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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第41章 帰還への一歩編

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第694話 『組織』

 ブリーフィングの翌日。カイトが目を覚ますと、味噌汁のいい匂いが鼻腔をくすぐった。考えるまでもないだろうが、椿が朝食を作ってくれたのだろう。そして案の定、目を覚ました気配を嗅ぎとって、椿がこちらを振り向いた。


「おはようございます、御主人様。朝ごはんは昨夜の事を考えて、鰹だしを使ったスープを作ってみました」


 如何にザルのカイトといえども、二日酔いはするし、酒を飲めば胃は荒れる。ということで、何時もよりも少し気怠げだった。


「おーう・・・」


 ガサゴソと音を立てながら、カイトは布団から這い出て椿の用意してくれていた着替えに着替える。ちなみに、だが。カイトの部屋は間取りとしては扉が有り、更にその奥にふすまで句切られた寝室が2つある部屋だ。隣の部屋は勿論、椿の部屋である。他にも浴室や洗濯物を洗う為の部屋等が設置されていた。

 そうして着替えた後は、備え付けの机に座って朝食が用意されるのを待って、椿と一緒に食べる事にする。何処のお貴族様だ、と言いたくなるが、そもそもでお貴族様である。


「ずずっ・・・ほぅ・・・味噌が何時もと違うか?」

「はい。ここで作られているお味噌を買ってみました」


 カイト当人は美食家とは思っていないのだが、実はなにげにこの男。美食家と一緒に居た所為かかなり味の見分けがつく。というわけで、カイトは味噌の違いに気付いたようだ。椿がちょっとうれしそうに浮遊都市で手に入れた物だ、と告白する。

 なお、今日のカイトの朝食のメニューであるが、白菜のお味噌汁にオクラと山芋の和え物、白米、納豆と焼き魚は臭いが篭もるので却下されていたので、代わりと言ってはなんだが昨夜の真鯛の炙りに一工夫加えた物をメインにしていた。


「はぁ・・・やっぱ飯は一番椿のが合う」

「ありがとうございます」


 ミトラのご飯も合うカイトであるが、やはり椿の作る食事が一番肌に合うようだ。まあ、そもそも彼女はカイトの為に飯を作っているのだ。当然カイトの好みに合う様に作ってくれていたので、当たり前ではあろう。そうして、椿と食事を食べながら、カイトは少しの間、昨夜の事を思い出す事にするのだった。




「『組織』・・・か。結局、どうなっているんでしょうね。あの『組織』は」

「わからん。が、あまりに強大じゃな」


 カイトのつぶやきに、武蔵が首を振る。すでに述べたが、基本的に会談は地元の自治会とそう変わりはない。というわけで、ブリーフィングが終わった後は地元の名士達が密かに残って、宴会の様相を呈していた。

 そんな中にカイトも加わっていたのだが、ふと話題が椿に及び、それを生み出したと言える『組織』について及んでいたのである。


「概要不明。トップの正体も不明。組織規模も言うまでもなし・・・こんな組織がエネフィアに存在し得る・・・いや、エネフィアだからこそ、存在し得るわけか」

「エネフィアはお主のおった時代の日本に比べて、遥かに情報網が遅れておるからのう」

「余にはそこが、解せん。なぜ情報網が劣っておるのに、世界的な秘密組織が発達しておるのやら・・・」


 武蔵の言葉を受けて、ティナが疑問を呈する。何よりも疑問なのは、ここだった。大きさの差こそあれど、地球とて情報網が発達したのはインターネットや人工衛星という最先端技術の発達によって、だ。そしてこれらはエネフィアには存在していない。

 一応、世界規模のネットワークと言える物は冒険者ユニオン協会を筆頭にしたギルド連盟や大陸間相互会議に参加する国々の間であるにはあるが、それだって普及しているわけではない。

 なんとか国同士や超大規模な組織であればこそ、そういった物の維持管理が出来るのであって、未だ民間に普及させるだけの費用対効率が得られるわけではないからだ。民間で持っている所が無いわけではないが、それにしたってかなり特殊な話になる。一般化は出来ない。


「前々から思っておったんじゃがな・・・この世界には他世界からの影響があるのやもしれん」

「あ? そりゃ、オレの事か?」

「お主ではないよ」


 カイトの問いかけに、ティナが笑って否定する。そうして、そんな彼女は続けた。


「マルス帝国。あそこの術式にのう・・・地球での術式に似た設計思想があった」

「ふむ?」

「これが可怪しい・・・まあ、確かに似ておるだけなんじゃが、根本の設計思想が同じ、と言うべきなんじゃろうな」

「偶然じゃないのか? 中津国と日本の間にやり取りがあった確証のある以上、あり得る事でもある」

「それもあり得る」


 カイトの問いかけをティナが認める。何か不思議があることではない。その一言で片付ける事は可能だ。そしてそう考えるのが妥当だろう。なにせ中津国と日本の間ではそれなりの回数で転移が起きていると考えられるのだ。

 であれば、別に地球の何処でそれが起きていても不思議は無かった。妥当といえば、妥当な考え方だろう。似た物があった所で不思議は無い。


「そこで、思うのよ。他世界からの介入、という事がのう。現に初代皇王イクスフォスは自由に行き来が出来た。であれば・・・」

「無い」


 ティナの至った答えに対して、カイトがそれはない、と断言する。これは確証を持って居た。


「あの一族の動きはルイスの父母を通じてオレが把握している。それはお前も知っているだろ? それが無いと言うんだ。なら、余程の理由が無ければ、介入はしていないはずだ」

「むぅ・・・やはり、そうか・・・」


 ティナとしても可能性としては低い、とは思っていたようだ。なお、ルイスとはイクスフォスの妹、つまりはティナの叔母の事だ。地球でカイトの家族を守ってくれていて、そしてティナが唯一対等と認める少女だった。とは言え、カイトの物言いに武蔵が首を傾げた。


「余程の理由があれば、介入はするんじゃろう?」

「まあ、初代皇王陛下の折りには、一度だけあった、と言われています。ですが、それが最初で、なおかつ、その後こっぴどく怒られた、とも聞いています」

「ふむ・・・では無いと言い切る方が無理ではないのか?」

「いえ・・・これは皇王陛下の類稀なる人徳故に、という話です。ほら、叛逆大戦中盤。陛下が囚われた事があったでしょう?」

「うむ。聞き及んでおるな」


 武蔵が記憶を手繰りながら、その事態を思い出す。これはスカーレットとアクアを奪取した時の話だった。イクスフォスは敗北から再度虜囚となったのであるが、その折り、彼の本来の世界の友人達が救助に来てくれたのであった。

 これは一つの世界に深く関わってはならぬ、という一族のルールを犯す行為だったらしい。しばらくの間、彼らは自宅で謹慎処分になった、とイクスフォスその人から聞いていた。

 友人と言うか族長の息子を助けただけでこれだ。恣意的に技術を伝えれば、どうなるのかは考えるまでもないだろう。一応法に則れば、封印処置だそうだ。

 ちなみに、そういうわけなので本来は友人達によって連れ帰って貰う事も出来たわけであるのだが、イクスフォスはやはり惚れた女と信頼する友達の為、残る事を選択したらしい。


「その際に、関わっただけ、と言われています」

「隠れて、はありえんのか?」

「大精霊達にも悟られずに、ですか? 世界に穴を空けておきながら、悟られないとは思いませんよ」

「むぅ・・・」

「む・・・そりゃ、無理か」


 言われてみれば、確かに。二人は顔を見合わせて、無理を察する。そもそも、この世界には大精霊達が存在している。カイトはその気になれば、そこからの情報も得られるのだ。一応教えてくれるのは異世界からの侵略者等だけだが、この場合はそれに該当するだろう。

 その彼を騙せるとなると、これは少々手間、というレベルでは済まない。おそらく物凄いレベルの技術を必要としている事は確実だった。


「であれば、余の思い過ごしか・・・そこらが分かれば、『組織』ももしやするとその異世界の技術を用いた組織なのでは、と思うたんじゃがのう・・・」


 ティナがため息混じりに、こんな話題を出した理由を語る。どうやら本題から逸れた様で、逸れていなかったらしい。そんなティナに、カイトが穴を指摘した。


「あはは・・・それなら、隠れてやる理由は何さ? この世界で世界的なネットワークを組織出来るだけの力があるんだ。オレと真正面からやり合わなければ・・・いや、それ以前にお前が封印されている間にでも、乗っ取れただろうぜ。組織は少なくとも600年前から活動しているからな」


 600年前。それは丁度ティナが魔王としての活動を始めた頃で、『組織』はその頃に裏世界の表舞台に出て来た、とされていた。

 ティナのおかげでその頃には無理に近いが、ティステニアのクーデターの前後であれば、『組織』はすでに世界的に活動していた。それだけの力のある組織であれば、世界の力を束ねてティステニアを打ち倒す事も出来るのだ。後はそのまま乗っ取れば良い。ティナも排除出来て、カイトも居ない。乗っ取りの時期としては最適だった。


「うぅむ・・・商売等考えておったのでは?」

「なら尚更、戦争を長引かせる理由がないな。しかも世界的に波及してしまっている」

「確かに、そうじゃなぁ・・・戦争は全世界的に被害が及んでは、逆に文明が退行し、消費力も低下する・・・材料などの収奪であれば、戦争状態の方が良いじゃろうが・・・それなら、余らに横槍を掛けるのが妥当・・・」


 ティナは自らで幾つものアイデアを出しては、穴を見付けてそれを却下していく。と、そんなティナに対して、武蔵が一つ、問いかけた。


「そもそも『組織』はなぜ、あの女中のような者を生み出そうとしておる?」

「うむ?」

「いや、のう・・・金稼ぎが理由であれば、まあ、良いわ。じゃが、目的があって、因子を操作する方法を蓄積しておるのでは無いか、と思うてな。そのためにも金が必要じゃろう。なにせそんなもん、大規模な設備が必要じゃろうからな」


 ティナの疑問を受けて、武蔵が考えを開陳する。それは今まで誰も考えていない事だった。


「『組織』は組織である以上、なんらかの目的を持っておろう。そこまで大規模な設備を持つ理由は何か、と考えてのう」

「ふむ・・・これは手段であって、目的ではない、か・・・」


 何処かの誰かが何らかの目的を持って、『組織』を運営している。言われてみれば、それはそうだ。今までは男女問わずに顧客の望む『人材』しか売り物にしてきていないが、ではそれを売って何をしようとしているのか。それは不明だった。

 まだ、多岐に渡る仕事を引き受けているのなら、良い。金稼ぎと判断出来る。だが、組織の規模に反して、やっているのは『人材』を作る事だけだ。何かを目的にしていると考えるのが、妥当な判断だろう。


「一度、情報屋ギルドにでもあたるべき、なのかもしれんのう」

「げっ・・・あのババアに会いに行くのかよ・・・」

「どうせお主借金もあるじゃろ」

「はぁ・・・きちんとこっちの言葉通り儲けまくってんだからいい加減許してくれよ・・・それと、借金じゃない。投資だ、投資。そして投資した以上の利益は得たはずだろ」


 ティナの言葉に、カイトがため息を吐いた。ちなみに、別にこれはカイトが借金しているわけではない。彼女は謂わば大戦期のスポンサーと言える。

 当然だが、何をするにもお金が要る。それは部隊運用も一緒だ。何割かはウィルが回してくれていたのであるが、やはりそれでもカイト達には足りなかった。

 一応義勇軍と言うか傭兵に近い立ち位置で依頼を受けて金稼ぎはしていたのだが、それでも足りなかった。というわけで、当時商人ギルドの有力者にして、世界一の大富豪というべき女性に篤志の依頼をしたのである。そうして、そんなカイトに、武蔵が笑い声を上げた。


「かかか。勇者も金には勝てんか」

「ババアだけは、くたばって欲しいですよ。冗談抜きに」

「安心せい。未だに世界一の大富豪を誇っておるわ・・・と言うか、マクスウェルに本社あるんじゃから知っとるじゃろ」

「子供が引き継ぎとか・・・しとらんわなぁ・・・あのババア。オレはもとより、自分も商品価値として計算してるもんなぁ・・・凡夫の子供産んでも自分の商品価値が下がるだけ、とか言ってそう・・・」


 カイトが泣きそうな顔で、エネフィアでも唯一の全大陸に進出しているという多国籍企業の女社長についてを語る。どうやら相当苦手としているらしい。まあ、借金取りに怯えない借金持ちが居るはずもない。

 これで彼女が時とともにくたばってくれているのならカイトとしては万々歳なのであるが、彼女の種族は最長寿の一つと言われる千年王国の王族と同種族だ。しかも純血である。未だに現役であの当時のままぴんぴんしている、との事だった。後1000年は現役を通す、とも言っていた。

 ちなみに、当時ですでにティナの倍の年齢だった為、カイトの知り合いの中ではヘルメス翁と同年代だ。なので、彼の知り合いの中では最高齢の年齢層だった。


「と言うより、当然言っとるじゃろ。結婚相手に求める物はただ一つ。己の商品価値と子供の商品価値、そのどちらも高められる男、じゃからな。余以上に結婚に縁のない女じゃろうに。自分の身体以外のありとあらゆる物を取り扱いますわ・・・じゃったか。まあ、今は奴隷も扱わん様じゃがのう」

「思い出させんなよ・・・あぁ・・・ババアの高笑いが頭に木霊する・・・いや、やめだ。これ以上は考えない様にしよう。すいません、先生。酒貰えますか」

「かかか! わかったわかった! 飲め飲め!」

「うぃーっす」


 考えた所で酒が不味くなるだけ。そう考えたらしいカイトは、どうせ当分は会わないのだから、と飲む事にする。大陸間会議には商人ギルドや情報屋ギルドの使者も来るが、彼女程の大物は来ない。

 来れるが、来る必要が無いのだ。カイトと同レベルに人財を持ち合わせているからである。世界一の大富豪、というのは伊達では無かった。そうして、この日はこのまま女社長の事を忘れるべく、飲み明かす事にするのだった。




 そんな事を思い出しながら、カイトは朝食を食べ終える。やはり思うのは『組織』がなぜ、椿のような者を生み出そうとしていたのか、だ。


(目的、か・・・椿の為にも一度、ババアに会いに行くべき、なのかもなぁ・・・)


 椿がなぜ、生まれたのか。理由そのものは貴族のエゴだろうが、どうしてそんな事をしているのか、というのは気になる。そして情報屋であれば、知っている可能性もあるのだ。椿のしこりを取る為にも、会いに行く必要があるかもしれなかった。

 とは言え、それは今ではない。今注力すべきなのは、明日から始まる調査だ。というわけで、朝食を食べ終えたカイトは旅館を出る事にしていた。


「じゃあ、行って来る。適当に昼飯までには帰って来るわ。お前も適度に休んでおけ」

「わかりました」


 出しなに椿に言い含めて、カイトはその場を後にする。そうして、カイトは浮遊都市へと散策に出る事にしたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第695話『浮遊都市の休日』

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