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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第41章 帰還への一歩編

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第704話 到達 ――重要エリア――

 巨大ゴーレム達との戦いを終えたアル達であるが、そうしてたどり着いたのは、この遺跡においてはある意味第五層よりも遥かに重要度の高い最重要研究エリアだった。研究者達からすると、動力炉やこの遺跡の中枢部と言えるメインコア・ユニット以上に重要度の高いエリアであった。


「こちら、アルフォンス・ヴァイスリッター。戦闘終了。更に最重要研究エリアへと到着」

『こちらオペレーター・・・けが人は?』

「若干名出ているが・・・重傷者はゼロ。問題なく調査に取り掛かれる」

『了解・・・では、これ以降は研究者に引き継ぐ』

「お願い」


 オペレーターの応対が代わり、今度は研究者達が指示を引き継ぐ。ここは第二層の解析用のエリアとは違い、重要な研究施設が入っている所だ。当然、それで検出されたデータも蓄積されているし、どこかにそれら研究データを蓄積してあるデータバンクもあるらしい。が、それはどこかはわかっていないらしい。

 そういうわけなので、とりあえずアル達でも武蔵の弟子達でも安易に触れられない。というわけで、餅は餅屋、と研究者達の指示を仰ぐ事になっていた。


「さて・・・で、僕は何をすれば?」

『はい、引き継ぎました・・・アルフォンス少尉には第2研究室の第1コンソールをお願いします。お弟子さん方は、まあ・・・あまり期待しない方が良いので・・・』


 すでに持ってきていたどぶろく片手にコンソールを操作していたりする武蔵の弟子達――皆伝持ち――に、研究者がため息を吐く。当人達曰く、これでもミスすることは無い、とのことで、事実ミスはなかった。が、初日なのでまだ信じられていないだけだ。


「さて・・・コンソールはルーミアタイプか」

『ええ。そのコンソールから、このレガドがルーミア文明の名残と考えられています。まあ、でも、中には他の文明の名残も見受けられたので、融合していると考えるのが妥当なのでしょう。正確な所はわかりません』


 研究者の言葉を聞きながら、アルは第二層と同じ形のコンソールの前に腰掛ける。ここらは別の所にアクセスするだけなので、大差は無い。


「で、何を検査すれば良いんだい?」

『はい、検査項目は実験装置についてを検査してください。指定セクターは2番。可能ならば、稼働履歴の表示もお願いします。何か変な事を誰かがしていないとも限りません』

「了解・・・検査に時間が必要って出たけど?」

『ええ。数千個の検査項目がありますし、どうにもそこの階層は大部分の演算機能が失われているらしくて・・・本当ならば、そこから全部のシステムを閲覧出来るはず、なんですが・・・』


 どうやらわざわざ全階層に侵入するには侵入するなりの理由があったのだろう。結局、ここらは科学的な処理も魔術的な処理でも変わらない様子で、経年劣化の関係で演算能力が落ちてしまっているようだ。第二層に入っていないアルは気付く事がなかったが、コンソールの反応速度にしても僅かに低下していたぐらいだ。

 簡単に考えれば、並列に繋げて演算能力を上げているパソコンの中の幾つかが経年劣化により破損して、演算能力が低下しているような感じ、なのだろう。建造されてからの時間を考えれば、当然と言えた。


「どこかで断絶してしまって処理にエラーが出ている、という所?」

『そんな所だと。何分数千年前の遺跡ですからね。今まで動いているだけでも十分恐ろしいですよ』

『そこら、オーバーホールしたい所なんじゃがなぁ・・・オーバーホールの計画が立ち上がったんじゃが、余というかカイトの地球行きが決まったんで、結局そのまま立ち消えになっとる』


 研究者とアルの会話に、ティナが再度口を挟む。どうやらそこらのメンテナンスが出来ていない理由は、またカイトに関係して、なのだろう。このぐらい物凄い施設になると、当然ティナの手は借りたい所だ。

 と言うか、借りないと無理だ。下手をすれば300年前に始めた事業が今も続いている事になりかねない。流石にそれは大陸間会議の事を考えれば、御免被る。こればかりは致し方がないのだろう。


「・・・あれ? ということは、帰って来たんだから、また立ち上げやるの?」

『技術班集めて一度やっとく方が良いかもしれん、と考えてはおるよ。技術班も弟子達が育ってきておる、と言っておるから、人手不足にはならんじゃろう。それに、地球から検査機も技術も持ってきておる。今までは見れておらん部分も見れる様になっておるじゃろう。カイトに奏上させて、大陸間会議後はこのまま一度長期オーバーホールをさせた方が良いじゃろうな。今を逃すと当分はオーバーホールは出来んからのう』


 アルの質問に、ティナもそれが良いだろう、と同意する。なお、これだけ大きな設備の為、オーバーホールは幾つかのエリアに分けて足掛け数年の大仕事になる。その間は食料の融通や交易、様々な事を考えねばならないので応相談、だろう。今は奏上する為に計画を練っている、という所だった。

 一度にオーバーホールをしてしまわないのは、何が起きるかわからないからだ。会議の会場はここで確定しているし、そもそもレガドは生き物だ。絶対に動かない保証はない。なので何度か動かしつつ、このレガドの休止に合わせて何度かに分けてオーバーホールを行うのである。


『ふむ・・・ではカイトに一度伝えておくべきじゃな』

「うん」


 そもそもここらはアルが口出しすべき所ではない。立場でもない。というわけで、再びティナが通信から消える。カイトの所に行ったのだろう。


「で、これどれぐらい待たないといけないのかな? その間にやっておくべきことは?」

『いえ、特には。もし終われば、けが人の治療をお願いします』


 どうやら魅衣の時と同じく待ちの時間なのだろう。というわけで、アルは仕方がなくその後しばらくの間、隊員の状況等を確認しながら、検査の終了を待つ事になるのであった。




 そうして、30分程。どうやら演算能力の低下はそれなりに深刻な状況らしく、第二層よりも1.5倍の時間が掛かっていた。それでなお、終わっていなかった。というわけで、彼は外の本隊と通信を繋いでもらって、話し合いを行っていた。


「ふーん・・・じゃあ、姉さんはちょっとしたらまた帰るの?」

『ええ。バーンシュタット家として、同じバーンシュタット家を出迎えなければいけませんので・・・』

「何時も通りだけどね」

『ええ。出迎え、と言っても先んじてピュリ殿は来ますから、軍人というよりも本家として、というべきでしょう』

「ピュリさん、か・・・」


 アルは少し前にミナド村の防衛で出会った赤髪の女性を思い出す。彼女こそが、ピュリ・バーンシュタットだった。前回の時はアルが魔導学園の学園生だったので会った事はなかったし、それ以前はピュリの赴任前で、会う事もなかった。が、今回は会う事になるだろう。


「会ったよ。ミナド村の防衛線で」

『ええ。聞いています・・・どうでしたか?』

「僕らよりも遥かに強いよ」

『でしょうね・・・はぁ・・・』


 珍しく、リィルが嫌そうにため息を吐く。かつてピュリが言っていたが、今では本家バーンシュタットと西部バーンシュタットでは西部バーンシュタットの方が遥かに強くなっていた。

 常に戦いを求め続ける冒険者の長と、上にはマクダウェル家という化物達が屯する家があるのだ。差が生まれるのは致し方がなかった。

 だが、それを快く思っていないのが、西部バーンシュタット家だ。彼らにとってマクダウェル領はウルカとは別のもう一つの地元だ。下手をすれば外に出た分、下手なこの地の出身者達よりもマクダウェル領に対する思い入れは深い。

 そこを守るはずの本家が相対的に弱くなった事が彼らにはイマイチ面白くないらしい。来る度にお小言を言われる、とリィルが嘆いていた。


『そもそも、<<原初の魂(オリジン)>>の解放なんて皇国軍人で何人が出来る事なんでしょうね』

「あっはは。マクダウェル家は全員出来るんじゃないかな」

『出来て当然と言い切る所を出しますか・・・』


 アルの冗談に対して、リィルが首を振る。そもそも、リィルが問いかけたのは皇国軍人では、だ。それに対してアルはマクダウェル家という軍人では無い家を上げていた。まっとうに答えていなかった。それぐらい、無理だった。


「はぁ・・・<<原初の魂(オリジン)>>、か・・・どうやったらたどり着けるんだろうね」

『さぁ・・・こればかりは、誰も教えてくれる事では無いらしいですからね。出来た方は唐突に過去が垣間見えたのだ、とおっしゃいますけど・・・』


 二人はため息を吐き合う。<<原初の魂(オリジン)>>。それは、ある種の最終奥義の一つと言える。が、これはその特異性から、誰かが教えてくれる物でもなければ、形が定まった奥義でもなかった。

 それ故、誰も教えてくれない。教えられないからだ。当然だろう。<<原初の魂(オリジン)>>とは、その人の前世を使った必殺技だからだ。

 であれば、アルの<<原初の魂(オリジン)>>とリィルの<<原初の魂(オリジン)>>は違う。別人なのだから当然の話だ。これだけは出来なくても誰でもわかる。子供だってわかるだろう。そしてだからこそ、教えられないのであった。他人が他人の過去を教えられるはずがない。


『そう言えば・・・ふと思ったのですが、アル。貴方加護の方はどうなんですか?』

「加護? あるよ」


 リィルから問われたアルは、自らの鎧の下に隠されている雷の加護の印を見ながら答える。何時も通りだし、今回も体当たりする際には加速器としてところどころで使わせて貰っていた。


『いえ、そちらではなく、氷の方です』

「そっちは梨の礫だよ」


 アルはため息混じりに、何もない事を明言する。あの叙任式以降、雪輝からの反応は何もなかった。カイトに聞いても何も教えてくれなかった。それ故、何も変わっていなかった。


「まあ、そもそも強化の為に大精霊様に頼ろう、っていうのはダメな発想だと思うよ」

『それはそうですね・・・』


 アルの言葉にリィルも応ずる。カイトが側にいるので安易に頼りたくなってしまうが、本来はそういう類の力ではないのだ。これは単にお気に入り、という印だ。強化の為に貰った瞬が特例というだけだ。と、リィルが応じて出来た僅かな間で、アルは話がズレていた事に気付いた。


「っと、話ずれちゃった。で、何時ごろ戻るの?」

『あ、えっと・・・確か二回目の突入を見た頃に、帰還する予定です。船は公爵家が回してくれますので、こちらに再度来る時にはそれに天桜学園の生徒達を乗せて、やって来る事にしています』


 話の修正を受けて、リィルも話を修正する。そうして、更に彼女が情報を開陳した。


『そう言えば・・・先ほど入ってきた話なのですが、一足先に剣姫達が入ったそうです。どうにも『冥界の森』を修行場としていたらしいですね』

「あそこを・・・?」


 何を考えているんだ、という思考半分、彼女らならば、という考え半分でアルが2つの意味で頬を引きつらせる。『冥界の森』とは言うまでもなく、かつてカイトが堕龍を討伐したあの森の事だ。ユリィの為に突破した森でもある。この世界最悪の魔境の一つだ。

 あそこを修行場にするとは簡単に言って、馬鹿としか言えなかった。カイトでさえ、死にかけたという場所だ。だが、それを成せるだけの力を持ち合わせていたのが、ここだった。


「剣ならば、クオンだろう、か・・・」

『懐かしいですね。学生の頃は良く軍学科の者達と議論を交わしました』


 アルからの言葉に、リィルが懐かしさを滲ませる。それは、戦士でなくても戦いをメインに働く者ならば酒場に行けば誰もが一度はしたことのあるだろう会話で必ず出る一言だ。

 その談義とは、誰が一体最強なのだろう、という謂わば最強決定戦だ。戦士が酒の肴にするには丁度良い談義だろう。そこで必ず言われる一言が、『剣ならばクオンだろう』なのである。そしてそれはアル達も一緒だった。


「最強は勇者カイトで決まりだ。じゃあ、各々の分野だったら誰なんだろう、ってよくやったよね」

『特にマクスウェルは勇者カイトのお膝元ですからね。時には殴り合いの喧嘩にもなってましたか・・・』

「いっつも揉めるのは<<星光の剣聖(せいこうのけんせい)>>ルクスと<<熾天の剣姫(してんのけんき)>>クオンのどちらが強いのか、だからね。星を裂く男と、次元さえも裂く女。熱くなったなー」

『槍のアイシャ、斧のバランタイン・・・軍略家と剣士、拳闘士は誰だ、で揉めるんですよね』

「そうそう。軍略家はティナちゃんとウィスタリアス陛下で、剣はご先祖様とクオン。拳はユニオンマスターと<<八天将(はちてんしょう)>>アイゼン。他にもチラホラ揉めるんだよね」


 懐かしさを滲ませるリィルに対して、アルも懐かしそうに笑う。アルはルクスの子孫だ。やはり、祖先贔屓になるのは仕方がない。それに対して、必ずクオンなる剣姫のファンが反論するのだ。

 それが熱くなると、時として殴り合いになる事もあったのであった。勿論、アルも殴り合いの喧嘩になった事がある。学生時代は誰もが経験するだろう、若さ故の過ちだった。と、そんな話をしていると、直ぐにコンソールの作業が終了した。


「・・・あ。終わった」

『そうですか。では、こちらも終わりですね』

「うん・・・こちらアルフォンス。検査が終了。エラー検知は無し。次の指示を」

『あ、はい。では次の作業ですが、次は詳細のチェックをお願いします。多少時間が掛かると思いますが、お願いします』


 研究者が応じて、アルが再び作業に取り掛かる。そうして、それから20分程調査を行って、データを持ち帰ってその日の作業は終了する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。アルも学生時代には普通の学生でした。

 次回予告:第706話『第四層の戦い』

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― 新着の感想 ―
[良い点] >剣はご先祖様とクオン。 この辺りなんですが、ルクスやクオンは武蔵や小次郎より強いんですか?
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