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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第41章 帰還への一歩編

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第715話 集結 ――大陸間会議――

 八咫烏という新たな仲間というか守護者を加えて、更にはレガドによって全ての謎に決着を着けたカイト達。それは日程としては、悪くはないペースで終りを迎えた事になった。

 というわけで、その数日後。大陸間会議の開催がわかる一幕が起きる事になった。それは、ソラ達が来るということで飛空艇の発着場で待っていた時の事だ。


「なんだ、こりゃぁ・・・」


 冒険部の一人が、思わず口をあんぐりと開けっ放しにする。とは言え、そう思うのも無理はない。目の前に浮かんでいたのは、飛空艇船団だったからだ。とは言え、その程度であれば、何ら珍しいわけではない。

 では何が驚くに値したのか、というと、その船団が一つのギルドの物だったからだ。数は大小新旧合わせて約百隻。一人乗りの小型艇もあるが、大半が人員を輸送する輸送艇だ。

 そして更にその周囲にはそれを守る様に、多種多様な冒険者が警護に就いていた。総数としては数千人は居るかもしれない。少なくとも、千は超えていた。その冒険者達の大半が同じ赤色の羽織りを羽織って、太陽のマークを掲げていた。


「これを、全部一つのギルドが所有してる、ってのか・・・?」

「そうだな。側面、全部同じ炎を纏った太陽の旗がある。ユニオンの無数に居る冒険者達を取り纏める8個のギルドの一つ、ギルド<<(あかつき)>>が誇る大船団だ」


 驚きを露わにする冒険部の面々に向けて、カイトが明言する。一つの船団を運営出来る程の財力と統率力。戦力だけで言えば、おそらく何処かの小国と遜色ない規模だろう。それが一つのギルドだった。


「トップは・・・ああ、居た。あの先頭の巨大な戦艦の舳先に立つ大男が、<<(あかつき)>>のギルドマスターだな」


 カイトの言葉に、一同は視線を飛空艇の一番前へと向ける。そこには、禿頭を隠す事無く晒す50代中頃の男が立っていた。それは左右に居並んだ<<(あかつき)>>の名立たる冒険者達の中に居てなお、見失わない程の存在感があった。巌のようなゴツゴツとした筋肉の鎧を軽めの鎧で覆った大男だった。

 目付きは鋭く、顔立ちは厳つい。ややもすれば盗賊の長とさえも見間違える程の荒々しさだ。荒くれ者の長。そんな一言が良く合う男だった。


「バーンタイン・バーンシュタット・・・<<(あかつき)>>の長だ。<<炎斧(えんぶ)>>のバーン。巌のような見た目からは想像は出来ないだろうが、万を超える冒険者を統率して、これだけの船団を維持しているんだ。政治力、カリスマ性、統率力は並の王侯貴族とは桁違いだろうな。現にかつてのウルカ王国・・・現ウルカ共和国の元老院にも絶大な影響力がある。彼が一言発すれば国論が変わる、とさえ言われている。そんな事はしないけどな。勿論、それだけではなくて彼自身がランクSの冒険者でもある。名立たる冒険者の中でも上位10位には入るだろう猛者だな・・・左右は、彼の息子や娘達だな。大半がランクSの冒険者だ」


 カイトの説明を聞いていたわけではないだろうが、ふと、バーンタインが大きな目でこちらを睨む。いや、睨んだわけではなくただ単に自分達よりも先に入っていただろう冒険者に興味を持って見ただけなのだろうが、それでも、並の胆力では抗いきれない程の覇気があった。


「ぐっ・・・」


 見られただけで、身体が震えて気を失いそうになる。まだ若い冒険者達にとって、頂点の視線はそれだけの力を持っていた。

 なお、バーンタインの左側にはピュリが居て、反対側の右側には更に別の赤髪の男性が立っていた。ピュリが今神殿都市の支部長をやっているのに対して、彼は前支部長で次期ギルドマスターの筆頭格らしい。そのさらに横には同じような赤髪の男女が何人も居並んでいた。全て、バーンタインの実子達だった。


「まあ、言わんでもわかっただろうが・・・気を付けろよ。あの位置に立っている奴らは、全員身に纏う覇気が桁違いだ。睨まれただけで心停止起こしかねんぞ」


 言われなくてもわかる。年若い冒険部の少年少女達は、それを肌身にしみて理解していた。それだけの力が、彼からは感じられたのだ。そうして、ゆっくりと飛空艇船団が海へと降りていく。


「海・・・?」

「あれだけの船団だ。普通に発着場を一つ丸々占拠するからな。あっちの浅瀬に停泊するらしい」


 カイトが更に解説を入れる。どうやら海に見えているだけであそこにはレガドというかニムバス研究所のメンテナンス施設の一部があるのだろう。

 後にレガドに聞けば燃料の補給用のラインも備わっているらしく、古代の大型艇を発着する場所だったらしい。水没していたのは時間の経過によるものだろう、との事だった。後でレガドがシステムを弄って修復させる、と言っていた。

 そうして、荷降ろしを始めた<<(あかつき)>>の面々に対して、再び冒険部の一同が顔を上げる。そこにはマクダウェル家の紋章が刻まれた一隻の飛空艇が残っていた。

 冒険部、ひいては天桜学園の教師達の乗った飛空艇だった。彼らはこれを待っていたのである。そちらは、まだがら空きの飛空艇の発着場に降りてきた。


「よーう・・・バトンタッチ・・・」

「お、お疲れだな・・・」


 降りて早々。久しぶりに逢瀬を喜び合う面々に紛れて、ソラが非常に疲れた様子でカイトに手を上げる。少し彼がくすんで見えたのは、カイトの気のせいではないだろう。


「う、うふふ・・・もうやだ・・・ギルドの運営なんて絶対やりたかない・・・」

「まだ早かったか?」

「早いとか遅いとかじゃねーよ! なんだよあのバケモン! 一睨みでちびるかと思ったわ! あの人が立ってるだけで動悸息切れが止まんない、ってなんだよ! ナナミなんて同じ部屋にいただけで気絶したぞ!」

「ああ、会ったのか」


 ソラの怒号に、カイトは何があったかを悟る。どうやらバーンタインと会合を得た、もしくはさせられたのだろう。伝え聞く彼の性格は祖先のバランタインと同じく豪快そのものらしいのだが、同時に怒らせればやばい点も、受け継いでいた。

 その一睨みはすでにカイトが言った通り、死にかねない程の圧力があるのだ。疲れているのはそのためだろう。とは言え、本気で睨んだとかではないだろう。もしかしたら少し興味を抱いて一瞥した、という程度かもしれない。


「うぅ・・・なんだよ、あの覇気・・・無茶苦茶じゃん・・・まあ、でかい男だ、ってのはわかったんだけどさ・・・無茶苦茶だろ・・・」

「あ、あはは・・・ま、まあお疲れ」


 何があったのかは非常に気になる所だが、ここに留まっていては続々と集結してくる冒険者達の邪魔だ。なのでカイトはソラを宥めつつ、移動させる事にする。

 と、そんな所に瞬がやって来た。が、彼の頭には如何な理由か、包帯が巻かれていた。いたのだが、その顔は何処か清々しい顔だった。


「ああ、カイト。すごいな、最強は」

「・・・やったのか?」

「ああ。あれが、この世界最強の槍使いか」


 瞬の声には、興奮が滲んでいた。アルとカイトが睨んだ通り、どうやら瞬はエネフィア最強の槍使いに挑んだらしい。その結果が、あの頭の包帯なのだろう。まあ、考えるまでもなく惨敗した様子だ。見れば服から覗く肌にも包帯が巻かれていた。


「はぁ・・・よく生きていられたもんだ・・・アイシャは手加減しないからな・・・もうちょっと会議が近いと理解してくれりゃ、警備に問題がないのに・・・」


 瞬の言葉に、カイトがため息を吐く。瞬が戦ったのは、このエネフィアで最強のギルドと言われる<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>の中でも副長を務める女性だ。

 名を、アイシャという。エネフィア最強の槍使いでもあった。怪我で済んだのは、ある種幸運だっただろう。彼女らの場合、ティナの修練場の中で手加減しても殺されかねない。


「あはは。悪いな・・・リジェと一緒に戦ってみたんだが・・・一歩も動かせなかった」

「リジェ?」


 カイトが聞いたことがあるような無いような、という名前に首を傾げる。冒険部の冒険者では無いだろう。それならカイトが把握している。

 と、噂をすれば影が差す。三人の所、というか瞬の所に赤髪の少年がやって来た。年の頃は10代中頃から終盤という所だろう。


「ああ、リジェ。リィルは?」

「姉さんなら、もうすぐに。俺は先に挨拶をしてこい、ってよ」

「姉さん?」

「あ、えっと・・・あんたが、カイトか?」


 リジェと呼ばれた少年は、カイトを見て手を差し出す。そうしてカイトも彼の顔をしっかりと見てみると、その顔には何処か、見知った風があった。


「ああ・・・お前は?」

「俺はリジェ・バーンシュタット。リィル姉さんの実の弟だ」

「ああ、お前が時折話に出てくるウルカに留学してるって弟か」


 リジェからの言葉に、カイトが目を見開く。聞いたことはあったらしいが、会ったことがなかったのでわからなかったのだ。ちなみに、彼の裾口からも包帯が覗いていた。

 ここらユリィがいればと思うが、残念ながら彼女は現在マクダウェル家の面々や密かに集結する『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』を出迎える為の準備に忙しく、冒険部の出迎えには参加していなかった。


「おう。今回の<<(あかつき)>>の東行きに合わせて、乗せてもらって一度帰って来たんだよ」

「ほぅ・・・」


 握手を交わしながら、カイトはリジェの力量を測る。今の力量としては、かつてのリィルよりは強く、今のリィルよりは弱い、という程度だろう。少なくとも、同年齢の時のリィルよりは遥かに強かった。ウルカへ行ったお陰で、遥かに強くなっていたようだ。

 現在の実力としては、瞬と同格か少し上だろう。これは瞬が可怪しいだけだ。両者の差は戦闘センスによっては、戦況が覆る程度だ。と、そうして握手を交わした所で、リィルがやってきた。


「リジェ。挨拶は終わりましたか?」

「あ、おう・・・」

「なら、父さんの所へ行ってきなさい」

「おーう・・・」


 沈んだ様子のリジェが、その場を後にする。何かがあったのだろう。そしてその背中を見ながら、カイトが評価を下した。


「・・・なかなかに強そうだな」

「ええ。二回りは成長した様子でした」


 カイトの問いかけに、リィルが頷く。ゆくはアル達と揃って公爵軍のエースとして活躍してくれるだろう。有望株の一人、として考えて良さそうだった。


「これで、バーンシュタットの二子も揃うか」

「ヴァイスリッター家のルキウスが少しだけ年上でしたからね」

「まあな」

「では、私もこれで」

「ああ、頼んだ」


 挨拶をそこそこに、リィルも部隊へと戻っていく。公爵軍で今回の大陸間会議に参加するのは、特殊部隊だけだ。クズハとアウラの護衛として、最低限の人員しか認められていないからだ。その為、リィル達も大忙しだったのである。

 まあ、そのかわり彼女らには古龍(エルダー・ドラゴン)達の縁がある。これがある限り、どの勢力も手出しはできなかった。彼女らにとって妹分の二人にもし万が一手を出してしまえば、確定で彼女らの怒りを買うからだ。ある意味絶対に安全な庇護下にあったのである。


「で・・・せめて会議に出る時はその包帯は外せよ」

「ああ、わかっている。リーシャさんに巻かされただけだ。傷も殆ど癒えてる・・・にしても、本当に強かった」

「だからなんであんたはそんな気楽に言えるんっすか・・・」


 何処か興奮を滲ませる瞬に対して、ソラが疲れた様に問いかける。瞬もまた、上位10位に入るだろう冒険者と会い、それどころか矛を交えたのだ。だというのに、この差だった。


「まあ、バーンタインとアイシャだと常に纏う覇気はアイシャの方が低い。あっちは武人だからな。その差だろう」

「そんなもんか・・・ん? お前、えらく親しげじゃん」


 そんなものか、と思う事にしたソラだが、そこでふと、アイシャに対するカイトの口ぶりが親しげだった事に気付く。


「知り合いなのか?」

「<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>の<<八天将(はちてんしょう)>>の中にオレの席があるんだよ・・・無理矢理座らされてな」

「あそこにお前の席がある、って言われても驚かんな・・・」


 瞬がため息を吐いた。ここは瞬も把握していた。が、それ故にその凄まじさがわかっていたのである。


「<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>・・・加入条件はランクS以上であること、武名を轟かせている事のみ」

「毎度思うんっすけど、厳しすぎねぇっすか?」

「これでも、加入条件は緩和されたらしい。詳しくは知らんが・・・」


 ソラの問いかけに対して、瞬が首を振る。<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>の名を知っていても、その内情を知る者は殆ど居ないのだ。

 まあ、彼らの言う通り、条件がかなり厳しい。加入出来る方が稀だろう。最強の名を謳っているにも関わらず、総数はどれだけ最大でも数十人とかなり少ない。

 そして各自が別々に修行を行う為、纏まって行動している事も殆ど無い。というわけで、内情を知っているカイトが、一部を明かしてくれた。


「確かに、緩和されてるぞ・・・ランクS以上って。な?」

「以上・・・上に増えただけかよ!」

「あっははは・・・ふっざけてるよなー、あそこ」


 ソラのツッコミに対して、カイトが呆れを隠さずに笑う。確かに緩和はされている様子で、昔はランクSであること、が加入条件だったのだ。が、とある事情によって、ランクEXの加入を認める事にしたのである。

 勿論、そのとある事情とはカイトである。当時のランクEXはカイトとバランタイン、ユリィ、現ユニオンマスターしか居ない。その中でも圧倒的な最強を誇ったのは、間違いなくカイトだ。

 彼を加入――と言う名の強制参加――させる為に創設時から変えられていない加入条件を曲げたのであった。そして当然、上に広げるだけなら誰も文句は言わない。なにせ自分達より強い奴を迎え入れる、というのだ。文句が出るはずがない。

 ちなみに、そういうわけなので彼に活動実績はない。と、そんなカイトが、疲れた様子でその猛者達のトップに言及した。


「はぁ・・・特に団長の剣姫クオンが巫山戯てる。軽くなで斬りしたら次元斬れるってなんだよ・・・」

「あの女性が? そこまですごいのか?」

「ああ、先輩はそっちにも会ったのか・・・あいつ、ニコニコしながらガチでやばい類だからな。ニコニコ笑顔で次元ぶった切るバケモンだぞ・・・」


 カイトが儚げな顔をする。どうやら彼が呆れ返るぐらいには、やばい類の人物らしい。と、これもやはり、噂をすれば影が差す、なのだろう。いきなり何かが砕け散る様な轟音が鳴り響いた。


「・・・は?」

「はぁ・・・もう来たのか・・・近かったからか・・・?」


 轟音に後ろを振り向いたレインガルドに到着した全ての冒険者と、轟音が聞こえているだろう距離の全ての者達が、思わず愕然とする。轟音が響いたのは、遥か天高くだ。そこを見上げてみれば、なんと何ら比喩ではなく、天が砕けていたのだ。


「何かが・・・出て来る・・・?」


 誰かが呟いた。まさにその通りで、砕けた天から何かが出てきていた。形状はティナが作る飛空艇と似たような形状だ。おそらく、飛空艇なのだろう。


「古代戦艦<<熾天の玉座(してんのぎょくざ)>>・・・三大古代文明の遺産の一つだ。<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>の移動基地と言うか移動ギルドホームだな。次元潜航艦、らしい・・・まあ、次元を砕いたのは、あっちの龍姫アイシャだがな」

「はぁ?」


 カイトの言葉に、ソラも瞬もぎょっとする。確かに、よく見れば飛空艇の前に龍に跨った小柄な人影が見えた。が、それが砕いたとは到底、思えなかった。


「剣姫クオンは次元を裂き、龍姫アイシャは次元を穿つ・・・な? 本当に良く生きていられた、だろ?」

「あ、ああ・・・」


 確かに、これはよく生きていられた、と思えた。自分が鉾を交えた人物がたった今、次元を砕いたのだ。そうして、瞬とソラは少しの間、少し前の冒険者達の中でもトップと言われる者達との出会いを思い出す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。明日から暫くはマクスウェル編です。こっちでは出てこない面子の説明なのでさほど長くはなりません。

 次回予告:第716話『代理』

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