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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第41章 帰還への一歩編

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第710話 謎解き ――不満――

 すいません。ここ数日の投稿分の話数がごちゃごちゃになっていたのですが、修正させて頂きました。ご迷惑をおかけしました。

 改めてレガドからの問題の解明を目的として研究所の調査を開始してから、数日後。幸い最深部のボス部屋へと行かないで済む事になった事によりスタミナ等に余裕が出て連続で入れる様になったことと予備人員を多めに調査に回せる様になった為、調査の速度は上がっていた。

 とは言え、輪番制には変わりがない。というわけで、今日は予備人員だった弥生が入り、魅衣と瑞樹が抜けていた。なお、カナンは前日と前々日で抜けた為、今日から復帰だった。


「大変ねー、冒険者も」

「大変なんだよ、冒険者も」


 今日も今日とて資料室に入っていたカイトは、弥生の楽しげな言葉に少し疲れた様――彼とユリィは休み無しであった――に応ずる。あの妹あってこの姉あり、という所で、弥生はどんな事でも楽しんでいた。

 というわけで、資料調査に関しても楽しんで行っている様子で、かなり平然としていた。この点だけは、素直にカイトも見習いたかった。と、そんな所だ。そこに、カナンの悲鳴が上がった。


「・・・うきゃー!」

「どうした!?」


 聞こえたカナンの悲鳴に、カイトが目を見開いてそちらを見る。が、そんな彼女は獣人達の輪の中で耳を押さえていた。


「五月蝿いよー・・・もう嫌ー・・・」

「カーナーンー・・・あんたが一番五月蝿い!」

「あ・・・ごめんなさい。皆もごめん・・・」


 どうやらカナンは何らかの音が五月蝿くて、ついに我慢出来なくなったらしい。彼女はハーフとは言え獣人だ。それ故並外れた聴覚を持ち合わせていた為、静かなこの部屋では尚更、少しの音でも気になってしまったのだろう。それは誰もが簡単に想像出来たので、全員少し苛立ってはいたが、スルーする事にした。


「結構限界来てるわねー、皆・・・カイト、一度この辺で一回全員にストレス解消させた方が良いんじゃないかしら?」

「ストレス解消つっても・・・何やらせるよ」

「はいはーい・・・私ラストのボスフルボッコ希望ー」


 カイト居る所にユリィ在り。ということで今日も今日とて彼と一緒に潜入していたユリィがだらん、とカイトの肩に寝そべって手を上げる。

 彼女もかなりストレスが溜まっている様子だった。特に彼女とカイトの場合は道中で意図的にかなり力を抑えている。存分に戦いたかった、という事も大きいだろう。


「暴れたいだけ暴れさせる、か・・・確かにそれが一番良いかもな・・・ティナ、応答を」

『なんじゃ? 新たな発見か?』

「いや、そうじゃない。皆結構ストレスの限界が近い。一度フラストレーションを何処かで発散させてやるべきじゃないか、と思ってな」

『なるほど・・・そもそもここへは戦闘を行う事を目的として入ったのに、やっとるのは資料調査じゃからのう・・・致し方も無し、か・・・』


 カイトからの連絡に、ティナが仕方がないと頷いていた。一応道中に戦闘はあるが、それにしたって殆ど満足に戦えるわけではない。

 そしてストレスが溜まれば、今の様に若干ギスギスし始める。それは作業効率の悪化にも繋がる。一度本格的に戦わせてストレスの解消をさせるか、と考えたのである。


『しゃーないのう。少し待て・・・』


 ティナはカイトの求めに応ずる事にして、カタカタカタとコンソールを操り始める。フラストレーションの原因は戦えない事だ。とは言え、戦わせる事にするにしても怪我が考えられた為、その準備を行っていたのである。


『よし。救護班等の準備が整った。では、他の所にも通達を送る。お主らも巨大ゴーレムの所へ向かえ。あ、お主は間違っても本気でやるなよ』

「助かる」


 ティナからの言葉に、カイトが感謝の意を表す。そうして、その後少しして全員で揃ってボス部屋へと挑む事にするのだった。




 結果から言うと、その日の最後にボスと戦わせたのは良い判断だったようだ。二度目だった事もあり慣れが出た事と、何よりカイト・ユリィが加わっていた事による援護を得た第二層の面子は今まで溜まりに溜まったフラストレーションを爆発させるかの様に刃を振るっていた。


「おらぁ! こちとら慣れない作業でイライラしてたんだよ!」

「やっぱり冒険者はこうでないと!」

「ユニオンのマスターが聞いたら怒られんぞー」


 イライラをぶつける様に巨大ゴーレムに全力で斬撃を放つ冒険部の冒険者に対して、カイトが苦笑しながらもツッコミを入れる。

 カイトが帰還後に詳しく調べると、どうやら今の冒険者ユニオン協会のユニオンマスターは彼の知り合いであった。その彼の性格上戦いをメインと捉えている今の一言は勘気を買いかねなかったのであった。と言っても大方大笑いされるだけ、なのだろうが。


「今ならユニオンマスターでも勝ってみせる!」

「流石にそれは無茶だって・・・」

「それぐらやる気あるの!」


 冒険者達が口々に苛立ちをぶつける様に大声で言い合う。そしてそんな戦いは、ものの十数分で終わりを迎える事になって、次のエリアへと歩を進めていた。


「あー・・・スッキリしたー!」

「おっしゃー!」


 ボロボロになった巨大ゴーレムの残骸を背にしてボス部屋から出た全員が晴れやかな表情で、満足げに拳を振り上げる。ストレスは殆ど見られなくなっていた。そんな様子を見て、カイトとティナが話し合う。


「・・・明日からは最後に戦いだな」

『はぁ・・・体力使うから本来はやらせたくはないんじゃが・・・』

「フラストレーションの蓄積が一番ダメ、つったの誰だよ」

『わかっとるよ』


 カイトの言葉に、ティナがため息を吐く。というのも、これは彼女の言葉だった。組織を運営する上でダメなのは内部に不満を溜める事だ、と教えていた。組織の内部分裂に繋がりかねないからだ。

 そして、それぐらいティナももう一人のカイトの教師役であったウィルも理解していた。今はカイトがトップでティナが補佐に付いているからこそ、内部分裂に陥る様な最悪の事態にならないのであった。そうして、彼女は丁度良いのでその次に言い含めていた事を告げる。


『まあ、ついでじゃ。その次にダメなのはなんじゃ?』

「トップの実力に疑問を抱かれる事。常にナンバーワンであれ」

『よろしい。組織に二天は要らん。と言うか有っては問題じゃ。ま、その点お主のカリスマ性は最優に位置しておる。ランクで表示出来るなら、SとかEXで良いじゃろ。問題は無いじゃろう』


 ティナがカイトの返答に満足気に頷く。冒険部が今の形で纏まっているのは、まさにカイトなればこそだった。これが瞬や桜であれば、今頃内部分裂によって瓦解したか、派閥が出来上がっていただろう。

 組織の長が長であるには、神憑り的な神秘性、ある種のカリスマ性が必要だ。例えば勇者としてのカイトであれば、大精霊からの縁だ。今のカイトであれば、実績に裏打ちされた自信と強者としての余裕、劇的なまでの強さだった。その神秘性を、カリスマ性を桜も瞬も欠いていた。

 だからこそ冒険部は纏まっている、とも言えた。内部分裂を起こそうにもカイトのカリスマ性と指揮力が高い為、担ぎ上げられる神輿が無いのだ。

 分裂させようとするのなら、カイトと同等の質を持ってこなければならない。それを見付けられる事は簡単な事ではないだろう。少なくとも、リターンに見合うとは思えない。そして、冒険部で他にカリスマ性を有しているティナについては、カイトが自らの下に置いてしまっている。しかも公に恋仲だというのだ。手のうちようがない。


「今更前言撤回されても困る」

『ま、伊達に余が有能と認めとらんよ。内部分裂の芽は、見えぬ敵への助力となる。今後も出さぬよう気を付けろ』

「あいさー。ステラ達にはより一層内部調査を頑張ってもらおう。ま、今回は弥生さんに感謝だな」

「あら、嬉しい事を言ってくれるわね」


 笑顔のカイトに対して、弥生が微笑みを浮かべる。今回のボス討伐は弥生の献策という形ではあるが、カイトが公爵家に奏上した形を取っていた。そしてそれは間違いではない。

 というわけで、何も知らぬ面子からすればカイトが自分達の不満をきちんとわかってくれている、という事になるのだ。それが、何より重要だった。信頼が高まる事になった、と言える。お礼はそれ故だった。


「さーて、じゃあ、今日も今日とて帰る事にしますかー」

「おーう!」


 カイトの号令に対して、第二層の調査隊の全員がかなり軽い様子で返答を行う。この様子なら、また明日からも頑張れるだろう。

 まぁこれは所詮時間稼ぎなので何時までもは保たないだろうが、それでも時間稼ぎにはなる。その間になんとかしたい所だった。そうして、そんな算段をしながら、カイトは一同に混じって第二層から脱出するのだった。




 再び巨大ゴーレムの討伐を再開する事にしてから、数日。カイトは何時も通り、調査終了後に全ての情報を集めていた。が、この日はアルが彼の部屋にやって来ていた。


「と、いうことでこれが全部かな」

「ああ、助かった」


 アルから提出された書類に、カイトが感謝を示す。今回の公爵家特殊部隊の調査隊の総隊長は彼になっていた。その為、こういった纏めの作業は彼がやることになっていたのだ。何時かは彼は自身も部隊を運用する事になる立場だ。今はまだ若いが故に許されているだけだ。なので父・エルロードが今から練習しておけ、と命じたのである。


「そっちの方はどうだ?」

「こっちも、カイトの策でなんとか不満は出てないよ。助かったよ。僕だけだと、抑えられないからね」

「ティーネとかの長寿の面子は、良いんだけどな・・・やはり、そこら短命の種故か」

「長寿だと余裕があるからね。かくいう僕も結構不満溜まってたから、楽になったよ」

「書類は苦手か?」

「あはは・・・」


 カイトからの問いかけに、照れた様にそっぽを向く。どうやら、そうらしい。それでも軍としての書類仕事もあるので、やはり冒険部の一同に比べれば随分マシだろう。とは言え、カイトにはそんな部下の言葉に叱責するつもりはなかった。


「まあ、わからんでもないさ。オレもこいつも17の頃と言えば、書類仕事に耐えられなくて逃げ出してた頃だからな」

「一緒にしないで! 私は書類仕事なんてやらなかったんだからね!」

「っと、そうだった。こいつが書類仕事始めたのは教師になってからだった」

「もうっ。失礼しちゃうなー」

「そ、それで良いんですか・・・?」


 どう考えても貶しているとしか思えない二人の言葉に、アルが苦笑を浮かべる。どう考えても何かが間違っているとしか思えなかった。

 アルの口調が丁寧なのはユリィがアルにとっても学園長だから、だろう。どうしてもこういう場では、丁寧な言葉が出てしまうのであった。


「事実だしね。なら、楽しんだ方が良いでしょ」

「なー・・・で、今はなんで手伝ってくれないんだ?」

「面倒だからー」


 カイトの言葉にだらー、とユリィが伸びる。書類仕事に慣れているからといっても、やりたいかどうかは別だ。というわけで、ユリィは何時も通りパンツが見えるのもお構いなしにだらけていた。なお、スカートの裾についてはカイトが直しておいた。こちらもいつも通りである。


「はぁ・・・オレの女神は椿だけか・・・あ、椿。その書類が終わったら今日はもう終わりで良いぞ。オレもアルの調査報告書を見たらもう寝る」

「かしこまりました、御主人様。丁度終わりましたので、お茶をお入れしておきますね」

「すまん、助かる」


 どうやら丁度良いタイミングだった様だ。椿は台所から少し温めのお茶を用意してカイトの湯呑みに注いで、改めて頭を下げた。


「では、御主人様。お先におやすみさせていただきます」

「ああ、お疲れ。それと、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


 カイトの返答を聞いて、椿が執務室代わりの書斎から出て自分の私室へと入っていく。すでに夜もそれなりに遅い。公爵家との連絡員を務めているストラやステラ達も下がらせていた。その最後のギリギリの所で、アルが来たわけであった。


「で・・・調査結果はどうだった?」

「こっちは今の所、地球に関連する物は見付かっていないかな。その代わり、いくつかの研究者の社員証みたいなのは見付かってるよ」

「ふむ・・・」


 アル達には、地球に関連する研究を行っていなかったか、という事を調査させていた。日本と中津国の間には何度か往来があった事が確認されている。なのでその往来の中にこのレガドの召喚装置に関する何かがあったのではないか、と思ったのだ。


「まあ、あったとしても隠し部屋の可能性は高いか。異世界の品を堂々と置いておくわけもなし」

「だと思う。だから調査隊にはソナーでの壁の探索も命じているよ」

「よし・・・」


 改めて言うまでもなかった、とカイトは頷いて、改めて思考の海の中に入っていく。アルとやり取り出来るのは数日に一度の報告のタイミングを除いては、毎朝の僅かな時間しかない。

 詳細を告げるなら、今しかなかった。とは言え、何かを思い付く事はなかった。今の所彼らは出来る事をやってくれている。特別何か指示が必要な事はなかった。


「何か言っておく事はないか。そのまま、調査を続けてくれ」

「うん・・・っと、そうだ。そう言えば、マクスウェルの方はどうなってるの?」

「ああ、そう言えば定時報告が来てたな・・・えっと、椿が纏めてくれてたから・・・」


 カイトはアルの質問を受けて、椿が纏めてくれていた資料を探す。幸い彼女は何処になにがあるか、と付箋を付けてくれていた為、それは直ぐに見付かった。


「あった・・・<<(あかつき)>>と<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>がマクスウェルに入った、らしい。<<(あかつき)>>は相変わらずの規模だそうだ」


 資料を見ながら、カイトは伝えられている情報の中からアルが必要としているだろう情報を伝える。ギルド<<(あかつき)>>はエネフィア最大規模のギルドで、人員であれば世界最大だった。そしてその事情は、祖先を考えれば簡単にわかった。


「あそこはバランタイン様の家訓を受け継いでるから、人数はギルドの中で最大なんだっけ」

「ああ。バランのおっさんは当人も子宝に恵まれたが、孤児達を積極的に受け入れてたからな。行き場のないガキは全部連れてこい。おっさんの言葉だ。その流れで、<<(あかつき)>>は孤児を積極的に受け入れて教育してる。ユニオンというか冒険者の名声を高めるのに一番役に立っているのは意外とあそこかもな」


 カイトは友の遺した血脈が成している事に微笑みを浮かべる。これは素直に嬉しかったらしい。バーンシュタット家同士の僅かな軋轢は気にはなるが、それでも<<(あかつき)>>の状況は良い事と受け止めていた。


「<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>はどんな所?」

「あそこが争いは撒き散らさんさ。あそこの幹部・・・<<天将(てんしょう)>>達には誇りがある。いたずらに武を誇る事だけはないさ。売られた喧嘩は買うけどな」

「瞬あたりが要らないことしてないか気になるんだけどね・・・」

「あはは・・・なにせ最強の二文字を背負っているギルドだからな。やってるかもな」

「やってたら単なる馬鹿だと思うけどねー」

「「あはは!」」


 二人はユリィの言葉に、それは確かに、と笑い合う。とは言え、それをやっていそうなのが瞬だ。というわけで、この後はそんな雑談を少し交わして、報告会を終わらせる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第711話『謎解き』


 2017年2月11日

 ・誤字修正

『悋気』→『勘気』に修正しました。

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