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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第41章 帰還への一歩編

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第695話 浮遊都市の休日

 椿の作ってくれた朝食を食べて、ティナとの何時もの一幕を終えた後。カイトは適当に街をぶらつく事にする。この日は機材の調子をチェックしたりしなければならないので、動きようが無いのだ。


「とりあえず、どうすっかな・・・」


 適当にぶらついていたカイトであるが、行く宛は無い。ちなみに、今日は誰も連れて来てはいない。下手に浮遊都市の誰かと一緒に居てそこを誰かに見られると、自らの正体に感づかれる可能性があったからだ。

 なお、魅衣、瑞樹、弥生の三人は一緒に静かな内――会議が始まると参拝客でごった返す為――に『剣神社(つるぎじんじゃ)』へ参拝したい、と言っていたし、ティナは機材のチェックがあるため昼までは忙しい。珍しくデートも何も無い完全なフリーだった。


「旭姫様の所に顔出すか」


 すでに朝の8時だ。朝6時起床で小次郎になって剣の鍛錬を一時間、が絶対の日課な旭姫はすでに起きて活動して、今頃は読書でもしている頃だろう。なのでカイトは旭姫の家を目指して歩いて行く事にする。


「と、いうことなので、逢引きにでも行きましょう」

「・・・いえ、すでに強引に連れだされていますが」

「だって、来てくれませんでしたし」


 何処か拗ねたような顔で、カイトがお姫様状態の旭姫に告げる。案の定読書をしていたのでカイトも一緒に2時間程読書していたわけであるが、それが暇になった頃にカイトが強引に連れ出したのである。

 ちなみに、たいてい二人がデートに行く場合は、これがデフォルトだった。基本的に旭姫は外に出ない。箱入り娘なので、出る事をしないのだ。なお、家デートも悪くはないのでカイトも連れ出さない事もある。


「と、連れ出したのは良いのですが、何処へ行くつもりですか?」

「んー・・・とりあえず、適当に街でもぶらつこうかな、と。旭姫様、どうせ帰ってからも見てないでしょ?」

「まあ、そうですが・・・」


 少し歯切れが悪そうに、旭姫がカイトの言葉を認める。どうしても、この街での旭姫の扱いはお姫様だ。元が高貴である上に雰囲気が見ての通りお姫様であるおかげで、どうしても周囲もお姫様と扱うのである。そうなると、あまり街に出にくいわけであった。


「見られると危ないのでは?」

「大丈夫ですよ・・・ほら、これこの通り、と」


 旭姫の指摘を受けて、カイトが黒髪黒眼のまま本来の姿にして、更に浅葱色の羽織りを羽織って黒の着流しを少し崩して着る。腰には大太刀小太刀を帯びておいた。こうすれば、何処から見ても旭姫の護衛か従者だろう。

 まあ、顔も相まって些か遊び人風ではあるが、刀を帯びているし、武蔵の門弟――彼らは着物を着るのが通例――に見えなくもなかった。こうなれば冒険部の誰に見られても、街の住人同士が話している様に見えるだろう、という判断だった。


「勇者カイト、新撰組初期バージョンって所です」

「・・・新撰組?」

「あ、徳川幕府の最後に活躍した武士の集団です・・・最後負けて明治政府には賊軍扱いされたんですけどね。まあ、徳川幕府も負けてるんですから、必然ですが」

「はぁ・・・私への当て付けですか・・・しかも浅葱色とは縁起の悪い」


 幾ら自らが歴史書から消されたと言っても、旭姫の実家は毛利家、そして実父は毛利輝元だ。つまり、敗軍の将である。旭姫が呆れるのも無理はない。

 ちなみに、浅葱色が縁起が悪い、と旭姫が告げたのは当然だ。浅葱色は当時、切腹をする者が着る『(かみしも)』という服の色だったのである。縁起が悪いのは当然だった。


「いや、そもそもこのモチーフそのものが赤穂浪士の討ち入り云々ですんで・・・」

「知りません。そしてどうせそれも討ち死にした、とかではないのですか?」

「おぉう・・・一応、諸説紛々のおまけに色々ありますが、現代では忠義の臣とされた人達です・・・」


 旭姫がバッサリと切って捨てたのを受けて、カイトがたたらを踏む。そもそも、旭姫は戦国乱世の生まれだ。つまり、江戸幕府初期の存在である。

 そんな彼女が1700年初頭の赤穂浪士なんぞ知るはずがなかった。カイトも前に来た時は興味がなかったので赤穂浪士なぞ詳しくは知らなかった。


「まあ、忠臣であれば、良しとしましょう・・・と言うとでも? 大方決死の討ち入りでもしたのでしょう。最後は自刃ですか? それとも討ち死にを?」

「自刃です・・・すいませんでした」

「当然です。忠臣であれども、自刃したような方の縁起が悪い服を着ない様に」


 少し楽しげな旭姫のお説教を受けて、カイトが羽織の色を蒼色に変える。更に内側の着流しも薄い水色をベースにした優美な柄の入った物に変えて、ついでに扇子とキセルを帯に挿しておいた。髪型は総髪――剃らないタイプの髷――で、履物は当然下駄だ。一層遊び人の感が出たが、気にしない。

 なお、新撰組が実際にダンダラ模様――有名な袖口の山形模様――の浅葱色の陣羽織を羽織ったのは池田屋事件頃までらしい。後には全身黒ずくめだったそうだ。


「貴方は利益殿ですか・・・」

「傾くつもりは無いですよ」

「常日頃が傾いているような物でしょうに・・・生まれ変わりとかではないでしょうね」

「それとは別人ですよ。同時代ですけど・・・って、知ってるでしょ」

「あ・・・」


 カイトの返答に旭姫がはっとなった。魂は生まれ変わる以上、カイトにも旭姫にも前世は存在している。そしてその前世については、<<原初の魂(オリジン)>>というある種の必殺技として使われる事がある。

 そして当然の様にカイトはこの<<原初の魂(オリジン)>>を使えるので、前世については僅かばかりだが把握していた。そしてそれについては同時代だった事もあり、旭姫も武蔵も聞いていたのだ。

 なお、利益とは所謂、前田慶次の事だ。戦国乱世の世において傾奇者と名を馳せた武将であった。旭姫は何度か会った事があるらしい。


「まあ、とりあえず。何処に向かいましょうかねー・・・西の茶屋で大丈夫ですか?」

「良いでしょう」


 カイトの言葉を聞いて、旭姫が少しうれしそうに頷く。西の茶屋、というのはなにげに旭姫お気に入りの喫茶店だった。


「とりあえず、お団子お団子。親父! つぶあん一つ!」

「あんみつをお願いします」


 西の茶屋にたどり着いたカイト達は、とりあえず甘味を口にする事にして、のんびりとした日々を過ごす事にするのだった。





 そんなデートの開始から、2時間。とりあえず適当にぶらついた二人だが、流石に何時までもお姫様を連れ回すのは大問題なので旭姫宅に戻る事にしていた。が、そんな最中、同じようにぶらり呑気な旅路を行っていた弥生達と遭遇する。


「ふぃー・・・ん?」

「あら?」


 何時もとは違うカイトを見て、弥生が首を傾げる。カイトは大抵の場合はロングコートだ。羽織りを着るのは珍しかった。それに、何よりキセルを手にしているのは初めて見る。

 クズハもユリィもタバコとその煙に敏感なので、カイトは喫煙家ではないのだ。というよりも、マクダウェル領は全面禁煙である。酒こそ自由にされているが、タバコは麻薬並の扱いを受けていた。


「キセル・・・使うの?」

「ん? ああ、これは単なる水蒸気だ。タバコじゃない。おもちゃだ」


 弥生の言葉を受けて、カイトがキセルを口にする。彼の言う通り、吸っているのは単なる水蒸気だ。見た目が似合うから、という理由だけの玩具であった。そんなもはや何処からどう見ても遊び人なカイトの様子に、弥生がコロコロと笑う。


「遊び人ねぇ」

「この姿で真面目にやってもな」

「真面目にやれば、天晴日ノ本有数の侍に見えるでしょうに」


 カイトの言葉に旭姫が呆れ返る。カイトは見た目は悪く無い。今の容姿ならば、特上の万人並だ。これで髷を結い陣羽織を羽織れば、目を見張るような武士になるだろう。が、やはり遊び人の風を出しているが故に、武士というよりも禄を食みながらも街で遊び呆ける不良侍だった。


「武士が滅んで久しいので、もう今さら元服も無いですからねぇ・・・」

「あら。ウチは今でも元服を受けるわよ?」

「そうなの?」

「ええ。伊達に室町初期から代々伏見稲荷にお着物を納めている呉服屋じゃないわよ?」


 魅衣の驚いた様子に、弥生が笑いながら来歴を語る。未だに元服を行っている所があるとはびっくりだったのだ。ちなみに、流石に元服と言っても単なる子供向けの観光客のお遊びに近いそうだ。


「いっそやれば?」

「やらねーよ。オレ何歳だよ」


 魅衣から言われて、カイトが苦笑する。彼とて三十路前だ。今更元服を行うわけがない。そもそも成人式や元服に似た儀式はこちらで終わらせていた。というよりも、ウィルから命ぜられてルクスと一緒に国を挙げてやらされた。


「まあ、とは言え・・・どうすることも無いので、適当にぶらついてたわけですけども・・・弥生さん達はお参りの帰りか?」

「そうね。綺麗な神社だったわね」


 カイトの問いかけに弥生が頷く。そうして、それからは雑談をしながら、しばらくの間は5人で気ままに散策することにするのだった。




 そんな散策から明けて昼過ぎ。弥生達は旭姫とおしゃべりしたい、という事で旭姫の家から放り出されたカイトは、彼氏なんだけど、と少し嘆きつつも再び散策を開始する。向かう先は今度は武蔵の家だった。道場に顔を出すか、という事だったのである。


「ふっ! はっ!」


 ミトラに挨拶して道場に顔を出したカイトであるが、道場は彼が考えているよりも満員御礼の状態だった。そんな中、弟子の稽古を見ていた武蔵がカイトに気付いた。


「む? なんじゃ。お主も顔を出しおったか」

「ええ。皆伝つっても、来たからには道場に顔を出さないとな、と」

「やはり今日は多いのう」


 どうやら調査開始の前日だからか、今日は何時もは顔を出さない印可持ちや皆伝持ちが顔を出していたらしい。武蔵がカイトに対してお前もか、と笑っていた。そうして、カイトは武蔵の横に腰を下ろす。


「そこ! 気を抜くな! 踏み込みが弱い!」

「いっちょまえといいますか、いつのまにやら師範代ですか。何処か懐かしい」

「あれから300年・・・奥義を極めるに足る力量は身に付けおった。お主に影響されてのう」


 基本的に、今では武蔵は観察するだけだ。口出しはしない。その代わり、口出しをしていたのはヤマトだった。今では基本的には彼が弟子達の鍛錬に口を出して、武蔵はそれを見守る形になっていた。もうしばらくすれば隠居かのう、と武蔵が何処か嬉しそうに語っていた。が、こうなるにも勿論、紆余曲折あったらしい。


「なまじ儂の子であったことが災いした。あれは才覚があり過ぎた・・・お主とは逆にのう」

「落ちこぼれも、やれば天才を超えられるんですよ」

「それが良かった。生まれながらの天才。それを凡夫の身で潰せる者はそうはおらん」


 二人は大昔のヤマトについて語り合う。剣の天才。それが、ヤマトの評だ。彼は剣術については秀でた才を持つ父の血と、強固な肉体と類稀なる魔術の適正を持つ母の血を色濃く受け継いでいたのである。その結果が、父を遥かに超えた剣士としての資質だった。武蔵の見立てでは、ヤマトの才覚は柳生石舟斎にも匹敵するだろう、と言う話だった。

 が、そうであるが故に、驕っていた。生まれながらにしての才能は即座に剣技に活かされて、その結果、早々に自分が他者よりも遥かに才能を持つ事を知ったのだ。そうなった子供は子供であるが故に、増長する。増長し驕り高ぶっていた所に、カイトがやってきたのであった。


「天才は天才故、上を知らぬ。非才は非才故に、上を知る。儂は言えば非才よ。しかし、この国では天才と崇められた」


 武蔵は苦笑ながらにボリボリと頭を掻く。武蔵が天才。それ故に父に負けるのは道理。だからこそ、武蔵ではヤマトを諌める事が出来なかったのだ。更には武蔵もミトラも遅くに得た子であった事も災いした。子供が可愛かった為、諌める事が難しかったのである。


「そこに、お主よ。お主は見るからに凡才じゃったのう」

「あははは・・・10歳の子供に教えられるような才能でしたからね」


 当時のカイトは剣技なぞアルテシアの後は独学でしか学んでいない。つまり、ド素人の剣技だったのである。当然、腕前としてはヤマトにも劣る程だった。


「かかか・・・が、鬼才じゃった・・・どれ。今もう一度、あの時の事を試してみせい」

「やれやれ・・・」


 ふと思い立ったらしい武蔵が、カイトに命ずる。叩き潰した以上、カイトはヤマトに勝っているのだ。そうして、当時を再現する様に、カイトが消えた。


「っ!」


 きぃん、という音と共に、剣戟が交錯する。カイトがヤマトの背後に回り込み、一撃を食らわせたのである。


「ふっ! はっ! たっ!」


 剣戟の音が三連撃響く。カイトが追撃に三連発放った斬撃を全てヤマトが防いでいたのである。


「所詮、生兵法・・・懐かしいですね」


 ヤマトが笑いながら、鍔迫り合いを交わし合う。彼が言った言葉は、武蔵の告げた言葉だった。結局、カイトは実戦経験が高い。死中に活を求める事にかけては、秀でていた。ならば、勝ち方を知っていたのである。


「まあ、一撃で負けた私が言うべきでは無いんでしょうが・・・今の私には効きませんよ」

「だろうさ」


 カイトとヤマトが笑みを交わし合う。ヤマトはカイトからの不意打ちを受けて、一撃で負けたのである。所詮、当時のヤマトの剣術は実践に基づかない教科書の剣術だ。不意打ち騙し討ちなんでもありのカイトに勝てるはずが無かった。

 結果、何度やってもボコボコにされた、というわけであった。ヤマトがカイトを慕う様になったのも、それからだった。自分を何ら遠慮無く叩き潰した少し年上の兄貴分を慕うようになった、という所だろう。


「ふっ!」


 ヤマトが一瞬だけ力を込めて、カイトとの間合いを離す。何をするにしても鍔迫り合いのまま、というのはヤマトにとっては悪手にしかならない。カイトは鍔迫り合いをしながらでも攻撃出来る。それに対して、ヤマトはどうしても型通りであるが故に対応が出来ないのだ。


「かげろ」

「<<雷鳴突(らいめいづき)>>」


 <<陽炎(かげろう)>>を使って牽制を織り交ぜようとしたヤマトに対して、カイトはその前に武器を槍に変えて、紫電の如き速度で突き出す。それで、終わりだった。


「・・・参りました。と言うか、今にして思うのですけど、卑怯ですよ」

「手を変え品を変え、それがオレ」


 喉元に突き出された槍の穂先を受けて少し呆れに近い非難混じりのヤマトに対して、カイトが笑う。こんな事が出来るのはカイトだけだ。非難したくなるのも無理はなかった。が、これが現実だ。


「まあ、こんな事してくる奴は居ないだろうけどな・・・忘れるなよ。敵と自分は何から何まで違う」

「自分が出来たからといって、他人が出来るわけではない。自分が出来ないからといって、他人が出来ないわけではない・・・懐かしいですね」


 カイトの言葉を引き継いで、ヤマトが告げる。それは驕った少年に対して投げかけられた言葉だ。こんな簡単な事も出来ないのか、と年上の凡人を貶した少年が初めて敗北を得た時に投げかけられた言葉なのであった。そうして、この日一日色々と旧知の面々と親交を深め、カイトは休日を過ごすのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第696話『調査開始』

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