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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第42章 冒険者の頂き

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第719話 姉弟

 さて、リィルの介入により強制的に戦いを終了させられた瞬とリジェだが、話し合いの前にとりあえずシャワーを浴びる事になる。元々瞬はひとっ風呂浴びるか、と思っていたので、彼は風呂にも入っていた。


「はー・・・ここって、こんなでかい風呂だったのかー」

「知ってるのか?」

「この街に住んでりゃ、誰でも知ってるよ・・・入った事があるか無いかだと別だけど」


 瞬の問いかけに対して、身体を洗い終えたリジェが同じように湯船に浸かって答える。彼も元はこの街に住んでいたのだ。というよりも今はウルカへと留学している様な感じだ。リィルやアルと共に肝試しに来た事もあって、知っていても当然だった。


「で、わざわざなんでこんな事したんだ?」

「ああ、それ? そりゃ、姉貴があんだけあんたの話してりゃ、気にもなるさ」

「うん? 何か不思議か?」


 瞬の顔を見ながら、リジェが答える。とは言え、それに瞬は首を傾げるだけだ。そんな瞬を見て、リジェは何かを納得したらしい。


「あんた、朴念仁とかって言われない?」

「ああ・・・今はそこまでじゃあないが、昔は良く言われた。練習馬鹿とかもあったな」

「・・・ああ、なるほど・・・似た者同士って所か・・・」


 リジェが大きくため息を吐く。瞬はまだ天桜学園が日本にあった当時、全ての告白を一刀両断に切って捨てている。おまけに言えば、呼び出された内容を理解していなかった事――流石に告白されて理解しなかった程ではないが――も多数ある。朴念仁と言われるのもむべなるかな、という所だ。

 まあ、そんな朴念仁と言うか脇目も振らず、という練習一筋のストイックさが受けていたわけであるが、そんな性格が異世界に来た所で治るわけがない。と言うより、こちらに来てから更なるライバル達や強敵達の登場により悪化の一途だ。

 言われなくなったのは単純に言って、好奇の目や女子生徒達の目に晒されなくなった事が大きい。カイトという天性の女誑しの影に隠れてしまった、とも言える。


「はぁ・・・まあ、そんなんだから、姉貴が堕ちたんだろうけどなー」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、なんにも」


 当人達以外に二人を知る全員は理解しているだろう事にリジェも早々に気付いたらしい。瞬が訝しんでいたが、顔には満面の呆れが浮かんでいた。

 というのも、実は彼の姉のリィルも朴念仁として名を馳せていた。勿論、瞬と同じく訓練馬鹿とも言われていた。それであのスタイルを維持出来るのは素直にリジェからすれば恐ろしい限りだった。


「あー・・・姉貴、アルの奴と付き合うと思ってたんだけどなー・・・」

「アルか・・・あはは。それはさぞ尻に敷かれただろうな」

「あんたがそうなるんだがな・・・あ、確かあいつの彼女、あんたの妹さんなんだっけ」


 小声で他人事の様に語った瞬に対して、リジェが問いかける。ここらも、手紙で聞いていたようだ。


「ああ・・・知ってるのか?」

「アルとは俺も幼馴染。あれとはタメ・・・」

「・・・ということは、一個下か」

「おう」


 瞬の問いかけをリジェが認める。この四人に更にルキウスとアルの妹を加えた総計五人が、今代の英雄達の子孫だった。ちなみに、瞬はリジェが一個下だからとタメ口を使われて怒る様な度量ではないし、実力を認めていたので何も言わなかった。


「ん? ということは、お前も飛び級か?」

「ああ、いや。飛び級はギリギリ一年分出来たんだけど、やらずにウルカの方へ留学させてもらってた。あっちの方が強いのは有名だからな・・・だから一応今も魔導学園の所属・・・あ、学園知ってる?」

「ああ。ウチのギルドマスターが一時期行っていた」

「あ、その噂はこっちのダチから聞いてる。姉貴からも何故か口酸っぱく挨拶に行けって言われてるんだよ」


 何故か知らないけどな、とリジェは首を傾げて姉の意図を訝しんでいた。どうやら彼はまだ学生として聞かされていないようだ。


「・・・で、話戻すけど、結局の所、どうなってるのさ? もうやっちゃった? 毎日? それとも二三日に一回ぐらい?」

「ごふっ!」


 何処かニヤつく様な笑みと共に出された言葉に、瞬が思わずむせ返る。ここらも、姉弟で差が出ていた。リジェは下ネタも普通に口に出していた。


「あー・・・その反応だとまだか。されど脈あり、かな」

「お、おまっ・・・」

「後悔する前に、やることやっといた方が良いぞ」

「・・・あ、ああ・・・」


 これで良いのか、と思いつつも、瞬はリジェのアドバイスを受け入れたフリをしておく。


「わかってんのかね・・・まあ、いっか。姉貴あれでも意外と肉食系だし。今の姉貴だとジャッターユのクソ共の中でも親衛隊クラスじゃないと盗賊程度に負ける事も無いから、心配も無用か」


 どうやら煮え切らない様子の瞬を見て生返事だ、という事は簡単にバレたようだ。が、ここらは姉の考える事だろう、とスルーする事にしたらしい。と、一方の瞬の方は、リジェの言葉に気になる単語を見付けていた。


「ジャッターユのクソ共?」

「ああ、こっちは遠いのか。って、そうだよな・・・ウルカの北。そこに教国の端からウルカの中央ぐらいまでまたがる様なでっかい砂漠があるんだけど、今あそこ盗賊共が支配してるんだよな。で、時々北側が被害出てて、結構頻繁に討伐依頼が・・・な」

「それは・・・お疲れ」


 何とも言えない表情を浮かべたリジェに対して、瞬も似たような表情を浮かべる。とは言え、そうして出た労いの言葉に、リジェが笑って首を振った。


「そう言うなら、酒の一杯でも欲しいな」

「悪いが、流石に風呂場までは持ち合わせていない」

「残念だなー・・・まあ、俺が生まれた頃にはオアシスを中心とした良い王国があったらしいんだけどな・・・奇襲にあって王様の一族郎党全て皆殺し、だそうだ。何らかの古代文明の秘宝を手に入れたんじゃないか、って噂だ。そうじゃないと盗賊なんぞに一国を落とされるわけがない」

「秘宝?」

「噂だよ、噂。大親父が一度ちょびっととは言え手傷を負ったぐらいだから、あながち嘘じゃあ無いとは思うけどな。あ、大親父は<<(あかつき)>>のギルドマスターな。あっち孤児が多くて皆そう呼ぶから、俺も癖ついちまった」


 リジェが笑いながら、話題を転換する。確かに、風呂場でする話題では無いだろう。そうして、しばらくの間はリジェと雑談しながら、瞬は疲れを癒やす事にするのだった。




 湯上がりの瞬とリジェは着替えると、とりあえずマクスウェルにあるリィルというかバーンシュタット家の実家へと足を運んでいた。瞬は何度か来ていたが、それでも、何度見ても唖然とする大きさだった。


「相変わらず、大きいな」

「おたくの所のギルドホームに比べりゃ、小さいだろ」

「あれはホテルだ」


 リジェの言葉に、瞬が苦笑しつつも首を振る。バーンシュタット家のマクスウェルでの邸宅は、街の北側の高級住宅地にある庭付き三階建ての大きな建物だった。

 街の北側には貴族達の別邸もいくつもあるが、同じ規模の物はアルの実家であるヴァイスリッター家の邸宅ぐらいだ。ヴァイスリッター家の邸宅の方がわずかに大きいが、これは初代軍団長と副長の差という所だ。バランタインの方針だった。相変わらずがさつな癖に気遣いが出来る男だった。


「で、俺はなぜ呼ばれたんだ?」

「いや、後でちょいと話あるから。それだけ」

「うん?」


 リジェは少し楽しげな笑顔で、瞬にそう申し出る。ちなみに、そういう彼だが、実は第一にはお説教の弾除けとして瞬を出汁にするつもりだった。

 当然、帰ると言った時間に帰らず外をほっつき歩いて試合をしていたのだ。リィルからのお説教は確定だろう。瞬を褒める事で流れを変えるつもりだった。伊達に8大ギルドの下へと留学していたわけではないらしい。口も上手くなっていた。


「ただいまー。お客さん連れてきたー」

「あら、瞬くん。久しぶり」

「お久しぶりです、エイルンさん」


 帰ったリジェを出迎えたのは、リィルとリジェの母親・エイルンだった。彼女はバーンシュタットとは何の縁もゆかりもない人なので、髪の色は赤髪ではなく綺麗な淡い蒼色だった。

 顔立ちは美人で、スタイルも年齢を差し引いても娘と同じく悪くはない。ここら、リィルは母譲りなのだろう。年の頃は大凡30代から40代と言うところだ。詳細は流石に不明だ。が、そんな彼女は、頭に青筋を浮かべていた事に、瞬もリジェも気付いていた。


「で・・・リジェ。リィルから聞きましたよ?」

「ご、ごめんなさい・・・」


 リジェはリィルの説教が来るかも、と思っていたらしいが、まさかの母親パターンは想定外だったらしい。瞬という盾が使えず、ただただひたすら謝るしかなかった。


「帰って早々挨拶もせず人様にご迷惑をおかけするとは何事ですか。貴方はそこの所が奔放過ぎる・・・」

「すいません、すいません・・・」


 リジェは説教に対してただただ謝罪するだけだ。とは言え、やはり瞬が居た事は良かったようだ。彼が居る、ということで、説教はほどほどにて終了された。


「あら・・・そう言えば瞬くんをそのままにしてしまったわね。いらっしゃい。皆でお茶にしましょう・・・それと、リジェ。おかえりなさい。怪我もしていないようで安心しました」

「あ・・・うん。ただいま」


 母親からの言葉に、リジェは少し照れ臭そうにしながらも挨拶を返す。そして、二人はエイルンに従って、リビングへと通された。


「はぁ・・・紅茶飲むと、帰って来た実感する・・・」

「向こうじゃ、飲めない?」

「あはは。向こうは忙しいからな。紅茶なんぞ飲んでる暇なかった」


 エイルンの問いかけにリジェは笑う。向こうは冒険部と同じギルドでも、正真正銘冒険部の様な俄仕込みではない正当な冒険者集団だ。

 おまけに所属する人数もまさに桁が違う。それ故、ギルドホームでの喧嘩なんぞ日常茶飯事だったらしいし、怒号だけでなく物理的に色々と飛び交うのも何時もの事だったらしい。紅茶なんぞ優雅に飲んでいれば、確実にその騒動に巻き込まれる事は請け合いだった。


「あ、そういや姉貴は?」

「ああ、リィルは今一度軍基地に顔を出してくる、と言っていましたよ。そろそろ帰って・・・ああ、帰ってきましたね」


 噂をすれば影が差す、と開いた扉の音に、三人はリィルが帰って来た事を把握する。足音は一つだったので、ブラスはおそらくまだ軍基地で仕事をしているのだろう。


「リジェ、帰っていますね」

「おーう・・・姉貴。おふくろから説教されたから、今は勘弁な。それに客ほっとくのもダメだろ?」

「客? ああ、瞬。来たのですか?」

「ああ。何故かリジェに呼ばれてな」


 リジェの言葉に自らに気付いたリィルに問われて、瞬が首を傾げながらも事情を説明する。相変わらずまだ理由は語られていなかった。


「どういうことです?」

「いや、ちょっと・・・まあ、男同士の会話に口出すなよ。姉貴が瞬の彼女とかなら、別に良いんだけど?」

「ぐっ・・・いえ、そういうわけでは・・・」

「あ、ああ。そういうわけじゃないぞ」


 ニタニタとしたリジェの一言に、リィルは顔を真っ赤にして思わず言い淀み、瞬も赤くなって否定を入れる。うぶで良いこと、とユリィ等が茶化しそうだった。

 なお、この反応は母親の前でも何度も起きている為、実は密かにエイルンからは瞬が実の息子の様に扱われている事は、秘密である。

 今はカイトに頼んで婿養子に出来ないか、と掛け合っている所だったりする。カイトの方もいい加減付き合えよ、とやっかみを入れるぐらいだ。そんな妻と上司に父親(ブラス)が頭を痛めている事は、横においておく。


「やれやれ・・・で、そんな事は良いよ。親父は?」

「父さんは<<(あかつき)>>を迎える為の手はずを整えています。あそこの出迎えはバーンシュタット家に一任されていますからね」


 リジェの問いかけにリィルが出る前まで普通に書類にサインしていた父の姿を思い出す。百隻の大船団だが、幸いな事はマクスウェルに停泊するのが幹部が乗る数隻だけ、という事だろう。

 他は一直線に最後の停泊地となるポートランド・エメリア他幾つかの港町に向かう事になっていた。故人の、それも偉大な祖先の墓場を馬鹿共の騒がしさで賑わわせたくない、という配慮だった。最後の停泊地が幾つもあるのは、一つでは流石に百隻もの大船団に対処出来ないからだ。

 百隻の飛空艇船団となると下手な小国の飛空艇の規模と大差がない。もしかしたら上回るかもしれない。これをまともに一つの領土だけで受け入れられるのは領土の広さも技術力も段違いなマクダウェル家ぐらいだった。


「そか・・・じゃあ、今日は親父は遅そうか」

「いえ、せめて息子と夕飯ぐらいは食わせてくれ、と言っていましたから、夕食時には帰って来るかと」

「あ・・・じゃあ、瞬くん。丁度良いですから、一緒に食べていきなさい」

「あ、いえ。流石にそこまでお世話になるわけには・・・」

「良いって良いって。どうせだから姉貴のこっちでの話とか聞いときたいし」

「あ、リジェ!?」


 リィルが悲鳴にも似た声を上げる。そうして、なんだかんだと話している内に夜も遅くなって、なんやかんやと瞬も夕食をバーンシュタット家でいただく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第720話『最強の二文字』


 2018年2月18日 追記

・誤字修正

『彼氏』と『彼女』を間違えていた所を修正。

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