第700話 巨大ゴーレム戦 ――第二層の場合――
明後日から断章・11の投稿やります。
最終セーフポイントを出て再び遺跡の通路に躍り出て、約10分。それで一つの大きな扉の前にたどり着いた。
「行くぞ!」
すでにセーフポイントは出ている為、止まっていられる状況ではない。なので最先頭を走る総指揮を務める男はそう言うと、返答を待つ事もなく扉を開け放つ。その先は特殊な空間になっているので、部屋の内部が見える事は無かった。
そうして、一同が我も我もと扉に突入していく。後ろは遺跡を守るゴーレム達の山だ。立ち止まってはいられない。先にあった部屋は、大凡1キロ四方はあろうかという巨大な部屋だった。そこに、100メートルはあろうかという巨大なゴーレムが鎮座していた。これが、ここのボスというわけだ。
「・・・でかっ!?」
「口を動かす前に足を動かせ! 狙い撃ちにされるぞ! まずは左右の腕を潰す! あれだけは流石に厳しいぞ! 戦闘用のゴーレムにも気をつけろよ!」
総指揮を務める男が思わず足を止めた冒険部の少年に対して、怒声を飛ばす。セーフポイントでは軽い感じであったが、流石に戦闘中には叱咤もする。
とは言え、思わず足を止めたくなるのも無理はない。ゴーレムとは言ったが超巨大な陸上戦艦、という方が正しいような見た目だったからだ。下半身はキャタピラで、100✕30メートル程の長方形だ。その後ろ側に、まるで艦橋のような上半身が取り付けられていた。背中の部分には緊急離脱用の簡易ブースターのような物が取り付けられていた。
唯一ゴーレムと言えるとするなら、上半身と思しき部分に両腕があるぐらいだろう。その両腕だって、5本の指は全て戦闘用の魔砲だ。マニピュレータというよりも、可動式の魔導砲の砲台に近い感があった。やはり、戦艦という方が正しいかもしれない。
「走れ! 一気に肉薄する! 右手を破壊するぞ!」
総指揮を務める男が声を上げる。それと同時に、武蔵の弟子達が射掛けられる魔砲を回避しながら、<縮地>>で距離を詰める。このままでは遠距離から魔砲で嬲り殺しに合うだけだ。早急に距離を詰めなければならなかった。
「っ! こちらも駆けるぞ!」
一気に走り出した武蔵の弟子達を見て、藤堂が号令を下す。見る見るうちにゴーレムの各所に取り付けられた魔砲に火が入っており、もう数瞬で砲撃が始まりそうだった。このままでは考えるまでもなく、嬲り殺しにあうだけだろう。
「神宮寺くん! 君は砲撃が出来たな! 左の腕に対して、あれを頼む! その後は直ぐに駆け抜けてくれ!」
「はい!」
藤堂は自分も<縮地>>の態勢を取りながら、瑞樹に指示を下す。実は瑞樹は今回、大剣を持ってきていた。魔銃や魔砲は持ち込めないのだが、屁理屈も理屈と言うべきか、事前調査の段階で瑞樹の持つ可変武器は持ち込めていた。一応念の為に両手剣も持ってきていたが、使ってはいない。
遺跡が作られた当時はそんな物を想像もしていなかったのだろう。大剣として分類されたのか、持ち込む事が出来たのである。ならば使わない手は無かった。
「照準、良し・・・発射!」
どん、という音と共に、変形した大剣から巨大な魔弾が発射される。流石にどれだけの効力があるかわからないし、左手を吹き飛ばしたからと言っても右手も側面も胴体も、と残っている。なので威力は中程度に留めておいた。
そしてどうやら、これは一定の効果があったようだ。何らかの効力が働いているのか破壊こそできなかったものの、巨大ゴーレムの左手を大きくかち上げて、砲撃を天井に向けて発射させる事となった。
「っ! 標的変更! 左手を先に潰す!」
大きく吹き飛ばされた左手を見て、すでに巨大ゴーレムまで<縮地>>で後一歩になっていた武蔵の弟子達が標的を変える。わずかばかりでもダメージが与えられている様子なのだ。それを活かさない手はなかった。
そうして、その次の瞬間。武蔵の弟子達が消えて、半数程が巨大ゴーレムの手の横に現れた。全員腰だめで、居合斬りを放つ態勢だ。
「「「「<<一房>>」」」」
幾重もの声が同時に響き渡る。放たれたのは、基礎となる<<一房>>だ。ここに来ている武蔵の弟子達は、奥義を使える程の腕前は無い。それ故、基礎で攻めるのであった。
そうして、<<一房>>による斬撃が放たれた次の瞬間、更に半数の弟子達が直径10メートル超もある巨大な腕に肉薄する。
「行くぞ!」
「おうっ!」
総指揮を取っていた男が斬撃を放ち、後ろから何人も同じ場所に斬撃を放っていく。硬さは指よりも遥かに硬い為、一撃では切り裂けないのだ。なので同じ場所に連続して斬撃を放って切り落とそう、という算段だった。そうして、連続して10回程斬撃が放たれた所で、澄んだ音が響いた。
「断った! 右手は!」
すぱん、と金属製の腕を断ち切って、武蔵の弟子達が右手側を確認する。と、そちら側には冒険部の面々が攻撃を仕掛けていた。
「腕は我々で斬り落とせるはずだ!」
走りながら、やり方は見た。なので先んじた剣道部の面々は後から続く仲間の為、まずは指を破壊する事にする。
「はぁあああっ!」
裂帛の気合と共に、藤堂は袈裟懸けに斬撃を放つ。それを受けて、右手が大きく打ち上げられる。今の彼ではこれが精一杯だ。旭姫は彼らのことを攻撃力に特化させた、と言ったが、所詮はそれは他に比べてというだけにすぎない。武蔵の弟子達程の修練も無い。
なのでこれは当然の結果といえば、当然の結果だっただろう。だが、それで十分だ。とりあえずこれで即座に直撃するわけではなくなった。
とは言え、まだ魔砲の光は消えていなかった。また腕を下に降ろせば、普通に放てる。魔砲の一撃を味方に浴びせるわけにはいかないだけだ。なので藤堂はその場からバックステップで離れる。
「<<一房・重ねの砲>>」
藤堂が飛び跳ねたと同時に、暦が放った斬撃が飛来する。<<一房>>の斬撃を更に幾重にも乗せた発展系の遠距離攻撃版だった。こちらは威力だけで言えば、腕を切り裂いた武蔵の弟子達よりも少し上だ。なのでその斬撃は右手を手のひらの半ばから完全に切り裂いた。
とは言え、これで一安心と考えたのは、彼らの甘さだっただろう。がこん、という音と共に半ばまで断たれた右手が落下して、手首から巨大な魔砲が現れた。
「えぇ!? えっと・・・こういう場合は・・・」
思わず目を見開いた剣道部一同に対して、魅衣が行動に移る。彼女は側面からのホーミング型魔砲の対処の為に予め用意していた幾つかの氷の剣をまとめ上げて、腕の下に投じた。
「<<逆氷柱>>!」
地面から逆向きに氷柱が吹き出して、腕を串刺しにする。剣技だけに富んでいないお陰で、こういった搦め手が出来るのが彼女の強みだ。貫かれて動かなくなった腕を受けて、しかし先の事を受けてこれではダメだろう、と判断した魅衣は更に続けた。
「瑞樹! 暦ちゃん!」
「ええ!」
「はい!」
魅衣からの声掛けを受けるまでもなく行動に入ろうとしていた二人は、大剣と刀を構える。そうして、同時に裂帛の気合と共に、最大威力の攻撃を放った。
「<<大斬撃>>!」
「<<一房・重ね>>!」
瑞樹の斬撃が巨大ゴーレムの右腕を縦方向に両断して、暦の斬撃が横向きの真一文字に両断する。どういう構造なのかわからなかった事と手が外れた事を受けて、万が一の場合でも十字に切り裂けば流石に使い物にならないだろう、という安全策を取ったのであった。
そうしてドゴン、という轟音を上げて四つ切された腕が床に落下する。と、それとほぼ同時だ。ゴーレム本体の側面に取り付けられた無数の魔砲が光り輝いた。
「来るぞ!」
総指揮を取っていた男が声を荒らげる。そしてそれと同時に、巨大ゴーレムの側面に取り付けられた小型の魔導砲から追尾式の小型の魔弾が発射された。
ゴーレムの側面は大凡100メートル。約1メートル間隔で上下二段に小型の魔導砲が取り付けられており、更には同じ物が前部にも取り付けられていた為、総数としては500発程度の魔弾が発射された事になる。
「・・・これは・・・!」
マシンガンもかくや、という轟音と共に空高くに向けて射出された500発の魔弾に、冒険部の誰もが思わず足を止める。一撃一撃の火力は高くはなさそうであるが、それでも全部直撃すれば生命は無いような火力だ。
しかも数が数だ。こちらの人数が数十人なので、一人頭8~9発と考えて良い。基本的にはパソコンと同じと考えれば良いゴーレムにとって、マルチロックオンは最も得意とする所だ。全員にほぼ万遍無く割り当てられていると考えて良いだろう。
「避けきれないわね!」
「任されましたわ!」
これは避けられない。そう判断した魅衣につづいて、同じ判断をした瑞樹が行動に移る。幾らなんでも至近距離かつ500発の魔弾をランクC程度の戦士達の集団が避けきるなぞ不可能にも程がある。防御に長けた人員が居ない以上、取るべき手は相殺しか無かった。
「モード・レーザー!」
瑞樹は構えていた大剣を再び魔砲モードに変更すると、そのままレーザーを魔弾の集団に向けて放ち、更に薙ぎ払う様にして魔弾をかき消していく。そして4割程度の魔弾をかき消したのを見て、総指揮を取っていた男が怒号を飛ばした。少々魔力を浪費している様に思えたのである。
「あまり力を使いすぎるな! わかっているな! ある程度まで減らした後は胴体を潰しに行くんだぞ!」
「ですがこのままでは満足に上にも乗れませんわよ!」
総指揮の男の怒号に対して、瑞樹も声を荒げる。どちらも道理だ。幾らなんでも500発もの魔弾を回避しながらゴーレムの上には登れない。いくらかは消さないとダメだろう。
とはいえ、これはまだ前哨戦に過ぎないのだ。この後にはゴーレムの本体が残っている。こんな所で力を使いすぎるわけにはいかないのもまた、道理だ。見極めが重要だった。
「わかってるなら良い! 通達を受けていた人員は次弾が放たれる前のこの隙を突いて、一気に上に乗れ!」
瑞樹からの返事を聞いて、総指揮の男が再度指揮を飛ばす。なお、上に乗ってゴーレムの本体と戦うのは半数だ。残る冒険部の半数と武蔵の弟子の半数はこの後も地上に残り続けて側面の砲台を破壊する事になっていた。
このゴーレムは自らの上に乗った敵に対しては集中的に攻撃を仕掛けてくる為、側面の砲台を破壊する必要があったのだ。そうしなければ、100メートル✕30メートル程の小さな足場の中で狙い撃ちにされるだけだった。
「ご武運を!」
「そっちも気をつけろ!」
総指揮を取っていた男は飛び上がる寸前に、残る同輩達に注意を残す。上に集中的に攻撃が来るからといって、下に来ないわけではない。追尾式の魔導砲以外にも緊急時用と思える機関銃のような魔砲は取り付けられている。それは下の者狙いだ。油断出来るわけではない。
それに、上狙いだからといって、下に追尾式の魔弾が放たれないわけではなかった。一人8~9発だったのが一人5発に減る程度だ。
「頑張ってね! そしてこっちは後は暴れるだけ! キャタピラに注意して!」
上に上がった面子に向けて激励を送り、魅衣が号令を掛ける。とは言え、もう指示が出来るような状況ではない。下に残った彼女らがやるべきことは各自で攻撃を回避しながら全力で魔導砲を破壊していくだけだからだ。
「すぅ・・・はっ!」
魅衣は一息吸うと、斜め上に跳び上がって一気にレイピアを巨大ゴーレムの側面の魔導砲の一つに突き刺す。幸い彼女の強さでも貫ける程度の硬さだった。そうして、深々とレイピアを突き刺すと、魅衣はその切っ先を起点として、雷を発生させた。
「荒れ狂え! <<雷神抓>>!」
外からは硬い。だが、中からは脆い。それは機械もゴーレムも変わらない。装甲が硬い理由は脆い内側を守る為だ。なので魅衣は内側から魔導砲を纏めて破壊してしまおう、という事だったのである。
そうして、彼女のレイピアを起点としてゴーレムの内部を無数に枝分かれした雷が駆け回り、引っ掻き回す。流石にこれだけで機能不全に陥らせる事はできなかったが、それでも周囲10メートル程の機能は完全に破壊出来たようだ。
「良し! 次!」
なかなかの戦果を上げられた事を確認した魅衣は顔に喜色を浮かべると、そのまま壁キックの要領で更に上に跳び上がり、発射されていた追尾式の魔弾の集団の中に飛び込む。
「おまけ! はぁあああ!」
魔弾の群れの中に突っ込んだ魅衣はそのままレイピアを振るって、再び無数に枝分かれした雷で周囲を薙ぎ払う。そしてそんな稲光を見て、瑞樹が笑みを浮かべた。
「やりますわね! ではこちらも!」
当たり前といえば当たり前の話だが、ゴーレムの上部にも大小様々な無数の魔導砲が取り付けられていた。これだけ側面にあるのに、わざわざ上部は除く設計者は居ないだろう。そうしてそれに足止めされていた瑞樹達であるが、暴れまわる魅衣に触発されて一気に決める事を決める。
「お上品では無いですが! どうぞお食らいになってくださいな! はぁああああ!」
瑞樹はそう告げるや否や、裂帛の気合と共に魔力を纏ったタックルで強引に魔弾を弾き飛ばしながら最前線に躍り出る。
「フルパワーで行きますわよ! <<超過斬撃>>!」
瑞樹は大剣に込められるだけの魔力を込めると、そのまま大斬撃を放つ。そもそも、ちまちまと一つづつ砲台を片付けていくのは彼女の得手では無いのだ。やるなら、いっぺんに。それが彼女の持ち味だ。
今までは力の浪費を抑える為に遠慮していただけだ。そうして、彼女の眼前にあったほぼすべての魔導砲が切り払われる。
「っ! 今だ! 一気に切り込め!」
「「「うぉおおお!」」」
瑞樹の切り開いた道を見て、ゴーレムの上に乗ったすべての剣士達が全力で自らが応対していた魔導砲を破壊して他の魔砲を無視して艦橋のようなゴーレムの本体へと切り込む。多少の魔弾ならば当たっても問題は無い。ならば、無視して一気に決める事にしたのである。
「総員、出せる最大火力を打ち込め! 間違っても味方の斬撃に巻き込まれるな!」
総指揮の男が最後の指示を飛ばす。幸い、両手はすでに切り飛ばした。後はキャタピラでの急発進が怖いが、どうやら下に残っている面子が頑張ってくれているらしく、いきなり動く気配は無い。今こそが、決め時だった。
ちなみに、巨大ゴーレムが緊急離脱しなかった理由だが、背面を見れない彼らにはわからなかったが、実はブースターに火が灯った事に気付いた魅衣が慌てて片方に氷柱を打ち込んで、もう片方を武蔵の弟子の一人が破壊していたからだ。もしこのまま噴出した場合、内部からどかん、だった。流石にそれは本末転倒なのでゴーレムは出来なかったらしい。
「「「「「はぁああああ!」」」」」
約30人分の裂帛の気合が響き渡り、無数の斬撃が巨大ゴーレムの本体に対して連打される。一発一発では巨大ゴーレムの装甲を貫く事も打ち砕く事も出来る事は無いが、それでもそれが何十発も連続して叩き込まれるのだ。流石にこれには巨大ゴーレムも対処しかねたし、同様に装甲も防ぎかねた。
そうして光が消え去った後には、半ば砕け散ったようにボロボロになった巨大ゴーレムの本体が現れる。もう動く事は無く、元々修理は遺跡任せで考えられていない為、修理用のゴーレム等が現れる事もない。これで終わりだ。
「・・・終わったか・・・はぁ・・・」
総指揮を執っていた男が、疲れた様に片膝を付く。全力で数十発もの斬撃を連続させていたのだ。疲れもしよう。そうしてなんとか、第二層での戦いは終わる事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第701話『到着』




