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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第40章 冒険者達の戦い編

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第679話 冒険者達の軽い運動1

 準備に入ってから、30分。冒険部の面々は全員唖然となっていた。


「・・・これ・・・模擬戦・・・?」

「そうなんだろうな」


 目を瞬かせる生徒に対して、カイトが頷く。とりあえず休憩時間が終わったので全員が移動するか、と移動していったわけなのですが、その道中での一幕だった。

 そこには人間種以外の数々の種族がおり、中にははじめから全力で行くつもりなのか、それともギルドの仲間に頼まれて荷物を持っているのか、獣化や龍化して移動しているのまで居たのである。


「さて・・・久しぶりにお楽しみの始まりだ。小僧共は問題無いか?」

「ええ、何時でも」

「いや、何時でもじゃねーよ・・・」


 ピュリに対して平然と頷いた――それどころか何処か楽しげでさえある――カイトに対して、生徒達はそうもいかない。頬を引き攣らせる。冒険部が全体的に敵味方に分かれての戦いは初めてだ。少しの緊張が見て取れた。と、そんな生徒達は横目に、ピュリがカイトに更に問いかけた。


「さて、始まる前に聞いておく。そっちのギルドで気を付けるべき敵は居るか?」

「そうだな・・・とりあえず、瞬というランクBの槍使いと、グライアというランクAの龍の女。特に後者は気を付けるべきだな」


 カイトが薄く笑いながら、ピュリの質問に答える。まあ、誰もこんな所に古龍(エルダー・ドラゴン)が紛れ込んでいるとは思わないだろう。


「ランクAの龍の女、ね・・・集中的に押さえるべき一人か」


 全滅が目的では無い。そしてタイマンということも無い。なので数で潰す事もありだ。


「ランクSは私含めて3人・・・ランクAが20人、ランクBが30人・・・ランクC以下は450人か」

「普通に考えれば国攻め落とせるな」


 ピュリのつぶやきに、カイトが小さく呆れる。今回、集まったのはマクスウェル近辺の冒険者だけだ。それでも、これだけの超強力な冒険者が集まっていた。


「よし。腹は決まった・・・通達術式用意」

「了解、姉御」


 カイトの言葉を聞いたピュリはどうやらそれで算段を決めたようだ。自分のギルドの者に命じて本格的な準備をはじめさせる。それを見て、カイトも本格的な指揮に取り掛かる。そうして、カイトはヘッドセットに向けて声を乗せる。


「冒険部総員は当初の指示通り、各指揮官に従え。以降、作戦終了まではその指示に従う様に」

『了解』


 カイトの言葉を受けて、全員が指示通りに自らの持ち場に移動を始める。カイトの一番初めの持ち場はピュリの側だ。遊撃兵はこの場では司令官の直轄兵に近かった。


「さて・・・陣形は整った。ふん・・・向こうも魚鱗か」

「魚鱗から押されているフリして後退していって鶴翼、もしくは車懸りで受け流して側面、って見込みじゃねえか?」

「あり得るな。そのまま背後から挟撃、もあり得る・・・おい、カーク。何時でも後退出来る様にしておけ」

『了解』


 ピュリが側に控えさせた遊撃兵の冒険者の言葉に頷いて、更に指示を飛ばす。年の頃は40代中頃。顔に大きな傷がある男だった。武器は槍。防具は重装備ではなく、動きやすい軽装だ。彼もまた、ランクAの冒険者の一人だった。

 今回、遊撃兵はランクAとランクBの中でも名うての冒険者達が担う事になっていた。総数としては10名程だが、誰も彼もが一騎当千だった。


「さて、少年。遊撃は初めてだろう?」

「まあ」

「とりあえず、私の指示に従って戦え。仕事果たしたらまた戻れ」

「了解」


 カイトはこの中で一番の若者だ。それ故、ピュリが改めて言い含める。そうして、こちらも魚鱗陣が出来上がった所で、出来た、という合図の狼煙を上げる。


「向こうも狼煙が上がったら、ユニオンの職員から合図が打ち上がる。それで開始だ」

「わかった」


 自分達初参加の者向けに説明をしてくれたピュリに、カイトも頷く。そうして、こちらは戦いの開始を待つ事になるのだった。




 一方、赤軍側は、というとこちらには冒険部の主力の大半が含まれていた。瞬の他、桜や瑞樹に凛達等、冒険部の上層部は大半が此方側だった。カイトの側の上層部はソラと由利、魅衣だけだった。それでもティナが居るのだから、そもそもでチートである。


『先輩・・・突撃兵ですけど、大丈夫なんですか?』

「ああ、問題ない。加護を使って敵陣を切り崩す。それが、俺の役割らしい」


 最前線も最前線。鋒矢陣の一番前に、瞬は居た。そこは瞬の他、陸上部の生徒達が多数配置されていた。久しぶりに運動部連合ではなく、陸上部としての部隊だった。

 その中でも瞬は栄えある正真正銘の一番槍だった。ランクBである事と御前試合の優勝者の一人である事が認められて、この一番危険かつ重要な役割に命ぜられたのであった。


「全員、合図と同時に一気に駆け抜けるぞ」

「うっす」


 瞬の言葉に、陸上部の生徒達が頷く。彼らは戦闘開始と同時に遮二無二突撃して、敵陣を切り開く切り込み役だった。


「後は天道や神宮寺に任せろ。俺達は前を向いて走るだけで良いんだ」


 槍を構え、昂る血を沈めながら、瞬が激励を送る。ただ前を向いてひた走る。瞬が最も得意とする所だ。そうして、しばらく呼吸を整えていると、ある瞬間に、号砲が鳴った。


「・・・行くぞ! 突撃!」

「おぉおおお!」


 瞬の号令に合わせて、全員が一気に駆け抜ける。そうして、戦いが開始されるのだった。




 そんな突撃してきた瞬を見て、ピュリは自らの想定が間違いだった事を悟った。


「やられた! 魚鱗じゃなく、鋒矢か! 先鋒! 突破されるな! 左右は即座に前線に兵を送れ! 遊撃兵は全員出ろ! 左右から兵を送れるまで、持ちこたえさせな! 少年、あんたはまだ出るなよ!」

「アイアイマム」


 ピュリが大急ぎで陣形を組み直したのを受けて、カイトはそのまま待機を行う事にする。それが命令だ。と、それと同時に、瞬が飛び上がる。こちらの先鋒を一気に削るつもりだった。


「ふっ!」


 飛び上がった瞬はいきなりの事態にまだ右往左往する最前線の冒険者達を前に、大きく身体を仰け反らせる。


「<<神雷槍(シャクティ)>>!」


 大きく仰け反った瞬は全身のバネを使って、雷を纏った槍を投げる。標的は敵の最前線の少し後ろ。最前線で盾を構える冒険者達の背後だ。爆発で壁を崩して、後ろの冒険者達の為の道を作るつもりだった。が、その槍に対して、槍が投げられる。


「ふぅ。危ない危ない。まさか突撃してくるとは、予想外だった・・・ん?」


 投げたのは、先ほどピュリと意見を交わしていた男だった。彼も槍使いだ。しかも実力は瞬よりも上だ。投槍を出来ぬはずが無かった。そうして一瞬均衡してこのまま押し戻せるはずだった彼の投槍は、しかし、次の瞬間、押し戻され吹き飛ばされる。


「へぇ。追加で魔力を押し込んだか。こりゃ、失態」

『あんたはさっさと次の所行きな。左翼の兵団を率いて敵の側面に攻撃を仕掛けろ。あんたは押し留める方。切り込みは他の奴に任せる』

「へいへい・・・じゃあ、カークの旦那。後は任せるわ」


 まさかの出来事ではあったが、彼は動じることもなく次の動きに移る。やはりここらは経験値の差だろう。ちなみに、投げた槍は魔力で操っていた為、弾かれてすぐに回収した。瞬の様に誰もが槍を魔力で創れるわけではない。普通は投げた後の回収まで考えるのである。

 そうして槍使いの槍を弾き返した瞬の槍であるが、そのまま前線を目指して一直線に進んでいく。とは言え、一瞬であっても均衡状態を作れた事は大きかった。盾持ちの冒険者達が対処出来るだけの時間を作れたのである。


「ちょっとで良い! 速度落とせ! 後はこっちでやってやる!」

「うっす! <<風よ>>!」


 老齢の重装備の大男の言葉を受けて、ソラが風の加護を展開して、篭手に力を回す。<<風の手(ウィンドウ・ハンド)>>を使かおう、というのであった。


「ほう、面白い事が出来る奴もいたもんだ。何処のだ?」

「さあ。今回から呼ばれた新人だ」

「そうか」


 風の手を創り出して再度の均衡状態を作り出したソラを見て、カークとその側近が唸る。と、そんな事をしている間にも、どうやら用意は終わったようだ。彼は槍の着地地点と思しき場所に移動すると、身の丈程もある大きな盾を地面に突き刺した。


「<<土の加護よ>>・・・<<大いなる秩序の盾ジ・オーダー・グランデ>>!」


 カークの言葉に合わせて、前線全てを覆い尽くす様な巨大な半透明の盾が出来上がる。これは彼の守りの切り札だった。盾系統の(スキル)の中でも最上位の一つだった。


「よし、小僧! 切っていいぞ! 後は前からの突撃に備えろ!」

「うっす!」


 カークは大声を上げてソラに前への対処を命ずると、自らは再度気合を入れる。一方方向にしか展開出来ないが、その分強度は折り紙付きだ。そうして、カークの盾と瞬の槍が衝突する。


「ふんっ!」

「っ!」


 気合一発。瞬の槍を<<大いなる秩序の盾ジ・オーダー・グランデ>>は防ぎきる。それを着地した瞬は見たが、気にしない。それも織り込み済みだからだ。というわけで、それと同時に瞬が再び走り始めると、キトラが指示を飛ばした。


「飛龍隊! 侵攻開始! 目標は敵最前線! 強襲で壁を破壊してください!」


 キトラの指示を受けて、周囲に控えた龍族の冒険者達が姿を変える。上から攻撃を仕掛けて前線を壊すつもりだった。それに、ピュリも同じ指示を飛ばす。


「龍達が来る! こちらも龍を出せ!」

「珍しい手をしてきたな。守る事で有名なカラトが攻めか」

「読まれたね。やっぱり指揮じゃあ一枚上手だ」


 冒険者としての力量は自分の方が上だが、やはりそれと指揮者としての腕前は違う。というわけでピュリが苦笑気味に称賛を送る。これで、お互いに超火力の手札を使ったのだ。

 だが、使った、というのと使わされた、というのでは意味合いが違う。現状、相手の手札を読み違えた青軍側が若干押されつつあった。


「グライア殿、頼みます」

「良いだろう。余の本領、見せてやる事にしよう」


 キトラの嘆願を受けて、グライアが焔を纏う。別に加護ではない。そうして、グライアは当然の様に<<縮地(しゅくち)>>を使って、一瞬で接敵直前の青軍の最前線の前に踊りでた。


「!? やっべ! 全員防御やめ! 回避しろ!」


 グライアの危険度を承知しているソラが耐え切れない事を悟り、前線の放棄を決める。そしてこの判断は正解だった。そうして次の瞬間、真紅の極光が煌めいて、グライアの前に居た大半の盾兵が盛大に吹き飛ばされる。両手剣で薙ぎ払ったのだ。

 ただ、一撃。それで吹き飛ばされた冒険者達を見て、カークが思わず唖然となる。それが見知らぬ真紅の美女だった事が、尚更に影響していた。


「・・・は? っ! 生き残った盾持ちの奴らは穴を埋めろ!」

「埋められる前に一気に突き進め! 後ろは気にするな! 俺達の目標は後軍! 陣形をズタズタにするぞ!」


 まさかの出来事に青軍が呆然となる暇もなく、瞬が出来た穴に突っ込む。瞬の槍で前線を破壊できれば、それで良し。出来なければグライアで吹き飛ばす、というのがキトラの算段だった。そうして出来た穴へと瞬達が突っ込み、更に広がった穴に赤軍の主力となる部隊が突っ込んできた。


「中軍、斬り込め! 速攻戦だ! 敵が対処出来ぬ間に、一気に陣形をズタズタに引き裂いてやれ!」

「あちゃ・・・こりゃ、前線はボロボロか・・・仕方がない。少年、お前も出ろ。裏かいて側面からやりな。こうなりゃ殺られる前に殺る、しかない」

「了解。あと、あの赤いのウチのだ。相当深くまで食い込んでくるだろうが、こっちに来る可能性がある。あんまり深追いはさせない方が良い」

「わかった」


 まさかの速攻にはピュリも驚いたが、その程度で動じていては冒険者なんぞ長年やっていられない。大規模なギルドの長なんぞ夢のまた夢だ。というわけで苦笑一つで流すと、ピュリは再び全軍の指揮に移る。それを横目に、カイトもついに行動を開始する。目標は指示通り、敵軍側面だ。


「ふっ」


 カイトは空中を文字通り駆け抜けながら、敵軍左側面の少し離れた場所へと着地する。遮る者は誰も居ない。援護をくれる味方も同じく、だ。が、それは側に、というだけで遠くには居た。


「援護頼む」

『仕方がないのう』


 少し楽しげに、ティナが応ずる。久しぶりにタッグを組むのだ。楽しくないはずがなかった。そうして側面の前に躍り出た出たカイトの前には、盾持ちの冒険者達が並んでいた。どうやら側面への攻撃は想定済みで、壁を作って内側への攻撃を防ぐつもりなのだろう。


「おっと、小僧か」

「おっや。こりゃ、この間のバシルさん。会わないな、と思ったら敵軍だったか」

「どうやらその様だな・・・おい! ランクAの冒険者が来たぞ! 気合入れろ!」


 若い見た目を使って奇襲を掛けるつもりだったが、どうやら左側の指揮官は過日に出会ったドワーフの戦士だったようだ。カイトが要注意人物だ、と把握していた為、逆に警戒されてしまう。とは言え、カイトの側はやることに変わりはない。そうして、カイトが突っ込んでいって、戦いが始まるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。なにげにカイト達が分かれて集団戦、というのは初めてですね。

 次回予告:第680話『冒険者達の軽い運動2』

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