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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第42章 冒険者の頂き

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第722話 ため息

 瞬とリジェによるアイシャへの挑戦は、二人の瞬殺での敗北というあっけない形で幕を下ろした。が、そうして見た結果に、ソラは大きくため息を吐いた。


「嘘だろ・・・あの二人が瞬殺って・・・」


 瞬は勿論、それと互角の試合を行ったリジェの実力はこの部全体で見れば一位二位の実力者だろう。ランクBでどの程度かは比較対象が無いので判別出来ないが、それでも、頭一つずば抜けていた実力を有している事は確かだろう。


「ねぇ、ソラー。呆然としてるけど、大怪我しちゃってよかったのー?」

「・・・あ」


 由利の指摘に、ソラがぽかん、と口を開ける。勿論、良いわけがない。瞬は大陸間会議の出席者に天桜学園の学生側代表者の一人として名を連ねているし、レインガルドでの警備隊の総指揮も務めている。

 瞬としてもそこらを勘案して冒険部のギルドホームでの試合を申し込んだのだろうが、まさかこんな結果になるとは思っていなかったのだろう。迂闊なのではなく、アイシャがそれだけぶっ飛んでいた、と言うべきだ。が、それでも怪我は怪我だ。なのでソラは大慌てで医務室へと向かう。怪我の状況如何に応じては、カイトに相談が必要となってしまうからだ。


「先輩! 怪我、どんなもんですか!?」

「いつっ! ソラ、大声を出してくれるな・・・肋骨に響く・・・ただでさえ虫が蠢く様な感じで気持ち悪いんだ・・・」


 ソラの問いかけに対して、瞬がしかめっ面で答える。本来なら全治数ヶ月の大怪我であるが、ここは剣と魔法の世界で、医者はミースだ。幸いな事に鎮痛剤を使っても感じる痛みとこの吐き気を催す程の気持ち悪さに耐えさえすれば、数日もすれば動ける様になった。

 なお、これがカイトの戦傷の場合、強引に眠らされて――もしくは疲れ果てて眠り――『霊薬』を使わされて嫌な気分を感じるまでもなく治癒されることになるだろう。仕方がないかもしれないが、そこらは、地位の差だった。


「あ・・・すんません。で、怪我は?」

「今日一日は絶対安静、だそうだ。数日後に再検査、早ければ5日後には退院出来る・・・らしい」

「あちゃー・・・」

「すまん。一応、明日には少しは事務仕事は出来る、と言われたから、仕事は終わらせる。万が一はこっちにも持ってこさせてくれ」


 どうやら瞬もやってしまった、という自責の念は感じているらしい。とは言え、これは流石にどうにもできない。もうやってしまったのだ。過去は変えられない。


「まあ、やばかったっぽいっすからねー」

「・・・やばかった、か・・・あれはまだマシだろう」


 ソラの慰めに、瞬が僅かに怯えを滲ませる。彼程の存在が、怯えを滲ませていた。それが、ソラには驚きだった。そして怯えを滲ませていたのは、彼だけではない。リジェもまた、同じだった。その彼が、思い出す様に告げた。


「もっとヤバイのは、剣姫だ・・・あっち、別モンだ」

「え?」

「・・・見えてなかったが・・・一度、彼女らが来た。何を話していたかは知らんが・・・一瞬だけ、気配が・・・医務室の気配が変わった。ここからでも、分かった。あれは、違う。別格だ」

「噂は所詮、噂ってことだな・・・剣姫クオンと龍姫アイシャが同格・・・全くの嘘だ。剣姫クオンの方がものすごい領域でヤバイ。格が違う」


 二人共、怯えと同時に多大な畏敬の念を滲ませて語る。痛みや嫌悪感さえも忘れている様子だった。ちなみに、なぜクオン達が来たと気づけたかというとクオンが五月蝿かったから、の一言で十分だ。後でその点についてはアイシャから説教を食らっていた。常にはアイシャの方が強いらしい。


「そりゃ、そうでしょう。剣姫クオンはこの世界最強の剣士。常々武蔵さんと旭姫さん、ルクスと比較されて、それでなお、剣ならばクオンだろう、という声が絶えない剣聖。誰もが同格と言うけれど、圧倒的な格上よ?」

「そう・・・なんすか?」

「そりゃあね。伊達に団長なんて言われてないわよ? あそこの団長(最強)には敗北の二文字は許されない。それが異性なら、尚更。もし異性に敗北したなら、団長はその者の子を生む、って掟がある程なんだから」

「なっ・・・」


 ソラは絶句して、瞬はそれがリジェの言っていた掟か、と理解する。確かに、正しく最強の二文字を求め続けるギルドだろう。自らが最強の二文字を得てなお、その次の世代で自分以上の最強を求める。自分より更に強い次世代を生み出す為に、自らの血さえ道具とする。空恐ろしいとはこの事だった。


「有名な話よ・・・でしょ? リジェくん」

「はい・・・治療、ありがとうございました」

「良いって良いって。古馴染みだしね」


 ミースがリジェの感謝に首を振る。ミースも一応は公爵家の関係者で、地位としてはアウラと同格のカイトの許嫁の立ち位置だ。今の様に滞在する事こそ無くても時折やって来ていた。

 前に今回の一件関係なく来たのは魔導学園の講演会に招かれた時で、その際にリィルと共にリジェはバーンシュタット家の子として紹介を受けていたのだ。それ故、知り合いだった。


「女だてらに最強の二文字を背負うってのは、それぐらいヤバイんだろ・・・頂点、ってのはやっぱり高かったなー」

「ああ・・・」

「瞬・・・何が、ああ、ですか?」


 聞こえてきた女の声に、場が凍る。クオンの時とは別の意味でヤバイ女性が来たのである。まあ、勿論、リィルだ。リジェが大怪我をしたのを聞いて、仕事を切り上げてやって来たのである。当然、馬鹿に輪をかけた馬鹿な行動をした事に対してものすごいおかんむりだった。

 というわけで、瞬もリジェもガクガクブルブルと震え始めた。先程とは別の意味で、痛みも吐き気も忘れている様子だった。


「何が言いたいか・・・わかりますか? 特にリジェ」

「は、はい・・・」

「龍姫アイシャに挑みかかるとは何事ですか! 勝てぬ事、遥か高みに居る事ぐらい誰でもわかる事です! どれぐらいの差があったかなぞわかるはずもない! それとも、わかったとでも言うつもりですか! 何の意味も無いでしょうに! それで二人共周囲にご迷惑を掛けて・・・どうするつもりですか!」


 わかった、と言って尚、リィルは雷を落とす。現に瞬もリジェもどれぐらいの力量差があったのか全くわからなかった。相手が圧倒的だとわかったが、重要なその立ち位置の差がわからなかった。何をされたのかさえわからなかったのだ。そうして、一通りリィルは説教を行う。


「「すいませんでした・・・」」

「はぁ・・・ソラ。申し訳ないですが、もうしばらくはリジェも頼みます。怪我の治療が終わったら、しばらくはお詫びとしてこき使う様に手配しますので、こき使ってやってください」

「あ、は、はぁ・・・」


 リィルの申し出に、ソラは生返事で返す。ここらはバーンシュタット家が決める事だ。ギルドに所属していようと、一時帰宅している以上所属はバーンシュタット家だ。こちらが優先される。なので勿論、ほぼほぼ無関係なソラに口出しは出来ない。


「全く・・・バーンタイン殿も来られるというのに・・・」

「うっ・・・ま、まあ、大親父は笑ってスルーすると思うんだけど・・・」

「何か言いましたか?」

「いえ、何も・・・」


 リィルから睨まれて、リジェが押し黙る。使者として来ておきながら、それとは関係の無い所で大怪我を負っているのだ。呆れ返られてもしかたがない。とは言え、噂に聞く人柄を考えれば、バーンタインはこれを笑い飛ばす人物なのだろう。問題が起きるとは思えなかった。


「では、ミース殿。この馬鹿をお願いします。治療費は後で当家に請求してください」

「ええ、じゃあ、その手配を整えておくわね」


 ミースはリィルの言葉を聞いて請求書の手はずを整えると、それに合わせてリィルは再び軍基地へと戻っていく。なお、その後に彼女は所要で公爵邸に行く事になるのだが、そこでアイシャに偶然会って平謝りしたそうだ。


「あー・・・じゃあ、先輩。俺、えーっと・・・リジェ? だったっけ。その手配整えてくるから・・・」

「おーう。悪い。存分にこき使ってくれ」

「すまん。怪我が治り次第、俺も手伝う」


 二人がしかめっ面で手を上げて送り出すのを受けて、ソラが立ち上がって執務室に戻る。瞬の怪我は何より痛かった。彼が居ないということは、冒険部の実働部隊の総指揮が居ないのに等しいからだ。それを、戻ってソラは理解した。


「と、いうことで・・・翔、頼んだ」

「えぇ!?」

「しょーがねーだろ! 先輩あんな状況なんだから!」

「出来るか! 俺に指揮の経験なんてねーよ!」

「出来なくてもやってくれ! こっち手一杯なんだよ!」

「うっ・・・」


 ソラの剣幕に、翔が気圧される。帰ったソラが見たものといえば、瞬が居ないと回らない仕事の数々だった。明日からは書類仕事はして良い、とミースからも許可を貰っていたので、最低でも今日一日分はどうにかしないといけない。なので早急に代役の手配が必要だった。


「はぁ・・・山岸。受けて。今貴方がやらないと、動きが破綻するわ。副官なんだから、仕方がないと諦めなさい」

「うぅ・・・わかったよ」


 楓からの窘めを受けて、翔が渋々代役を受け入れる。受け入れてくれなければそもそも動かなくなるというのは事実なので、仕方がなくもあったのだろう。


「はぁ・・・で、こっちは大量の書類、と・・・」


 ソラは目の前の書類の束を見て、ため息を吐く。桜も居ない今、書類はほぼ全て彼に回されていた。


「あぁ・・・また書類か・・・戦いたい・・・」


 ソラは疲れた様子で、書類の山を観察する。とは言え、これで終わりではない。桜からも送られてくるし、他にも商工会にユニオン協会からもほぼ毎日の様に送られてくる。ということで、ソラは気合を入れ直して、書類に取り掛かる事にするのだった。




 一方、その頃。ソラには非常にありがたくない話だが、キトラが言っていた様にマクスウェル西部の空に100隻からなる大船団が移動していた。それは、<<(あかつき)>>の大船団だ。そこに、マクダウェル公爵軍の監視艇の艦隊が近づいていく。

 法治国家である以上、領土の出入りの管理はされているのだ。であれば、飛空艇だからと無許可で入れるわけがない。普通には騎馬隊や騎竜兵等の機動力に優れた者達が執り行うのだが、マクダウェル家や他の公爵家等潤沢な資産がある所では、飛空艇で監視がされていた。


『こちらマクダウェル家所属第16艦隊。貴艦隊は本家の領域に侵入している。許可があるのなら、提示を頼む』

「大親父。マクダウェル家のがなんか言ってるぜ」

「さっさと言ってやれ」


 旗艦オペレーターを務めていた<<(あかつき)>>の冒険者の一人が、バーンタインの指示で通信機を手にとって応答する。


「おう・・・こちらギルド<<(あかつき)>>の船団だ。エンテシア皇国からの許可は得ている」

『・・・所属と艦艇名の番号を』

「そちらに送信する。長いが待ってなきゃだめか?」

『いや、通って構わん。が、もし何かあれば、こちらで止めさせてもらう』

「出来るなら、どうぞ」


 オペレーターの男は公爵家の監視団の応答を適当にあしらう。行って良いというのなら、そうするまでだ。止めた所で、押し通るだろうが。


「こっちは祖先の墓参りに来てんだ。押し通るぜ」

「おい。相手は見てから言え」

「あ? っと、オーグダインの兄貴・・・どうしたんだ? 老人相手に・・・あんたが警戒する相手じゃないだろ」


 今までは何処かぞんざいだったオペレーターの男に対して、オーグダインが告げる。そこにはわずかばかりの警戒感が滲んでおり、それがオペレーターには不思議に思えた。

 が、やはりここらは実力の差であると同時に、立場の差だったのだろう。オーグダインらはウルカに居たのだが、これから行く所の有名所は全て把握している様子だった。


「隻腕の老雄・・・公爵家本家の人間だ」

「隻腕の老雄・・・っ! 元皇国軍近衛兵団第3師団団長フォース中将か!? 勇者カイトのお目付け役の一人! 大戦期の名将がなぜこんな所に!? 引退しているはずの英雄じゃないか!」

「知らん。が、油断するなよ。ここは、英雄が治める土地だ。本家の奴らがいくら腑抜けようと、その上の奴らは、未だに現役だ」


 名前と特徴を聞いて驚きを露わにしたオペレーターに対して、オーグダインが引き締めを行う。彼がこのギルドの副団長、サブマスターだった。彼は父親よりも遥かに小柄だったが、それでも2メートル弱の高身長だった。体格もかなりよく、巌のような体躯は引き継いでいた。

 顔立ちは獅子に似ていた。何処か現エンテシア皇国皇帝レオンハルトと似ている雰囲気があるが、やはり遠縁とは言え親族だからなのだろう。とは言え、こちらは皇帝レオンハルトの様な獅子の様なたてがみは持たず、赤髪を短く切り揃えていた。在り方の差だろう。


「俺達の監視だ。これだけの大船団だ。もし誰かが何かを起こせば、大戦になる。そんな中、少数で戦線を構築して本家の奴らが来るまで維持させるのなら、あの老雄ぐらいしか出来ん。船団も偽装されているが、最新鋭の船だ・・・各艦に連絡をしろ。馬鹿な事はするな、大人しくしておけ、と」

「お、おう! 大親父からの命令だ! 全員、全艦艇に回せ!」

「おう!」


 バーンタインからの言葉を受けて、万が一が無い様にオペレーター達が指示を送る。彼らは公爵軍もリィル達バーンシュタット家も警戒していない。こちらの方が圧倒的だ。だからこそ、オペレーターには侮りが見えたのだ。取るに足らない。まさにそれが正しいからだ。

 だが、唯一クズハが率いているマクダウェル家だけは、別だ。下手をすれば一国と大差ない規模の彼らであっても、マクダウェル家だけには迂闊な行動は避けたのである。


『・・・こちらマクダウェル家監視団。全ての艦の確認を終えた。大陸間会議の警護任務、頑張ってくれ』

「親父。だそうだが、何か返すか?」

「俺が出よう・・・承った。フォース殿もわざわざご苦労だった」

『ほぅ・・・気付いておったか。この無名の老人の名を』


 長直々の応対を聞いて、監視艇の旗艦に乗る臨時指揮官が感心した様に口調を何時ものそれに変える。彼は隻腕となった事で個としての戦う力こそそこまでではないが、それ故、軍を率いて守る事に関しては天才的な技量を持っていた。

 彼は大戦期に押されていた皇国の戦線をなんとか維持していた名将の一人だった。約100年。彼は自分の軍だけで戦線を耐え抜いたのだ。が、耐えただけ故に華々しい戦歴は無く、あまり有名では無い。彼の感心はそれ故だった。


「無名か・・・がはははは! あんたが無名なら、今の大半の奴は無名だ! 知らねぇ馬鹿が馬鹿なだけだぜ。攻める事が得意な奴は多い。だが・・・守る事が出来て本物の英雄だぜ」

『ほぅ・・・バランタインを思い出すな。貴様にカイトの小僧はおらん。早死するなよ』


 豪快に笑ったバーンタインに対して、フォースが懐かしむ様に告げる。体格もそうだが、バーンタインは性格も性質もバランタインに似ていた。それ故の言葉だった。


「気をつけよう・・・あぁ、見送りは結構。墓参りするのに、馬鹿をやるほどウチも無法者じゃあない。親の墓参りを汚すような真似するやつぁ、ウチには置いていない」

『信じよう』


 バーンタインの言葉に、フォースが頷いて監視団が離れていく。すでに言及したが、マクダウェルに行って墓参りをするのは本家の人間に連なる旗艦に乗った奴らだけだ。

 なので他はそのまま先に行き、船団の旗艦だけがマクスウェルへと入るのだ。こうして、如何な縁か、ほぼ同時にマクスウェルに8大ギルドの2つの長達が集結する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第723話『来訪』

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