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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第40章 冒険者達の戦い編

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第681話 冒険者達の軽い運動3

 勇者はやはり化物と呼ぶに相応しいだけの傑物だ。キトラの横に帰還したオリヴィエは目の前の戦いを見ながら、そう思う。


「飛空術抜き、ったって・・・これは・・・」

「大戦の大英雄と、建国の国母・・・世界最大級の戦力の戦い・・・馬鹿げていますね・・・」


 数多の冒険者を見てきたキトラでさえ、思わず頬を引き攣らせる。お互いに世界で上から数えた方が早い存在だ。しかもエネフィアという区切りではなく、全ての世界を含めて、上から数えた方が早い者達だ。それ故、しっかりと見れば呆れるしかない戦いだった。


「ふっ!」

「ふん! 余に対して慈悲のつもりか!?」


 当てようと思えば当てられる所を何時ぞやと同じく眼前の寸止めで止めて<<空縮地(からしゅくち)>>で距離を取ったカイトに対して、グライアが剣戟による追撃を仕掛けながら声を上げる。

 二人はいつの間にやら、空中に戦いの場を移していた。剣戟の反動をいなす事も出来たが、ある時にグライアのかち上げを食らったカイトが上へ吹き飛んだのをきっかけに、飛空術無しの空中戦という何の悪ふざけだ、と思える戦闘に移行したのである。

 それに合わせてティナと由利の援護の手もグライアに対する援護を叩き潰す方向に移行しており、正真正銘二人だけのダンスだった。


「はぁ? 嫁さんの顔に傷付けるとか・・・馬鹿じゃねーんだよ!」

「む・・・」


 斬撃に自らも刀の斬撃を振るって対処したカイトの言葉に、グライアが頬を朱に染める。自らを女として扱ってくれるのは嬉しいが、はっきりと嫁宣言されるのは経験値が少なかったらしい。そんなグライアに、カイトは思わずある女性を幻視する。


「うっわ。むっちゃ昔のティナ思い出した」

「嬉しい事を言ってくれるな」


 義妹とは言え、やはり自らも積極的に手を貸して育てた少女だ。似ている、と言われてやはり嬉しいらしい。笑顔になる。と、それに対して抗議の声として、一発光球が打ち込まれる。当然、カイトの方だ。なのでカイトは斬撃を一つ軽く放って対処する。


「おっと。照れ隠し照れ隠し」

「その様だ・・・ふ!」


 グライアが斬撃を放ち、その勢いで更に上へと舞い上がる。それにカイトは斬撃を斬撃で切り捨てると、追いかける様に<<空縮地(からしゅくち)>>で上空に駆け上る。そうして、二人は雲海を突き抜けて、雲の足場に着地する。


「さて・・・雲より高く舞い上がれたな」

「わざわざ付いて来てやったんだ。夫の為に、ダンスはしてくれるよな?」

「貴様こそ、余の為に踊れ」


 二人は不敵な笑みを交わし合い、姿を変える。カイトは本来の蒼眼蒼髪の青年に。グライアは全長数百メートルの巨龍へと変わる。お遊びはここまで、という事だった。まあ、二人が本気で戦えば近くのマクスウェルが吹き飛ぶので、これからもお遊びなのだが。


「ひゅー・・・勇ましいね」

『綺麗と言わんか』

「勇ましい、という方がお好みだろ?」

『女の機微よ』

「言ったら言ったでその美的センス疑いに行くだろう癖に」

『言うな』


 二人は戦闘の呼吸を取りつつ、茶化しあう。そうして、少しの間。二人は誰も見ていない事を良い事に、彼らだけしか知らない事を語り合う。


『・・・まだ、大丈夫なのか?』

「まだ、な。無茶するとリーシャに怒られるが・・・」

『勇者でも医者は怖いか』

「怖いさ。オレにとって唯一ドクター・ストップが最大の攻撃だからな」


 カイトが苦笑する。医者だけが、唯一カイトを理論的に止められる。そう言う意味でも、リーシャは天敵だった。彼女はミース以上にカイトの身体を把握している。これは精神科医と内科医の差だ。仕方がない。

 それこそ、真実を知る者以外に一番カイトに何があったのかの正解に近いのは彼女だろう。下手をすれば、真実に最も近いユリィ以上に真実に近いかもしれない。


『ユスティーツィアと同じ方法で、貴様は助かった。が、それ故に貴様は・・・』

「同じ・・・ん? あれ? お前、勘違いしてんじゃね? そもそもオレの正体・・・いや、存在の根源は知ってるだろ?」

『む・・・? ああ、そうか。そうだったな。すまん。そこは忘れていた。何時も何時も人々が虹色に意味は無い、と言うからな。余もうっかりそう思ってしまった』


 カイトの正体。それを思い出して自らの間違いを思い出して、グライアが笑う。ちなみに、カイトは自らの正体、と言ったがこれは一種の言い回しだ。

 彼は実は死んでいて別人がなりすましている、と言うことはない。彼は正真正銘、ヘルメスに拾われてユリィと旅を始めて、シャルと愛しあったカイトである。他人のなりすましなどではない。


「はぁ・・・まあ、勘違いも仕方がない、っちゃあ仕方がないんだけどな」

『言ってくれるな』


 少し照れ臭そうにグライアがソッポを向く。やはり彼女も失敗すると恥ずかしいのである。そうして、照れ隠しか、グライアが息を吸い込む。


『・・・では行くぞ!』

「あ、照れ隠し」

『五月蝿いわ!』


 どん、と雲海に足をめり込ませて、グライアがカイトを殴りに行く。それは殴るというよりも、叩き潰すというのが正しい表現だろう程の体格差だった。


「<<焔の戦神(ほむらのせんじん)>>! <<極炎(きょくえん)>>! <<豪炎拳(ごうえんけん)>>!」


 カイトはスタイルチェンジを使ってバランタインの姿を取ると、更に立て続けに<<炎武(えんぶ)>>を使用して、<<炎武(えんぶ)>>の力を一点に集中させる<<極炎(きょくえん)>>を使う。

 そうして集めた炎で彼が創り出すのは、やはり巨大な炎の拳だった。そうして、空の果てで数十メートルはある拳同士がぶつかり合って、雲海が衝撃で消滅する。


「ふぅ・・・」

「やれやれ。一撃も保たんか」


 二人は吹き飛びながら、たったの一発で終わった舞台に呆れ返る。ちょっと本気を出しただけですぐにこれだ。滅多な事は出来なかった。ちなみに、雲海が消えた時点で二人共何時もの姿に戻った。


「さて・・・下のお遊びに戻るかね」

「そうしよう」


 二人は落下しながら、再び軽い運動に戻る事にする。そうして、今度はきちんとした地面に見事に着地した二人は、そこで剣舞を舞う事にするのだった。





 一方、藤堂の策略に落ちて暦と戦う事になった瞬は、やりにくい物を感じていた。それは気付けば藤堂の戦略を見事、と称賛するしかない事が原因だった。


「<<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>の斬撃がここまで厄介とはな!」

「ふっ! はっ! たっ!」


 連続する剣戟の中にまるで時折思い出すかの様に交じる<<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>での斬撃に、瞬は後一歩が攻め込めない。彼が鬼族の末裔である関係で、どうしても日本で最強の鬼殺しの力を持つ<<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>にだけは本能が畏怖し、恐怖してしまっていたのである。

 そしてソラとは違い、彼は鬼殺しの力に慣れていない。見たのは暦のこれだけだ。そうなっては如何に彼でも、種族としての本能だけは逃げられない。迂闊に踏み込めないのだ。

 しかも悪いことに、<<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>は彼の祖先の首を刎ねた刀だ。下手に過去の記憶を見てしまった所為で、身が縮こまらない様にするのが精一杯だった。


「部長はそこまでは考えてないですよ」

「当たり前だ。俺が酒呑童子を祖としている、なんてさっきが初めて言ったぐらいだ。後でカイトやミースさんには相談に行くがな」


 結局遠足の後は今回の準備や次の遠征――大陸間会議――の準備に忙しく、検査はまだ受けられていなかった。それ故、誰も知らないのが当たり前だ。

 とは言え、鬼の血を引いている、というのは彼はそれなりに親しい人にはおおっぴらにしていた。藤堂もそれは知っている。それ故の人選であったのだが、それがまさかここまで見事に嵌まるとは藤堂さえ思っていなかっただろう。


「ちっ・・・どうするか・・・」


 剣戟を受け止めてそれが<<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>の斬撃である事を感覚的に理解した瞬は、顔を顰めて次の手を考える。

 流石に相性の問題を把握する事は出来ず、連れて来た陸上部の生徒達は藤堂によって減らされる一方だ。曲がりなりにも彼は学内有数の剣士だ。カイトを除けば暦とダントツで一位二位を争う剣士でもある。一般の生徒達に勝てる見込みは無かった。


「これはせめて神宮寺でも連れてくるべきだったか・・・ん?」


 顔に苦味を浮かべた瞬だが、そこでふと、暦の後ろに何かがひっついている事に気付く。はじめそれは戦闘中の服のほつれか、と思った瞬だが、何かが可怪しかった。何処かへ伸びている様な感じだったのだ。そしてその違和感は次の瞬間、一気に現象として現れた。剣戟を放とうとした暦が急に止まったのだ。


「っ!? 動かない!?」

「会頭! こちらで引き受けます!」

「天道か!」


 どうやったんだ、と思う瞬だが、とりあえず桜の援護――どうやら中軍が到着したようだ――は有り難いことこの上ない。暦と自分では相性が悪すぎるのだ。このままでは完封させられかねなかった。

 ちなみに、どうやったのか、というと桜は魔糸で密かに後ろから拘束したのである。暦としても瞬相手に周りに注意している余裕は無く、背後への注意が疎かになったのは致し方がないだろう。

 そうして、瞬はこの隙を利用してその場を脱出する。目指す先は藤堂の所だ。残念ながら半数程度がやられてしまったが、それでも全員ではない。まだなんとか取り戻せる程度だった。と、それと同時に暦が再び刀を光らせる。


「轟け、<<雷光丸(らいこうまる)>>!」


 背後から聞こえた口決に、瞬は思わず足を止めそうになる。それは改めて聞くまでもなくかつて祖先が使い、祖先が戦った<<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>の元の名前だった。

 <<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>の童子切とは酒呑童子を斬った事に由来しているのだから、その前の名があって当然だった。そうして、紫紺の雷が轟く。


「いっつつ・・・せ、先輩仕込みは厳しいです・・・」

「カ、カイトくんの真似って・・・む、無茶をしますね」


 きぃん、という音が響き渡る。動きの止まった暦を好機と見てそのままトドメを指しに行った桜に対して、どうしようもなくなった暦が自らに向けて雷を放ち、魔糸の拘束を強引に解いて応戦したのである。

 さすがに桜とて強烈な雷が迸る場に切り込めるほど、豪胆ではない。攻撃の手を止めるしかなかった。ダメージ等を考えれば暦の取れる手としてベストではないが、決して悪くはない手だった。


「でも、これで!」

「行かせません」


 ふわり、と桜の着物が翻り、瞬の追撃に移ろうとした暦に対して再度牽制の魔糸を創り出す。強度としては心許ないが、<<縮地(しゅくち)>>程度であれば止められるだけの力はある。

 あれは体術を併用した移動術であって、攻撃力は無いのだ。障害物に阻まれると、どうしても体幹等が狂って止まらざるを得ないのである。


「っ・・・えーっと・・・天道先輩・・・行かせて貰えたりしません・・・?」

「ダメです」


 クスクスと桜が品よく笑う。当たり前だがここでは敵軍だ。聞いてもらえるはずがない。そして悪い事に、暦の桜への相性は良くはない。リーチの差と戦い方の差で今度は暦が翻弄されることになるからだ。


「うぅ・・・天ヶ瀬 暦。行きます!」

「はい!」


 暦の名乗りを受けて、桜も薙刀を構える。この場で暦が瞬を追うには、誰かの援護が入るか桜を倒すしかない。が、残念ながら青軍の前線は乱戦状態だ。今のように敵の増援は来ても援護が貰える状況ではなかった。そうして、彼女らも戦いを始めるのだった。




 一方、先んじた瞬は、というとその先でも妨害を受けていた。どうやら徹底的に瞬の妨害を行うつもりらしい。


「今度は綾人か!」

「藤堂からの依頼でな」

「どうせ時間制限有りの戦いだ! 少しは手を抜け!」


 瞬が少し苦笑気味に一向にやまない妨害に苛立ちを見せる。今回の戦いは舞台の問題等から時間制限有りだ。というよりもこれだけ馬鹿げた冒険者達がゴマンと模擬戦をするのでは、結界の強度もばかにならない。となれば当然、お金も馬鹿にならない。時間制限を設けた物でもなければやってられなかった。


「と言うか、俺も居るんっすけど!」

「わかっている!」


 夕陽から振るわれた拳に裏拳を合わせて躱して、瞬が更に顔を顰める。敵は今度は綾人と夕陽の空手部実力者の二人だった。両者ともに空手部でトップの実力者だ。流石にこれは如何に瞬でも相性云々ではなく純粋に戦力として勝ちを得にくい。


「ちぃ! 手数が厄介か!」

「そりゃ、槍で拳の手数上回れりゃ立つ瀬ないっすよ!」


 合わせて4つの拳と4つの脚から繰り出される攻撃に、瞬は防戦しかできなくなる。相手の手数が多すぎて攻撃する隙が無いのだ。おまけに防御を重視する為に、この時点で二槍流を披露させられる羽目になっていた。


「ちっ! どうすべきか・・・」

『手を貸してやる! 小僧! 進め! 前線はこのままで良い! 貴様は十分に役目を果たした! 次の目的を果たせ!』


 どうすべきか、と考えていた瞬に対して、声が掛けられる。それは獣化した獣人達だった。その中の一人が瞬を口で加えると、器用に自らの上に座らせる。

 それに、瞬が顔に不満を浮かべる。当たり前だ。戦いを中座させられた挙句、当初の目的だった陸上部の援護も切り捨てられたのだ。


「っ! おい!」

『文句を言うな! これは個人戦ではない! それに、貴様は仲間を信じる事も覚えろ! まだ後ろには貴様の仲間が居る! 仲間はギルドの連中だけではない! 冒険者全員が仲間だと思え!』

「! ああ、わかった!」


 獅子の姿に獣化した冒険者に言われて、瞬が前を見据える。やはり、まだ足りていない。それを瞬はここで実感する。そうして、獣化した獣人達に混じって、瞬は単独で先に歩を進める事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第682話『冒険者達の軽い運動4』

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