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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第41章 帰還への一歩編

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第714話 八咫烏

 思わぬ事から<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>を手にしたカイトだが、それを持ち帰る事に決めてふと、一つの事を思い出した。それは彼が地球で天照大御神と懇意にしていて、その時に聞いた事だった。


「あ・・・」

「む? どうした? まさか恐れ多くてきちんと桐箱に入れるか、とでも思うたか? 桐箱なら儂で用意してやろう」


 異空間の中に収納しようとして途中で止まったカイトに、武蔵が問いかける。<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>は彼らにとってもあまりに貴重な神剣だ。手荒に扱えない、と思うのも無理はないと思ったらしい。


「いえ・・・そう言えばこの<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>にはちょっとした生き物が憑いている、と聞いた事があって・・・」

「生き物?」

「それはもしや・・・八咫烏ですか?」

「ええ。八咫烏はこの<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>に宿る神獣の様な者だ、とヒメちゃん・・・天照大御神から聞いた事があって・・・無事なのか確かめた方が良いな、と」


 旭姫の推測を認めたカイトは、<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>がたしかに無事である事を確認すべきだと思ったようだ。そうして、カイトは一度異空間から<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>を引き抜いて、ある魔道具を探し始める。


「・・・えっと・・・何処にあったかな・・・あ、あったあった」


 カイトが取り出したのは、所謂ボイスレコーダーの様な魔道具だ。日本で使っていた物なので、少し探したのである。その中には、天照大御神の肉声が入っていたのである。そうしてカイトは少し魔道具を弄って、彼女の声を使って八咫烏に呼びかけてみる事にした。


『やーちゃん』

『・・・むぅ? 天照大御神様のお声? 日本へ帰れたのか?』


 天照大御神の声に呼応して、<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>が光り輝く。そうして現れたのは、三本足の烏。神武天皇を導いたとされる八咫烏だった。そんな八咫烏は少し周囲を見回して、カイト達と目があった。


『ここは・・・ウヌらは誰だ?』

「ほっ・・・無事だったか・・・お初、お目にかかる。ここはまだ日本とは異なる世界。偶然<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>を見かけ、御身がご無事かどうか心配になり、この様な形で問わせて頂きました。我らも日本の者。故あって、この世界に紛れ込んだのです」


 カイトは傅いて、八咫烏の問いかけに答える。彼と天照大御神は友人だが、八咫烏とはそうではない。人の子である以上、傅くのは基本だった。なお、同じ様にティナと旭姫、武蔵も傅いていた。そこらの分別は弁えていた。


『ふむ・・・確かにそこの女生を除いて、ウヌらからはアマテラス様の気配がする・・・特にウヌからは強いな。他にも宇迦之御魂神様の匂いもある。産土神か?』

「ええ。宇迦之御魂神様の地で生まれました」

『なるほど。確かに、ウヌらは日ノ本の同胞よ。我が身を慮っての事、大義である』


 八咫烏は日本の神獣だ。神の一柱にも数えられる事もある。なのでカイト達三人の中に自らの同胞の匂いを嗅ぎ当てて、その言葉に嘘が無い事を見抜いたようだ。

 八咫烏が偉そうなのは神獣だからだ。神に連なる神獣は総じて、偉そうだった。まあ、彼らは神の使いとして降臨する事が多く、それ故、後ろに控える神の威厳を出す為に総じて偉そうにしているのであった。

 なお、逆に神様はフランクなのが多い。ここらが関わっているのかもしれないとカイトもティナも考えているが、詳細は不明だった。


『して・・・ここは?』

「はい。御身が呼ばれた地・・・ではありますが、数千年の月日が流れ、今は同じく日本の者である我が師達が率いておられます」

「毛利輝元が一子、旭姫と申します」

新免 無二(しんめん むに)が一子、新免武蔵守・藤原 玄信(ふじわら はるのぶ)。藤原は本姓で玄信は諱ですので、名字の宮本を使い、宮本武蔵と名乗っております。現在は毛利の姫と共に、この遺跡の上の里の守り手として暮らしております」


 カイトの言葉を受けて、武蔵と旭姫が自己紹介を行う。なお、武蔵が告げたのは自らの本名だ。諱は主君や親以外には呼べないので、宮本武蔵を周囲も使っているのである。所謂、実名敬避俗(じつめいけいひぞく)の風習だった。

 そういうわけで藤原姓は兎も角、玄信の名は誰も使わないし実は妻のミトラにも名乗っていなかったらしいので、本人も忘れかけていたらしい。咄嗟に出てきたのが思わずびっくりだった、と後に当人が笑っていた。そうして、武蔵が続けた。


「これは我ら二人の共同の弟子にて、この世界においては一角の人物と知られる者です」

「本名は天音 カイト。師とは時代が違う為、諱や本姓はありません。が、とある縁にてこの世界の300年程前にこちらに来た折り、武勲を上げまして、カイト・マクダウェルと呼ばれております。こちらは私の妻。ユスティーナ・ミストルティンと申します」

「ユスティーナ・ミストルティン。元はこの世界で魔族の王をしておりましたが、故あって、彼と婚儀を結ぶ事に。孤児故に親は存じませんが、古龍(エルダー・ドラゴン)を姉と慕い、育てて頂きました」


 カイトの言葉に続けて、ティナが自己紹介を行う。そこで、八咫烏もどうやらティナが天照大御神の匂いがしないのにこの場に居る理由を把握したようだ。


『左様か・・・我も日ノ本はアマテラス様の眷属。同胞が異世界とは言え名を轟かせた事は嬉しく思う。それとこの様な縁で結ばれたのは、菊理媛命(くくりひめのみこと)様のご縁であろう』

「なるほど。異界と掛けましたか」

『よくわかったな』


 カイトの指摘に、八咫烏が気分良さ気に笑う。縁結びの神と言えば、有名なのは大国主命(おおくにぬしのみこと)だ。

 だが、日本は八百万の神と言うようにまた別に縁結びの神様がいて、その一人が菊理媛命(くくりひめのみこと)という女神なのである。伊弉冉尊と伊邪那岐命の黄泉平坂での別れ話の後、その間を取り持って縁を結んだのが、彼女だった。黄泉平坂も異界だ。異世界と掛けたのである。


『さて・・・挨拶はそこそこに、話を聞こう。一体、何が起きているのだ? なぜお主ら日ノ本の子らがこんな異世界の地下深くに?』

「少々、長くなります・・・」


 ここからは、カイトがやるべきだろう、とカイトが今まであった事の説明を開始する。そうして、しばらくの間八咫烏に対して、事情の説明がなされる事になるのだった。




 八咫烏への説明が終わったのは、夏の夕暮れが終わり月が中空を照らし出した頃だった。そうして全てを聞き終えると、八咫烏はカイト達の不幸をしっかりと理解して、口を開いた。


『なるほど・・・そういうことであれば、我が力を貸すのは吝かではない。いや、我も力を貸すべきだろう。我がこの世界に呼び出されたのも、もしやするとお主らを導けというアマテラス様からの思し召しかもしれん』

「ありがたきお言葉」


 八咫烏からの言葉を受けて、再度カイトが頭を下げる。天桜学園の一件はまさに彼が守り導くべき人の子に起きた不幸で、カイト達を助ける事が自らのこの異世界で成すべきことと捉えたようだ。


『いや、構わぬ。アマテラス様もそれを望まれるはずだ。あの御方は誰よりも慈悲深い・・・うむ? そう言えば、目覚めの前。アマテラス様のお声が聞こえた気がしたのだが・・・』


 カイトの言葉に応じた八咫烏だが、そこでふと、そう言えば目覚めの声がアマテラスの物だった事に気付いたようだ。カイトは日本での事を語っていなかったので、アマテラスとの関係を語っていなかったのである。


「ああ、それですか。えっと・・・」

『えーっと、これで良いんだっけ・・・カイト、元気にしていますか? ヒメです。お中元の詰め合わせセット、ありがとうございました。ルルさんに頼んで、メッセージを送らせて頂きます』

『・・・は?』


 聞こえてきたアマテラスの声に、八咫烏がぽかん、とくちばしを半開きにする。


『お主・・・アマテラス様とどういう関係なのだ?』

「三貴子のお歴々とは友人として付き合わさせて頂いております」

『なっ・・・』


 八咫烏が絶句する。三貴子のお歴々、とは言うまでもなく彼の上司の中でも一番上の上司だ。会社に例えれば会長、社長、専務の三役とでも考えれば良い。そんな八咫烏に、武蔵が笑いながら告げた。


「あっははは。八咫烏殿。この程度で驚いておってはやってられませんぞ。なにせ此奴は神が認め、神が友誼を結んだ男。聞けば剣神殿の弟子にもなっている、との事ですからな」

『け、剣神の弟子・・・』


 おそらく、八咫烏に人の顔があれば頬を引き攣らせていた事だろう。それぐらいに声が引き攣っていた。


「いえ、ちょっと信綱公・・・剣神様の前で一試合行いました所、思われる所ありとなった次第にて」

『もう良いわ・・・あの剣神と一試合出来る者がおるのがまず我には信じられんぞ・・・』

「あはは。そういう事でしたら、我が師達も出来ましょう。あの当時の私の腕なぞ師にも劣る物に過ぎませんでした。たまさか、二人の師に恵まれましたが故の事ですので」


 カイトが笑って謙遜する。とは言え、これはこれで事実だ。なので異世界に渡った日本の剣士達に八咫烏はもはや素晴らしいと賞賛すればよいか空恐ろしいと恐れればよいかわからなくなっていた。


『まあ、良い。とりあえず、そこの二人は戻るつもりは無いのだな?』

「ええ。私はこちらから戻れば、必然死を迎えるかもしれません。宮本殿はこちらに妻子あり。戻れば人でなしの誹りを受けましょう」

『然り・・・とは言え、家族の事は不安に思おう。何か言伝があれば、伝えてやろう』

「いえ、そういう事であれば、この弟子がおります。何卒、お気になさらず」

『そうか・・・では、達者で暮らせ・・・というには少々早いか。スマヌが、外までの案内、頼むぞ』

「かしこまりました」


 八咫烏の言葉を受けて、旭姫が案内を受ける事にする。なお、八咫烏は場所柄もあってカイトの肩に止まって移動する事にしたらしい。こうして、八咫烏と<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>は数千年ぶりに、歴史の表に姿を現す事になるのだった。



 と、そうして外に出て、カイトは<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>を手に八咫烏を連れて旅館へと戻る事にする。


「あ。マスターが帰って来た!」

「よう! 天音!」

「おかえり! どうだったんだ!」


 すでに日も落ちていたが、カイトを待っていたのは冒険部の一同だった。カナンの一言で全ての謎が解けた、という事にしてカイトは最後の調査に向かっていた事にしたため、誰もがその結果が気になっていたのだ。


「終わった・・・そして、喜べ。ちょっとは手がかりが掴めた」

「マジかよ!?」

「どういうこと!? その烏と関係あるの!?」

「三本足の烏・・・ああ、やーちゃんね」


 帰って来てカイトの放った一言に、冒険部の面々が口々に事情の説明を求める。なお、一番最後の一言はアマテラスに慕われている弥生の物だ。彼女はアマテラスのファッションアドバイザーと化していたりする。なので八咫烏の事も聞いていたのである。


「まあ、詳しい話は後だが・・・こっちの烏は八咫烏。正真正銘の八咫烏だ。遺跡の最深部に居た」

「八咫烏って・・・あの、八咫烏?」

「三本足だし・・・」

『ほう・・・今の人の子らは我の事を知るのか』


 英雄として認められているというカイト以外の少年少女達も自分を知っていた事に、八咫烏が驚きつつも非常に気を良くする。まあ、彼が居ただろう数千年前の教育水準なぞ見るまでもないのだ。それがここまで発展しているのなら、驚きもするだろう。


「「「しゃ、しゃべったー!?」」」

『我は神の獣よ。喋らぬ方が可怪しいわ』


 八咫烏が喋った事に驚いた生徒達に対して、八咫烏が呆れる。ここらの日本の事情はすでに彼に語っていた為、別に不思議には思われなかった。


『今後は、我がウヌらを導いてやろう。と言っても、元の世界に戻せるわけではないが・・・まあ、我の加護がある事だけは、覚えておけ』

「「「おー・・・」」」


 八咫烏は誰もが知っていた。その助力となると、今回の一件どころか今までの活動において最大の収穫に見えた。それ故、冒険部の一同が揃って歓声を上げる。と、そんな一同に対して、カイトが告げる。


「おーい。その前に今回の収穫は別にあるんだがー」

「あっと・・・悪い、天音」

「良いって・・・じゃあ、収穫を話そう。詳しい方針は大陸間会議の後に決めるから、まあ、今回は収穫があった、ということだけ覚えておいてくれ」

「おう・・・そこの所、お前ら上層部に任せてる」

「悪いと思ってるけどね。その分、こっちは実務で頑張るわ」

「はいはい」


 冒険部の生徒達の謝罪にカイトは少し笑い、改めて今回の収穫を話し始める。こうして、八咫烏を加えて、新たに冒険部が動き出す事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第715話『集結』

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