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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第43章 大陸間会議編 ――千年王国編――

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第728話 冒険者の豪傑達

 ソラ達がレインガルドに入って、翌日。バルフレア達も入ってそれでお終い。ではない。各部署への連絡は必要だし、これから来るだろう王侯貴族達の出迎えも必要だ。それに向けて、冒険者の大半が揃った頃に気合を入れる為に一つ演説が行われる事になっていたので、その会合を持つ事にもなっていた。

 そこまでは、良かった。冒険者達への演説であれば、必然、冒険者の長が演説すべきだ。ということで、演説をするのは、バルフレアだった。が、カイトがもう一人、と言われるこの男が何の問題も起こさないはずがない。


「・・・ぐぉー・・・」

「と、言うわけなのです・・・」


 高いびきを掻いて寝ているバルフレアに対して、ユニオンの職員が泣きそうな顔で事情を説明する。演説をするにしても、冒険者達を集める必要がある。というわけで、その前に各ギルドの長の中でも上位に位置するギルドの長達を集めた集会が開かれる事になったわけだが、この男は寝ていて遅刻していたのである。

 まあ、その理由は昨日まで酒を飲んで深酒をして、が理由なので、如何な弁明も不要し不可能だ。なお、職員も一応出来る事はやった。が、外に放り出しても高いびきだ。もうどうしようもなくなって、幹部に頼み込んだのである。

 で、カイトが呼び出されたか、と思うが、呼び出されていたのはアイゼンだった。呼んだのは何時も変わらずフードを目深く被っている預言者その人だ。


「頼むぞ」

「・・・思い切りやっていいか?」

「好きにやってくれ」


 アイゼンの問いかけに対して、預言者は問題無い事を明言する。寝ている所に彼が一撃をぶち込んだ所で、バルフレアは死にはしない。技量に優れているのがアイゼンなのに対して、バルフレアは耐久度が桁違いだった。良い気付けにはなってくれるだろう。


「ふっ!」


 ごぉん、という轟音が、レインガルドの大空に響き渡る。おまけに衝撃でレインガルドが揺れていた。と、そんなわけなのだが、土煙が晴れた後には、傷一つ無いバルフレアの姿があった。


「ん・・・んぁー! よく寝たぜ・・・あー・・・おう、アイゼン。起き抜けに喧嘩すっか?」

「やめろ」

「ん? ああ、ウィザーか。おはよ・・・その面寝ぼけ眼で見るとそっくり過ぎて困るぜ・・・」


 バルフレアは預言者の顔を見て、寝ぼけ眼をこする。なお、ウィザーとは預言者の事だ。名前では無く、一番はじめに出会った時に魔術師(ウィザード)と名乗ったから、と言う理由だ。

 実は名前は彼も知らない。知っていると言われているが、知らないのだ。ただし組織の長として、顔は見たことがある。蒼い髪の美女だ、とは彼の言葉である。というわけで、彼女なのだろう。


「はぁ・・・仕事の時間だ。長としての仕事はしろ」

「ん? なんだ、こんな時間か・・・起こせよ」

「いえ、起こしたのですが・・・」


 何処か非難混じりの視線を向けられたユニオンの職員は、バルフレアの抗議の声に非常にやるせない気持ちになる。起こしても、起きなかったのだ。

 厄介な話だが、彼はランクEXの冒険者だ。実力も桁違いで、少々のことでは起きる事はない。目覚ましが通用しないし、ユニオンの職員程度では起こせないのだ。強すぎるが故の悩みだった。

 なお、カイトとユリィは野生児一歩手前の生活があった為、逆に獣や魔物を警戒して神経が研ぎ澄まされてよく起きる。ティナはそれとは別に王者としての暗殺を警戒して起きる。

 つまり、これは彼だけだった。大抵の事ならば寝ていてもどうにでもなる彼だからこそ、よほどの事が無い限り何があっても寝てしまうのである。


「おーう、とりあえず、向こうに飯持ってきてくれ。会議ついでに飯食うわ・・・あ、後多分数人食ってねぇ奴ら居るだろうから、そいつらの分の飯も」

「わ、わかりました」


 バルフレアの指示を聞いて、ユニオンの職員が大慌てで用意を始めて、バルフレアはアイゼン、預言者を伴って会議の場所へと移動していく。が、そこに全員が揃っている、というわけではなく、大寝坊した彼が到着した時点でも、四分の一程度は来ていなかった。


「おーう」

「やっと来たか・・・」

「悪い悪い、赤いの・・・クオンちゃん、元気してた?」

「元気元気。そうそう! 聞いて聞いて! ミツキちゃんが女の子になったの!」

「へー! そっちの黒いの気配がミツキっぽいな、と思ってたらミツキだったのか!」


 クオンの横に立つアイシャの横に立ったミツキを見て、バルフレアが破顔する。彼も見たままを受け入れる。基本としては馬鹿なので、嘘でも受け入れる。まぁ、受け入れるだけで、嘘と見抜いた上で受け入れているだけだ。馬鹿と阿呆は違う、と如実に分かる一幕だった。そこら、クオンは少し気に入っていた。


「こりゃ、めでたい! 酒もってこい!」

「酒の前に会議をやれ」

「うごっ!」


 脱線して酒を飲み始めようとするバルフレアに対して、アイゼンが後ろから殴りを入れる。それなりに効いている様子だった。そうしてしばらく机にめり込んだバルフレアだが、すぐに戻ってきた。


「いってぇ・・・はぁ・・・じゃあ、はじめっぞ。はーい、今日の一発目」

「バルー。その前に腹減ったー」

「あ、そう思って飯持ってくる様に言っといた。カリン、肉だったよな?」

「おっけ。じゃあ、何も言わないから勝手に進めといてー。女の子と乳繰り合ってるから」

「あん」

「あいよー。後で一人恵んで」

「やだ」

「ケチ」


 何処かの女性ギルドマスターの言葉に、バルフレアが軽く手を振る。念の為に言うが、女の子と乳繰り合うと言った彼女は、女性である。かつて演習の時に観戦に呼び出されていた一人だった。


「じゃあ、改めて、一発目。日本人のカイト。前に出ろ」

「はい」

「「「ぐっ・・・ぷぷぷ・・・」」」」


 カイト――調書が取られる為、呼ばれていた――が努めて真面目くさって前に出ようとすると、その瞬間、くぐもった笑いが起きる。ここの上位数人はカイトの顔見知りだ。何時もとは違って真面目な顔で出てくれば、そうもなろうだろう。


「あー・・・ぶっちゃけ、お前らはどうでもいいや。ということで、俺からの調書終わり」

「「「・・・はぁー・・・」」」


 もうかなりどうでも良いバルフレアがカイトが席に着くと同時に発せられたバルフレアの言葉に、預言者他ユニオンの職員達の深いため息が響いた。

 だが、誰も彼が真面目に調書を取る事は期待していない。理由を聞いても彼独自の理由でカイトが日本人と確信している、と言われるだけだ。

 そして怖いのは、その理由を説明されれば一本の筋が通っている事だ。だが、それで誰もが納得するわけではない。特に王侯貴族の煩型は納得しない。今回の調書は後で参考資料として、大陸間会議に提出する必要があったのだ。というわけで、いつも通りバルフレアに代わって、預言者が口を開いた。


「このバカは放っておいて・・・いくつかの質問に答えてもらおう。私が誰かは問うな。それは絶対のルールだ。覚えておけ。後途中からこいつ(バルフレア)と他数人が高いびきを掻くだろうが、無視も覚えておけ。覚えておくのはその2つで良い」

「はい」

「さて、まずは、日本から来た、というのは本当か?」

「本当です」


 預言者はユニオンの職員に魔術で嘘の無い事を確認させながら、カイトへの質問を行っていく。なお、呼ばれているのはカイトだけではない。彼が終われば、他に瞬や桜も呼ばれる事になる。

 口裏合わせをされても、一緒でなければフォローは出来ずに嘘は見抜きやすい。伊達に大国とやり合える超巨大組織、というわけではなかった。きちんと、政策面でも切れ者がいるのであった。


「わかった。では、これにてユニオンからの調書は終わりだ」

「はい・・・はぁ・・・」


 約30分後。カイトの調書が終わり、疲れた様なため息を演じて与えられた席に戻る。これで、彼のこの場での役目は終わりだった。そうすれば、次に桜と瞬が順々に呼び出される。そしてそれが終われば、次はいくつかの伝達事項だ。そうして、とりあえず集会の前の会談が終わるのだった。




 さて、会談が終わった後。カイトは最後まで、会議場に残っていた。表向きはギルドマスターなので残れ、というユニオンの命令だ。そうして顔馴染み以外が出て行った後、クオンが親しげにカイトにハイタッチを求めてきた。


「わーい! カイト、久しぶり!」

「あいあい。ストーカーさんも久しぶり」

「あー、ひどーい!」


 カイトのぞんざいな扱いに、クオンが口を尖らせる。勿論、彼女もカイトがカイトだと気付いていた。というわけで本当はもっと早目に動きたかった所なのだが、立場の問題で無理だったのである。勿論、カイトが正体を隠している、という理由もある。

 そうして、とりあえずハイタッチそのままの勢いで抱きつかれたカイトはクオンを左手で抱きとめると、足を組んで机に乗せて、そのまま残る面子の一部を睨みつけた。


「で・・・笑った奴。ぶん殴られる覚悟は良いよな?」

「あ、ちょっと待った待った!」

「うぉ! やべ! 忘れてなかった!」

「す、すまん! だからその右手を収めてくれ!」

「聞くか、ぼけ!」


 カイトは右手を振り抜いて、笑った奴の人数分魔力を固形化させた拳を放つ。なお、数名笑ったにも関わらず笑ってません、という様な顔をしたが、きっちりバレていた。

 まあ、そんな魔力の拳だが、一人を除いて、全員軽く破壊して終わった。ここに残る奴らは、これをまともに食らう様な連中ではない。


「んが!」


 除かれた一人は、案の定話の途中から寝ていて完全に職員達にも置いて行かれた――正確には預言者が置いていく様に命じた――バルフレアだ。というわけで、彼がカイトの拳に直撃して、目を覚ます。

 彼は笑っていなかったが、眠気覚ましの一発、というわけだ。そうして、カイトの一撃でバルフレアが目を覚まして、周囲を見回して状況を把握する。


「あ、会議、終わった?」

「終わった終わった・・・で、まあ、言っとく。ただいま」

「はい、おかえり・・・で、お土産は?」

「今度の総会で出すよ・・・お前らに出すと証拠隠滅とばかりに全部飲み干すだろ」


 馴染みのギルドマスターの問いかけに、カイトが肩を竦める。勿論、彼らの為のお土産も持って帰ってきている。が、ここで飲み会を始めると、そのまま他の馴染みの連中の分まで飲み干す。そういう奴らだ。なので、8大が全部集まる事になるユニオン本部での冒険者総会までお預け、としておいたのである。


「えー。いいじゃん。酒頂戴よ」

「特にお前がダメなんだろうが」

「えー」

「お前もだ!」


 女の子と乳繰り合っていた女性ギルドマスターに続けて不満を口にしたバルフレアに対して、カイトが怒鳴りつける。どちらかと言うと彼の方がヤバイかもしれない。


「と言うか、カリン。お前酒飲んで飯食ってんだから良いだろ」

「良いも何も無いって。右手に肉で左手に女の子があたしの常なんだから。女の子帰らせたらお酒ぐらいないと」

「はぁ・・・お前ホントに中身おっさんじゃねぇのか・・・?」

「食う、飲む、寝る、ヤる、打つ、殺し合う。それが無いと生きてる実感無いし。酒ダメならクオンちょーだい」

「だってよ」


 カリンと呼ばれた女性ギルドマスターの言葉に、カイトがクオンに水を向ける。相変わらず人の胸を枕にしていた。

 なお、アイシャが何か言いたげだったが、何も言えていない。言うだけ無駄、とわかっていたからだ。しかも公衆の面前、という理由さえも掣肘出来る要因にならない。それはカリンを見ればわかる。対処出来ない状況だった。と、そんなクオンがカリンを睨んだ。


「カジノ船来てるんだから、そっち行きなさいよ。あっちなら女の子も一杯いるでしょ」

「えー。昨日スッた。お金ちょーだい」

「嫌よ。貸したお金返さないじゃない。この間も1ミスリル貸して返してないでしょ」

「あー、あれね・・・ああ、うん・・・」


 カリンはクオンの言葉に、遠くを見つめる。どうやらそれも博打でスッたようだ。手に負えない。まあ、実際に彼女は銀行に行けば借りた額とは桁違いの預貯金があるので、取りに行くのが面倒なだけだろう。なら返せよ、とは彼女に同じく金を貸している奴らの言葉である。

 そうして、そんなカリンにため息を吐いて、クオンは続けてカイトを見る。別に彼と恋人等としてじゃれついているわけではない。カイトに逃げられないようにしているだけだ。


「それはそれで良いわ。何時か取り立てに行くから・・・で、カイト。早速一試合しましょ」

「やだよ・・・お前と一試合すると面倒じゃん」

「剣姫モードにならないから、一試合だけ」


 少女がおねだりする様に、クオンがカイトにねだる。ちなみに、剣姫モードというのは所謂彼女の戦闘時の事だ。あの状態を剣姫モードと言い、今のモードをお嬢様モードと言う。まあ、お嬢様モードもかなり強い。侮ってはいけないし、侮る者もいない。


「嫌」

「じゃあ、離れない。さっきの女の子とかに見られてあらぬ噂を立てまくってやるー」

「最悪だ、この女・・・」


 ぴたー、とカイトにへばりつくクオンに、カイトが呆れて首を振る。念の為に言うが、これで世界最強の一人と言われる剣豪だ。が、彼女も冒険者。まともに取り合うだけ無駄だ。


「ふむ・・・では、バルフレア。俺達も戦うか。この間の決着が着いていない」

「お、良いぜ。海出るか。海なら、邪魔にならねぇよな」

「良し、来い。100キロ程離れれば、大丈夫だろう」


 カイトとクオンを見て、どうやらアイゼンとバルフレアが戦う気になったようだ。一足先に出ていく。それを見て、クオンが立ち上がってカイトを引っ張る。


「ほら、アイゼンとバルっちも出て行ったから、私達もー」

「嫌だ。お前剣姫モードならねぇ、って言ってならなかった事ねーし。絶対に動かないー」

「・・・じゃあ、足を切り払えば立つか?」

「うぉ!?」


 急に剣姫モードに入って耳元で囁いたクオンに、カイトが思わず身を起こす。が、それが運の尽きだった。身を起こした瞬間を狙われて、体術でクオンに強引に立たされた。


「やった。アイシャー。お船の訓練室の用意よろしくねー」

「はぁ・・・はい。ミツキ。变化を頼む。船に戻る」

「かしこまりました」


 クオンとカイトが歩き始めたのを見て、アイシャとミツキが先んじて歩き始める。そうして、そんな形で冒険者ユニオンに向けたカイトの帰還報告が終わり、カイトは強制的にクオンと戦う羽目になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第729話『集結』

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