第59話 第三回戦 桜対瑞樹
『さて、白熱の天城選手対山岸選手の戦いが終わり、第二試合!第二試合注目の試合は神宮寺選手対天道選手の試合!』
『うーん、相手選手には悪いけど、シュンの試合は相変わらず速攻戦になりそうなんだよね。』
『相手選手は相変わらずの軽装備ですからね。ここ3戦、一条選手は軽装備の相手しか戦っておりませんし、これから先に戦う可能性のある重装備の選手は天城選手だけですか……。その次に重装備の神宮寺選手でさえ、胸当てと腰当て、籠手が金属製というだけ。動きやすさを重視されています。相手選手はボクシング部二年で、本大会では最も軽装備の部類。速度で立ち向かいたい所ですが、その速度は一条選手が学校で一番といっていいでしょうね。負けるとすれば何らかの技を習得している可能性、ですが……。順当に行けば負ける試合ではないでしょう。』
『まあ、さっきの試合でも見たけど、ソラの防御力には眼を見張るものがあるからね。もし、シュンと試合になれば、面白い試合が見れるんじゃないかな。』
『問題はその前の天音選手との準決勝戦ですか。』
『うん。見てない人のために解説するけど、今までカイトは殆ど手札を明かしていない。重装備が相手であれ、全部鞘と柄でのカウンターだけだからね。それに対してソラはさっきの試合で技を使っている。何個も習得しているとは思えないから、切り札にどんな技を持って来ているか、楽しみだね。』
『天城選手がどのような試合を見せてくれるかに期待しましょう。では、各選手の準備が整ったようです!』
『第二試合、勝負開始!』
ユリィの開始の合図とともに第二試合が開始され
『勝負あり!やはり一条選手は強かったー!3戦連続の開幕勝利をやってくれました!』
直ぐに終わりを迎えた。
「さすが、一条会頭です。」
「こちらは始めてもいないというのに。せっかちなことですわ。……まあ、それでこそ、倒しがいのある相手、といえるのですが。」
相手の様子を探っていた桜と瑞樹は、開始早々に勝負を決めた一条に対して賞賛を送る。
「瑞樹ちゃんと戦うのって初めてでしたっけ?お互いに武術の稽古はしてますけど。」
「ええ。私は見ての通り剣を練習してましたから、試合などでは戦ったことはありませんわ。それにうちと天道家は……。」
「ライバル企業ですから、ね。」
「ええ。申し訳ありませんが、お父様が五月蝿いですわ。」
天道家と神宮寺家は共に狭い日本で財閥を形成しているが故、仲があまり良くない。主に新興の神宮寺家が敵視していたのである。ちなみに、新興といっても、既にその歴史は100年以上あるので、普通からみれば十分に旧家だろう。ただ、比較する対象の天道はすでに1000年近くの歴史を誇るので、比較にならないだけであった。
「まあ、私達には、関係ないのですけどね。」
そんな大人達を他所に、桜と瑞樹は良好な関係を築いていた。社交界で会うことも多い二人は、年齢も近いことから、親友とまでは行かないまでも、それに近い関係であるのであった。
「では、あまり皆様をお待たせさせるわけには参りませんから。参ります!」
そう言って桜が先手を仕掛ける。薙刀で突きを繰り出した。
「当たりませんわ!」
悠々とそれを回避した瑞樹。桜はそのまま薙刀を引き戻し、追撃を仕掛ける。しかし、これも余裕を持って回避される。
「返礼ですわ!」
追撃を躱し、前へと進みトゥーハンドソードで桜へ攻撃を仕掛ける瑞樹。
「はっ!」
桜は魔力の流れを読んで、それを余裕で回避する。回避して離れた間合いで再度攻撃。が、コレも余裕で回避され、再び間合いを詰められ、攻撃される。
(もしかして……。)
桜の頭にはある懸念が浮かび上がった。
『さすがは優勝候補同士の試合。お互いに一切当たる気配がありませんね。』
『……うん。』
『ユリィさん、どうされました?』
いままでの何処か遊んでいる様子があったユリィが真剣に瑞樹を注目している。それ故に気の無い返事であった。
『……もしかして、見えてるの?誰か教えた?……ううん、アルやリィルでさえ、ソラやシュンに教えるのをためらっていたから……。自分で気づいた?この二週間で?』
『あのー、ユリィさん?』
『あ、ごめんごめん!』
『どうしたんですか?いきなりぶつくさと……。』
『あ、少し気になったことがあったから、考えてただけだよ。でも、本人に聞いてみないと分からないって結論になった。』
『そうでしたか。何が気になられたんですか。』
『わからないなら、知らないほうが良いこと。自分で気づいたのなら、それに越したことは無いけどね。』
『はぁ。』
『あ、意地悪しているわけじゃないよ。ただ、コレばかりは力量が伴わないと、どうにもならないからね。』
『そうですか。と、いうことは、神宮寺選手はそれに気づいた可能性がある、と?』
『そういうこと。』
そんなユリィの解説を聞いて、ユリィが自分と同じ結論に至ったと思った桜。試しに攻撃してみるが、やはり余裕で回避される。
(やっぱり、魔力の流れが見えてますね。)
しかし、それは瑞樹も同じであった。
(どうやら、桜さんも私と同じく、線が見えてるようですわね。)
瑞樹は独力で見れるように至ったため、その線が何を示しているのか知らなかった。教官役の隊員はそれを知ったとき、大いに驚いたが、試合が終わるまで、敢えて教えないつもりであった。気にし過ぎて逆に腕を落とされても問題だからだ。
「……一つ、提案があるのですけど。」
「なんです?」
瑞樹はお互いに魔力の流れが見えていることに気づき、このままではお互いにいたずらにスタミナを消費するだけだと判断し、桜へと交渉を持ちかける。
「お互い、次の試合が決勝戦となるでしょう。このままでは、お互いの攻撃が当たらないだろうことは明白。でしたら、いっそ、次の攻撃で勝負を決めません?」
「……それしか無いですか。お互いに後二試合残ってますし。」
本当なら桜は真っ向勝負には持ち込みたく無かったのだが、受けざるを得なかった。
「一条先輩に勝てば、ほぼ優勝のようなものではありません?」
「……ふふ。」
「どうしたんですの?」
いきなり笑った桜を不審に思う瑞樹。
「いえ、一条会頭だけに着目していたら、足を掬われますよ?」
「それは、あの天音とか言う男の事でして?」
「ええ。侮っていたら、負けます。」
「侮るつもりはありませんわ。ただ、一条先輩ほど、強いとも思いませんわ。」
「さて、どうでしょう。……ちなみに、私はカイトくんから魔力の流れを教えていただきました。」
「……あの男が?」
「……ええ。一番始めにユリィちゃんが言った言葉は、贔屓目に見て言っている訳じゃないですよ。」
「……それが嘘かどうかは、自分で確かめさせて頂きますわ。」
そう言ってお互いに準備を終えて、同時に構える。
「斬波!」
「月下。」
桜、瑞樹ともに上段から武器を振り下ろし、魔力を纏わせた斬撃を放つ。斬波が空中を掛ける斬撃であったのに対し、月下は地面を駆けるように斬撃が発生していた。そして二人の斬撃は丁度中央で衝突し、拮抗する。
『おおっと!ここで遂に両者大技で勝負を決めに行ったぁー!』
『お互いにコレ以降の試合を考えれば、スタミナの消費は避けたかったんだね。別に衝突した時点で終わりで良かったんだろうけど、こっからは純粋な力比べ。今までの訓練成果が試されるよ。』
「つぅ!」
「はぁ!」
そう言って二人はお互いに気合を入れ、衝突した斬撃を維持させる。そして、どんっ、という音と共に勝敗が決する。
『勝者、神宮寺選手!撃ち合いを制したのは魔力が並外れていた神宮寺選手だったー!』
『桜は次以降を見据えて、あえて勝負に乗った形だったけど、それまでの戦いを見れば、勝敗を分けたのは才能、としか言いようがないね。』
『聞く人が聞けば憤慨しそうなお言葉ですが……。』
『そうだね。でも、今回だけは褒め言葉。魔力さえ勝っていたら、勝っていたのは間違いなく桜の方だった。』
ユリィの解説を聞きつつ、自らも納得する瑞樹。桜は少し落ち込んでいるが、直ぐに気を取り直した。
「次は、負けません。魔力も鍛えれば強くなるようですから。」
「気をつけますわ。」
二人は言葉少なげに試合場を後にした。桜はカイトを探しに、瑞樹は自分の知り合いに一条の試合内容を確認するため、一旦教室へと戻っていった。
「……まさか、自分で魔力の流れを見れるようになっている生徒がいるなんてな。」
「ええ。一条さんといい、神宮寺さんといい、桜さんといい上達の早い。……学生さん達の間にはなにか共通点があるのでしょうか。」
「さあな。だが、オレとしては有難い。どんな敵がいるかもわからん現状だ。なるべく手札は多い方がいい。」
「相変わらず、お兄様は容赦がありませんね。」
「自分たちで選んだ道だ。せいぜい役には立ってもらう。」
平然とそう言い放ったカイトだがクズハは知っている。彼がそんな非道では無い事を。
「そう言いつつ、実際に苦境に立たれればすぐさまに駆けつけられるのでしょう?」
笑みを浮かべつつ、カイトへそう言ったクズハ。
「まあ、知り合いぐらいはな。」
あえて全否定せずに、苦笑してそう答えるカイト。少し照れていた。
「次はティナの試合か。まあ、由利が勝ち上がると思ってなかったけどな。」
「そうなんですか?」
「ああ。まあ、弓道をやっていることは知ってるんだが……。てっきり弓道部の部長さんが勝ち上がると思っていた。」
さすがのカイトも、由利が勝ち上がることは予想していなかったので、この試合は見に行くつもりであった。
「さて、いい席とりたいんでな。先に行くぞ。」
「まあ。何でしたら、私の隣でご覧になられますか?」
「……やめてくれ。」
休憩で教室に帰って質問攻めにあった上、クズハのファンクラブ設立まで知らされたカイト。クズハファンから目を付けられる行動だけは、避けたかった。そうして、カイトはティナの試合会場であるグラウンドへ、逃げるように立ち去るのであった。
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