも良い刺激になったらしい。しきりに感心していた。そうして、水平移動を織り交ぜた観艦式が終わる。それが終われば、残るのは千年王国だ。と、その千年王国だが、中心に位置する船の最上部に取り付けられていた半円が開いていく。
「うん?」
「艦橋・・・かと思ったのですが・・・違う様子ですね」
「みたい・・・だな」
二人は意図が掴めず、その動きに注視する。現れたのは、一つの庭園だ。それもかなり気合の入った物で、素直に美麗としか言えない様子だった。そこにティナが連絡を入れてきた。
『アイギス。あの船の半円の気圧状況を確認できんか?』
「? イエス・・・あ。気圧、変化ありません。魔術の形跡無し。超透明度の高い謎の素材で覆われていると推測されます」
ティナの言葉に従って魔導機の検査機能で検査していたアイギスが、少し驚いた声を上げる。素材はわからない、との事だったが、透明度や強度等を考えればガラスでは無いだろう。
千年王国が開発した新素材だった。開いた様に見せて、実はカバーを外しただけ、という所だろう。見せた以上、このままでの運用も可能なはずだ。わからなければ後で大大老達が嘲笑を滲ませながら、こちらに防御力も万全であるという事を自慢げに語った事だろう。と、そうして意図を理解出来ず見守る全員の前で、一人の10代半ばにも到達しないだろう少女が現れた。
「・・・あれは・・・」
『シャーナ陛下だ、公よ』
「!? 奴らは女王陛下をここで出すつもりですか!?」
皇帝レオンハルトの言葉に、カイトが目を見開いて驚く。少女の顔は覆いで覆われていて見えないが、着ている服は確かに豪奢で女王としての衣服に見える。
「・・・いや、そうか・・・それだけ、あの素材に自信を持っている、ということか」
『ふむ?』
「あの一角は現在、魔術ではなく未知の素材で覆われています。そして幾ら大大老達と言えども、大衆の門前で暗殺はしない。彼らとて表向きは臣下。取り纏めは彼らがしているでしょう。そこでの暗殺事件ともなれば、全世界的に大いに面子が損なわれる。であれば、あそこの防備は万全と取るべきでしょう。それだけあの素材に自信がある、という事だ」
皇帝レオンハルトの疑問に、カイトが解説を入れる。幾ら女王の暗殺を企んでいると言っても、それはカイトの咎で無ければならないのだ。ここで攻撃する意味は無いどころか、攻撃されても困る。
それどころか玉体は安全である、と見せつけなければならないのだ。そんなカイトの言葉に、皇帝レオンハルトが笑った。
『公よ。今の言葉、助かった。あの大大老達に馬鹿にされずにすむ。ではな。そろそろ公も準備に入ってくれ』
「はい・・・女王の姿を見せる、か。これはある意味、一番掻っ攫ったのはあそこか。大国の余裕を見せつけた感じか」
「イエス・・・かわいい女の子ですねー」
「・・・って、おい!」
アイギスの言葉にカイトがモニターに目をやると、いつの間にか覆いを透過した映像が映し出されて、シャーナ女王の顔が露わになっていた。勿論、こんな機能はこのカイト専用機とティナ専用機しか搭載されていない。それを無断で使用していたのである。
「可愛くないですか?」
「いや、かわいいけどな・・・」
アイギスの問いかけに、カイトがため息を吐く。シャーナ女王の顔だが、たしかに可愛らしい顔だった。そして顔立ちが露わになると、幼い印象は更に強くなった。
顔立ちは所謂、童顔の類だ。年齢を考えれば当然だろう。ラピスラズリやオパール等の儚い宝石をイメージさせる高貴だが儚い顔立ちで、意思は弱そうだった。まあ、そこらが望まれて今代の女王、もとい操り人形に選ばれているのだ。当然ではあろう。
身長は150センチも無いだろう。カイトがかつて言った通り、第二次性徴もまだ終わっていない様子だった。身体つきも幼さがあった。そうして、アイギスが何時もよりも硬質な声で告げる。
「護衛対象はきちんと把握しておいてください」
「わかってるよ・・・ん? 何かを言うのか?」
アイギスの諫言にカイトが了承を示すと同時に、いつの間にか何時も通り顔を隠した大大老達が出てきてシャーナ女王の横に並び、それを待ってシャーナが口を開こうとしていた。
『皆さん、はじめまして。シャーナ・メイデア・ザビーネ・ラエリアです。此度は皆さんとお会い出来て、嬉しく思います』
カイトの予想通り、シャーナ女王が口を開く。声は見た目にそぐわず儚げで、それでいて、宝石の様に綺麗な声だった。たとえ傀儡だろうと、彼女は総じて女王としか評価出来なかった。
メルやシア達じゃじゃ馬では無く、愛されて守られる宝石のような存在だ。彼女はヴァルタードの帝王や皇帝レオンハルトら自らが率いていく王者とはまた別。国民にとっての宝物となる所謂、象徴としての女王だった。
「綺麗な声・・・透き通っていて、純粋無垢・・・」
どうやらアイギスでさえ、思わず聞き惚れたらしい。それぐらいには、綺麗で透き通る様な素晴らしい声だった。そんな彼女の言葉が二言三言続いた後、聞き惚れているわけにもいかない、とカイトが我に返る。
「アイギス。魔導機をアイドリングから励起させろ」
「・・・あ、イエス。メル様へと個別回線をつなぎます」
「頼んだ・・・メル! 気を取り直せ! あれが本当の女王なんだー、とか呆けてんな!」
『誰が私が皇女っぽく無い、ですって!』
「誰も言ってねぇよ!」
『あれ?』
カイトの言葉にメルが復帰する。案の定聞き惚れて、呆然となっていた。女王と皇女の差だ。立ち位置が違うと言うよりも、格が違うのだ。それ故、如何に皇女であるメルとて、聞き惚れるしかなかった。
ちなみにメルは誑かされた様子だが、現にカイトはそう言う意図の発言をしている。本当の女王、ということは偽者がいる、ということだ。まあ、メルは気付かなかったようだが。この点、やはり彼女はまだまだだろう。シアならば確実にツッコミの一つも飛んでくる。
『で?』
「お時間です、メルクリア皇女殿下」
『おっと・・・んん。繋いで』
「イエス」
メルの依頼を受けて、アイギスが彼女の魔導機から各機へと連絡を送る。そろそろ、こちらも準備をすべきタイミングだった。
「どうぞ」
『メルクリアです。各機、準備を開始してください。シャーナ女王陛下のお言葉が終わり次第、各機所定の順番で発艦を』
『『『了解』』』
メルの言葉を受けて、ラウル達が応ずる。半数程が仕事を忘れて聞き惚れていたが、どうやらなんとか我を取り戻したようだ。そうして、船のオペレーターのアナウンスが聞こえてきた。
『先陣・・・マクダウェル公爵軍所属カイム少尉。旗の用意は良いか』
「問題は無い。本機は皇帝陛下の玉体を守る場所で間違いないか?」
『ああ・・・だが、本当に良いのか?』
「何がだ?」
『いえ、その・・・御身が旗振り役なぞ・・・』
オペレーターは個別回線に切り替えると、カイトへと問いかける。今回、カイトの役割は皇国の旗を持って先陣を切る事だ。旗振り役を勇者にさせて良いのか、と全員が疑問だったらしい。それに、カイトが笑った。
「ばーか。勇者が旗振らねぇで、誰が振るんだよ。それに、旗手ってのはかなりの名誉職だぜ? まあ、ウチなんぞ旗ぶん回して戦ってた馬鹿も居るけどな。旗を棒としてしか考えてねぇ、って馬鹿だけど」
『あ・・・失礼しました。では、どうぞ』
カイトの言葉に、基本を忘れていた、と少しだけオペレーターが恥ずかしげにカイトへとゴーサインを出す。どうやら緊張していたのだろう。
軍旗に限らず、国を表す旗はどこでも重要だ。特に戦場では、何より重要だ。旗手は戦えないが、味方の士気を大いに高める。近年でもアメリカ海兵隊においては、激闘となった硫黄島上陸の時に海兵隊が旗を立てた時のイメージが海兵隊の誇りとして銅像になっている程だ。それほど、旗という物は重要だった。
近年では兵器の射程距離の伸長と目立つ上に敵の士気を挫く目的で優先的に狙われるから、と旗手は使われていないが、それでも国旗や軍旗の掲揚の兵士達への鼓舞に対する必要性と有意義さを認めぬ者は居ないだろう。
「さて・・・マクダウェル公爵軍所属魔導機カイム・アマツ・・・出る!」
オペレーターの指示を聞いて、カイトはガレージから歩き始める。すでに、カタパルトは稼働している。後は、出るだけだ。そうして、カイトとアイギスはエンテシア皇国の観艦式を開始するのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第732話『観艦式』




