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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第42章 冒険者の頂き

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第717話 集結 ――マクダウェル編――

 本日より断章の投稿はしませんが、24時のソートだけは行います。ご理解とご協力の程、よろしくお願いします。

 桜が楓と共に街へと戻ったのは、調整等色々な理由から午後一番だった。冒険部のギルドホームに顔を出すと、案の定、冒険者ユニオンのマクスウェル支部支部長キトラの姿があった。受付で面会の手続きを整えていた所だった。


「お久しぶりです」

「ああ、丁度良かった。桜さん、楓さん、支部長がご用事です。皆さんも一緒に、と。今瞬さんと翔さんも帰られてシャワーだけは浴びてくる、と浴室へと行かれました」

「あ、はい。わかりました。では、こちらへ」


 受付で応対にあたっていたミリアとキトラが桜の姿を見付けて、要件を伝える。そうして、桜はキトラを伴って執務室へと向かう。

 彼がこちらに来ている時点で、急ぎの用事が多い。よほどの客人が来ない限りは、彼が最優先だ。客達も流石に支部長が来たとなると、遠慮する。そうして、とりあえず執務室に入るとまずはソラが首を傾げた。


「あれ? 桜ちゃんと楓ちゃんと・・・支部長さん? どうしたんっすか? カイトは今不在っすよ?」

「お久しぶりです、ソラさん。皆さんも・・・あれ? 貴方は・・・」


 キトラが来た事に首を傾げたソラに対して、ソラの横に居たナナミに対してキトラが首をかしげる。ここ数ヶ月は彼も大陸間会議の為のやり取りで大忙しで、冒険部に顔は出していなかったのだ。

 出しても即座にとんぼ返りで、今回の一件まで執務室には殆ど入っていないナナミとは顔をあわせる事がなかったのである。


「あ、今書類仕事手伝って貰ってるナナミです」

「ああ、お忙しいでしょうからね。秘書の一人も必要ですね」

「あはは・・・本気でカイトがヤバイ、って理解しました・・・っと、お茶、お願い」

「うん」


 ギルドマスターの忙しさはユニオンの支部長である彼もよく理解している。その代理となると、その忙しさを一手に引き受けるのだ。なので秘書の一人や二人居ても可怪しくないと考えたようだ。その話題に区切りを付けると、改めてナナミにお茶を出してもらって、本題に入る事にした。


「まずは、一つ。大陸間会議は知っていますね、と問いかける必要は無いですね。その関係で、<<(あかつき)>>の大船団がマクスウェルに来られます。祖先のお墓参り、というわけですね」

「お墓参り?」

「ええ。かのギルドはバランタイン様の子孫。会議でここの近くを通る時には、必ず挨拶をされるのが通例です。今年はマクダウェル領領海の近くが会場ですので、来られる予定です」

「ああ、なるほど・・・」


 言われれば簡単に理解出来る。バランタインはリィルもそうである様に、一族にとっては偉大な祖先だ。子孫がお墓参りをしても何の問題もないし、不思議でもない。その子孫が率いるギルドが偉大な当主にして開祖の墓参りをしようというのは、当然の成り行きだ。


「それで冒険者が大量にやってこられます。当分は仕事が減るかもしれませんが、そこの所はご了承を。後、外で出会っても喧嘩なんてしないでくださいね」

「はい」


 大量に冒険者が来る、ということは供給過多になる、ということだ。一時期的とは言えこちらに回ってくる仕事が減るのは目に見えていた。それに関連して揉めない様に一応注意しに来た、という事だろう。

 とは言え、そんな事は言われなくても注意する。なのでソラの返事は当たり前だろう、という様な笑みが混じっていた。そしてそこの所は、キトラも安心していた。


「あはは。皆さんがそんな事をされない、とは思うのですけどね。ああ、彼らは数日後には来られる予定です。それに合わせてピュリ殿がこちらに入られていますので・・・さて、それでもう一つ。<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>は知っていますか?」

「<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>?」

「俺は知っています・・・ユニオンの幹部の一角で、世界最強のギルドでしたよね?」


 半ば首を傾げた冒険部上層部に対して、同じく武の道を歩む者として把握していた瞬が聞いている事を告げる。そして一概には、それで良かった。なのでキトラはそれに頷いて、さらに続けた。


「ええ・・・彼らがここに入る、とのことです」

「来るんですか?」


 瞬が少しだけ、興奮を滲ませる。見てみたい、と思っているのだろう。


「ええ。本来彼らの本拠地はここ、らしいので・・・」

「らしい? なんでわからないんっすか?」

「あそこは、常に修行の旅を行っておられますので・・・ここが本拠地だ、というのも先代の支部長からの引き継ぎで聞いただけなのです。私も剣姫クオン・・・<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>のギルドマスター殿には久しく会っていません。一応、当人もここが本拠地である、とは明言されているのですが・・・滞在された記憶は無いですね。この間の模擬戦にも参加されていなかったでしょう?」

「ああ、そういえば・・・」


 ソラの問いかけに対して、キトラが少しだけ恥ずかしさを滲ませる。自分が管理する土地なのにその自分が殆ど知らないというのは如何なものか、とでも思っているのだろう。

 ちなみに、こういう理由だから<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>はマクスウェルのギルドとは誰にも思われていない。

 そもそも普通に彼らに依頼を出す者も居ない。金額の面を考えても出すのは国や大貴族だけだ。一般からの依頼を彼らが受けてくれるかは微妙――実際は気に入ればきちんと受けてくれる――だ。


「でも、それならどうして帰って来たんですか?」

「ああ。どうにもこの大陸で修行をしていて、最後の補給地として立ち寄る事にされた、と。ざっと3年ぶりの帰還、らしいです」

「なるほど・・・」


 何かおかしな事は無い。<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>が常に修行の旅に出ている、ということはすでに説明されていた。なら、そう言う事もあるだろう、と思ったのだ。と、そうなると、気になるのはなぜキトラがここに来たのか、ということだ。なのでソラがそれを指摘した。


「で、それがどうしたんっすか?」

「ええ・・・それで私に挨拶に来られるかと思いまして・・・で、何か知らないかな、と。そう思ったわけなのですが、この様子では無駄足だった様子ですね」

「はい?」


 キトラの言葉に、全員が顔を見合わせる。<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>は今の今まで大半が知らなかったのだ。それなのに剣姫クオンについて知っていないか聞きに来た、とは意味がわからなかった。とは言え、これには勿論事情があった。


「いえ、剣姫クオン、龍姫アイシャはカイト殿の愛人の噂がかなり古くからありまして・・・聞いた事が無いかな、と」

「・・・桜ちゃんは何か聞いてないのか?」

「いえ、何も・・・」


 こういう話なら桜だろう、と一同の視線は桜に集まったが、残念ながら桜は本当に何も知らない様子だった。それどころか寝耳に水、という感じでさえあった。


「はぁ・・・では、やはり噂は噂、ですか・・・まあ、そんな所だろう、と思ったのですけどね。剣姫クオンに龍姫アイシャと戦った、という記録は無いので・・・すいません、これは単なる噂ですので、お気になさらず。何分カイトさんはあんな性格ですからね。昔からそれなりには、煙が立っているのです」


 どうやらキトラも噂だろう、と思っていたようだ。が、伝え聞く通りの性豪と言うか女誑しぶりだったのでもしかしたら、と思ったのだろう。確認と言うか万が一でも情報があれば良いよな、という藁にもすがる思いだったのだろう。


「まあ、それは良いのです。別に礼儀を尽くす事には代わりがありませんし、相手は私の上役ですからね。変な事は起きない様に手を尽くしています・・・で、それで皆さんに一つ注意をしておきたくて来た、ということです」

「注意? 会いに行け、とかですか?」

「いえ・・・実は<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>の皆さんは誰も彼もが武名を轟かせた武人達でして、武名をあげようとする愚かな冒険者が時に無許可で街中というのに挑みかかる事があるんです。皆さんがそんな事をされないのは理解しているのですが、それに巻き込まれない様に、と」

「それ、犯罪なんじゃないんですか・・・?」


 おずおず、と楓が問いかける。どう考えてもこれは街での乱暴狼藉の類だ。こんな世界なので降りかかる火の粉を振り払った側にお咎めは無いが、当然、襲いかかった側は罰せられる。ユニオンとしてそれで良いのか、と言う話だった。そして返って来た言葉は、当然の発言だった。


「勿論、ダメに決まっています。無許可ですからね。普通に暴力沙汰です。罰金刑、ないしは禁固刑になる事が大半です。ですが、冒険者も多種多様。様々な土地から来ていますからね・・・飛空艇でこちらに来たばかりで、という方の中には前の土地でのルールが染み付いていたりして、とそれなりにはあるので・・・」


 嘆かわしい、と言う風にキトラが首を振る。やはりなんとかしたいとは思っているのだろうが、エネフィアとて広い。表面積で地球の数倍だ。更には文化レベルとしては地球の中世から僅かに現代よりだ。

 教育が行き届いていないのは、まだ仕方がない事だった。地球とてまだまだの所は多いのだ。仕方がない。文化も風習も多種多様である様に、ルールも多種多様だ。治安も高低差がある。

 地球でもスラム街がそうである様に、エネフィアでも治安の悪い所では普通に街中で戦いが起きる事もある。そういう所から来たばかりの冒険者では、まだこちらのルールに馴染んでいない者が一定数存在しているのだ。冒険者故に一度知れば覚えるのは早いが、その僅かなラグだけは認めざるを得なかった。

 地球でもスラムの解消が困難な様に、エネフィアでもスラムの解消は困難だろう。こればかりは、仕方がないと諦めるしかなかった。そしてだからこそ注意に来た、というわけだろう。そうしてそんなコチラ側の現状にキトラがため息を吐いて、聞かせるべきではなかった、と首を振った。


「はぁ・・・ああ、いえ。すいません。皆さんに聞かせるべきではないですね。というわけで、巻き込まれない様にしていただきたい、と」

「わかりました。一応、通達は出しておきます」

「お願いします・・・ああ、間違っても、喧嘩の仲裁はしないでください」


 ソラからの言葉に、キトラが頷く。巻き込まれる方からすれば、いい迷惑にも程がある。なので冒険者達の中にはそれを仲裁しようとしようとする者も居る。そんな乱暴者すれすれの者と一緒に思われたくない、と思っているからだ。が、<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>に対してだけは、別だった。


「全て、彼らに任せてください。絶対に手を出さない様に」

「良いんですか?」

「ええ・・・最悪、死にます」


 真剣な目で、キトラが告げる。それが何より真実味を持たせていた。そして、更に真剣なまま続けた。


「彼らは並ではない。まあ・・・来られればわかると思いますよ。立ち入ってはならない、と」


 キトラのあまりの真剣さに、誰かがごくり、と喉を鳴らす。だが、それが事実だ。そうして、キトラは更にアドバイスをくれた。


「まあ、皆さんの所には挨拶等には来ないと思いますが・・・それでも、絶対にご無礼だけは無い様に。彼らはユニオンのトップの一つ。大陸間会議が近い以上、迂闊な事は避けるべきです」

「ありがとうございます」

「ええ・・・少し真剣になってしまいましたけど・・・それぐらい、ヤバイ方々だ、とご理解してください。では、失礼致します・・・あ、シロエさんも見送りは結構ですよ。ちょっと急いでいますから」


 キトラは再び何時もの柔和な笑みを浮かべると、立ち上がって見送りをしようとしたシロエを手で押し留めて足早に去っていく。それを見送り、楓が告げた。


「天城。通達、急いで用意するわ。貴方は出す用意を」

「お願い・・・あー・・・なんでこんな時にカイトがいねーんだよー・・・」


 楓に感謝したソラが、続けて愚痴を言う。この時期にこそ、居てほしかった。が、この時期だからこそ、居れなかったのだ。仕方がない。そうして早速作業に取り掛かった楓に対して、桜が申し出た。


「楓ちゃん。当分はこっちに残って冒険部の補佐をお願い出来ますか?」

「ええ。わかったわ」


 書類仕事であれば、楓はかなり手慣れたものだ。なので彼女は桜の要請を受けると、即座に頷く。本当ならば学園で生徒会の仕事をして欲しかったが、今は先に<<(あかつき)>>と<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>関連の事を終えておくべきだった。

 と、ソラはそれでも足りないかも、と思ったらしく、一応念の為に冒険部の中でも実力者達を統率している瞬に引き締めをお願いしておく事にした。


「ふぅ・・・あ、先輩。揉めない様に一応注意だけはお願いしていいっすか? 知らせておくのだけは、必要だと思うんで」

「ああ、わかった。馬鹿をやりそうな生徒には注意しておく」

「たのんます・・・はぁ・・・ナナミ。それで、次ってなんかあったっけ?」


 瞬の返答にソラは頭を下げて、更にナナミに次のことを問いかける。今のソラの予定はナナミによって管理されていた。カイトに対する椿の役割、と思えば良い。事実秘書なのだからそれで良いだろう。


「えっと、次は・・・あ、由利ちゃんも一緒だ」

「あ、そうだったー。用意してくるねー」


 ソラの言葉に、ナナミが手帳を開いて予定を確認する。なお、次の予定は由利と共にある商店へ行っての商談だった。冒険部として組織だ。色々と入用になる事は多い。商談もしなければならないのであった。そうして、ソラと由利がそれの用意を始めると同時に、冒険部も慌ただしく行動を開始するのだった。




 一方、その頃。一人の赤髪の少年が、飛空艇の発着場に降り立っていた。それはリジェだ。後ろの飛空艇には、炎を纏った太陽の紋章がある。現在彼が所属しているギルド<<(あかつき)>>の物だった。


「ひっさしぶりだなー、マクスウェル。2年ぶりだっけ」

「小僧! ぼさっとしてずにさっさと行って来い! 大親父が来る前にお前さんが話持ってくんだろうが! 本家の小僧なんだから、しっかりと働け!」

「あ、うっす!」


 飛空艇の中から響いてきた声に、リジェが返事をする。彼はバランタインの直系であるバーンシュタット家の人間だ。当然、クズハとも面識がある。ユリィに至っては彼女の教え子の一人だ。

 なので使者としてバーン達より一足先に来ていたわけであった。ピュリも既に来ているが、血筋の関係で本部側からの使者として、彼が選ばれたわけだ。


「えっと、まずはクズハ様と挨拶してー・・・綺麗だから苦手なんだよな、あの人・・・で、次は・・・あれ、だよな。姉さんが昔肝試ししてた建物、って言ってたし」


 自分の予定を確認したリジェは、バーンから受け取った親書を持っている事を確認して、更に冒険部のギルドホームを笑顔で確認する。彼はウルカに留学していたが、実家と手紙でやり取りはしていて冒険部については知っていたのだ。


「よぉし!」

「ぶつくさ言ってないでさっさと行け!」

「んぎゃ!」


 後ろから飛んできたレンチに後頭部を殴打されて、リジェが悲鳴を上げる。そうして、リジェは大慌てで逃げるように――事実逃げている――して、クズハの下へと向かうのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第718話『リジェ』

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