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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第43章 大陸間会議編 ――千年王国編――

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第729話 集結 ――準備――

 カイトとクオン、バルフレアとアイゼンの戦いから、数日。この頃にはすでに大半の冒険者がレインガルドに集結していた。というわけで、ほぼ全員が揃ったのを受けて、バルフレアが演説を行う事になった。


『全員、来てくれて助かるぜ』


 特殊な魔術を使って空中に投影されたバルフレアが、口を開く。彼は基本的には脳筋タイプだ。なのでかたっ苦しい演説なぞしない。それに、大半の冒険者とてかたっ苦しい挨拶をされても困る。というわけで、演説は次の一言で終わりだった。


『さて。今年も今年でまたこの時期だ。この時期だけは、この街の全ての命が俺達に預けられる。けっこー大変な作業で面倒で申し訳ないが、いっちょやってやろうじゃねぇか・・・じゃあ、頑張ってこーぜ!』


 それを最後に、演説が終わって映像が消え、歓声があがる。これは謂わば学期の始まりを告げる校長先生の挨拶の様な物だ。多くの冒険者達にとってはやることにこそ意味があって、内容にそのものに大した意味はない。

 それは参加している冒険者達なら、誰もが理解していた。なので長々と、なぞ誰も望んでいない。そもそも、冒険者なぞ大半が無教養だ。興味もない。一部知性のある冒険者が珍しいだけだ。


「・・・え? 終わりか?」

「ああ、終わりなんだろ」

「・・・良いの?」


 あまりにあっさりとした応対に、ソラが思わずカイトに問いかける。これが校長先生の挨拶の様な物だ、とは予め聞かされていて、理解していた。

 それ故にかたっ苦しい物になる、と身構えていたが、予想に反してたった数十秒だ。そもそも見てみれば何処かで普通に焼き鳥の様な料理を片手に聞いていた冒険者さえ居る。


「良いも何も・・・どんだけの奴が真面目に聞いてるよ。それ考えりゃ、簡素にもなる」


 ソラは旅館の窓から、外を観察する。人数分の部屋があるので、それなりの階数はあってそれなりに遠くまで見通せた。


「・・・あれ? 普通に居酒屋に出入りしてる・・・」

「統率ってのは必要な所で引き締めるだけで良いんだよ。冒険者達にとって、この挨拶は仕事が今日から始まるぞ、っていう開始の合図と一緒。今日から各国の大使共が来るが、全員が一気に来るわけじゃない。揉めるからな。数日にバラける。仕事開始、って奴はそんなに居ないのさ。それにエンテシア皇国他、超大国は今日は来ないからな。数日後に開始、って所は多い。それに、今回は集団行動というよりも、要人警護がメイン。オレの様に常に一緒は珍しくて、輪番制採用してるのが大半だ」


 ソラに対して、カイトが更に続ける。今回、特例として冒険部と天桜学園は先んじて入る事を許されたが、それは彼らだけの特例だ。本来は今日から、使者達が来始めるのだ。

 というわけで、カイトも教師達の焦りに対しても冒険部に集結を掛けず、好きにさせていた。まあ、こちらで登用された少年少女達については高名な冒険家でもあるバルフレアが憧れである事も多く、屋上に集まって上がって見ていた者も多い。その程度、だった。


「窮地に陥ってりゃ、あいつももっと気合の入った演説ぶち上げるだろうが・・・今のこのタイミングなら、あの程度で十分だろうさ」

「そんなもんか?」

「そんなもんだ・・・で、ソラ。オレは転移術で一度『ポートランド・エメリア』に戻るが、大丈夫か?」

「仕事なんだろ?」

「ああ」


 ソラの問いかけに対して、カイトが頷く。カイトはこの会議で、2つの仕事を請け負っている。それは一つは千年王国の女王の護衛で、もう一つは皇都から来る皇帝レオンハルトの儀仗兵達の取り纏めを行うメルの補佐――実際は取りまとめ役――だ。そのもう一つの仕事が、迫っていたのだ。

 すでにティナは戻って空母型飛空艇の最終調整に関わっていて、準備が出来たのでカイトにもそろそろ入る様に、という皇帝レオンハルトからの通達がクズハ達を通して寄せられていたのである。


「まあ、開催までは桜達の補佐もある・・・どちらかと言えば、桜の補佐をしてやって欲しい所なんだが・・・」


 カイトが少し不安げに、首を振る。彼が裏から動いて補佐をするつもりだが、基本的に、カイトは外界とのやり取りはほとんどできなくなる。曲がりなりにも相手は大国。腐っているとは言え、油断は出来ない。

 ステラやストラら兄妹でさえ、簡単には入り込めない。万が一を考えれば、念話も無理だ。皇都の時以上に、カイトは全てから遮断された状態で事にあたる必要があった。が、それをソラも理解していればこそ、そちらに不安を抱いていた。


「それより、俺はお前が大丈夫なのか、って不安だ」

「オレが個人だから、か?」

「ああ」

「そうだな。そう思ってくれている事にこそ、穴がある」


 ソラでさえ忘れかけている事に、カイトが笑う。彼が忘れている時点で、安心出来た。その為に、ここ当分彼女らには姿を見せない様に注意してきたのだ。


「どいうこと?」

「さぁ? どういうことだろうな?」


 ソラに対して、カイトは意味深な顔をする。それは楽しんでいる様でさえあった。


「???」

「さて、お仕事行ってきますか」

「あ、おい!」


 ソラの制止を無視して、カイトが笑って消える。ソラは『ポートランド・エメリア』に行った、と思ったが、そんな事は無かった。実際には、すでに先んじて現場視察をしてもらっていた者の所に行っていた。


「ルゥ。報告を」

『はい、旦那様。まだ、入ってはおりませんわね。船はまだ見えておりませんし、密偵は入っているのでしょうが・・・自分達の入る場所を密偵に汚させたくない、という事なのでしょう。あそこ、そこら辺は密偵と言うか影達にはシビアですもの』


 カイトの問いかけにおいて、ルゥが姿を見せる。彼女らの姿を知っている者は少ない。他大陸の、それも過去の者達だからだ。それ故、単なる巡回の冒険者達だ、と思われても不思議は無い。


「ふむ・・・月花。配置は?」

『終わっています。ええ、終わっていますとも』

「よろしい。日本の魔術も便利だろう?」

『ええ、便利ですね。非常に便利です』


 カイトが笑いながら月花に問いかければ、月花も笑みを零す。そう、ソラは忘れていた。カイトは大精霊と共に、常に使い魔達と一緒だったのだ。それも過去には名を馳せた超級の腕前を持つ、である。

 確かに、カイトは一人だ。だが、単独ではない。彼女らを動かしていたのだ。そして勿論、居るのは二人だけではない。


「さぁ、目に物見せてやろうじゃねぇか」


 カイトが悪辣に牙を剥く。敵はこちらが一人だと思いこんでいるし、勇者カイトだとは夢にも思っていない。カイトは実はこの街に入った段階で、誰にも悟られない様に動き始めていたのである。

 カイトは武蔵達レインガルドの上層部とつながっているのだ。警備体制を聞き出すなぞ他愛ない事で、それを得た上で密かに動く事も他愛のない事だった。


「ルゥ、お前は密偵が入り込んだ場合にそいつらの追跡を。月花、お前は襲撃が始まった後、大大老達がシャーナ陛下を害さない様に見張れ。確実に奴らはオレを遠ざけようとするだろうからな。ファナ、お前は万が一に備えて旭姫様や武蔵先生との連絡が取れる様にしろ。ファルとの連絡役も頼む。フラン、お前はオレの影として、万が一に備えろ。他は所定の位置に移動し、ルゥの援護に入れ」


 カイトは矢継ぎ早に指示を与えていく。敵がこちらを侮ってくれるのなら、丁度良い。こちらを策に嵌めようとするのなら、こちらが嵌めるだけだ。


「・・・さぁ、ちょいと踊ってもらおうか。老人だから、って遠慮はしねぇぞ」


 全ての指示を出し終えて街の各所に全員が散っていったのを見て、笑顔で牙を剥くカイトが消える。今度こそ、『ポートランド・エメリア』に移動したのだ。そうして、カイトの仕事も開始するのだった。




 それから、数時間。カイトは笑顔と姿を本来の姿に変えて、『ポートランド・エメリア』近くの軍基地に入っていた。そこはすでに皇帝レオンハルトが皇女二人を連れて来ている為厳重な警備体制だったが、カイトが軍人としての登録証を示すと、即座に皇帝レオンハルトの下へと通された。

 どうやら今は部屋から出ていたらしく、彼が居たのは『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』技術班によって最終チェックが行われる空母型飛空艇の前だった。


「陛下。ただいま参りました」

「うむ・・・公よ。あれは良い物だな。俺も思わず血が滾った」

「そう言っていただければ、ティナの奴も技術者冥利に尽きる事でしょう」


 皇帝レオンハルトの言葉に、カイトが笑う。どうやら魔導機は非常にお気に召したようだ。上機嫌だった。そうして挨拶を終えて、カイトが上を見上げた。

 そこには十数機の大型魔導鎧、魔導機、獣人機が集結していた。勿論、この中には皇帝専用機も存在しているし、その余ったパーツを使って作られたメル専用機もあった。大型魔導鎧も第六世代の物で、全てが皇国の誇る最新鋭の物だ。


「にしても・・・壮観ですね」

「うむ。これを一堂に会する事が出来たのは、俺も誇らしいな」


 皇帝レオンハルトもカイトの言葉に同意して、自分の専用機に手を当てる。十数機の大きな魔導鎧の集団には全て、皇族と各公爵、大公、近衛兵団の徽章が入っていた。これが一堂に会する事は、滅多にない。

 いや、一堂に会する事があったとしても、ここまで多種多様になることはない。ティナの帰還や獣人機の開発、第六世代の進展等が一度に起きたが故の偶然だった。が、それ故に、壮観だったのである。皇国以外には有り得ない。それが誰でも一目でわかる光景だった。


「飛空艇船団の集結具合は?」

「大凡8割方終了している。後はこちらに残るクイーン・エメリアの援護艦隊だけだ。残る事を考えれば、出立は何時でも出来る」


 カイトの問いかけを受けて、皇帝レオンハルトが答える。勿論、行くのは空母型飛空艇だけではない。空母は地球と同じで、艦隊運用が基本だ。一隻だけでは単なる動く的と一緒だ。艦隊も一緒、なのである。そうして、皇帝レオンハルトは更に続ける。


「神聖ラエリア、ヴァルタード帝国、エンテシア皇国が連れていける飛空艇の数は、200メートル超の弩級が3隻、100メートル級の重巡洋艦が5隻、50メートル超級の軽巡洋艦が10隻・・・それに駆逐艦や個人機が少し、だからな。飛空艇から降ろせるのは、更に少ない」


 皇帝レオンハルトがため息を吐く。各国共にこれでも出来る限り減らしていたのだが、それでも、かなり多い様に思える。が、これには事情があった。

 これには自分の所では大陸を渡れる飛空艇を調達出来ない様な小国や保護国の要人達を乗せる為もあったのだ。実際には一国だけで運用している、というわけではない。

 というわけで本来は開催する大陸の大国は保護国も小国も大半が自分達で移動手段が賄えるので何時も最大値の飛空艇が必要がないのだが、大国には大国の見栄と意地がある。喩え無駄金とわかっていても、常に最大の規模を派遣する必要があるのであった。


「そこの所は、公らに感謝しておく。空母のオートメーション化は非常に助かった。元々数千人規模での運用を考えていた。人件費も整備の手間も桁違いの運用費だった。十分の一になる、と試算が出された時には、税務官共が小躍りしていたぞ」

「あはは。空母を見せられた時は、驚きましたがね。地球での運用は向こうの知り合いに聞いていたので・・・それが役に立った、だそうですよ」


 元々、この空母は皇国軍が開発していたものだ。カイト達が来るまで試作段階でさえ無かった。技術試験程度だったのだ。それを急遽運用する事になって、カイト達の手を借りる事にしたのが、事の発端だ。

 それが功を奏した。地球での運用をティナが学んだ事により、地球での運用を下地にしたオートメーション化が採用されたのである。と、そんな話をしていると、基地のエンジニアが跪いた。


「陛下! これより搬入作業を開始致します! お下がりください!」

「うむ・・・」

「はい」


 皇帝レオンハルトの視線を受けて、カイトは彼と共にその場を離れる。どうやらメンテナンスが終わり、魔導機達の搬入が始まった様だ。そうして、ゆっくりと魔導機達が横に寝かされて、キャタピラで移動していく。


「さて・・・公よ。此度はハイゼンベルグ公と貴殿が会議に出る事になるが・・・観艦式での娘の補佐は頼んだ」

「かしこまりました」


 移動を始めた魔導機達を見て、二人はそろそろ自分達も飛空艇に入る頃合いだ、と見て取って、しておくべき会話を始める。

 皇帝レオンハルトにシアとメルだけで行くわけではない。使者達の取り纏めとして、何時も5公爵の誰かが補佐に出るのである。それが今回はハイゼンベルグ公ジェイクだ、というわけであった。


「そう言えば、ハイゼンベルグ公は?」

「ああ、ハイゼンベルグ公なら、すでに使者達との打ち合わせに入っている。総会よりも、その裏での事務方のやり取りが忙しくなるからな。公以上に忙しく動いてもらう事になるだろう」

「私も、十分忙しくなると思いますよ」

「くくく・・・」


 カイトの言葉に、皇帝レオンハルトが笑みを浮かべる。勿論、彼とてカイトが千年王国の女王の護衛になった事はカイトから奏上されて把握している。彼は流石に疑われるので何も出来ないが、カイトを信頼している。何かを企んでいるとは思っていた。


「公よ。俺が許可する。せいぜい、引っ掻き回してこい。あわよくば、貸しの一つでも作ってきてくれ」

「もとより、そのつもりです。大大老達は嫌いですしね」


 二人は等しく、政治家としての悪辣で楽しげな笑顔を浮かべる。これもまた、戦場だ。血を流す事こそ無いが、それ故、どんな場所よりも知恵という矛を交える。戦士である二人が、これを楽しまぬはずはなかった。


「後で、詳細を聞かせてくれ。観客は多い方がよかろう?」

「御意に」


 その会話を最後に、カイトはその場を後にする。皇帝レオンハルトは何もしない。ただ、外から見て楽しませてもらうだけだ。賭け金も何も必要ないのに、これほど楽しめる『ゲーム』は無いのだ。楽しくもなるだろう。


「さて・・・シャーナ陛下。面白い男を送らせてもらう。側で見れる事が羨ましく思うぞ」


 自らとほぼ年の変わらぬ少女王に、皇帝レオンハルトが言葉を送る。今回、カイト(皇国貴族)にとっての女王は彼女で、敵は千年王国(女王)の配下だ。

 あまりに腐っていて、そして、面白い矛盾でもあった。敵がどう出るか、予想はし難い。カイトがどう動くかも不明だ。その大立ち回りが側で見れる事が、彼には羨ましかった。そうして、彼もその場を後にして、空母の中に特別に用意された私室へと、向かうのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第730話『観艦式へ向けて』

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